第75話 最高級の薬
ブリジットの陰謀で始まった、ヴェルダシュラム軍とアカツキ連合軍の戦争は、アカツキ連合軍の勝ちで幕を閉じた。
イグルートに、MDSの残骸回収の時に、
そして、シンゾウさんから、アカツキ国へ来てくれとの念話も受け取っていたので、アカツキへ向かう事にしたのだった。
◇
アカツキ国に着いた俺達は、まずシンゾウさんに会うことにした。
フェルナンドさんも、腕はまだ生えて来ていないけど、足はもう大丈夫だからと言って、カレンさんの肩を借りてついて来ている、本当にタフな元軍人さんだ。
ここに来る前にクラン工房へ行ったが、イグに俺専用のMDSと同時進行で自分のMDSを制作を依頼していた…
まあ…俺は、あの人みたいに死を覚悟してあんな事出来ないから、別に後回しでも良いんだけどね…
と、まあ、そんな事を考えながらアカツキの城へ着いたのだった。
「お待ちしておりました、アラタ様」
アカツキ城の門を開けて挨拶したのは、忍びのカスミだった。
「あ、カスミさん」
「アラタ様、そして、此度のフェルナンド様の自分の命を投げ出して兵器を破壊したあの戦いにシノビ一同感銘を覚えました、もし、あの兵器を倒せなかったら今頃……あ、済みませぬ、シンゾウ様がお待ち兼ねておりますのでこちらへ」
カスミはそう言うと、いそいそと俺達の前を進んで案内した。
アカツキ城に入り、前にヘクトルと来た時の大広間に通された。
アカツキの人達が、すぐに人数分の座布団を用意してくれて、俺達は座布団に座った。
すぐに、シンゾウもその部屋に入って来た。
大きな座布団に正座して座り、手を前に付き深々とお辞儀するシンゾウ。
「アラタ殿、此度の戦、感謝しきれないくらいの恩を頂きました」
「あ…いえ、俺、結局…震えて固まってしまって、何も出来なかったし…やめてください…」
シンゾウは、新の言葉を聞いた後、姿勢を直し視線を新に向ける。
「いや、そもそもアラタ殿が居たからこそ、ヴェルダシュラムの軍を割き、フェリオール、イシュタルトの援軍があったのじゃ、それに…あんな兵器まで出されたら一夜にしてこのアカツキは落ちておったでござろう…」
「はぁ…」
「この国はアラタ殿のためなら、どんなことでも力を惜しみなくお貸しする所存に御座ります、そしてこれを」
シンゾウが手を二回叩くと、カスミとトラカゲ、ともう一人が大きな麻袋を一人一つずつ持って俺達の前に置いて一礼をして、シンゾウの横に座った。
「これは今回のお礼の金貨になりまする」
「え!…そんなに…」
俺が、大量に入っていそうな金貨袋を前にそう言うと、シンゾウがすぐに俺の言葉を遮った。
「アラタ殿!これは、我が国の財産の3分の1に相当の金、じゃが、これは正当なアラタ殿の取り分じゃ、受け取ってもらわなければ儂らは切腹もんじゃわい…」
「で…でも」
そう言って、困った顔をするシンゾウ。
「heyアラタ、受け取っておこうぜ、そうしないとシンゾウ様の面子が立たないだろ?」
「フェルナンドさん…」
フェルナンドは、俺にそう言ってニカっと笑った。
「うむ、じゃあ受け取って下され」
「は…はい、では…」
俺は、マジックボックスに一人で持つのがやっとなくらいの金貨袋を3つ仕舞った。
シンゾウも、カスミ達もそれを見て笑みを浮かべていた。
「それとじゃ」
「はい?」
「ここに並んでいる、カスミ、トラカゲ、キリカゼ3名と、後から2名をアラタ殿にお仕えさせたいと思っておりまする」
「え?なんで…」
「この者達は儂が直で鍛えたシノビの手練れ、きっとアラタ殿の役に立つであろう、命の身代わりでも雑用でも何でもこなして見せましょうぞ、勿論、我らの恩人を守るためじゃ」
「いや…身代わりって…」
カスミ達は、深々とお辞儀した。
「はい、このカスミ!アラタ様達のためなら命の盾ともなりましょう、宜しくお願い致します!」
「このトラカゲ、身が亡びるまでディファレントアースの目と耳になりましょうぞ!」
「拙者はキリカゼ、此度のブリジットの件で失態を晒してしまいましたが、アラタ様のお傍で命を使えたら本望、この命使って下され」
「‥‥‥」
3人は正座をし、額が畳に付くくらいお辞儀をしている。
「と、言う事じゃ、3名を宜しくお願い申す、後程カスミの部下2名が加わりますようなっておりまする」
「と言う事って…シンゾウさん…」
俺は、引きつりながらそうシンゾウさんへ視線を送った。
「あ、シンゾウ様、あのエリクサーのお陰で俺は生きる事が出来ました、有難うございます、それで…エリクサーってのは他でも手に入るのでしょうか?」
フェルナンドはそうシンゾウへ話を振った。
「おお、あれで命拾いなさったか…」
「はい」
「うーむ、あれはな…まだ、エリクサーがこの大陸にいくつかあった時の物で、家宝として保管して来ていた物じゃったのよ…今回、アラタ殿達には危険を冒させてしまうと思い、先に渡してあったのが功を奏したのじゃな、良かった…」
「ってことは、もうないのか?」
「いや、分からぬ…何処かにあるかも知れぬが、ないかも知れぬ、情報通の儂らでもなかなか聞かぬからな…」
「このエリクサーって薬は、死んだ人も生き返らせる事ができるのか?」
フェルナンドは続けてそう聞いた。
「それは無理じゃ、エリクサーは、人間の細胞一つでもあればその細胞から身体の情報を読み取り復元はするのじゃが生きているのが条件、さすがに魂と言われる物までは無理だと聞いておる」
「だよなぁ…さすがにそこまで便利だと何でもありだしな…危なかったぜ…ハハ」
「が、しかしじゃ、そうとも言い切れん…エリクサーの上級でハイエリクサーと言うのが大昔はあったと聞いておる…が、見た事もない上、伝説の物とされておる…」
「ハイエリクサーねぇ…それも、アーティファクトってやつなんだろうか?」
「さあなぁ…」
シンゾウは、フェルナンドの問いに、その白い獅子の長い髭を撫でながらそう言った。
「あ、そう言えば…」
「何だカスミ?」
カスミが思い立ったように声をあげると、シンゾウが横目でそう言った。
「あ、エイナムルから来られていたクシーリ王女が、今日の朝エリクサーの事を聞きまわっていたのを思い出して…」
カスミはそう思い出したかのようにそう言った。
「え?クシーリってこの国にまだいるんですか?」
俺はそうカスミに聞いた。
「はい、あの後ウェズ王子の亡きがらを魔法兵達に交代で氷魔法をかけて凍結維持させていますが…エリクサーがあったとしても…」
そうだ…それは俺も目の前で見た。
身体を分断されてそれは心臓まで達していたはずだ…殆ど即死だったはずで、今の話だとエリクサーでは無理だ…
「あの…クシーリは何処に居ます?」
「それなら、城からそこまで遠くない城下町の宿を借り切ってますが、多分そこに」
「カスミさん案内して貰える?俺、クシーリとは顔見知りだからほっとけなくて…」
「はい!すぐにでも」
「ふむ、儂も何かわかったら念話でアラタ殿へ報告するとしよう」
「はい、有難うございます!」
◇
俺達は、カスミの案内でクシーリが借り切っていると言う宿へ着いた。
エイナムルの兵が表に立っていた。
「む、お前達は…」
「クシーリ王女の友達でアラタって言うんだけど…王女はいますか?」
「少し待っててくれ」
暫くすると、2階からクシーリが降りて来た。
その顔は、あのお転婆王女の物とはかけ離れていた。
湯浴びもせず、かなり泣いたのだろう、返り血と埃、土までついていてとても王女とは思えない姿をしていた。
「…やあ、クシーリ…」
「ぐすっ…アラタ、何しに来たんだ」
「いや…だ、大丈夫かな…と思って」
「アラタ…お前、エリクサー持ってないか?」
「いや‥えっと…クシーリ、もし持っていたとしても…」
「だよね、この情報通なアカツキ国で聞けば、エリクサーのある場所くらい分かると思ったんだが見つからないんだ…ぐすっ」
クシーリは鼻をすすりながらそう言った。
「クシーリ…そうじゃなくて…エリクサーでは死んだ人は…」
「うるさい!!やってみなくちゃ分からないだろうが!」
クシーリの目にまた涙が浮かんでいく。
「わかった…俺も探してみるよ」
「うん…有難う、何か分かったら教えてくれ…国に帰ってもここより情報が集まる国はないと思っているから、私は数日はここで聞き込みをするつもりだ、シノビ達にもすでに依頼してあるからな」
「うん、わかった…何か分かったら必ず」
クシーリは、鼻をすすりながら奥にフラフラと消えて行った。
姿が見えなくなった時、入り口に立っていた兵達が俺に話しかけて来た。
「済まないな、あんたがディファレントアースのアラタか、噂は聞いている」
「はい」
「クシーリ王女様も酷く悲しまれているが…俺達も一緒に戦った友をあの光線にやられているんだ…でも、俺達は兵士だ、死ぬのを覚悟でやってきた…さっきまで生きてた幼馴染の友人も死んだ!聞いたこともないそんな便利な薬があるのなら俺も欲しいくらいだ!王女様には悪いが気持ちを切り替えないと先に進まないだろう…」
「‥‥‥…」
「ああ、済まない…つい愚痴ってしまった、忘れてくれ、じゃあな」
そう言って兵達は宿の守りに戻った。
「…アラタ、済まないな、たった一つしかない貴重な薬、俺が使っちまって」
フェルナンドさんは、申し訳なさそうにそう俺に言った。
「いや、フェルナンドさんだから使ったんですよ!変な事言わないでくださいよ」
「ああ、済まん…いや、ありがとな」
俺は、笑みを軽く浮かべて頷いた。
◇
数日、俺達はエリクサーが何処かにあるか、いろいろと聞いて回って見たが、各国の王様ですら、文献には載っているが見た事もないと言っていた。
後、ダンジョンの下層で凄く稀にエリクサーが出た事は確認されているが、まずそこまでいける冒険者も少ないし、周回するとかリスクが高いために誰もやらないだろうとも言っていた。
フェルナンドさんの腕は3日後には完全に元に戻っていた。
前よりも体が軽くなったと言っていた、全ての悪い部分が治り完全健康体になったのだろう。
そして、最後にヘイムベーラの森エルファシル、俺の母さんのいるエルフの国に立ち寄って見たのだった。
「あら、アラタもう来たのね、貴方のゲート魔法は便利ね、その人数であちこちと瞬時に移動できるのですから」
「ああ、母さん」
「念話で言ってたエリクサーについてだったわね」
「うん」
母エウロラは、その部屋にある埃っぽい本を手に取った。
「その本にエリクサーについて書かれているのですか?」
「いーえ、あの魔法の泉のアーティファクトをこの場所に持って来た大昔のエルフが書いたものよ」
「魔法の泉の…」
「ええ、これによるとその魔法の泉のアーティファクトは、この大陸ではなく別の大陸から持ち込んだ物と書いてあるのよね、この大陸オブリシアは海の上に浮かぶ孤島、世界にはもっと大陸があって、ひょっとしたら古代人ですら生きているかも知れないし、エリクサーもひょっとしたらまだ存在しているかも知れないし、可能性はありそうね」
「他の大陸か…」
「ほら、エイナムル王国って魔物の海を渡るための船作っているんじゃないの?」
エウロラからそう言われて気付いたけど、そう言えば、クシーリが外の世界に興味ないかって言ってたけど…
「heyアラタ、この大陸の王様達やアカツキの奴らさえ知らないんだ、この大陸で探すより行ってみる価値はあるのかも知れないな」
フェルナンドはそう新に言った。
「だな、それと、お前が姫さんと囚われていたあのイシュタルトの遺跡…たしかルーン文字の転移装置らしきやつあったよな?ひょっとしたらこの大陸じゃない何処かに繋がっているんじゃないか?」
クラウスが気付いたように続けてそう言った。
「「「あっ…」」」
俺と何人かが同時にそう声をもらした。
「うふふ、また貴方達の冒険が始まりそうだわね、今日は、魔力の泉にゆっくり浸かって疲れを癒して出発したら?」
「温泉!新、そうしよ!」
エウロラが微笑んでそう言うと瑞希が温泉と言う言葉に飛び付いた。
そして、皆、今回の事で疲れも出ているし、俺は大きく頷いた。
「よっしゃあああ!今日は温泉とビールだ!ワハハハハ」
そう喜ぶフェルナンドだけ、全ての傷も疲れも癒えているので元気だった。
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