第73話 開戦

 エイナムルの第一王子ウェズ率いる5千の兵が合流したその時、北に布陣しているヴェルダシュラム軍にも約5千の何者かが合流していた。


 -ブリジット本陣-


「やっと来たか」


 ドドドドド…


 ブリジットの前に、馬に乗った一人の男がやって来た。


「待たせたな、ブリジット」

「遅いぞ、オッグス」


 そこに来たのは、大盗賊、【ブラックファング】のリーダー、オッグスだった。


「ずいぶん話がちげえじゃねえかよ、ブリジット、10万は兵がいるんじゃなかったのか?」

「いろいろと手違いがあったみたいでね、まあ、それもそのアーティファクトがあれば兵の数なんて問題ないのだろう?」

「ああ、そのはずだ、あの遺跡で不死族の娘と一緒に眠っていたアレは一緒にあった文献では兵器だ、それは間違いねえよ」

「しかし、それ一つしか動かなかったのか?」

「ああ、3つあった内の2つは、どれだけ弄ってもピクリともしなかったから、多分ぶっ壊れてやがる、でもな、この兵器、この本を参考に動かしてみたんだが、凄いぞ、まあ、見てなって50万の兵が相手でも負けねえよ」

「ほう…」

「ブリジット忘れるなよ!終わったら、この大陸は三分の一は俺の物だからな!」

「ああ、わかっている…」


 そう言って、オッグスは自分の部下達のいる方へ消えて行った。


「ふん、盗賊ごときが…お前も終わったら始末してやるから精々頑張って儂の道を照らしてくれよ、くくく」


 ブリジットはオッグスの消えていく姿を見ながら不適な笑いをした。


 ◇


「む、アラタ殿、敵が動き出したようですな」

「あ、うん」


 シンゾウがそう言い、ヴェルダシュラム軍を見ると、小さな分隊が、中央から出てくるのが見えた。


「む、あれは…ヴェルダシュラム兵ではないな」

 シンゾウはそう言って顎髭を少し撫でた。


 フェルナンドは双眼鏡を、覗き込んだ。


「なんだぁ?なんか盗賊っぽい柄の悪い奴らだな、それに、中央の奴…あいつがあの隊の隊長か?」


 俺も双眼鏡をマジックボックスから取り出し覗き込んだ。


 フェルナンドさんが言う通り、柄の悪い連中が見えて、その中央には大きな荷車に大きな土台を乗せてその上に、偉そうな大男が胡坐をかいて座っていた。


 土台の上に立ち上がり、音声拡声魔道具で、その大男は叫んだ。


《おい!ここにいる奴ら、みんな聞けーーい!》


 響き渡るその声に、皆静まり返る。


《良いか?アカツキ国に加担した奴らは、全て敵と見なし、俺らは戦闘を宣言する、撤退するのなら今の内だぞ!》


 シンゾウはすぐに、音声拡声魔道具で語り返す。


《貴様、オッグスか?》

《お、さすがは情報通のアカツキの頭首シンゾウさんよぉ、俺が分かるか》

《何故、盗賊のお前がそこにいるのかはさておいて、お前達の悪事は全て記録され、この大陸の王達にも知れ渡っている、もうブリジットと共に退け!それとも4国を相手に戦争をまだするつもりなのか?》


 オッグスは、シンゾウの話を聞いて、耳に小指を突っ込み、耳糞をとって小指に息を吹きかけた。


《ああ?俺達が不利だと…そう思っているのか?ああ、ん~そっちが、7万5千くらいで…え~こっちが俺らをいれて4万いないくらいかぁ?あ、数の計算ねぇ、俺、馬鹿だからこれで勝てると思ってるんだがなぁ!ガハハハ》

《‥‥‥‥‥‥》


「シンゾウさん、やはり何かありますよ、気を付けてください」

 俺は、あの態度に危機感を覚えシンゾウさんにそう言った。


「むう…まさか、ブリジットとオッグスがグルになっていたとはのう」

 シンゾウは、眉間にシワをよせてそう言った。


《それよか、そっちが降伏しないとこっちから仕掛けちゃうぞぉ、良いのかぁ?そうだなぁ、後3分待ってやるかぁ、それまでに白旗あげたら、許しちゃうかも…、いや…許さないかも知れないけど?ガハハハハハ》


 そう言うと、オッグスは自分の乗っている土台をゴソゴソとして見えなくなった。


「ん?あいつ土台から降りたのか?」

 フェルナンドが双眼鏡を覗きながらそう言った。


 すると、先ほどまでオッグスが乗っていた木造の土台が4方開いて、真っ白な金属の塊が露わになり、その姿を見せた。


「あれは!」

 俺は、双眼鏡を覗き込みながらそう叫んだ。


 その塊のくぼんだ部分にオッグスは座っていた。

《そろそろ3分経つんじゃないのか?ああん?》

 オッグスをそう言って、何かのスイッチらしき物を触っていた。


 オッグスは笑みを浮かべながら、何かを操作していた。

 すると、その金属の塊はすくっと立ち上がった。


 その姿は、馬の胴体の部分のようで4本脚で立ち上がり、背の部分にオッグスが座っている。


「あれは…乗り物だったのか?」

 フェルナンドがそう呟いた。


《さて、返答もないのでそろそろ、戦闘準備と行くか》


 そこに居る者は、じっと戦場のオッグスの動向を見つめている。

「アラタ、あれが兵器かもしれないぞ、どうする?」

 クラウスがそう叫ぶ。

「どうすると言われても…」


 オッグスが乗っている機体は更に変形をして、その姿はケンタウロスを思わせる姿へと変貌する。


 真っ白な金属の体、4本脚で立ち、胴体からの金属が、人間の上半身のような物を作り出して、背に乗っていたオッグスがその人体で隠れ見えなくなった。

 機械的なそのケンタウロスの体に一つ目の頭がついている。


《返答は無しだな、じゃあ遠慮なくこのアーティファクトの力、得と見よ!貴様らを焼き払ってくれるわ‼》


「アラタ、やばい予感がする、俺達のMDS(マナードスーツ)を早く出せ!」

「え?ああ…はい」


 フェルナンドが危機感を覚えそう叫び、俺はすぐにフェルナンド、カレンさんのMDSをマジックボックスからその場に出した。


「カレン、すぐに戦闘準備だ!」

「OK!」


 俺が出した2体のMDSにそこに居た者は驚いて、注目していた。

 2人はすぐに背中のハッチの部分を開けてスーツに乗り込んだ。


 シンゾウは、俺達が渡した無線機で、フェリオール軍、イシュタルト軍との連携を可能にしていた。

 シンゾウも、危険を察知し、すぐに無線機を手に取り、両軍の指揮官へ開戦の指示を出していた。


《全軍!進めー‼》

 シンゾウの大きな一声で、この戦争の火蓋は切って落とされた。


 ワーーーーー!!


 アカツキ連合軍は、北東、西、南からヴェルダシュラム軍へ約倍の勢力で戦争を仕掛けた。


 すると、開戦開幕で、一閃、細いレーザーのような光線が、アカツキ軍のシンゾウがいる付近へ照射されて右の方へ流れた。


「なぬ?」


 一瞬の事で、皆気づくのに多少の時間が流れた。

 その光線は、シンゾウを狙った物でわずかに外れていた。


 シンゾウが乗っていた馬の前足が切断され、前にのめり込みシンゾウはそのまま馬と共に倒れてしまった。


 シンゾウは、地面に転がり何が起きたのか分からず周りを見ると、次々に付近に居た兵士達の体が血を吹き出していく。

 シンゾウがいた場所から直線的に、切断されて倒れて行くのが見えた。


「こ…これは…」

 シンゾウは一瞬の事で気が動転していた。


「兄さん!!」


 俺達も一瞬何が起こったのか分からなかった。

 いきなり叫んだその言葉は、クシーリだった。


「え……」


 俺は、クシーリのしゃがみ込んだ場所を見ると、真っ二つになったウェズ王子がそこに横たわっていた。


「ウェズ兄さん…そ、そんな…」


 一瞬で、その場の兵士の顔が真っ青に変わっていき、戦意が失われた。

 しかし、前線の者達は、まだ何が起きたのかも分からず、ヴェルダシュラム軍との間合いを詰めつつあった。


 レベッカが咄嗟にウェズの傍に行って、治療しようとしたがその光景に唾を飲み込んで俺を見た。


 レベッカは、軽く首を横に振った。

 それは俺にも分かった、それは地面にはウェズ王子の腸が巻き散っていた。

 光線で切断された部分は焼け焦げて、俺達の周りには異臭が漂っていた。


 フェルナンドは、MDSの中からその様子を見ていた。

《おい!お前ら、戦争中に固まるな!またあの攻撃が来る前に、散開するんだ!!》


 フェルナンドの叫びに、シンゾウは我に返り拡声魔道具を持ち。

《全軍散開!!!!》


 そう言うと、次々と我に返った者達が大きく散っていった。



「ちっ、外したか、練習したんだけどな」

 ガン!!

 オッグスは、煙草のような物を投げ捨て、アーティファクト兵器の胴を叩いた。


《おめえたち!天下取る時が来たんだ、こいつがある限り俺達は負けねえ!!者共かかれーーーい!ガハハハハ》


 うおおおおーーーーー!!


 オッグスの大きな声に、柄の悪い兵達の雄叫びが響いた。


 ◇


「アラタ!俺達はあのデカブツを相手するからな!」

「うん、気を付けて、あのレーザーだけじゃないと思うから」

「ああ、わかってる!カレン行くぞ!」

「ダー、いつでも良いよ」


 そう言って、MDS《マナードスーツ》に乗った二人は重量感ある足音を立てて走って行った。


 新は空を見上げたが、曇っていた。


 あのレーザー…俺が使った魔法、ソーラーレイに似ている…

 俺のより細く集束した物みたいだけど、空は曇っているから集束するには時間が掛かりすぎる、あの機械はそれでも太陽光を集束する事が出来るのか?


 魔法部隊がケンタウロス兵器へ魔法を飛ばしていた。

 新が考えながら、その光景を見ていると、火や雷の魔法が対象の1mくらい前で弾かれていた。


「え?」

 弾かれた魔法を見て驚いた瞬間、フェルナンドからの念話が届く。


『アラタ見たか今の』

『うん』

『魔法が全て弾かれたぞ…まさかバリアでもあるのか?』

『わからない…あ、後あのさっきのレーザー、俺のソーラーレイと同じ物ならチャージに時間が掛かるはずです、でも、くれぐれも注意してください、威力は俺の魔法以上だと思いますので』

『OK!』


 フェルナンドは念話を終え、沢山いる味方の隙間を掻き分けて、兵器へ近づいていく。


「マジックリフレクター、こりゃあ便利だな、古代人様様だぜぇ、これさえあれば無敵だぜ、ガハハハハ」


 オッグスはそう言って高笑いしていた。


「よし、次が撃てるようになるまで、接近戦でもやるか!」


 そう言って何かを操作するオッグス。


 ケンタウロスの両腕からビームの刃が飛び出す、そして、アカツキ軍の前衛に大きくジャンプして兵を踏みつぶし、その刃は近くにいた兵を何の抵抗もなく真っ二つにしていく。


「ひいいいい!」

「鎧や盾が無意味じゃないか!!に、逃げろ!」


 アカツキ軍の兵は、ケンタウロス兵器から距離を取るように、広がっていく。


「頭!すげえ!俺も手柄をあげてやるぜーーー!」

「俺も!俺も!」


 オッグスの部下達はそれを見て走って前に出る。


「あ、おい!お前ら!」

「え?」


 ザン!

 ザン!


 前に出たオッグスの部下は、兵器のビームソードで真っ二つになって、オッグスの前に横たわった。


「あちゃあ…この兵器は自動で敵を葬るが、敵味方の区別はできんのよ、言い忘れてたわ、すまねえな子分共よ、ガハハ!」

「そりゃねえぜ、お頭よぉ…」


 死んだ部下を見て、そう言ったオッグスに近くにいた部下達は、引きつって呟いていた。


 ◇


「ソーラレイに、マジックリフレクター、ビームサーベルみたいなのまであるのか…」

 俺は、アレを見てそう言った。


「アラタ、私達どうしたらいいの?…」

 少し震えている瑞希が涙を少し浮かべながら俺にそう言った。


 戦争なんて平和な日本で見た事すらない。

 目の前では、兵士達が真っ二つになり、血の匂いが漂っている。

 兄の上半身を抱えてすすり泣くクシーリの声と背中が見える。

 もう少し前に出ていたら、俺達もああなっていただろう…


 そう思うと急に恐怖が襲い掛かって来た。

 気付くと俺も体の中から震えが込み上げて来ていた。


 そうしていると、ケンタウロス兵器からの第二射がフェリオール軍の密集している所へ照射された。


 多数の死者が出て、フェリオール軍の足も止まったが、もうすでにあのレーザーを警戒して全軍の足が鈍くなっていた。



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