第71話 解除

 不死族のシェリルと言う、少女を保護した俺達は、アカツキ国の頭首シンゾウさんから、ヴェルダシュラム公国からの宣戦布告と兵数約10万の大軍が出発したとの報告を聞いた。


 俺は、シンゾウさんから言われた通り、イシュタルト王国のヘクトルと、フェリオール王国のアルメデオ王に念話を送り援軍を要請することにした。


 イシュタルト、フェリオールの両国は、アカツキ国がヴェルダシュラムの物になってしまうと、両国間にヴェルダシュラムの拠点が出来る事になり、同じような策略での侵攻を許すことになると、王達は援軍を承諾してくれた。


 ただ、フェリオール王国は国を守る兵以外は派遣を決定したが、イシュタルト王国は隣国になるため、ヴェルダシュラム公国がその隙に侵攻して来るとも考えられるので、援軍は全兵士の3分の1しか、派遣出来ない事を了承してくれとの事だった。


 俺は、遠距離連絡係になり、それをシンゾウさんに伝えたのだった。

 これにより、アカツキ、フェリオール、イシュタルト連合軍の兵数は7万になり、若干劣るものの、拮抗出来るものとなった。


『アラタ殿、我がアカツキ国はまだ400年ほどの歴史しかない浅い国、ここまで、魔物の存在もあるので、国同士、手を取り合って平和な大陸じゃったが、まさか人間同士で戦争になるとはな…』


『シンゾウさん、俺達の世界の祖先も昔は、どの大陸も領土の奪い合いをしていましたしね、平和になった今でも少しでも資源などを摂取するために、自分の領土だと言い張っている国もあるんです、この均衡が崩れたりするとすぐに戦争とかなるのかもしれませんね…』


『そうじゃな、ブリジットめ大陸統一じゃと…あやつを排除せねばな…、アラタ殿、本当にかたじけない、こんな連絡手段もなければ、援軍が来ることには、我が国は敵国に蹂躙されていた事であろう、本当に有難う』


『いえいえ、まだやる事はありますよ、操られている他の公爵は保護した不死族の少女じゃないと解除する事が出来ないので、兵力を削ぐにはその公爵にも近づかないと行けませんし…もし、そのままぶつかったら、どちらもただでは済まない結果になりますよ』


『そうじゃな…、出来る事なら、血を流さずブリジットの野望を潰す事が出来れば良いのじゃがな…』

『はい、俺はもう一度ヴェルダシュラムへ行って、他の公爵の洗脳を解きに廻ろうと思っています』

『アラタ殿…そなたは本当に、神が使わせたとしか言いようがありませぬ』

『とりあえず、成功するかもわかりませんが、戦争を止めるために俺も努力してみます』

『わかりました、これが全て終わったあかつきには、この御恩は必ず…、ご武運を』

『シンゾウさんも、無理しないで下さいね』

『うむ、それでは失礼つかまつりまする』


 シンゾウさんとの念話を終えた。


「アラタ殿、ヴェルダシュラムへ解除に向かわれるのでしたら、拙者とカスミを同行願えませんでしょうか?各公爵の顔なら熟知しておりまする」


 念話を終えてトラカゲがそう言ってきた。

 どうやら、俺は念話は頭の中で喋っても通じているのだけど、声も出して喋っていたみたいだ。


「ああ、声に出ちゃってたね、うん、それはこちらからお願いするよ」

「御意!」


 俺達は他の公爵達の洗脳を解き、少しでも戦争の被害を抑えるためヴェルダシュラムへ向かう事になった。


 ◇


 ヴェルダシュラム公国から、アカツキ国までの距離はそこまで遠くないとしても、大軍を率いて行くには早くても10日は掛かる、それに、山や森などもあり、舗装されているわけでもないので、下手したらもっとかかるはずだと、トラカゲは言っていた。


 俺達は、1日休息をとって、シェリルも連れて行くため、いろいろと計画を練った。


 フェルナンドさんが、俺に渡していた大きな荷物の中から、軍用のコンパクト無線機を取り出していた。


「フェルナンドさんそれトランシーバーですか?」

「ああ、俺達は念話できるが、カスミ、トラカゲとの連絡用にと思ってな」

「ああ、なるほど」


 フェルナンドは、カスミとトラカゲにトランシーバーの説明をしていた。


 新達は、準備を終え、ヴェルダシュラム公国へもう一度乗り込むのであった。


 ◇


 新達は、ヴェルダシュラムのトラカゲ達が潜伏していた小屋へ集まった。

 まず1日目は、カスミとトラカゲにこの国の主要な場所を案内してもらい、新はその場所のイメージの沸く場所をデジカメで撮影し、記憶に残した。


 それから、カスミとトラカゲは、他の忍び達と共に他の公爵を寝ずに捜索してフェルナンドへトランシーバーで報告する事となった。


 そして、夜までに公爵3人の所在もわかった。


「アラタ、カスミ達からの報告で3人の公爵の所在がわかったぞ」

 フェルナンドは新にそう言った。


「場所さえ教えてくれたら、その場所にゲートを繋ぐのでこちらに連れてくるように言ってください」

「ああ、その予定ですでに1つの場所に集めているはずだ」

「はい」


 さすが手際の良いフェルナンドさんだ。

 7人いるうちの、3人の所在は掴めた、これで、すぐにシェリルの洗脳は解くことが可能だろう、後は、ブリジットと捕縛しているシモンド以外に二人か…


 ザザ‥ザ‥

 ≪フェルナンド殿、こちらの準備は整いました≫

「了解!オーバー!」


 フェルナンドの持っているトランシーバーから、カスミの声が聞こえてフェルナンドはそれに返答した。


「アラタ」

「うん、目印にした建物の裏で良かったんだよね?」

「yes!」


 俺は、計画通り、いくつかの目印の場所の中で、一番イメージしやすい場所だった大きな建物の裏へゲートを繋いだ。


 すると、カレンがゲートに入りカスミとトラカゲをゲートに誘導し、入って来た。

「何度通っても…不思議な魔法ですな」


 カスミがそう言って一人の公爵を背負って入って来た。

 その後に、トラカゲが手足を縛っている二人を他の忍びと抱えて入って来た。


「シェリル、お願いできる?」

 俺がシェリルにそう言うと。

「ちゃんとやるから、ちょこちょうだいね!」

 そう元気よく答えたので、俺は微笑んで頷いた。


 シェリルは、3人の公爵の指先を軽く握り、少し念じた後、針を刺し、滲み出て来た血を舐めた。


「はい、この人はもうシェリルの呪縛から解けたよ!つぎつぎ!」


 そうやって、呪縛していた自分の血を抜くのか…

 シェリルを洗脳し、ブリジットの言いなりになるように呪縛されていた3人の公爵はこれで開放される事となったのだ。


「もう、起こしても大丈夫なのかな?」

「勿論!って事で、アラタァ、ちょこ!」

「はいはい…」


 呪縛と解いたと言ったシェリルは早速チョコを懇願した。


 クラウスが準備していたバケツの魔法で冷やした水を3人にかけて起こす。

 びっくりして3人の公爵は飛び起きた。


「こ…ここは」

「ひっ!何だ!何だ?」

「わっ!あんた達は?」


 フェルナンドが、公爵達にブリジットの策略で洗脳されて、ブリジットが元老院長となり、この国を我が物とし、アカツキ国へ戦争を仕掛けた事を簡単に説明した。


「なんだと!あの新参者め…何と言う事を…」

「ブリジット、許せん」

「ど…どうやって止めるんだ?それに止めたとしてもこの責任は私達にとっても…」


 3人の公爵はそれぞれにいろいろと語っていた。


「えっと、皆さん落ち着いて、とりあえずこのままでは、戦争になるし他の公爵も止めなければなりません、貴方達の権限の兵達でも撤退させてくれれば兵力差で、アカツキ連合軍の方が上になります、ブリジットもそれなら分が悪いとみて戦争を止めるかも知れません」


 新はそう3人の公爵を宥めながら言った。


「あ…ああ、そうだな、兵達に打診しよう、メルバードをすぐに隊長に送るのだ」

「ああ、儂の私兵達にもそう伝えよう」

「そうだな…、あ、それから、うっすらと覚えているのだが、シェリル、あの子は確かブリジットが管理している区画の大昔から残っていた屋敷から見つけたと言っていたが…」

「その屋敷から連れ出しましたから間違いないでしょう」

「そうか、もう一つ何かを見つけたとシモンドに言っているのを私は聞いたんだ、兵器に使えるとかなんとか…」

「兵器…ですか?」

「ああ、まだ何か隠していることがあるかも知れないから、私達も気を付けるが君達も気を付けてくれ」

「わかりました」


 俺はそう頷き、公爵達を開放した。


「これで、半分くらいの兵力は削げるんじゃないか?」

「どうでしょうね」

 フェルナンドがそう言ってカスミ達からトランシーバーを受け取っていた。


「アラタ殿、他のシノビからの情報では、この町に他2人の公爵は見当たらないとのことでしたので、多分…ブリジットと共に戦場へ赴いた可能性が高いと思いまする」

「マジ…それはゲートで行くのは無理があるか…」

「そうですね」


 カスミがそう新に険しい顔でそう言った。


「そうなると、さっきの3人の私兵達が退いたとして約5、6万、アカツキ連合軍が7万なら分はあるが、さっき公爵が言ってた兵器が気になる、古代人の物だとすると結構危ない物かもしれないから安心は出来ないよな…」

 フェルナンドは腕を組みそう天井を仰いでそう言った。


 そう、古代人の作った物なら危険な古代遺産アーティファクトの可能性も高い。

 大昔の古代人達が身を滅ぼした兵器の一つだとしたら…


「そうですよね…もし、核兵器とかだったら、大陸その物が無くなるかも知れない事をブリジット達は気付かず使用する可能性もありますよね…」

「ああ、慎重にいかないと、とんでもない事になるかもしれんな」


 新とフェルナンドは、険しい顔で俯いた。


「なあ、とりあえずここに居てもどうしようもないから、アカツキ国へ急いだほうが良いんじゃないか?」


 クラウスがそう言った。


「そうだね、ここで悩んでいてもしょうがないから、アカツキ国側へ行って、戦場で後の二人の公爵の洗脳を解除するしか方法がないよね」

「そうだな、もうそれしか方法はないか」


 新がそう言うとフェルナンドも皆も頷いた。


 俺達は、アカツキ国へ急ぐことにした。

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