第72話 戦場
俺達は、ヴェルダシュラム公国へ行って、不死族シェリルの力で3人の公爵の洗脳を解いた。
それから、すぐにアカツキ国へゲートで移動し、頭首シンゾウさんと面会したのだった。
「アラタ殿、今回の件、誠に有難うござりまする」
「いえ、まだ戦争は回避できていないし、やる事もいっぱいあります、それに、ブリジットは何やら兵器を持っているようで、下手したら両方とも全滅…いえ、大陸自体を消滅させる可能性もあります」
「むう…そんな兵器が存在するのですかな?…」
「俺達の世界にも技術が発展してから作られた核兵器ってのがあります、それは、使い方を誤れば、この大陸の生き物が全て死滅するような事になりかねない最悪な物です、そんな物とは考えたくはないのですが…」
俺の話で、シンゾウは驚き顔が強張った。
「なるほど…我がシノビの力を総動員させてブリジットの持ち物から武器らしき物は全て封じるよう努力しよう」
「はい、フェリオール王とイシュタルト王にもその事は念話で伝えてあります、出来る限り注意して進軍するとの事でした」
「しかし、ブリジットめ、何百年と争い事もなかったこの大陸を乱そうとはのう、両国の助けとアラタ殿がいれば、勝ったも同然、成敗してくれようぞ!」
シンゾウは、そう言って拳をぐっと握りしめた。
「とりあえず、俺達は先回りして先に、敵軍に潜り込んで後の二人の公爵の洗脳を解除してみようと思います」
「うむ」
◇
新達は、戦場になるだろうと思われる、アカツキとヴェルダシュラムの国境付近にある高原へ急いだ。
数日が経ち、俺達がその高原へ着くころには、ヴェルダシュラム軍の先発隊がすでに陣を構えていた、すでに3つの部隊が並んでいて、それは人種も様々で統一の鎧などをつけているのは、ヴェルダシュラムの軍兵である事が窺えた。
「もうあんなに来ていたのか…結構いますね」
新は、その大軍を見てそう呟いた。
「ま、俺達は普通の冒険者だ、堂々と陣に近づく事は出来るだろ?」
フェルナンドはそう言って歩き出した。
俺は頷き、その軍へ歩き出した。
シェリルは、ブリジットが見ればすぐにバレるので変装してフードも被っている。
ヴェルダシュラムの兵達は、俺達が通るとジロジロと怪しんで見ていた。
「おい、お前ら冒険者か?」
「hey、だったら何だ、ん?」
兵の言葉に、フェルナンドが息巻いてそう言った。
「いい女連れて、冒険者なんていい身分だなぁ、ここは今から戦争が始まる場所だ、精々巻き込まれないようしとけよ、間違って嬢ちゃん達を略奪されないようにな、うへへへ」
「ふん、それよりお前、どっかの公爵の兵なんだろ?」
「ああ?俺はブリジット公爵様直属の兵よ」
「ほう…じゃあ、その他の公爵の場所とか知ってるのか?」
「なんだ?お前ら傭兵希望なのか?」
「ああ、このブリジット公爵の近くに布陣する予定の公爵の元へ行けって言われたんだがな?」
「なんだそう言う事か、それなら東に布陣するのがヴィクソン公爵様で、西がティラン公爵様になっている、他の公爵様達はどういう事か遅れているって話だ、この近くってんならどちらかの公爵様の所だろ?」
「ああ、どっちの公爵か忘れちまったから、直接行って聞いて来るわ、サンキュー」
「これに勝利したら、たんまり報酬も貰えるらしいからな、お前らも頑張れよ、はははは」
さすが、フェルナンドさん、しれっと他の公爵の場所を聞き出した。
「アラタ、どっちから行くんだ?」
「えっと、東から行って、少しでも早くフェリール、イシュタルトが有利になるよう手を打ちましょう」
「良い判断だ、アラタ、ハッハッハ」
俺達は、東のヴェクソン公爵の洗脳を解除しようと東へ向かった。
それは、すぐに見つかった、太った大男でギラギラと指輪をはめていた。
「ヴィクソン公爵様、傭兵に参加したいと言う者達が面会を求めております。」
「んん?わかった、通せ」
「はっ!」
俺達は、ヴィクソンの前に並んだ。
「俺の名前は新と言います、ヴィクソン公爵様、俺達、名もない冒険者なのですが、この戦に参加したいと思っているのですが」
「むむ、そこの子供も冒険者なのか?」
「はい」
シェリルはフードを深く被ったままヴィクソンに近づいた。
すっと、シェリルはヴィクソンの手を取り、チクリと痛みを伴わないほどの針を刺した。
すると少し血の玉が皮膚に滲んできた。
「おいおい、この子は一体何を望んでいるんだ?俺様によしよしして欲しいのか?」
シェリルは、自分の血を取り戻し洗脳を解除した。
「解除成功、アラタ!チョコ頂戴!」
「ははは、後からね」
一瞬、ヴィクソンは白目をむいたが、すぐに勝機に戻った。
「…俺は何を…」
「ようおっさん、目覚めたか、少し話をしようぜ!」
フェルナンドは、ヴィクソンの肩を叩いてこれまでの経緯を説明した。
事の次第を聞いたヴィクソンは、ブリジットの行動に腹を立て、撤退すると言ったが、フェルナンドが次のティラン公爵解除後に一緒に動いてくれとフェルナンドは頼んでいた。
それは、いきなりヴィクソンが撤退するとブリジットに怪しまれ、どんな手にでるかわからないからである、ヴィクソンはティラン公爵と一緒に撤退すると同意してくれた。
俺達は、もう一人の公爵を解除すべく、布陣している軍の西へ向かった。
そうこうしている間に、アカツキ軍も戦場へ布陣し始めたと、ここの兵達が騒いでいた。
俺達は、ティラン公爵を探した。
兵に聞いて、俺達はその場所に案内されたのだった。
「傭兵になりたいそうだな?」
そう言ったのは、細身で目つきの悪い男、ティラン公爵であった。
さっきと同じように適当な会話をしながら、シェリルが近づく。
「なんの真似かな、ん?お前は…シェリル!」
「あれ?この人、シェリルの血入ってないよ」
「なんだって!」
「貴様ら!何者だ!兵よ、こっちに来い!」
そのティランの言葉にぞろぞろと塀が集まって来る。
「アラタ!こいつは洗脳されてなかったって事だ!ゲートをだせ、逃げるぞ!」
「ああ、うん」
フェルナンドさんの叫びに、俺は咄嗟にゲートを作り出した。
「何故、シェリルがここに!ブリジットめしくったか、は、早くこいつらを捕まえろ!」
マイティ、瑞希、レベッカがすぐにゲートに入り、フェルナンドはシェリルをすぐに抱えて、カレンとクラウスとゲートを潜った。
近づいて来た兵は、クインに阻まれていた。
「クイン、行くよ!」
「ふむ」
俺とクインは同時にゲートに入り込みゲートを閉じた。
出た場所は、アカツキ軍の後方だった。
「どうなってんの?って事は、シモンドの他にティランってやつも自分の意思で従っていたって事?」
瑞希がそう呟いた。
「そうなるね…」
「まあ、でも、公爵7人のうち1人は捕縛して、残り4人は洗脳解除したんだから、半数以上の戦力は削いだ、戦力はこちらの方が断然上だ」
フェルナンドはそう言い、抱えていたシェリルを降ろした。
「ブリジットだけ孤立させる事が出来ればよかったのですが…諦めてくれるかな?」
新はそう呟いた。
「ま、半分以上の兵はブリジットに従わないとなれば、10万の半分以上は削いだんだ、連合軍の方が2~3万は上になる、これだけの兵力差があるのなら、敵も考えるんじゃないか?」
フェルナンドはそう言って少し微笑んだ。
「そうですね…後は…」
「兵器の存在だな、ざっと見た所、そんな危なそうな物は運んでるようには見えなかったがな」
新の言葉にクラウスがそう答えた。
「しっかし、開放した公爵の見間違いって事ないか?」
フェルナンドがそう言った。
「そうだと良いのですが、それが
「そうだな…アーティファクトかぁ…」
フェルナンドは、顎を擦り、空を見上げながら呟いた。
◇
それから一日が経ち、援軍のフェリオール、イシュタルト両軍も自国の方面から決戦の場に到着し布陣した。
北にヴェルダシュラム軍約4万5千。
東にイシュタルト軍約1万。
南東にフェリオール軍約4万。
アカツキ軍が南に約2万。
アカツキ連合軍は、ヴェルダシュラム軍を上回るの兵力で対峙していた。
◇
-ヴェルダシュラム軍 ブリジット軍本陣-
「むう…シェリルが脱走したと報告があったが、本国の公爵共の洗脳も解けるとはな、くそ!どうなってる!」
「ブリジット様、あ、あれを見てください!」
「む?」
ブリジットは兵に言われた東の方を見ると、ヴィクソン公爵率いる私兵達が離れて行くのが見えた。
「ヴィクソンめ!どういうことだ!」
すると、兵士が一人、走ってブリジットの前に膝をついた。
「ほ…報告します!ヴィクソン公爵からの伝令です」
「むむ、なんと?」
「我らは、お前の策略には乗らぬ、このまま撤退するとの事!もし、拒むならアカツキ軍に協力するとの事でした」
「くそ!、ええい…ほっとけ、こっちには切り札がある、オッグスめ何をしている!」
ブリジットはイライラを隠せずにそう叫んでいた。
ヴィクソン公爵は警戒しながら撤退していき、1万の兵が退いて行った。
これにより、ヴェルダシュラム軍は約3万5千人になり、アカツキ連合軍は約2倍の7万人の兵で対峙する形となった。
◇
それから、どちらも動かず更に1日が過ぎようとしていた。
-アカツキ軍 本陣-
「この状況でも退かんか…」
シンゾウはそう言って、眉を顰めた。
「何かを待っているのでしょうか?」
新はシンゾウの隣でそう言った。
「どうでござろうな…、このまま何事もなく退いてくれれば、血も流れなくて済むのじゃがな…」
シンゾウの伝令の旗兵が走って来た。
「伝令でござりまする」
「む、どうした?」
「物見からの報告で、北西からエイナムルの旗を掲げた騎馬兵、約5千がこちらに向かって来ておりまする」
「エイナムル?」
シンゾウや俺達は、北西からの砂煙を確認できた。
「は!そして、シンゾウ様への面会を求めているのだそうです」
「あい、わかった、通してやれ」
「はっ!それから」
「まだ何かあるのか?」
「未確認ですが、北の方からも同じくらいの規模の兵がこの戦場へ向かっているとの事」
「ふむ…」
暫くすると、その砂煙は立派な武器防具を備えた騎馬隊だった。
その跨っている馬達にも馬専用の鎧が装備されていることがわかり、中央先頭に2人大将と思われる者が隊を指揮していた。
その5千の騎馬隊は、シンゾウ軍の前に整列すると、先頭にいた2人は馬を降り、こちらに向かってきた。
兵達は道を開けて、二人はシンゾウの所までやって来た。
そして、胸に左手を置いて少し会釈した。
「かつての英雄の末裔、アカツキ軍のシンゾウ様、初にお目にかかります、私はエイナムル第一王子ウェズ、そして、隣にいるのが第三王女のクシーリになります」
「おお、これはこれは」
会釈を直した時、クシーリが俺を見て少し笑みを浮かべた。
それを見て俺も、少し口元の口角をあげて答えた。
シンゾウは跨っていた馬を降りて、二人に近づいた。
「こちらこそ、初にお目にかかる、アカツキ国頭首シンゾウと申す、お見知りおきを、それで…、こんな場所に一体なんの御用でござりまするか?」
「はい、実は、イシュタルト国のヘクトル王子から連絡を受け、ブリジットなる者がこの大陸の支配を目論んでおり、その足掛かりとしてアカツキ国を我が物としようとしているとの事、それをこの目で確認し、もし本当ならばアカツキ軍に加勢しようと精鋭5千を率いて馳せ参じました」
ウェズはそう言って、もう一度会釈した。
「おお!それは願ってもない!」
「いえ、エイナムルからは離れているため、これだけしか連れて来れませんでしたが、我が国の精鋭、存分に働いてご覧にいれましょう」
シンゾウとウェズは、そこでガッチリと握手していた。
すると、クシーリがその場から離れ俺の元へ歩いて来た。
「この間の懇親会ぶりだな、アラタ」
「うん、クシーリ様も元気そうでなにより」
「ふふふ、海の外の話をする気になってくれたかい?」
「え?ああ…」
ああ…そう言えば、クシーリ様に王族懇親会の時に海の話をしようって持ちかけられたのを思い出した。
「こ~ら、クシーリ、また、人をお前の願望の話に付き合わせて困らせているのか?」
そう言って来たのは、シンゾウと挨拶と握手を終えたウェズだった。
身長も高く、サラサラ銀髪で端整な顔立ち、文武両道の品の良い完璧な王子様だ。
「あ、君は、懇親会の時にいた…えっと…」
「あ、アラタです、ディファレントアースの」
「ああ、あのスタンピードの活躍者だったね、クシーリは本当にお転婆でねぇ…今回も、私一人で行くって言ったのに付いて行くって聞かなくてね…」
「ウェズ兄さん、いいじゃんか、戦争なんて生まれてから一度も見た事ないし、それに、父さんにいろいろ叩き込まれても使うとこが無能な魔物ばかりじゃつまらないだろ?」
ウェズは、溜息をついた。
「この通り、我が妹はじゃじゃ馬すぎてね…、とんでもない事話して来たりするけど、話くらいは付き合ってやってくれよ」
「は…ははは…、はい」
苦笑いしている俺の肩を軽く叩いて、イケメンは兵の中へ消えて行った。
その後、クシーリ様に捕まって海の外のロマンについて少し話を一方的にされて、俺がエルファシル、エルフの王子だと言う事もヘクトルから聞いたらしい…
同じ王族だし、クシーリ様じゃなくクシーリと呼べと言うので、これからクシーリと呼ぶことにした。
なんにせよ、戦場なのだ。
気を引き締めて行かねばならない。
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