第69話 ヴェルダシュラム公国と調査

 新達は、イシュタルト王国西の町ベイトから、西へ向かい10日を掛けてヴェルダシュラム公国へ入った。


 ヴェルダシュラム公国は、フェリオール、イシュタルトよりも活気に溢れていた。

 このオブリシア大陸の北部中央に位置するこの国は、全ての国との交易があるので人の行き来は一番多いと言える。

 人口も両国人口の倍くらいなのである。


 クラウスが言うには、大昔に小さな国同士が領土を広げようと争った地域で、何百年か前に国同士が纏まり、今では7人の統治者の公爵が治めていて、その者達で元老院を創設してその長が、他の国との交渉決定などを行っている。

 今でも領土を少しずつ拡大していて、小さな村や町を取り込んで行っていると言う。


 今では、突然公爵になり、元老院のトップになったブリジット公爵がこの国を動かしているが、この経緯も不自然な事も多く、各国は警戒している。


 そして、そのブリジット公爵は、イシュタルト王国の西にあった村を領土に加え、イシュタルトへの侵攻を匂わせていたが、アカツキ国の北西にあるヴェルダシュラム公国領の小さな村が焼き払われ、そこからアカツキ国兵士の死体が見つかった事で、事態は動いた。


 当初、イシュタルト国王子、ヘクトルからヴェルダシュラムの動向を依頼され調査していたアカツキ国は、調べるうちにこの事態を想定していた。

 何名かの密偵が洗脳でもされたかのように、人格が変わって帰って来たり、戻って来なかったりしていた、その矢先に焼き払われた村からの、アカツキ兵士の死体。


 アカツキ頭首シンゾウは、すぐに北東のイシュタルト王国、南東のフェリオール王国へ、事態の潔白と、戦争になった時の援軍の文書を飛ばした。


 フェリオール王国、イシュタルト王国の両国が、アカツキに味方すれば、戦争になても戦力は互角以上になり押し返す事も出来るが、ここは両国も慎重だった。


 アカツキを支援するとなれば、自国への戦争の切っ掛けを与えかねない。

 特にイシュタルト王国は隣国。

 ヴェルダシュラム公国はアカツキとイシュタルト両方を攻めるだけの軍事力はあるので、イシュタルト王もフェリオール王も、簡単には支援できない。


 そこで、シンゾウは早めの決断をした。

 どこにも干渉していない実力のある冒険者で、ブリジット公爵の身辺を調査してほしいと、新に依頼をだしたのだった。


 そして新達は、ヴェルダシュラム公国に入ってすぐにトラカゲと言う、アカツキ国の間者と落ち合う場所へ向かったのである。


「えっと、この位置で間違いないかな?」

 新達は、人も行き交う大きな広場にある、目印になりそうな木の下に集まった。


「この木の色、これしか他にはないから間違いないだろう。」

 クラウスはそう言って、辺りを見渡した。


「よぉ~獣人の同胞よ~、久しぶりだな~」

「ん?俺の事か?」

「そうそう、借りていた金、やっと返せそうで良かったぁ」


 そう言ってやって来た獣人は、クラウスに小さな小銭袋を渡した。


「じゃあな、ちゃんと中身確認してくれよ。これで貸し借りなしってこったぁ、じゃあな~」


 そう言って、その獣人は去って行った。


「あれだろうな」

「うん。トラカゲって人だっけ?」


 フェルナンドが呟いた言葉に、新は頷き答えた。


「中身を確認ね」


 クラウスは、その小銭袋を開け中を覗くと小さな石と一緒に紙が入っていた。

 それを広げると、地図と時間が書いてあった。


「ここに来いって事だろうな」

 クラウスはそう言って、その紙を新に渡した。


 ◇


 夕刻になり、新達はそのメモの地図を辿って、街から少し離れた場所にある街並みの一軒家に辿り着いた。


「ここだな」

 クラウスはそう言って、ぼろ小屋の扉をノックした。


「どうぞ」


 扉を開けて、俺達はぞろぞろと中へ入った。

 中へ入ると、その部屋は二つ、和風な作りをして、玄関から一段上がって囲炉裏のような物があり、そこに先程のトラの顔をした獣人が正座して待っていた。


「アラタ殿、ご一行様、先程の無礼と、挨拶が遅れまして申し訳ない。拙者、アカツキのトラカゲと申しまする、お見知りおきを」


 トラカゲは、正座したまま腰に手を置き、深々と頭を下げた。


「あ‥はい、俺がアラタと言います」

 新もそう言って、頭を下げた。


「狭い場所ゆえ、ゆくりとは行きませぬが、こちらへお上がりください」

 そう言われて、皆で囲炉裏を囲むように座った。

 クインは、玄関で不可視化を解いて、お座りしている。


「シンゾウ様からの文で、アラタ殿の事は先の広場ですぐに分かり申した、事情も全て分かっているとは思いますが、拙者が掴んだ情報をお教えいたしまする」

「うん。」

「今、ブリジット公爵は、軍備を揃え明日にでも各国に、アカツキに対する報復宣告を宣言し、アカツキへ侵攻を開始するのではないかとの推測に御座りまする、そして、我らシノビも囚われた者は洗脳され、アカツキに帰されております。今、ここでこの国を探っているのは、拙者とあと2名だけになりましたが、ブリジットのこの地域にある屋敷に何かある所まで掴みましたが、不甲斐なき事であるが、そろそろ我らだけは調べる事は不可能と判断し、シンゾウ様にお伝えした次第でありまする」


 トラカゲは坦々とそう言った。


「えっと、その屋敷には何があるの?」

「はい、実は我らの囚われたシノビの者はあの屋敷に連れて行かれてから様子がおかしくなったのは間違いないのでござる。そして、他の公爵達もその屋敷を何度か訪れているのでありまするので、必ず何かあると思います」


 新の問いに答えたトラカゲの話を聞いた後にクラウスの口が開いた。


「なるほど。じゃあ、ブリジットと言う奴が、公爵まで伸し上がってその長にまでなった秘密もそこにあると?」

「そう睨んでおりまする。そして我が仲間の洗脳も、必ず何かしら見つかると思いまする」

「heyその洗脳ってのは、魔法で解けないのかい?」

「はい、呪術に精通している者に仲間を診てもらったのですが、魔法なのか呪術なのかですら、分からずに‥」

「で、その洗脳ってのは、具体的にどんな症状なんだ?」


 フェルナンドは続けてそう聞いた。


「はい、まず最初の者は合言葉も忘れ、任務の事も忘れてしまい人格が少し変わったかのようになったので、国に帰しました。次の者は複数ある潜伏場所を喋り、そこにいた者は、この国の兵士達により拘束、処刑され、その者もその後自害しました。他にもおりますが、似たようなものにござりまする‥」

「なるほど。」

「それからと言うもの、あの屋敷は厳重に警備され、今ではAランクの傭兵までもが、警備している次第で‥我ら3人ではどうする事も出来なくなってしましました‥」


 トラカゲは、そう言って俯いた。


「じゃあ、どこから始める?」

 新は、そうトラカゲに聞いた。


「はい、入る方法は3つ。正門からは、厳重すぎて勿論無理。裏の出入り口も厳重になっており‥、あと最後の一つは、煙突くらいしかありませぬ」

「サンタになれって事か」


 フェルナンドが溜息をついてそう言った。


「はい、中がどうなっているのか、わからない以上この人数で行くのもどうかと思いまするが‥」

「ふむ。それなら我が先に行って、煙突のある部屋を確認してこようぞ、ふー」


 クインは玄関からそう言った。


「うん、クインなら煙突の部屋に敵がいても対処できそうだね」

 新はそう頷いて言った。

 そして、作戦を立てた、夜の方が勿論見つかりにくいので、決行は夜。

 瑞希、クラウス、マイティ、レベッカは屋敷の近辺で待機することとなった。


 全員、地球の食べ物と魔力の泉の効果で身体能力は、この世界の通常の約6倍以上になっているが、屋敷には、新はゲートで逃げるために必要で、元軍人の二人と、クイン、忍びのトラカゲの少数で行くこととした。


 ◇


 日が落ちて、暗くなり、新率いる調査部隊は、ブリジットの屋敷の屋根の上に、ゲートを繋いで潜伏した。

 クインが、軽く俺達に頷いて煙突の中に入って行った。


 すぐにクインから念話が届き、煙突の部屋にいた二人の人間を気絶させたと言った。


 俺達はロープを垂らし、トラカゲ、新、フェルナンド、カレンの順で煙突の中へ入って行く。


 長い煙突を降りて、暖炉から部屋に出ると、そこそこ豪華な部屋だった。


 それから、手分けして手がかりを探すことになった。

 新とカレン、トラカゲとフェルナンド、クインはソロで3手に分かれて屋敷内を探すことにしたが、この屋敷は5階建てでかなり広かった。


 クインは颯爽と階段を登っていき、トラカゲ、フェルナンドも階段を上がって行った。俺と、カレンさんはこの1階を探すことにしたのだった。


 所々にブリジットの私兵がいたが、皆、上手く気絶させ両手両足を拘束して掌握していった。


 カレンさんは、華麗な動きで気付かれる前に、私兵達を倒していく。

 鮮やかすぎて、俺はただ見ているだけだった。


 すると、俺が進む先で正門の扉が開くのが見えた。

 カレンが腕を横に伸ばし、俺を静止させる。


 入って来たのは、兵士ではなく豪華なローブを身に纏った人物だった。

 俺は、囁くようにカレンさんに喋った。

「あれがブリジットでしょうか?」

「わからない‥でも、兵士じゃなさそう」


 俺達は見つからないよう、その人物を追った。

 すると、先程調べた角の部屋に入った。


「あれ?あそこって何もなかったような?」

「うん、あそこは確か倉庫だったはず」

 俺の呟きにカレンはそう答えた。


 すぐに後を追って中へ入ると、そこには誰もいなかった。

「あれ?」


 俺とカレンは辺りを見渡す。


「ん?」

 カレンが何かに気付いて床を見る。


「ふむ‥これは、隠し扉か」

「え?隠し扉ですか?」


 カレンは、床の擦り傷を軽く触る。

 そして立ち上がり、壁を確認するが取っ手のようなものはない。


「アラタ、魔法でここ動かすことできる?」

「やってみます」


 擦り傷から見て、開く方向は予想がついた。

 アラタは魔法で扉を開くようにイメージをすると、重いその壁は動いた。

 軽く床を擦りながらその壁は開き、地下への階段が見えた。


「地下室‥」

「ミーから入るよ、アラタはダー達に、一応、念話送っておいて」

「あ、はい」


 俺は、クインとフェルナンドさんに念話で隠し地下室の場所を言って、向こうの状況もついでに聞いたが、上の階は何も発見できていないようだった。

 俺とカレンさんは、隠し地下室へ足を踏み入れるのだった。



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後書き。


更新が凄く遅くなり本当に申し訳ありません。

少し時間できそうなので、時間あるうちに考えて書こうと思っています。


なろうで書いていた時よりいろいろと変えようと思うと、なかなか考えがまとまらず‥リアル忙しさとあいまって、空回りしていました‥

なんとか、面白くなるように頑張っていきます!

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