第68話 罠。

 -アカツキ国-


「シンゾウ様」

「ぬ、カスミか‥お前が戻ったと言う事は‥」

「はい、ヴェルダシュラムの最南端の町が焼かれ、我らの行方不明の者が死体で見つかりました」

「恐れていた通りになったか‥」

「はい‥恐らく罠。大義名分の下、アカツキを侵略し、領土を広げようとの企みでしょう」

「ふむ‥やはり、イシュタルトへの動きは陽動じゃったな」

「それから、ヴェルダシュラム公国、ブリジット公爵の身辺を探っていた、トラカゲからの情報で重要な物を隠していると思われる屋敷を捉えたとの報告も入っております」

「そうか‥調べてみるしかないが‥、我らや、他の国の人間が動くと厄介な事になるじゃろう‥だとすれば。」

「ディファレントアースのアラタ殿に頼むのが得策かと」

「同意見じゃ、流石カスミじゃな。早速動いてくれ」

「御意」


 カスミはスッと、シンゾウの前から消えた。


「さて‥となると、我らだけでは、ちと荷が重いかも知れんな‥」


 ◇


 2日後。

 -ディファレントアースクラン工房-


「heiアラタ見てみろ、このレールガン」

「おお、長い銃身がスライドして縮むようにしたんですね。」

「おう、こうしないと、ちと動くのが大変だったからな。それから、レールガンの弾も改良して、窒素爆薬を仕込んだ特殊弾にしたんだぜ!イグに頼んでな、その爆発力は戦車の砲弾の約5倍!地球では安定して取り扱いは出来ないと言う代物だがね、魔法とイグのスキルは凄いわ、ハッハッハ」

「戦車砲弾の5倍って‥ははは‥そんなのどこで使うんですか?‥」

「ま、俺の趣味だ!ハッハッハ」


 フェルナンドは、腕を腰に置いて高らかに笑った。


「アラタ殿、お主に客じゃ」

「客?」


 外に出て見ると、そこには女性獣人と思われる人が立っていた。

 和風の服に笠を被っていた。


「あの~‥俺に何かようですか?」

「お久しゅうござりまする、アラタ殿」


 殿?それにどこかで聞いたような声‥


「カスミにござりまする」

「カスミ‥って、あ、アカツキの‥」


 スッと笠を取ると、見た目はクロヒョウだった。

 クラウスから聞いたことあるけど、地球では動物の種に名前が別々にあるけど、この世界では、ネコ科かイヌ科とか大まかな分類しかないのだと言ってたから、カスミさんは、クロヒョウみたいな獣人だからネコ獣人の一種なのだろう。


「カスミさん、装束を着てないと雰囲気変わりますね。そんな顔していたのですね」

「はい、意外でしたか?」

「いえ‥それより、俺に用って何かあったんですか?」

「はい‥ここで立ち話もあれなので中に入っても宜しいでしょうか?」

「あ、はい、どうぞ」


 クラン工房の中へカスミを招いた。


 新とカスミは、クラン工房にある、雑な椅子に腰かけた。


 カスミは、最初に事の発端から説明しだした。

 ヴェルダシュラムの一人の公爵殺害から、ブリジットと言う伯爵が公爵に昇格し、更にすぐに他の公爵からの同意を得て、元老院長となった事。


 ヴェルダシュラム公国は、エイナムルの次に大きな国で、人口だけならエイナムルよりも多いのではないかと言うくらいで、イシュタルトの領土を狙っていると度々と噂があったのだ。


 それからと言うもの、ヴェルダシュラムは軍備を拡大。

 それを不穏に思ったイシュタルトが警戒し、アカツキに調査を依頼していた。


 そして、ヴェルダシュラムに偵察に出していた人間が、魔法か何かの洗脳に掛かって戻って来たとの報告もあり、不信感は強まって行った。


 それから警戒していた所、アカツキの行方不明者が何名か出始めた事で、狙いはアカツキにあり、との予想を頭首シンゾウが立てたのだが。先日、焼き払われた村から出た、アカツキ国の獣人の死体で予想していた最悪の事態へ向いたと言った。


「それで‥俺のクランに城を守れってことですか?」

「いえ、あの大国を相手にアカツキ国総力を持っても勝つ事など‥それはアラタ殿や傭兵を雇ったとしても、恐らくは勝てますまい‥」


 それを遠くで耳を立てていた、フェルナンドとカレンも俺達の近くに寄って来た。


「じゃあ、どうするんだい?獣人の姉さん。」

 フェルナンドはそう聞いた。


「頼み事をアラタ殿に2つお願いしたいのです」

「うん」

「一つは、もし我らの潔白が証明された場合、フェリオール、イシュタルト両軍に援軍をお願いする架け橋となって頂きたい。アラタ殿は、両国の王族との繋がりを持っているので話も早いでしょうし‥」

「うん、わかった。二つ目は?」

「トラカゲと言う、我らのシノビが、ヴェルダシュラムでブリジットに関する重要な屋敷を見つけたとの報告があり、その偵察をして欲しいとの事でありまする」

「屋敷?」

「heyカスミとやら、お前達、忍びの力で調べられなかったのか?」

「‥‥知っての通り、我らは先祖の並外れた、アラタ殿達のような力はもう残っていませぬ‥それに、もしも失敗してしまった場合、更にブリジットに弱みを握られ、大義名分を増やす事にもなりかねませぬ。そして、これを他の国の者に頼んでも同じ事ゆえ‥」

「なるほどな、適当な冒険者なら失敗しても、問題ないって策ねぇ」


 フェルナンドは、掌を上に向けてそう言った。


「返す言葉も見つからぬが‥その通りです。しかし、シンゾウ様はこの難局を乗り越えられるなら、アラタ殿の欲しい報酬を約束すると言っておられました‥どうか、依頼を受けて頂けますでしょうか?」

「なるほど‥、同じ故郷の先祖を持つ人達の願いだからね、その依頼受けるよ」

「あ、有難うござりまする!」

「ただ‥その屋敷に何もなかったらどうする?」

「大丈夫です、我らシノビが、掴んだ情報にござりまする、必ず何かあると確信しております。それに、アカツキ国は難攻不落、刺し違えても正義を貫き通す所存」

「わかった、すぐにヴェルダシュラム公国へ向かって、トラカゲって人に会って見るよ」

「ありがとうございます」


 カスミは椅子から立ち上がり、片膝をついて新に頭を下げた。

 そして、立ち上がり胸元に手を伸ばしゴソゴソと何かを出した。


「これは、我が国の家宝の一つ、これを依頼受注された場合、渡すようシンゾウ様に言われておりますので、受け取ってくださりませ」

「これは?」


 掌に収まるくらいの綺麗な装飾の瓶だった、中の液体は何やらキラキラと輝いている。


「これは、エリクサーと言う我が国でも宝として保管していた、ポーションです」

「エリクサー!?」

「昔は貴重なれど、取引されていた物ですが、今では殆ど見かけない希少な物になります。」

「ほお、エリクサーか、それはまた珍しい、儂も大分昔に1度見た事があるくらいじゃな」


 そう言って、イグルートが近づいて来た。


「そんなに見ない物なんだ?」

「作り方は秘伝になってて知ってる者はもうおらんのじゃないかと言われておる、相当稀にダンジョンから出るが最近では全く見ないのぉ‥」

「へぇ、使い方は?」

「なあに、蓋をとってかけるだけじゃ、どんな病気や怪我も、失った腕などでも全てを元に戻すと言う魔法の薬じゃよ、勿論、死んでしまったら、魂までは再生出来ないので無駄じゃがな」

「へぇ‥」

「その上で、死んだ人間まで蘇らせる、ハイエリクサーなんて物も聞いた事はあるが、そんなの幻じゃよ」

「死んだ人まで!?」

「ヒュ~魔法のある世界は何でもありだな」


 イグルートの言葉にみんな少し驚いていた。


「では、トラカゲには連絡を入れておきますので、これにて御免」

「ああ、待って、エリクサーのお礼ってわけではないんだけど、俺との情報交換用として渡しておきたい物があるんだ」

「渡したい物‥ですか?」


 俺は、その場でマジックボックスから魔導筆、魔法紙を取り出し、サラサラとルーン魔法を書き出して紙に付与した。


「これは‥スクロール作成技法ですか‥」

「うん、一応俺エルフなんで」

「はあ‥エルフ‥」


 大体の人は、ハイエルフがスクロールを作っていた事すら知らないので、カスミも意味わからずそう呟いた。


「はいこれ、シンゾウさんに渡しといて下さい。これは、遠距離でも念話が出来るスキルスクロールなので」

「念話ですか‥」

「はは‥シンゾウさんにこれを開いてスキル覚えたら、俺をイメージして念話送ってくださいと言っといてね。あ、このスクロールの事は秘密厳守でお願いします」

「御意。必ずこれをシンゾウ様へ届けます、では、これにて御免」


 そう言って、懐にスクロールを仕舞いこんで、クラン工房をカスミは出て行った。


「なんか大事になって来たね‥」

「だな。善は急げだ、アラタ、みんなを集めて早速ヴェルダシュラムへ乗り込もうぜ。あ、俺とカレンのMDSもお前のマジックボックスに宜しくな」

「ああ、はいはい」


 新は、そう言って頷き、二人のMDSをマジックボックスを大きく口を開いて仕舞った。


 ◇


 新達は早速、準備をした。


 行ったことのあるイシュタルトの西の町へゲートで行ってから、ヴェルダシュラム公国へ行くため、少し長旅になると思い、新は、地球からの仕入れなどを1日かけて済ませた。


 それから、フェリオールの王、アルメデオと、イシュタルトの友達王子ヘクトルに俺は何かあった時のために二人にも遠距離念話スキルスクロールを秘密厳守を約束してもらい渡した。


 ◇


 ゲートでイシュタルトの西の町へゲートを出して潜った時、アカツキ国の頭首シンゾンからの念話も届いた。

 遠距離念話スキルに凄く驚いていて、いくつか譲ってくれと言われたが、それは断った、シンゾウさんやカスミさん達を信用はしているが、もしも暗殺などに使われると大変な事になるため、シンゾウさんにも理解してもらった。


 ゲートを潜った先は、イシュタルトすぐに西の町ベイト。

 前にイシュタルトに来た時に経由した事のある町だ。

 デジカメで、立ち寄って印象に残る場所は、ゲート用に撮っているのだ。


 新達はベイトの町から、西にある隣国ヴェルダシュラム公国を目指すのだった。

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