第66話 鉱石の洞窟。

 -クラン工房-


 フェルナンドとカレンは、MDS《マナードスーツ》を自分の好きな色に染色していて、俺はそれを羨ましい目で見ていた。


「新、そんなに羨ましそうな目で見ないの。」

「だって瑞希‥クランマスターの俺が先じゃないってことある?‥しくしく。」

「良いじゃない、イグがあんた専用作ってくれるんでしょ?」

「そうだけど‥さ‥」

「ま、お前は魔力あるんだから、あんな機械の中に入って魔法なんて使ったら自滅しかねないから良いんじゃないの?」


 瑞希に慰められていた新に、後ろからクラウスがそう言って来た。

 まあ、それもそうか。まだ、物体を通して魔法を発動したこともないからね‥


「アラタ殿。こっちも見てくれんか?」

「え?あ‥これって。」


 イグルートが俺に見てくれと言った物は、2本のレールのある、ミニガンよりも大きな銃器だった。


「そうじゃ、フェルナンドの設計で作った超電磁砲レールガンと言う代物じゃい。前も説明したが、超電流を蓄積して電流と磁界の力で弾を撃ちだす装置じゃな。」

「そうだったね、でも、結構重そうだね‥」

「まあ、もっと小型化しようと思えば出来なくもないが、まだ、最新の魔力増幅装置マナードリアクターの小型化も試作中だしの。」

「oh!イグ!出来たのかい!」


 MDS染色をしていたフェルナンドが、こっちに気付いて走って来てそう言った。


「うむ。しかし、今の所この大きさが限界じゃよ。」

「いーじゃないの~!イグ愛してるぜぇ、ハッハッハ。」

「でも、フェルナンドさん‥、銃身がこんなに長くて重い奴、これ担ぐんですか?‥」

「いや、俺のMDSの肩に丁度良い大きさじゃないか!」

「なるほどのぉ、それなら丁度良い大きさかも知れんの。」

「だ~ろ~、ハッハッハ。で、イグ、レールの部分は強化してあるのか?」

「勿論じゃよ、レールも弾も特殊な加工を施さんと1発撃っただけで、使えなくなるからの。」

「よくわかってらっしゃるねぇ、さすがイグ。」

「え?なんで一発撃っただけでそうなるんですか?」

「heyアラタ、地球ではな、この問題があって実用化に向かないわけよ。撃つエネルギーにこのレールがプラズマ化、蒸発して持たないわけだ、勿論、膨大な電力も問題だったんだがな。」

「うむ。じゃから、儂のスキルと魔法で、その問題を排除する事で弾の数だけ撃てるようになっておる。じゃが‥いくらマナードリアクターをこれにも搭載しているとは言え、やはり、撃ちだすまでに蓄積させる時間が掛かるのはどうしようもないがな。」


 イグルートは髭を撫でながらそう言った。


「ま、そこはしょうがないだろ。そのかわり撃つことが出来れば、最強の銃器って事だからな!ハッハッハ。」

「へー‥まあ、それを使うような魔物とかいなそうですけどね‥」

「良いんだよ、アラタ。趣味でも何でも、お前も早くイグに作って貰えよ!ハッハッハ」

「じゃから‥早く、鉱石を持って来てくれんかの?ミスリルだって買うとそこそこするんじゃから。」

「じゃあ、前にイグが言ってた鉱石の洞窟だったっけ?そこ行ってみようかな?」

「お、アラタ、その案に俺は乗ったぜ!ハッハッハ。」


 俺達は、鉱山の町ディアムにあると言う、魔素溜まりの洞窟へ行くことにしたのだった。


 ◇


 イグルートが言った、魔素だまりの洞窟は、鉱山の町ディアムの近隣にある山の中腹にそれはあった。

 そして、イグルートもついて行くと言ったので、一緒に連れてきたが、逆にクインは鉱石の魔物は自分との相性が悪いから、我は行かないと言っていたので置いて来た。


「うむ。ここじゃな。」

「結構‥遠かったね‥ハア。」

「hey‥ハア‥少し休憩しようぜ。」

「お主ら、ここからが本番なのに登るだけで疲れたのか?」


 その洞窟は結構険しい場所にあり、普通に山登りをして皆ヘトヘトだった。

 たまに、ドワーフの冒険者などとすれ違ったが、よくここに出入りしているのだろう、平気な顔で大きな荷物を背負って下山していた。


 山の中腹にあるその洞窟の入り口は、ぽっかりと大きく口を開けており。

 その入り口には、休憩する場所もあって屋台のような出店まであり、結構、ドワーフ並びに力自慢の冒険者がそこそこ居た。


「仕方がないのぉ、ここで暫し休憩してから行くとするかの‥これじゃ、ゴーレムとは戦うのも大変じゃからな。」

「ゴ‥ゴーレム?」


 休憩しながらイグルートは語った。


 この洞窟の魔物は全て鉱石系の魔物だ。

 形は様々だが、核がありそれが鉱石を纏って単純な意志を持ったゴーレムと言う魔物になるようだ、纏っている鉱石の名前とゴーレムを組み合わせた名前を適当につけて呼んでいるようだった。


「それでじゃ、ゴーレムを倒すには核を破壊すれば済むんじゃが、これが大変なんじゃよ。」

「と言うと?」

「鉱石と戦うのと一緒で、まず魔法は殆ど効かない上、硬ければ硬いほどやり難くなるわけじゃよ、斬撃よりは物理で叩き壊して倒すしか方法はないからの。」

「なるほど‥それでクインは相性が悪いって言って来なかったのか‥」

「heyイグ、そうなると俺達も剣じゃ戦いづらいってわけだな、どうするんだ?」

「なあに、お主らの一番得意な武器があるじゃろうが。」

「「「あ。」」」


 イグがそう言って、フェルナンドが抱えていた銃器を顎で指すように頭を動かし、何人かが気付いたように声を出した。


 暫く休憩して洞窟の中に入った。


 中は思ったよりは広く結構奥まで続いていた。

 元は、いろいろな鉱石が出るため、採掘に適した鉱山要所だったらしいが、いつしか魔素だまりになってしまって鉱石の魔物が出るようになった事で一般の人達は寄り付かなくなったと言う。


 暫く進むと、何人かのドワーフ達が、アイアンゴーレムを取り囲み斧や尖ったハンマーなどで殴りかかっていた。


 通りすがりに見ていると、ゴーレムの動きは速くはない。

 イグも説明していたが、核はゴーレムの纏っている鉱石の中枢に位置することも分かった。


 更に奥に進むと、ミスリルで出来たゴーレムと冒険者が戦っていた。


「ほれ、見てみろ、あやつらが使っているあの武器はアダマンタイト製じゃ。」

「へぇ。」

「アダマンタイトがこの世界では一番硬いんじゃよ、じゃからここに来る連中は大体がアダマンタイトで作られた武器を持って来るんじゃ、儂の戦斧も勿論アダマンタイト製じゃよ。」


 イグは持って来た戦斧に巻いていた布を取った、すると、深い青い色の綺麗な戦斧が姿を見せた。


「それから、お主らのライフルの弾も事前にアダマンタイト製で作って来たわけじゃが、これは勿論、儂の特製なので同じアダマンタイトゴーレムが出て来ても大丈夫じゃよ。ほっほっほ。」

「さすが、物作り名人!」


 そう言いながら、洞窟を奥へ進むとミスリルゴーレムがぬっと姿を現せた。

「これは儂らが貰おう、作戦はこうじゃ、儂、アラタ、ミズキ、マイティが適当に足止めをするのじゃ、そしてこのアダマンタイト弾を使って、フェルナンドとカレンが中枢の核を撃ち抜く作戦じゃ。」

「了解!ハッハッハ。」

「わかった。」


 新達はイグルートの作戦に頷き、出て来たミスリルゴーレムを取り囲んだ。

 動きも速くはなく、顔もあるわけではないので、どっちを向いているのかさえわからないが、こんな鉱石の塊で殴打されれば、致命傷になるのは間違いなさそうだった。


 上手く躱しながらゴーレムを一定の位置で陽動すると、動きが止まった瞬間。


 ズドン!


 フェルナンドのライフルで撃った弾が、中枢を捉え撃ち抜いた。

 イグルート特製のその弾は、分厚いミスリルを物ともせずに貫通、核を破壊し、ミスリルゴーレムの動きが止まった。

 そして、ガラガラと崩れだし、その巨体は鉱石の山となった。


「成功じゃな、ほほほ。」

「え?これって簡単すぎない?」

「アラタ殿、地球の銃器がなければこうはいかんよ、叩いて削って核を露出させてやっと倒せるのがゴーレムなんじゃからの。」

「地球の武器の勝利だな、物理最強!ハッハッハ。」


 フェルナンドは肩に銃器を乗せて高笑いしていた。

 ゴーレムは、岩石と一種類の鉱石を纏っているようだった。

 俺達は、ミスリルだけを搔き集めて、俺のマジックボックスへ仕舞っていった。


「さ、じゃんじゃん行こうぜ、銃器とアラタのマジックボックスがあれば、ここのゴーレム狩りつくせるんじゃないのか?ハッハッハ。」

「いや‥フェルナンドよ、その特殊弾はさっきやった20発しか持って来ておらんぞ?」

「え?これっぽっちしか持って来てないのか?」

「あのな‥アダマンタイトがどれだけ高額か知らんからそう言っているんじゃろ。その弾だってな、金貨200枚の小さな塊を買って作ったのじゃぞ‥」

「え‥金貨200枚って‥1発が金貨10枚なの?‥地球で言うと1発10万円‥」

「うむ。勿論、クランの資金で購入させて貰ったわい。」

「no‥、聞かなかった方が良かったな‥緊張して逆に外しそうだ‥」

「じゃ‥じゃあ、そのイグの戦斧は相当高額なの?」

「勿論、高額はそうなんじゃがこれは、刃の部分と芯の部分にしかアダマンタイトは使っておらん、全部をアダマンタイトなんてとても無理じゃよ。」


 弾は後19発、外すわけにも行かず気を引き締めて行かないといけないと、フェルナンドとカレンは緊張した顔立ちになっていた。


 この洞窟には、アイアン、カッパー、アンバー、ミスリル、ゴールド、シルバー、オブシディアン、等、様々なゴーレムを見かけたが、俺達はミスリル数体、ゴールド2体、途中発見した希少なアダマンタイトゴーレムを1体、オリハルコン1体を選んで討伐した所で、戻ることにした。


「こんなもんで良いじゃろう。オリハルコンゴーレムがいたのはラッキーじゃったな。」

「そんなに貴重?」

「当たり前じゃ、あれだけのオリハルコンを纏ったゴーレムが居たこと自体が稀じゃわい、それに、アダマンタイトの特殊弾がなければ、全部苦労するゴーレムばかりなんじゃ、それがこんなに狩れただけでなく、希少なオリハルコンまで狩れたんじゃからな、今日の成果を金額にしたら相当な額になるわい。」

「これで、俺専用のMDS作ってくれる?」

「勿論じゃ!アラタ殿のやつはこのミスリルを主体にして、オリハルコンを織り交ぜて魔法の伝達も上手く行くように作ってやるわい!」

「やった!」


 洞窟を出た時、俺達は相当汚れていた。

 人気のない所で、すぐにゲートでクランハウスへ戻り風呂にしたのだった。

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