第70話 地下室
新とカレンは、螺旋状に地下へ続いている階段を降りていく。
石の壁には、灯りの魔道具が間隔を置いてほんのりと淡い光が灯っている。
結構、長い階段を降りて行くと扉があり、半開きになっていて中から音が聞こえていた。
カレンが新に、ここで待てと目配せをした。
新は頷いて、カレンはそっとその扉の先へ侵入した。
暫くすると、ドっと何かが倒れるような音がした。
「アラタ、入って来ていいよ」
「はい」
俺が、扉をあけて中へ入ると、そこは如何にも地下室と言うような部屋で、湿気と少しカビ臭く、床に豪華なローブを来た男が倒れていた。
カレンさんが、気絶させたのだろう。
その男は、料理を作っていたようで、作りかけの何かがそこに置いてあった。
「こんな所で飯食べようとしたんですかね‥」
「隣にもう一つ部屋がある、人の気配はしないから、こいつだけだったんだろうけど、隠し部屋なんだから何かあるんでしょうね」
そう言って、カレンは隣の部屋を除く。
俺は、その倒れている男の顔を覗いていた。
「わ!」
「カレンさん、どうしました?」
俺はすぐにカレンさんがいる隣の部屋に向かった。
そこにはベッドと机と、気配のない人影が椅子に腰かけていた。
驚いているカレンに俺は近づいていった。
「カレンさん、どうしたんですか?」
「アラタ‥これ、マネキンかと思ったら生きてる人間‥」
「え?」
俺もその気配のない人間を覗き込んだ。
それは、黒髪で色白の少女だった。
目は虚ろになっていて、よく見ると瞳は赤色だった、そして、足枷の鎖と首に輪っかの魔道具らしき物が取り付けられていた。
「い‥生きているんですかね?」
「さ‥さあ?‥」
カレンが脈をとろうと、少女の手首をとると。
「ひっ、冷たい‥脈もない‥死んでる?‥」
「え?じゃあ、やはり人形なんですか?」
「いや、でも、この皮膚の柔らかさは‥」
俺とカレンさんは、顔を見合わせて少し沈黙した。
「ご‥ご主人様‥何かご命令ですか?‥」
少女がいきなりそう喋った。
新とカレンは、一瞬ビクッとして後ずさった。
「い‥生きてます‥ね。」
俺は、目は少女を見ながら、顔だけカレンへ向けてそう言った。
「うん‥えーと、ミーはカレン、貴方は?」
カレンはそう少女に話しかけた。
「名前‥ですか?」
「そう、名前」
「シェリル‥」
少女はそう呟くように答えたが、遠い目をしていて意思を制御されているようだった。
「この子も洗脳されているのかも?」
「アラタ、とりあえず、ダー達にここに来るように連絡して」
「わかりました」
俺は、クインとフェルナンドさんに、ここに来るように念話をした。
上の階を見に行った、クイン、フェルナンド、トラカゲは収穫なしだと言って、もうこちらに向かっていると言った。
その間に、カレンは足枷の鎖を、持っていた剣で断ち切って首輪を確認していた。
「カレンさん、もう向かってるって」
「うん‥これ、どこから外せばいいの‥もう‥」
カレンさんは、首輪を外そうとあちこち触っていた。
ドタドタドタ。
駆け足で降りて来る音が聞こえ、カレンは首輪を諦めて、武器を手に部屋の扉の前に待機した。
「カレン、俺だ」
「ほっ‥ダー、こっちよ」
クインとフェルナンド、トラカゲが入って来た。
トラカゲはすぐに、倒れている男を確認した。
「こいつは‥」
「そいつがブリジットか?」
フェルナンドは、トラカゲにそう聞いた。
「いえ、これは元老院公爵の一人、シモンドだと思いまする」
「そっか」
「ダー、それよりこっちに来て」
カレンが隣の部屋からフェルナンドを呼んだ。
「何だ?こいつ生きてるのか?」
「うん、体温も脈もないけど‥さっき喋ったから生きているとは思うの」
「ほう‥この輪っか、まさか外そうとしたら爆発とかしないよな?‥」
カレンと俺は顔を見合わせた。
そもそも、この世界に爆薬などは存在しないからそれはないと思うけど‥
「アラタ殿、とりあえず上の階にはこれと言って、洗脳に関するような物はなかったのであるとしたら‥」
「この部屋‥で間違いないよね」
「hey、周りを探ったが、この子以外これと言って怪しい物はないな」
「そうですね」
新が頷きそう答えた時、クインがぬっ前に出て来た
「ふむ、上に人間が集まってきている気配がする、とりあえずじゃ、ここにいても拉致あかない、アラタ、その子を連れ出してからじゃ、ふー」
「ああ‥そうだね。」
「じゃ、俺はこの倒れているオッサンも連れて行くぜ、何か知ってるかもしれないから尋問してやるぜ。」
「わかりました、俺は、屋敷の外にいる、瑞希達を回収してからすぐに行きますので先に工房に行ってください」
クラン工房へゲートを繋いで、カレンが少女を担いで、フェルナンドとトラカゲは倒れていた男を抱えて、クラン工房へのゲートを潜って行った。
ゲートを潜ったフェルナンド達は、すぐに気絶しているシモンドと言う公爵を椅子に座らせて縄で手足を縛っていた。
「イグ、この子の首輪外せる?」
「ん?なんじゃ、騒がしいのぉ‥いったいなんじゃ、首輪?」
イグルートは、作業を止めて、呆れた表情でカレンの元へ近づいて来た。
すると、空間にゲートが開き、新達がぞろぞろと工房へ転移してきた。
「これは‥特殊な魔道具じゃのぉ‥」
イグルートは、しかめっ面で首輪を確認してそう言った。
「危険な細工はないようじゃが‥、この素材は魔鉱じゃな、ということは古代の物に違いないが‥」
「外せそう?」
俺は心配そうに、イグにそう聞いた。
「任しておけい、儂にバラせんもんはないわい」
俺は頷いて後ろを振り向くと。
フェルナンドが水の入ったバケツを持って拘束して座らせている男に水を掛けた。
バシャン!
「おわ!」
「気が付いたか?おっさん」
「ひっ!こ‥ここは‥どこだ?」
「さてと、尋問は俺に任せてくれアラタ」
フェルナンドは新にそう言って、自分が座る椅子を男の近くに持って行って、どすっと座った。
シモンドは、縛られている手と足をモゾモゾと動かして、確認し、引きつった顔をしていた。
「シモンドって名前だったか?おっさん」
「い‥いかにも、私はシモンドだ、こ、公爵の一人なんだぞ、こ、こんなことしてタダで済むと思っているのか!何が望みだ!」
「まず、首輪のあの子は誰なんだ?」
「シェ‥いや、し、知らん!」
「そうか‥俺は拷問とか慣れて無くてな、変なとこ切り落としたら死んじゃいそうだから‥小指の爪から剥がしていくとするか!」
「は?おい‥何を言っているんだ?私は元老院公爵の一人だぞ?‥」
「残念でした、ここはヴェルダシュラムでもなく、俺達もその国の人間じゃないし関係ないんだよなぁ、知っていることを、洗いざらい喋らないと、しまいにはマトリョーシカになっちゃうぜ!おっさんよお!」
ははは‥フェルナンドさん‥この世界の人にそれ言っても分からないでしょうよ‥
新は、悪魔的な顔をしているフェルナンドを見て少し引きつった顔をした。
それから、偉そうなシモンドにフェルナンドは、本当にペンチで右手小指の爪を剥いで、シモンドは悲鳴を上げていた。
俺達は痛そうな顔をして、衝立を用意して尋問を見えないようにしていた。
瑞希達、女性陣はその悲鳴を聞きたくなくて、この場から出て行ってしまった。
1時間後。
痛みで気絶したシモンドを放置し、フェルナンドは尋問を終え、衝立をずらして、こちら側に戻って来た。
「みんな、一応ある程度は聞きだしたぜ」
「うん」
フェルナンドがシモンドから尋問、いや、拷問して聞いた内容は。
シモンドは、ブリジットの臣下で右腕だった。
あのシェリルと言う少女は古代人で、不死族の末裔だと言う。
そして不死族には人を操る能力があり、その能力を使うために、古代の洗脳装置であの子を操り、他の公爵達を洗脳してヴェルダシュラムを牛耳ったらしい。
「不死族‥」
新は、ぼそっと呟いた。
「で、その子の力でこの大陸を手中に収めよう企んでいるって事だな。だらしねえなあの野郎、爪2枚で吐きやがったわ、ま、ちゃんと音声は録音しているから、これでアカツキの身の潔白は証明されるだろうよ。」
「ははは‥概要はわかりました、あの子、いったい何時から洗脳されていたんだろう‥?」
「それも聞くか?なんならもう一回起こすぜ?」
「あ‥いや、もう良いです」
フェルナンドさんがやる気満々過ぎて、あのシモンドって男が可愛そうに思えてきた。
ガン!ガラン!
「おっしゃ!外れたぞい」
「お?」
イグルートがシェリルの首輪を取り外すことに成功したのだった。
それと同時に、シェリルの赤い瞳に輝きが戻った。
「ん?ここは‥」
「君、しっかりして、もう大丈夫よ」
カレンは正気を取り戻したシェリルにそう言った。
「シュ‥シュクロスは?ねえ、シュクロスは?」
「シュクロス?貴方のお父さんか、兄弟?」
「うん、シュクロスはシェリルのお兄ちゃんなの」
俺達は、顔を見合わせて、首を傾げた。
「とりあえず、安心してここは安全だから、そのお兄さんの事も後から一緒に探してあげる、それよりシェリル、貴方の事を聞かせてくれない?」
カレンは、慌てていたシェリルを宥めてそう言った。
「うん」
シェリルは頷いて椅子に座った。
「とりあえず、これでも食べて」
新は、そう言ってチョコレートをシェリルに渡した。
初めて見る黒い食べ物に、少し仰け反ったが匂いを嗅いだ後に少しチョコを舐めた。
「!?」
一瞬、驚いてすぐに口にチョコを放り込んだ。
「んーーーー!」
シェリルは、ほっぺを両手で抑えながら、初めて食べる甘いチョコを味わった。
「甘いでしょ?」
「うんうんうんうん、もっと頂戴!」
「はいはい」
俺は、チョコをまたマジックボックスから取り出し、シェリルに渡した。
どうやら、一応、落ち着いたようだ。
その後、シェリルにいろいろと聞きたい事を聞くことにした。
【不死族】とは、古代人が進化を追及して作った種族の一つだと言った。
不老不死で病気もしない、肉片の一部さえあれば復活できると言うこと以外、この世界の人間と大差変わらないのだと言った。
捕まっていた経緯などを聞こうとしたが、シェリルはあまり知らないようだ。
シュクロスと言う兄さんとは、この大陸に連れてこられた時に別々になったと言っていた、何かの研究のためにこの大陸に連れてこられたとは言っていたが、すぐに眠らされ詳細はわからないと言った。
そして、不死族の能力の事を聞いたのだが、唯一、人間を操る事が出来る能力があると言った。
操り対象の血と自分の血を混ぜ合わせて、その対象に注入する事で解除するまで永久に操ることが出来るのだと言う。
この能力をブリジットは利用して、他の公爵達を洗脳し、元老院長まで上り詰めたたであろうと、皆、推測した。
「洗脳に洗脳か‥」
フェルナンドは腕組してそう呟いた。
「ねえ、新、不死族って、地球で言う吸血鬼って事よね?よく見るとあの子の犬歯少し大きくて尖ってない?」
瑞希が新にそう耳打ちしてきた。
「ほんとだ‥」
そう言われて、嬉しそうにチョコを嚙む時のシェリルの犬歯を俺は見た。
「シェリル、あのさ、その操った人達だけど、操り解除もできるんだよね?」
俺はそうシェリルに聞いた。
「シェリルがね、その人に触れて血を抜けば解けるよ?んー、これ美味しい!もっと頂戴!」
「あ‥ああ、あんまり食べると虫歯になるよ?‥」
「ん?それって、びょーき?シェリルね、不死族だからびょーきしないの!だから頂戴!」
「ははは‥そっか、じゃあ大丈夫か‥」
そう言って俺はまたチョコを渡した。
「それで、シェリルは何時から、ブリジットに操られていたんだい?」
「さー?もう何百年も前なのかな?」
「そう‥」
そんなはずはない。
ブリジットは人間だ、何百年と生きれるはずはないから、どこかでこの子を見つけて利用したんだきっと。
「heyアラタ、とりあえず、シンゾウさんに報告と、各国にアカツキの身の潔白を通達した方が良いんじゃないか?」
「あ、そうですね」
俺は、フェルナンドさんの言う通り、アカツキ国頭首シンゾウさんに念話を送り、その後に、イシュタルト王国のヘクトル、フェリオール王国のアルメデオ王に、ヴェルダシュラム公国の陰謀について、念話を送ったのだった。
そして、シモンドにも後から聞いてみたが、彼はシェリルの洗脳は受けていなかった事が分かった。主にシェリルの監視と、その能力を使ってこの場所で洗脳を行ってきた事も吐いた。
ブリジットと共謀して国を乗っ取り、私腹を肥やし、それでは飽き足らずこの大陸を手中に収めようと企んでいたのだ。
フェルナンドさんの拷問、爪二枚剥いだだけで全てを喋ったようだが、まだ何か隠している事があるかもしれないから、このまま拘束しておく事にした。
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