第76話 転送装置

 俺達は1日エルファシルでゆっくりと温泉に浸かり、戦争の疲れを癒した。

 朝、小鳥の囀りが聞こえて目が覚めた俺は、早速イシュタルト国の王子ヘクトルへ念話を送った。


『おはようヘクトル、聞こえる?』

『ああ、アラタか、こんなに朝早くにどうした?』

『あの遺跡のルーン文字の装置なんだけど、ちょっと調べてみたいのだけど』

『ああ、あの盗賊共が占拠していた遺跡か、ちゃんと俺の管理下に置いてあるぜ!いつでもお前達なら通すよう常駐の兵士に言ってあるから勝手にしてくれ』

『ありがとうヘクトル』

『ああ、あの戦争…被害が少なくて何よりだった、俺は聞いただけだが、凄い兵器が出て来てヤバかったんだろ?お前達の機械が何とかやっつけたらしいが…』

『そうだね…そのお陰でフェルナンドさんが死に掛けたし、俺達ももう少し前に出ていたら危なかった…』

『そうか…そういや、ウェズ王子が…亡くなったらしいな……』

『うん…』

『まあ…お前達が無事でなによりだ、あの遺跡は勝手に調べても良いぞ、だが、イシュタルト領の物だから何かあったら俺に必ず報告してくれよ』

『ああ、わかった』

『じゃあな!』


 ヘクトルとの念話を終えた。

 一度、クシーリには会っておこう。

 あの、装置がどこに繋がっているか分からないし、外の大陸に行くには船も必要になるから、建造が終わったら俺達も搭乗する意思を伝えておこう。


 俺達は再度アカツキ国へゲートで移動するのだった。


 ◇


 -アカツキ国、某宿-


「お、ディファレントアース」

 宿の入り口に立っていた兵士が俺達を見てそう言った。


「また、クシーリ王女を呼んで欲しいのですが」

「ああ、呼んでくるから少し待っててくれ」


 そう言って兵士は中へ入って行った。

 暫くすると、クシーリが降りて来た。

 この間来た時よりも、目の下にクマが出来て、少し痩せていた。


「やあ…クシーリ」

「アラタか、何か分かったのか?」

「いや…いろいろと各国聞き回って見たけど、ダンジョンの下層で稀に出ると聞いたくらいで…」

「それは、死人を出すリスクが高すぎる、しかも確実じゃない物のために兵士の命を使うわけには行かないからな…」

「だよね…」


 クシーリは、大きく溜息をついていた。


「ああ、俺の母さんから可能性の話を聞いて来たんだけど」

「ああ?可能性?」

「うん、クシーリの国って今、巨大な船建造しているんだよね?」

「ああ、私の計画だ」

「外の世界なら、ひょっとしたら…と、思って…」

「はぁ…それは私も思ったよ、でも…まだまだ完成には程遠い、あと1年は掛かるんだよ」


 クシーリは、ボサボサになっている髪の毛を更にわしゃわしゃと掻いた。


「そう…とりあえず、その船が完成した時は俺達も乗るよ。」

「ああ、それは願ったりもない事だが、今はそれ処じゃない…エリクサーさえ手に入れば可能性は低くて無駄になっても良いから兄さんをどうにかしたい」

「………うん、俺達も可能性のある所を探してみるから待ってて」

「ああ…アラタ、ありがとね」


 そう言うとまたフラフラと宿の奥に消えて行った。


「辛いでしょうね…クシーリ王女」

「ああ…」

 瑞希はそう言い俺は頷いた。


「よし、イシュタルトの遺跡へ向かおう」

「「うん」」


 皆頷き、俺達は人気のない所でゲートを出した。


 ◇


 イシュタルト領の遺跡へ移動した俺達は、すぐに常駐している兵士に声を掛けた。

 ディファレントアースのクランタグプレートを見せるとすぐに通してくれた。


 遺跡に入り、隠し扉まで行き、新は手形の装置に手を置き魔力を注ぐ。

 すっと扉は開き、床にルーン文字で描かれている部屋へ入った。


「さて、この魔法陣がどこに繋がっているのかが見ものだな!」

 フェルナンドは腕をぐるっと回して魔法陣の真ん中へ一番先に入った。


 その後にゾロゾロと魔法陣の中へ入って行く。

 最後にクインがひょいと魔法陣の中へ入る。


「みんな良いかい?」

「あ、いきなり魔物の巣窟ってパターンもあるから抜刀しておくか?」


 俺が魔力を注ごうと思った瞬間、フェルナンドさんがそう言った。

「そだね」

「うん」


 ヒーラーのレベッカを中央に置き、レベッカに背を向けるように円陣になり、抜刀して戦闘準備をした。


「アラタ、いつでも良いぞ!」


 クラウスの言葉に俺は頷き魔力を魔法陣へ注いだ。

 ルーン文字が光りだし、微かに見える魔法のドームに包まれ一瞬で別の場所へ転送された。


 ◇


 ‥‥‥‥?


「ん?真っ暗…」

「ここはどこだ…」

「しーーーっ、なんか女性の話声が聞こえるわね?」

「ほんとだ」


 その部屋は真っ暗だが、隣の部屋からなのか女性の語り声がかすかに聞こえた。

 俺は、納刀して魔法で掌に灯りを灯した。

 そこは、埃っぽい部屋で何もなく床には同じ魔法陣が描かれていて、壁には手形の装置があった。


「どこかの町なのかな?」

 皆、納刀して回りを見渡す。


「heyアラタ、とりあえずこの埃っぽい部屋を出ようぜ」

「ああ、うん」


 新は、手形の装置へ手を置いて魔力を通すと、扉が横にスライドして開いた。


「「「「え?」」」」


 開いた壁の前に全裸の女性が姿を現した。

 一瞬、見つめ合う若い全裸女性と俺達。


「きゃあああああああああ!」

「うわあ!」


 いきなりその女性は悲鳴を上げて物を投げて来た。

 周りを見ると数人の女性が湯浴びをしていて、こっちを怯えて見ていた。


「男が入って来てるうう!!」

「きゃああああ!」

「いや…待って俺達は…」

「変態!」

「痛っ!」

「ちょ!」


 桶や物が飛んで来る。

 俺達は慌ててその先にあった出口へ逃げて行く。

 扉の向こうは更衣室になっていて、服を脱ぎかけた女性達が次々と俺達を見て悲鳴をあげていた。


「ここ女湯浴び場じゃないか…どうなっているんだ!」

「俺に言われても知りませんよ!」


 クラウスに言われそう叫んで、俺達は更に違う扉を開いて逃げ出たのだった。


 何とか、その建物を出る事ができた。

 周りの人達は、女性の悲鳴と騒動で出て来た俺達を不思議そうに見ているのだった。


「最初の女、良い身体してたな、ハハ」

「ダー!」


 ドスッ!グオッ…


「はぁ…はぁ…ここは…何処?」

「はぁ…さあな?」


 カレンにどつかれたフェルナンドを見ながら、新はクラウスにそう答えた。


「おい!お前ら、そこを動くな!」

「へ?」


 慌てて出て来た建物の先で止まっていた新達に、槍を持った数人の兵士がそう言って走って近寄って来た。


「貴様ら、こんな明るい時間帯に、女性用湯浴び所に覗きとは良い度胸じゃないか!」

「動くなよ!」


 新達は、続々と集まって来る兵士達に囲まれてしまった。

 槍を突きつけられ、俺達はすぐに手をあげていた。


「新…あの魔法陣って女風呂直行の転送装置だったんじゃないの?」

「瑞希お前なぁ…かもしれんが俺に言うなよ俺に…」

「ハハハ…アラタ、これは従うしかなさそうだ」


 俺達は引きつった顔をしながら、集まって来る兵士と野次馬の群れの真ん中にいた。

 そのまま鉄の手枷をされて連行されて行った。


 暫く歩かされ、他の建物とは少し違う素材の建物の中へ連れて行かれ、牢屋そのままのような所へ監禁されたのだった。


 クインは途中から不可視化の魔法で姿を消していて、捕まらず外に残っているようだった。


「いったいここは何処なんだろう」

 俺は牢屋の鉄格子の外を確認しながらそう言った。


「私達、女なのにどうして捕まるの?」

「さあ…」


 マイティがそう言って、レベッカが首を傾げていた。


「でも、何処かの町って事は確かよね?」

 そうカレンは言った。


「そうですね、ここに連行される時に周り見たけど、それも結構大きな町っぽかったね」

「うーん、でもこんな町並みは俺も知らないな、ほんとに別の大陸に来てしまったんじゃないだろうか?」


 クラウスが俺の次にそう語った。

 すると、クインから念話が俺に届いた。


『ふむ、アラタ、聞こえるか?』

『ああ、クイン』

『今、お主達の連行された建物の前にいるのじゃが…ここはオブリシア大陸では無さそうじゃな、ふー』

『何でわかるのさ?』

『ふむ。まず、会話の言葉が違うのじゃよ、ふっふー』

『え?言葉が違うの?』


 そっか、俺達は翻訳スキルを習得しているから同じように聞こえるんだった。

 本当は、異世界語なんだろうけど、クインがそう言うって事は、異世界にも外国語はあるのかも知れない…


『とりあえず、我はその辺を視察してくる、ふー』

『はいはい』


 クインとの念話を終えた。


「クインが言うには、ここはオブリシア大陸ではないと言ってるね、言葉が違うってさ」

「そうなのか…」


 俺はそう言うと、クラウスが腕を組み考えるようにそう言った。


「heyさっさとこんなとこ脱出しようぜ」

「フェルナンドさん…あまり騒動起こすと、ずっと逃げなきゃならなくなるじゃないですか」

「ダー、アラタの言う通りよ、私達の力なら逃げようと思えばいつでも出来るし良いじゃない」

「それもそうだなぁ…あ、こういう場合すぐに偉い奴とかが面会に訪れるんじゃないのか?」

「かもね」

「ですよね、いきなり処刑なんてないと思いますけど…」

「だな、その偉い奴にここが何処なのか、聞き出せば良いか、待つ間俺は寝とくぜ」


 新、フェルナンド、カレンはそう語り合い、フェルナンドはゴロンと牢屋の隅に転がった。


 それからどのくらい時間が経ったのだろうか。

 ひと眠り出来るくらいの時間が経ち、クインからの念話で俺は目覚めた。


『アラタ、この建物に兵士を連れた偉そうな人間が入って行くぞ、ふー』

『ああ…クイン、わかった』


 クインとの念話を終えて暫くすると扉が開く音が聞こえて、ゾロゾロを俺達の前に人が来たのだった。


 俺達は皆起きて、牢屋の前に立つ人間達を見る。


「お前達が湯浴び場から出て来たと言う人間達か?」

「ああ…たまたまあそこに出ちまったんだ、痴漢じゃないぜ」


 偉そうな人がそう言い、フェルナンドがそう答えた。


 その偉そうな人間をよく見ると、黒髪のロンゲで、目の瞳孔が赤く、身体の線は細身で色白な肌、黒い立派な服をピシっと着ていた。


「あの、ルーンポータルから来たと言うのか?」

「ルーンポータル?…ああ、あの転送装置の事かな?」


 俺がそう呟くと、その男は俺に冷たい目を注ぐ。


「どうやら、ポータルの事を知っているようだな…アレを起動させたのはお前か?」

 俺は暫く考えたが、頷いてみせた。


「よし、お前だけ少し話を聞こう、兵士よ、その者だけを私の部屋に連れて来い」

「ちょ、ちょっと待って」


 そう男に言われ、俺は問答しようとすると。


「大丈夫だ…お前も、他の者にも何もせん、安心して来るが良い、話を聞くだけだ、他の者達には悪いがもう暫くこの牢に留まっていてくれ、今からちゃんと食事もだしてやる」


 その黒髪の男は顎で合図すると、牢を開け俺だけ外に連れ出す。

 俺を外に出した後また魔法で鍵を掛けた。


 そして、俺は何処かへ連れて行かれるのだった。


 ◇


 この建物は大きく広かった。

 長い通路を通って、大広間へ出て、奥にあった丸い行き止まりの場所へ黒髪の男と兵士2人と4人でその場に立った。


 黒髪の男が魔力を注ぐと床が光りそのまま、上へ身体が浮いていく、まるで薄いガラスの床のエレベーターに乗っているようだった。


 幾つかの入り口を通過し、上階へ上がって行った。

 ある入り口に止まり、そのまま歩き出す。


 一つの部屋へ連れて行かれ、俺は椅子に座らされる。

 兵士2人はそのまま後ろに待機し、目の前の机の先に黒髪の男は座った。


「では、少し話をさせて貰おう」


 俺は、後ろの兵士を一度振り返って見て、黒髪の男へ向き直り、窓の外は暗くて夜だと言う事も分かったのだった。


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