第77話 新たな場所へ

 赤い瞳孔、黒髪の男が目の前に座っている。

 よく見ると、かなりのイケメンで歳は20代後半くらいだろうか。

 冷たい視線で俺に語りだす。


「私はこの町【アルカード】を束ねる長で、シュクロスと言う、君の名前は?」

「新と言います…」


 シュクロス?何処かで聞いたような名だ…


「ふむ、君達はあそこの壁の向こうにあるルーンポータルから出て来たと言ったね」

「はい」

「何処と繋がっている?」


 あれが転送装置だって知っているんだ…

 でもなんで、女風呂の壁の先に隠してあったんだろう。


「あの転送装置…ルーンポータルでしたっけ?あれが転送装置って知っていたのですか?」

「勿論、知っていた、だが、私が発見してからと言うもの、この何千年も起動している所を見た事はない」

「発見して何千年…って…」

「ああ、私は不死族なのだ」

「え、不死族って!?」


 そうだ…シュクロスと言う名前、シェリルの洗脳を解いた時に、あの子が言ってた名前だ!シュクロスお兄ちゃんと言っていたか?


「シェリルのお兄さん…」

「何!?」


 ガタッとシュクロスは机に手を置き立ち上がった。


「今、何と言った?」

「シェリルのお兄さん…」

「シェリルを知っているのか!?、生きているのか?、あの転送先にいるのか!?」


 今まで、冷静だった男は、いきなり目を見開いて俺にそう言った。


「ああ…はい、生きてます…てか、不死族だし死なないのでは…?」

「不死族と言っても、死なないわけではない、まあ…それは良いとして、シェリルは生きているんだな?」

「はい、生きてます、俺のクランで一応保護しています」

「‥‥‥そうか、わかった、取り乱して済まない、生きているのなら今はそれで良い…それで、君らはポータルの先から来たと言う事は、ハイエルフの血筋がいると言う事になるのだが、起動したのが君と言うのなら、君はハイエルフの末裔と言う事になるのだが?」


 シュクロスは一度は取り乱した物の、すぐに冷静な顔に戻りそう言って椅子に腰掛けていた。


「はい、俺はハーフエルフであのルーンポータルってやつを起動してここに来ました、まさか、女性の湯浴び場に繋がっているとは思いませんでしたが…」

「なるほど…ハイエルフの血筋がまだ生きていたのか…」

「あの…ハイエルフってそんなに珍しいのでしょうか?」

「ああ、この世界の古代人や神と言われる種族は、元々人間でありハイエルフ達なのだ」

「元々人間ってどういう事ですか?」

「そうだな、少し説明してやろう」


 それから、シュクロスと言う不死族は、ハイエルフは種族について俺に語った。


 計り知れないくらい大昔、知能ある人間達は知識を追い求め、遺伝子を変化させる技術を極め、とうとう長命で知識と膨大な魔力を併せ持つ種族、耳長族エルフを産みだした、更に改良し、突き詰めた存在がハイエルフだと言った。


 そのハイエルフの血筋はいろいろな物を産みだし、人間とエルフを派生に、物作りを極めた髭長ドワーフ族、身体を大きくした巨人トロル族、逆に小さくした小人ホビット族、広い海で生きる人魚族、そして、不老不死を目指した不死族ヴァンパイア等々、様々な種族を創造し、それが派生し、いろんな種族へ派生していったのだと言った。


「そして、ハイエルフの血筋は管理され、その血脈は少なかったとされている、大昔の知識と技術と突き詰めた兵器での戦争で全て死に絶えたと思っていたが…君があのルーンポータルを起動できるのであれば、君はそのハイエルフの血筋なのだろう」

「あれも、その血筋でないと動かないのですか?」

「そうだ、ハイエルフ達は、魔力を込めたルーン文字やその秘術でいろいろな物を産みだしたが、重要な装置などには遺伝子を持っている魔力にしか反応しないような技術を施している」

「‥‥‥なるほど」


 どうやら、俺はそのハイエルフの希少な血脈の一人って事になるけど…

 エルファシルのハイエルフの血筋は、あのドレイクに食べられちゃって、エウロラ母さんと、妹のヴィクトリアと、俺の3人しか、もうこの世にはいないって事かな…


「私は、もう数えきれない歳月を生きている、湯浴び場の扉は古代人の一人でもある私の魔力でも開いたが、他の者が触っても開かなかった、勿論、ルーンポータルは私でも起動しなかったがね」


 暫く考えている新をシュクロスは暫くじっと見ていた。


「あ、あの…この町、いや、ここは俺達のいる大陸ではないような気がするのですが、何処なのでしょうか?」

「私も聞きたい、君達はどこから来たのだ?…ん?」


 シュクロスはそう言うと、いきなり何もない場所を見て何かに気付いた反応を見せた。


「どうした、ヴィグ?」

「ヴィグ?…」


 俺は、きょろきょろと周りを見回した。


 すると、シュクロスの隣からすっと大きな魔獣が姿を現した。

 二つの頭を持ち、ダークブルーで、獅子のような鬣を持った大きな犬の姿をしていた。

 俺はびびって一瞬仰け反ってしまった。


「そこの妖精よ、いるのはわかっている」

「へ?」


 その魔獣は低い声で喋り、俺の後ろを見てそう言った。

 すると、俺の後ろ隣に現れたのはクインだった。

 後ろにいた兵士達は驚いて慌てて槍を構えるが、シュクロスが手を前に出し制止した。


「ふむ。魔獣オルトロスか、喋るとは珍しい個体じゃのぅ、ふー」

 そう鼻息をしてクインは喋り、俺の横に並んだ。


「クイン、どうしてここに?」

「ふむ、お前の気配を追ってここまで来たまでじゃ、ふっふー」


 現れたクインを見て、シュクロスは眉を顰めた。


「あ、このクインは俺の従魔です」

「なるほど…妖犬クー・シーか、これは珍しい…宜しい、とりあえず、君達仲間も含めてこの町の長として歓迎しよう、まず、今日はもう遅い、部屋を用意するから深い話はまた明日話すとしようか」

「え…はい」


 そうシュクロスは言うと後ろの兵士に指示をして、俺達は今日休む部屋を与えられたのだった。


 ◇


 部屋に案内されてから皆に、シュクロスから聞いた話を一部始終話をしたのだった。


 そして朝になり、兵士が俺達を起こしに来た。


「客人、食事の用意が出来ましたので、食堂へ案内します、扉の外で待ってますのでお願いします」

「は~い」

「お、飯も用意してくれるのか、助かるぜ」


 そう言うと、兵士は扉を閉めた。


「おい、アラタ、そのシュクロスって不死族はシェリルのお兄さんなんだろ?」


 クラウスは、眠そうな目を擦りながらそう聞いた。


「だと思うよ、赤い目も黒い髪も一緒だしね」

「ふ~ん、寝る部屋もご飯も準備してくれるなんて、悪い人じゃなさそうね」

「かもな」


 新の答えにそう瑞希も答えた。

 そして皆で、扉の外にいる兵士と共に、食堂へ向かうのだった。


 ◇


 その食堂はそこそこ広い部屋で、メイドっぽい女性達が、食卓の用意をしてくれていた。


 長く大きな机に両サイドに椅子がいくつか並んでいた。

 新達は両サイドに分かれて座り、シュクロスが部屋に入って来た。

 シュクロスは両サイド間、机横の部分の一つしかない上座椅子に座り、俺達を見渡す様に座った。


「客人よ、おはよう、よく眠れたかな?」


 シュクロスは相変わらず、クールな顔で俺達にそう言った。

 皆、それに頷いた。


「それは良かった、食事を摂りながら話をしよう」


 そう言うと、食べてくれとジェスチャーするシュクロス、それに合わせてすぐにフェルナンド、カレンが食事に手を付けた。

 それを見て、俺達も食事に手を付ける。


「まず、アラタよ、シェリルを保護していると言ったな?」

「はい」

「わかった、感謝しよう、後から会わせてくれ」

「わかりました」

「では、最初にどこから話をしようか…、そうだな、あのポータルの先は何処に繋がっている?」

「えっと、オブリシア大陸です」

「なるほど、あの孤島か…ここは、レイアリグ大陸と呼ばれている、そこのアラタには昨日言ったが、この町はアルカードと言う、私が長で治めている、大陸の位置で言えば大体、南の方になる」


 シュクロスは話をそう切り出した。


「シュクロスさん、町と言ってますが国ではないのですか?」

「うむ、このレイアリグ大陸はお前達が来た所より遥かに広い、そして、私も大昔から生きているのだが、昔とは比べ物にならないくらい魔物が強力なのだ」

「魔物…」

「あの、大昔の滅亡の大戦の後、生き残った者達は様々な形で生き抜き部落を作った、それは助け合いの中から生まれた町や村になり、長はいるが国王となるような流れでは来ていない、何故なら国があるから戦争は起こる物だ、リーダーは必要だが勝手に物事を決める国王など不要なのだ、私もここの長となりここまで大きな町まで発展させることが出来たが、王になろうとは思っていない」

「なるほど…で、魔物が強力と言うのはいったい?」

「この大陸の中央に行けば行くほど強くなる、それは私が知っている魔物の約3倍は強い…恐らくその原因はこの大陸の中央にあると睨んでいるのだが、この町のS、Aランク冒険者でさえ中々到達するのは難しいのだ」

「なるほど…」


 暫く、話が沈黙したがシュクロスはまた語りだす。


「アラタ、お前は昨日、私の従魔ヴィグを見ただろう?」

「ああ…はい、魔獣オルトロスって言ってましたね」

「うむ、あいつは昔、大陸中央から傷ついたオルトロスが逃げて来たんだが、その時に銜えて持って来たのがヴィグだ、そのオルトロスはその後死んでしまったが、ヴィグは私が育てて、私の従魔となったのだが、育てるに従い私達の言葉を覚えて喋ることまで出来るようになった」

「普通は喋らないんでしたっけ?」

「うむ、精霊や聖獣、何千年も生きた古龍などならまだしも、魔獣などがそこまで成長したのは見た事もない」

「そうなんですね…」

「ま、この大陸の事情はそんなとこだ、それで、お前達は何故ここに飛んで来たんだ?」


 話をしながら俺達は朝食を食べきっていて、メイド達が俺達の食器を下げていた。


「あの転送装置が何処に繋がっているかの調査と…実は、向こうで知り合いが死んでしまって蘇生させる方法を探しに来ました」

「ふむ、死んでしまったのなら、ハイエリクサーしか方法はないだろう」

「え!?ハイエリクサーを知っているんですか?」

「うむ、しかし、そんな物はダンジョンでも出る事はない」

「ですよね…」

「しかし、エリクサーの作り方ならわかるかもしれん」

「え?そうなんですか!」


 俺達は、エリクサーの手がかりに目を輝かせた。


「うむ、エリクサーが作れるのであれば、その上位薬のハイエリクサーも作る方法が見つかるやも知れんが…肝心の人魚族がな…」

「え…人魚族ですか?」

「そうだ、エリクサーの素材は人魚族の何かを使うはず、昔、エリクサーを作るために乱獲され、人間を信用しなくなって海から姿を現さなくなった、ひょっとしたら、あの滅亡の大戦も海の中なら避ける事が出来ているのかも知れん」


 人魚族って…クレンシアだ。

 なるほど…それで、クレンシアは俺達に何故、人魚族の私を捕まえないのかと聞いたのか。


「ねぇ…新、人魚族って…クレ…」

 俺は瑞希を、キッと見て、首を少し振って目で喋るなと言った。

 瑞希は、察してそれ以上喋らなかった、他の皆もそれを見て何も言わなかった。


「ん?人魚族に心当たりがあるのか?」

「い…いえ」

「まあ、良い、あの大昔の滅亡の大戦から沢山の技術は失われた、それを産みだしたハイエルフの遺伝子を持つ者達もお前を除いては確認されていない、唯一、大昔の秘術のエリクサーや魔法マジック巻物スクロール技能スキル巻物スクロールなどはダンジョンから稀に出る、どれも高額だ」

「なるほど、わかりました…」

「ああ、それから、シェリルにはいつ会わして貰えるんだ?あのルーンポータルへ私も連れて行ってくれるか?」

「ああ、それなら今すぐにでも問題はありませんよ!でも、その前に…なんでよそ者の俺達を信用したんですか?」

「そんなことか、妖精などは悪人には付かん、クインだったか?あのクー・シーを見た時にそれはわかったからだ」

「なるほど…わかりました、俺もシュクロスさんを信用する事にします」


 俺は、席を立ちあがり部屋の隅に移動してゲート魔法を展開した。

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