第67話 候補者。
鉱石の洞窟から戻って来た俺達は、まず、ゴールドゴーレムの金はすべて売り払い、クランの資金へ換金した。
それで、アルメデオ王からマナードバギーの量産の依頼を受けていたため、他に作業員を雇って、生産に取り掛かっていた。
俺のMDSは別に急がないので、ゆっくり作って貰うことにした。
フェルナンドさんは、MDSにレールガンを左肩に取り付けて、左腕にはミニガンを取り付け、大きな盾と剣までイグに頼んで作成してもらっていた。
もう重火力の化け物スーツが出来上がっていた。
一方、カレンさんのMDSはというと、余分な物は一切つけていないが両腕にブレードが取り付けられていた、それは、使う時だけ手の甲の上の手首部分からシュっと出て来るアサシンが使う武器のような物になっていた。
そして、MDS用の大きいアサルトライフルもイグに注文していた。
これは、機動性重視ってことなのだろう。
二人ともMDS武器に、
なんか二人を見ていると、俺もいろいろ弄ってみたいなぁと思ったが、まあイグが特別仕様のMDS作ってくれるから我慢我慢だ‥
俺は、工房の隅でガラクタの上に座り、そう考えながらぼやいていた。
コンコン。
ん?誰か来たようだが…
「こんにちは、アラタ様がこちらにいると聞いたのですが…」
「え?あ、パウロさん」
「お、いらっしゃいましたね。実は、アルメデオ王がアラタ様をお呼びで」
え、王様が?何だろう…
まさか…イシュタルトの件で実は、俺も眠らされて監禁されてた事バレたとか‥
「ああ…はい、すぐに行きます」
俺は、パウロさんと一緒に城に行くことにしたのだった。
◇
フェリオール城について、すぐに王様に会うことになった。
「お、来たな」
そこには、アルメデオ王とサレーシャ王妃、それから、エルティア姫が応接間にいた。
「はい…えっと、今日のご用件は…」
「うむ、まず、あの
アルメデオ王は、筋骨隆々な腕を組みながらそう言って笑った。
「いえいえ、俺のクランも王様が高額であのバギーを受注してくれたので、開発資金に余裕が出来ています、有難うございます」
「あともう一つ」
「はい?」
「この間の親睦会の事なんだが…」
来た!ヤバい…やっぱバレたんだな。
ここは、ちゃんと正直に謝ろう…
「ああ…その失態は、すみません!」
俺は、深々と頭を下げた。
「ああ?何を謝っておる?」
「へ?」
「実はな、パブロから聞いたんだが、お主、ヘイムベーラ大森林のエルファシル国の王子だそうじゃないか?」
「ええ?…あ、はい、そうなりますかね…」
俺が隣にいるパウロさんをチラっと横目で見ると、こちらを見てニコっとパウロさんは口角を上げた。
「まさか、お主がハーフとは言え、エルフの王子だったとは思わなんだ」
「はあ?…」
「で、あの親睦会で婿を探しておったのだが‥ここにも候補がいたと思ってな」
「そうですか‥それは良かったですね‥ねってえええーーー」
「はい、その候補とはアラタ様の事ですよ、ほほほほ」
俺が王様の言葉に驚いた時、隣にいるパウロさんが俺の顔を覗き込んでそう言って笑った。
「いやいやいや…俺、この世界の人間じゃな‥いや!そうじゃなくて、正式な王子じゃないって言うか、えっと…」
「ぬ?そうなのか?しかし…先日、その件について、エルファシルのエウロラ様からメルバードが帰って来たんだが?」
「え?ええええ…それでなんと?」
「どうぞどうぞ、ウチの王子で良かったら婿にでも何でもして下さいと言っておったぞ?あ、でも、エルフの仕事を忘れるなと一言書いてあったかな?」
なぬ…あのババア…
その、母とアルメデオ王の、やり取りの様子が脳裏に浮かんだ。
「良いのだよな、エル?」
「も、勿論です…はい、アラタさんが…良いです…」
ぼそっと小さく呟いた、エルティアに目をやると、そう言ってポっと顔を赤くして俯いた。
いやいや…それって…てか、きっぱり言ったような?
「いや…俺なんて、エルフより人間に近いし、ほら、エイナムルの王子達みたいにカッコ良くもなくて、礼儀とかも知らないし…それに…」
「いえ、そんな事ないです…強くて格好良いし、それにエルフじゃなく、人間に近くて良かったと思います…」
そう言って、エルティアはまた下を向いた。
俺は、口が少し開いたまま、暫く時が流れた…
「じゃ、アラタよ、そう言う事で良いな?」
「‥‥‥」
「アラタ様?」
固まっていた新をパウロが覗いて声を掛けた。
「あ?え、いや…暫く考えさせて下さい…」
「そうだな、王子ともなるとエルファシルの事も考えないといけないからな。わかった!良い返事を期待しているからな、なんて言ってもハーフエルフの婿なら、この国は長く安泰になるわい、わはっはっは!」
「‥‥‥」
そして、俺は王族から解放された。
クランハウスに戻り、2階の事務所のソファにドスっと座った。
はぁ。疲れた…
俺が、エルティア姫の婿‥候補者?
いやいや、確かに美人だしね、そりゃ嬉しいけどさ。
しかし…
バタン。
「あれ?アラタ、戻って来てたのか?」
「どうしたの?新、なんかげっそりして。」
「ん?ああ…」
事務所に戻って来たのは、クラウスと瑞希達だった。
「いや、実は…」
俺は、城であった事を一部始終を話した。
「それはそれは」
「え?…で、新、どうするの?」
「どうするも…こうするも…」
クラウスは、帽子をクルクルと指で回してた、どうやら、地球で買った帽子が気に入って町にいる間はそれを被っているらしい。
瑞希は少し不安そうな顔をして俺を見ていた。
「いや、別に何もしないよ、だって、俺とこの王国の姫じゃ釣り合わないでしょ」
「‥‥‥そお。」
「でも、姫もまんざらじゃないんだろ?じゃなければ候補者に選ばれないんじゃないか?」
「うーむ…」
「…でも、良かったんじゃない?ほら、新、この世界にずっと住むわけだし、フェリオールの次期王様なんて、凄いじゃない!ほら、私なんて、地球に未練たらたらだし?だから…えっと、何言ってんだろ私…」
瑞希は明らかに動揺していた。
瑞希とのあの日、身体を合わせた事が一瞬、俺の脳裏をよぎった。
「ああああ、いや、考えるって言ったし、放置しとけば問題ないだろう。うん、そしたらエルティア姫も、エイナムルの王子かヘクトルを選ぶんじゃないかな、あははは…はは」
俺も、動揺してしまった。
「ま、お前の決める事だから、勝手にするといいが、もし、姫と結婚したらこのクランどうなるんだ?解散は困るなぁ…俺もやっと一流の冒険者になったのに」
クラウスは、そう言って反対側のソファに腰掛けた。
バタン。
「あーー、疲れたぁ」
「マイティ…だから言ったじゃない、貴族の探し物の依頼ってろくなのがないって…」
入って来たのは、レベッカとマイティだった。
「お、マイティ、レベッカ、実はなアラタが…」
クラウスが俺の一部始終を二人に語った。
「わぁ、おめでとうございます」
「きゃあああ、それで、それで?アラタさんどうするんですか?」
二人は、目をキラキラさせて、俺に詰め寄って来た。
「い…いや、だから放置するんだってば!」
「え?放置?」
「何でですか?」
「‥‥‥ま、まあ、心の準備がって事で…」
「「ふ~ん」」
「あれ?そしたら、このクランどうなっちゃうのかな?」
「だろ、マイティ?俺もそれが気になっていた所だ」
は…ははは、まあ、こうなるよね。
瑞希は、何やら考え込んでいるし、この3人はクランの行く末について話しているし…
俺は、すくっと立ち上がり、事務所を出て深呼吸した。
そして、クラン工房へ向かう事にした。
◇
-クラン工房-
「アラタ殿、婿候補おめでとうございます、じゃな」
「へ?なんで知ってるの?」
「今、パウロ殿が来て、マナードバギーを2台受け取りに来た時に、有力な候補者であると言っておったぞ?なんじゃ、違うのか?」
「‥‥‥、そ、そうだったのね…」
俺は、溜息をついた。
「heiアラタ、上手くやったな!やっぱ、あの誘拐された時にキメたのか?ハハハ!」
「フェルナンドさん…いや、まだ、結婚すると決めたわけでもないし」
「え?どうしてだよ、次期、この国の王だろ?凄い良い話じゃないかよ」
「良い話ですかね…俺、もっと冒険したいんですけど?」
「別に、冒険なら、すりゃあいいじゃないか?なんでそれがダメってなるんだ?」
「ははは…まあそうでしょうけど、暫くその話は放置したいので…」
「ん?」
フェルナンドとイグルートは、顔を見合わせて首を傾げていた。
そして、クラン工房も出て俺は、街を散歩した。
「おーい、アラタァ!」
「あ、マチルダさん」
「お前、この国の王候補なんだってな!」
「‥‥‥‥」
俺は固まった。
「マチルダさん、それをどこで?」
「パウロさんが、私のクランに依頼を持って来た時にそう言っていたけどな?違うのか?」
「ははははは…パウロさん…ね」
「ん?」
「ちょっと、パウロさんどっちに行きました?」
「えっと、次は冒険者ギルドに用があると言ってたぞ?」
「わかりました!じゃあまた!」
「おい、アラタ…行っちまったよ、どうしたんだ?」
マチルダさんを放置して、すぐに冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドへついて、俺はパウロさんを探す。
丁度、冒険者ギルド長ベンザが扉から出て来た。
「あ!ベンザさん、パウロさん来ませんでしたか?」
「ああ、商人ギルドに行くと言って、今帰ったぞ?依頼をいくつか置いて行ってな‥ああ、そう言えばアラタ、お前…」
「しっ!ベンザさん、それは人にまだ言わないでくださいね!頼みますよ!」
俺は、すぐに商人ギルドへ向かった。
「なんじゃ‥地球産のウイスキーを久々に飲みたかったんじゃがのう…」
商人ギルドに着くと、丁度、パウロが出て来た。
「パウロさん!」
「お。アラタ様、どうしました?そんなに息切れするくらい慌てて」
「貴方のせいですよ!スピーカーですか、貴方は!?」
「すぴ…?はて…何でしょうか?」
「いや、あまり俺がエルティア姫の候補者だとか言いふらして回らないでくださいよ!」
「ふむ、わかりました…ですが…」
「何ですか?」
パウロが目で周りを見渡す。
俺も、その目を追って周りを見ると、そこにいた人達が驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「え?」
「あの人、エルティア様の婿候補者なんだ?」
「どれどれ?」
「えー、あのぱっとしない若者が?一体何者なんだ?」
ざわざわ…ざわざわ…
「アラタ様。そんな大きな声で…」
「いや…ああ…と、とにかく!しないかもしれないんですから、あまり、言いふらさないでくださいよ」
「はあ。アラタ様もまんざらじゃないかと思っていましたので、つい…分かりました、アラタ様の考えが纏まるまでこれ以上は言わないよう心がけます。申し訳ありません」
「はい、お願いします」
そして、俺は逃げるようにこの場を去った。
俺は、クランハウスに戻り、店の扉をあけるとミーナさんと従業員達がニコっと微笑んだ。
「はあ、えらい目にあったな…」
「婿候補の事ですか?」
「うん…はっ!」
俺は、ミーナさんの顔を見て固まったのだった。
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