第74話 兵器、対、兵器

 新は暫く震えて、ぼーっと立ちすくんでいた。


「おい!アラタしっかりしろ!!」

 何度か、声を掛けてきたのはクラウスだった。


「アラタ!おい!」

 クラウスは、新の肩を思いっきり揺さぶっていた。

「あ…」

「アラタ、ミズキもだ、戦闘中だぞ!お前ら、目の前の連中みたいになりたいのか!シンゾウ様も下がっているんだ、俺達も少し下がるぞ!」

「う…うん」


 どのくらい固まっていたのだろうか?

 手の震えが止まらない。

 クラウスが、俺達を先導して軍の後ろに下がる。


 俺はケンタウロス兵器のいる場所を振り返って見た。

 そこは、すでにMDS《マナードスーツ》でフェルナンドさんと、カレンさんが戦っているのが見えた。


 地面には死体が無数に転がっており、その上で3体の機械が戦っていた。

 二人は、上手くケンタウロス兵器の両腕のビームソードを躱し、応戦しているようだった。


「くそ!なんなんだこいつらは、向こうもアーティファクト兵器があるなんて聞いてないぜ!」


 オッグスはそう言ってギリっと歯軋りを立てた。


『カレン!気をつけろよ、光線もあのソードも当たったらやばそうだからな』

『わかってる、ミーのより、ダーの機体の方が機動性ないんだから、そっちこそちゃんと避けてよね』

『ああ…それよりカレン、こいつ魔法は弾くが、物理はどうやら当たるようだな』

『うん、でも動きも速いし、あの腕が邪魔すぎて近づくのが難しい』

『カレンは、上手く動きを撹乱してくれ、俺の機体のレールガンを使う事が出来れば、なんとかなるかも知れねえ』

『うん、わかった!』


 二人は念話でそう言い合っていた。


 戦場は、3つの兵器の出現で、騒然としていた。

 戦場の中央では、3体の兵器に潰されまいと敵味方もその場から逃げていた。

 それを囲むように戦闘しているが、いつくるかわからないレーザー照射に、兵数で勝るアカツキ連合軍は、思うように戦闘できていなかった。


 カレンはMDS専用の、二本のバイブレーションソードを持ち、何度もオッグスの背中を取ろうと動き回り、フェルナンドは隙があれば、右手に装備してあるミニガンをぶっ放しているが、機体に傷を付けるくらいがやっとだった。


「硬ってぇなあ…、ミニガンの通常弾じゃだめかよ、やっぱどうにか態勢を低くしてレールガンを撃ちたい所なんだが…」


 フェルナンドはそう呟いていた。


「何だよ、うぜぇな!」

 オッグスは、カレンに後ろを取られまいと足の速さで動く、その隙を付くフェルナンドだが、中々上手く行かない。


 オッグスが兵器を動かしているのはそうなのだろうが、この動きは半分以上が兵器が自動で回避などをしているのだろうと、二人は悟った。


 何処かに、弱点かこの動きを可能としているセンサーみたいな物があるのではないかとフェルナンドは探していた、だが、機体にそのような場所は見当たらなかった。


 二人はすでに10分以上動き回っていた。

 魔力の消耗と肉体の疲労で、息もあがって来ていた。


『はぁ…はぁ…ダー、これやばいよ、このままじゃ動けなくなっちゃう…』

『はぁ…わかってる!どうにか弱点を探そうと思っているんだが…』


 そう、二人の魔力では30分動かすのが限界なのである。

 しかも、これほどハードに動いている二人は、持ってもあと5分だと推測していた。


『カレン、ここでコイツを俺らが止めないと…』

『ええ、全滅でしょうね…』

『じゃ、やるしかねぇな!』

『ダー、何考えてるの?』

『レールガンをぶっ放す!』

『でも…それ反動が強いから安定した姿勢じゃないと…』

『ああ、だから、考えがある、さっきからカレンが後ろに回ろうとすると、後退して俺達を前方に置こうと動くだろ、動く方向がわかるなら、その時一気に間合いを詰めてやってみようと思う』

『え…それ、大丈夫なの?動きながら撃つって事?…そんな不安定な撃ち方したら外すかダーが変な方向に吹っ飛ぶんじゃない?』

『いや…まあ、考えがあるんだ、任せてくれ』


 二人は、そう言い合い、行動に移した。


 カレンがオッグスの後ろを取ろうと動くと、二人の予想通り、二人を前へ置こうとケンタウロス兵器は移動する。


 カレンの動きを見てフェルナンドは、予想した方向へ即座に移動していた。

 魔力を込め一気にMDSを加速させて、間合いを詰めていく。


 カレンは、自分が回り込むことで、一番フェルナンドの進んでいる方向に近くなるように移動し、二人の連携で最短距離でフェルナンドは間合いを詰める事が出来たのだった。


「!?」

 オッグスは、凄い速度で間合いを詰めて来たフェルナンドに驚き、機体をそちらへ向ける。


《カレン!後は俺に任せてコイツから離れろ!!》

 フェルナンドは、外部へのマイクでそう叫んだ。


 カレンはその言葉を聞いて、動きを止めた。

 フェルナンドは、そのままの勢いでオッグスの目の前に移動し、右肩に装備してあるレールガンを正面に照準を定めた。


 オッグスの機体はすぐに、急接近して来たフェルナンドへの攻撃を開始する。

 左腕のビームソードが袈裟懸けに空を切る。


「ダー!!」


 カレンが危ないと思った、一瞬、何かが吹き飛んだ。

 それは、フェルナンドのMDSの左腕だった。


 ズガガーーーーン!!


 それを、カレンが見た直後、オッグスのケンタウロス兵器が胴から大爆発を起こした。


「ダーーーー!!」


 カレンが叫ぶ。


 すぐに、大きな煙をあげている場所を確認するカレン。

 身長に近づいていくと、その辺にはケンタウロス兵器の破片が飛び散っていた。


「ダー…どこ?…まさか…そんなぁ…」


 煙が晴れて行くと、爆発した場所が大きく地面が窪んでいるのが見え、そこにフェルナンドの機体がめり込んでいるのが見えた。

 すぐに、カレンはフェルナンドへ近づく。


 地面にめり込んでいるフェルナンドの機体は、左腕が無くボロボロだったが外装は黒焦げでも、しっかりとフェルナンドを守っているようだった。


《ダー…生きてるの?…ねえ、答えて…》

 カレンは泣きそうな声でそう言った。


《‥‥‥ああ…カレン》

《ダーー!!》

《ハハハ…どうだ…俺がイグと作った特殊弾の威力はよぉ…》

《喋らないで!直ぐにそこから出して手当てするから!》

《ハハハ、頼むわ…全身、動かねぇわ…》


 すぐに、カレンはアラタへ念話を送る。


『アラタ!聞いてる?』

『あ…カレンさん、うん、大きな爆発が見えたけど…』

『すぐに、ここにゲート出して!ダーが、ダーが‼』

『え?わかりました!その煙の出ている所ですね』


 新は、カレンの慌てる声色で緊急事態なのはすぐに悟った。

 すぐにゲート魔法を展開し、俺達はゲートを潜った、そこは焦げ臭い煙と破片が飛び散っていた。


 カレンの機体はその窪んだ場所で、地面に減り込んだフェルナンドの機体を起こし上げ、歪んだハッチの部分にMDSの指を入れ、引きはがそうとしていた。

 俺達もその惨状を見て、フェルナンドさんの安否を心配した。


「アラタさん!」

「ん…」

 レベッカが突然、叫んだ。


「エリクサーありましたよね…」

「あ、うん」

「すぐにそれ使ってください…あの状況、腕も無くなっているし、すぐに対処しないとフェルナンドさんの命が危ないです、私のヒールじゃ追いつかない…」


 そうだ、シンゾウさんから貰った、エリクサーを俺は一本持っているんだった。

 どんな傷も欠損した部分も治すと言う魔法の薬。

 それなら、生きてさえすれば、必ず助かる。


「わかった!」


 俺はすぐにマジックボックスから、エリクサーを取り出して準備した。

 カレンは、フェルナンドをMDSの外装を引き外し救出した。


《レベッカ、お願い!まだ息はあるから》

「うん、大丈夫!アラタさんすぐにエリクサーを!」


 俺は、頷いてすぐにエリクサーの蓋を外し、か細く息をしているフェルナンドさんへかけて、瓶の底に少し残っていた雫までフェルナンドさんの口へ落とした。


 すると、フェルナンドの身体が淡く光ったのが見えた。

 出血していた部分はみるみる塞がって行った。


「凄い…」


 レベッカは、そのエリクサーの回復力を見てそう呟いた。

 カレンもMDSを降りて、フェルナンドへ心配そうに近づいて来た。

 目には涙が浮かんでいて、心配そうに横たわっているフェルナンドを見つめている。


 フェルナンドの、淡く光っていた光は、身体の奥に消えていって、フェルナンドの顔に生気が戻って行った。


「アラタ!この辺には敵もいないが油断は出来ない、クランハウスでもどこでもいいから安全な場所までフェルナンドさんを運ぼうぜ」


 クラウスは、そう言った。

 俺は頷き、クランハウスへゲートを繋いだ。


 俺達は一度戦場から離脱したのだった。


 ◇


 俺は、離脱した際、すぐにその旨をシンゾウさんに念話を送った。


 クランハウスのフェルナンドの自室のベッドへ寝かせると、レベッカとカレンさんをそこに残し、クランハウスの事務所へ移動した。


「大変だったね…」

 瑞希が言った。


「うん…」

 俺も、小さくそう言った。


 みんな、多くは語らず時が過ぎて行く。


 ◇


 次の日になり、カレンが事務所で寝ていた皆を起こしに来た。


「アラタ、ダーが気が付いたよ」

「…あ、…良かったぁ、で…容体は?」

「もう、ピンピンしてるわよ、酒が飲みたいとか言ってるしね」

「え?…そうなんですね」


 疲れがとれていない身体を起こして、フェルナンドの部屋へ皆で一緒に行くことにしたのだった。


 扉を開けると、フェルナンドは元気そうに右腕で俺達を呼んでいる。

 左手をみると肩から昨日は無かった部分が生えて来ているのがわかった。


「アラタ、見てくれこの腕、少しづつ生えて来てやんの…気持ちわりぃ」

「ははは…もう大丈夫そうですか?」

「ああ、魔法の薬、エリクサーって言ったか?これはすげぇな、身体にあった古傷まで綺麗さっぱり消えてんだよな…」

「へぇ…」

「で、健康になったせいか、酒が飲みたいんだが」

「酒…ですか…」

「ダー、頭もエリクサーで良くなれば良かったのにね、酒はダメです、アラタだめよ」

「…はい」


 酒くらいならと思ったが、カレンさんの威圧でそれは止めた。

 そして、真顔になったフェルナンドが新へ話しかけて来た。


「それで、あの戦争はどうなったんだ?」

「ああ、それなんですが、何時間か前にシンゾウさんから念話が来て、一応終息したみたいですね」

「勝ったのか?」

「ええ、あの兵器が無くなれば、後は数の勝負になって、ヴェルダシュラム軍の半分は寄せ集めの兵や盗賊だったし、正規の軍隊の圧勝だったって事ですよ」

「なるほどね」

「うん、ブリジットも捕縛して、この後は国同士の話し合いでもするんじゃないですかね」


 フェルナンドはうんうんと頷いていた。


「ダー、そう言えば、あの兵器どうやって倒したの?」

 カレンは、そうフェルナンドへ聞いた。


「ん?ああ、あれはな、あのレールガンの特殊弾は一発しか装填してなかったからな、外したら終わりだと思って確実な方法で撃ち込んだのよぉ」

「確実な方法?」

「そ、レールガンの反動を固定出来て、確実に当たる、ある位置さ」


 フェルナンドはニヤリを笑った。


「あ!ああ…それで、地面に減り込んでたわけね…」

「そそ」


 フェルナンドはポカンとしていた俺達にも説明した。


 あの時、間合いを詰めて足の隙間の地面に滑り込んだ、その際、兵器左腕の攻撃は躱したものの、右腕のビームソードがフェルナンドさんの左腕を切り上げ宙に舞った。


 足元に滑り込んだフェルナンドさんは兵器の真下から、レールガンをズドン。

 背が地面についているお陰で、反動なく確実にその特殊弾は兵器を捉え、大爆発。

 勿論、逃げ場のないフェルナンドさんは、爆発に巻き込まれ地面に圧しつけられたって事だった。


 あの時、エリクサーを使うのが遅かったら危なかった事もレベッカから聞いた。

 左腕欠損で大量の血と、全身圧迫骨折に内蔵破裂まで起こしていて、息をしているのが不思議なくらいの状態だったらしい。


 あの状態でレールガンを撃つと自分もただじゃ済まない事は承知だった、カレンさんにそれを言うとあの作戦には協力してくれないと思ったから言わなかったとも言っていた。


 何はともあれ、エリクサーがあって良かった。

 今後、こんな事もあるかも知れないから、エリクサーを何処かで入手しておかないといけないと俺は思った。


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