第65話 帰国と、試作品。

 数日間に及ぶ、王家子息の親睦会はトラブルもあったが、なんとか無事に終了した。


 俺とエルティア姫、アンジェを攫った、あの盗賊共はオッグスと言う名の知れた大盗賊が率いる【ブラックファング】の一味だった。

 あの時、同時にエイナムルの3人の王子達も狙われていたのだが、3人とも武人であるため、盗賊ごときでは触る事も出来なかったらしい。


 エルティア姫とアンジェは、武術なんて習ってもいないので、周りの兵士が眠ればあっさりと捕まったと言うわけだ。

 俺も瑞希も元は日本人だし、何かのイベントとか平和な考えしかなかった‥本当に不甲斐ない。


 あの、眠りの液体は、スカークと言う低級魔物の分泌液だという事も後から聞いた。

 あれは、大きな魔物も直で浴びると寝てしまうと言う飛んでもない液体だった。

 状態異常無効の魔道具を身につけていても、毒や麻痺とは違い、睡眠は状態異常とみなされないので、盗賊たちはその方法を思いついたのであろう。


 それからの護衛は、一人につき3人とか甘い護衛ではなく、ほぼ全員で警戒して行動していたが、何事も起きなかったのである。


 そして、いろいろな日程をこなし、フェリオール王国へ無事に帰って来たのだった。


「ふう。やっと帰って来た。」

「heyアラタ、もうゲート魔法はここにいる兵士達にも見られているんだから、別にゲートで帰って来ても良かったんじゃないか?」

「そうだけど‥こんなに遠くの国まで繋げる事が出来るとかは知らないからね。それに‥あまり、知られたくもないからほいほいと出すわけには‥」

「なるほど。」


 脳裏に母エウロラが怒っている姿が浮かんだのだった。

 はははは‥


「でも、俺はゲートで帰らなくて感謝しているぜ、ライガーも手に入れる事が出来たからな!」


 クラウスがそう言って撫でているのは、サーベルライガーと言うBランク相当の魔物。

 帰国する際に出くわした、地球で絶滅したサーベルタイガーを大きくしたような魔物だ、ライガーと名付けしていた。


 クラウスはすぐに一目ぼれして、使い魔にするんだと一騎討して、傷だらけになってようやく平伏せたのだった。

 乗るのには相当なバランス感覚が必要だが、流石に器用な半獣人のクラウス、見事に乗りこなしていた、勿論、ゲンム達より速く走ることが出来る。


「heyクラウス、俺はそんな生き物より無機質な乗り物の方が好きだぜ。」

「フェルナンドさん、でもですね、収納できるアラタがいないと何処でもは乗れないと言うデメリットがある‥使い魔なら何処でも召喚できますからね。」

「ああ‥なるほど、それも一理あるか‥」


 そんな話をしながらフェリオール城へ着いた。


 やっと着いたか‥

 兵士達が王女達の乗った馬車の扉を開けて、エルティアとアンジェリアを降ろしていた。


「やっと着いたのだーー!」

「ええ‥アンジェは元気ね。」


 ぴょんと飛び降りて来たアンジェリアの後に、エルティアは降りて来てそう言った。


「おお、戻ったか!心配したぞぉ!」

「あ!お父様ー」


 アンジェリアは、元気にアルメデオ王に抱き着いた。


「只今、戻りました。」

「うむ。エルティアもアンジェも元気そうで良かった、イシュタルトからメルバードが届いたときは驚いたぞ。」

「エルティアもアンジェもお帰りなさい。この人、それが届いてからそわそわして、今からイシュタルトへ行くとか、大変でしたのよ。」


 そう、サレーシャ王妃がアルメデオ王に少し遅れて来てそう言っていた。


 俺達は護衛の任務で行ったはずなので、此度の失敗は俺の責任になる‥

 どんなお叱りがあるのかと、俺達はその光景の隅で小さくなっていた。


「お、アラタ!」


 来た!やばいぞー‥怒られるぞ‥どうしよ‥


 アルメデオ王はアラタに近寄って来た。

 すると、新の手を握りアルメデオ王は語った。


「アラタ、よーく二人も守ってくれた!向こうでの功績、ヘクトル王子からメルバードでしかと聞いたぞ!」

「え?功績?」

「なんでも、アラタは二人が誘拐にあった際、すぐに盗賊共を追いかけ、冷静にアジトを突き止め、一網打尽にし、他の誘拐されていた貴族の方々も救いだして来たと言っておったぞ!イシュタルトのヘヴァイトル王もお前の活躍に感謝しておったわぁ!わははははは」


 え?なんかあってはいるけど‥追いかけたんじゃなくて、俺も眠らされて監禁されていたんだけどね‥、ヘクトル‥お前に少し感謝しないといけないな。

 脳裏に、ヘクトルが前髪を掻き上げ、ウインクして親指を立てている姿が浮かんだ。


「あ‥ああ、いえ。でも、誘拐されたのは俺の責任なので‥」

「いや!誘拐されていた中には、イシュタルトの要人の妻子が何人かいたらしい‥この一件がなければ、大変な事になっていたとヘヴァイトル王も言っておった。確かに、誘拐されたのは驚いたが、それは自分の身を守る事をエルティア達に教え込んでおかなかった儂の責任でもある。」

「え‥でも‥」

「とにかくだ!よくやってくれた。お前達にも、頑張ってくれた兵士達にも十分な報酬を約束するから、今日の所は旅の疲れを癒されよ。」

「はあ‥あ‥ありがとうございます。」


 がしっと掴んでいたその手を、王は離して微笑んだ。


 とりあえず、感謝されたのならそれは良かった。

 誰も欠ける事無く、ここに戻って来れたわけだから良かったかな。

 俺は、手を大きく振っているアンジェを見て手の平を少し揺らして手を振った。

 エルティアと目が合って俺は微笑んだ。

 エルティアは、少し顔を赤らめ下を向いて微笑んだ。


 よし、これで依頼も達成した、本当に疲れているんで戻ることにしよう。


『アラタ殿、戻って来たんじゃな?』

『あ、イグ。情報早いね。』


 いきなりの念話は工房のイグルートさんからだった。


『お主達が言っておった、パワードスーツの試作品が完成しておるぞ。』

『わかりました、そっちに今から行きます。』


 そう言って念話を終えた。


「フェルナンドさん、パワードスーツの試作品が完成しているって言ってますが。」

「何ぃ!すぐ行こう!」

「あ‥はい。」


 王達は城へ入って行った。

 兵士達も、それを見て疲れが出たのか辛そうな表情で散って行った。


 俺達は、そのまま工房へ向かう事にした。


 ◇


 クラン工房に着き、中へ入るとそこには2体の大きな金属で出来たパワードスーツが置いてあった。


「「おおおおおおおおお!!」」


 俺とフェルナンドさんは同時に、そう言った。


「どうじゃ!まだ試作品とは言え、注文通りのいいスーツが出来上がったであろう?」

「アラタしゃん!こっちのは私が作った物でぇ~あっちのはイグしゃんのですぅ。」

「え?」


 よく見ると、ジーウが私が作った物って言った方のパワードスーツには、少し胸の膨らみがあった。


「え‥あれ?女性用に作ったとか‥なのかな?」

「ん?私の趣味ですがぁ、何かぁ?」

「heiアラタ、こっちのは俺にぴったりなので、俺のって事で良いか?ハッハッハ。」

「え、えーーー?」


 ジーウが作った細身で頭もある人間型パワードスーツに対し、イグが作ったのは、ガッチリと重量型で頭の部分は胴と一体になっており、頭と思われる物は無かったが肩には何かを装着できる部位などが付いていた。

 共に身長は3~4mほどで人間が入るのでジーウ作の細身の方でも腕はそこそこ太い、イグの方はもっと腕も脚も太く作られていた。


「フェルナンドさんズルい!」

「アラタ、早い者勝ちだ!ハッハッハ」

「何?、アラタ、嫌ならミーが貰うわね。」

「え?何?え?」


 両方のパワードスーツには、後ろにハッチがあり、アメリカ人二人が勝手に入って行った。


 フェルナンドがスーツの後ろから足を先に入れて入って腕を通し体を収納すると、腕を通した先に掴む棒状の物があった、フェルナンドはそれを掴み、少しの魔力を通すと背中の部分が閉まった。


 ≪ヒュ~、起動したぜ!≫

 ≪こっちも動いたわ。≫


 二人がパワードスーツを起動させると、中の声が外部に響いた。

 ≪ん?これってこの部分しか視界はないのか?≫

 ≪ミーのは、首動かせば一応見えるけど、これは慣れが必要ね。≫


 中の二人は少し目の高さの部分が開いている隙間から覗き込んでそう言っていた。


「ああ、魔力でその部分は閉じるようになっておる。後、指先など細かな所も魔力でイメージすれば、その通り動くはずじゃ。」

 ≪お?外の声も結構鮮明に聞こえるんだな、了解!やってみるぜ。≫


 搭乗した二人は魔力を通し、目視していた部分を閉じるイメージをすると、カシャっと閉じた。


 ≪おお!!≫

 ≪ワォ。≫

 ≪スクリーンで360度見えるぜ!すげーな!ハッハッハ≫

 ≪ミーのは、VRみたいになったわ、こっちのほうが見えるわ、凄い。≫


 フェルナンドの内部は少し内部に余裕があるのでスクリーンで外部を映像化していた、カレンの方の内部は頭をすっぽり入れているため、目の部分を閉じるとVRゴーグルのような物に切り替わる仕様になっていた。

 二人は、操縦を楽しむように指を動かしたり、軽く歩いたりしていた。


「ああ‥楽しそう‥俺の夢は‥」

 新は、そう言って肩を落としていた。


「アラタ殿、そう悲観するんじゃない、これはあくまで試作品じゃ、次はアラタ殿専用を作ってやるぞい、勿論、アラタ殿の魔力をちゃんと外へ伝達できるような代物に作ってやるわい。」

「イグ!マジ?天才!じゃあ俺専用機が出来るまで我慢する!」

「う‥うむ。」

「ねえ、イグ、フェルナンドさんの機体の中身のスクリーンはなんとなくわかるけど、カレンさんの目の部分どうなってるの?」

「ん?お主の持って来たドローンのカメラを外部にとりつけて、ゴーグルにしただけじゃぞい?」

「あ、なるほどね‥で、あの首の部分とかは?」

「あれは、アラタ殿が持って来たゴムに関する本で、ゴムの木ってのに似た木を切り倒してその本に書いてある作り方をアレンジして作ったもんじゃよ?」

「え?ゴムを一から作ったの?」

「当たり前じゃい、作り方さえ分かれば後は何とでもなるわい。」


 俺の予想だと、多分、イグがドワーフのスキルで作った、あのゴムは相当柔軟で強化された物なのだろうと思った。

 イグは徐々に地球の技術も取り入れているし、多分、この世界‥いや両方の世界一の作り手となっているんだろうな‥これは、ガ〇ダムも夢じゃないぞ、きっと。


 新は、さっきまで肩を落としていた人間とは思えないくらい、気持ち悪い笑みを浮かべて笑っていた。


 瑞希やクラウスはその新を見て少し仰け反ったのだった。


 後から、パワードスーツに関しての説明を皆で聞いていた。

 このスーツの名は、MDS《マナードスーツ》と名付け、カレンのがMDS1号機で、フェルナンドが乗ったのをMDS2号機と言った。


 背中の新型の魔力増幅装置マナ・エーテル・リアクター、通称マナードリアクターは、魔素を空気中から吸い上げ蓄積し、大きな力に変換し、この機体を動かしている。


 激しい動きをしなければ、搭乗人の魔力は消費しないが、普通の人間の魔力で激しい動きをすれば、動けても30分が限界なんだと言う。


 これは、魔素の濃い場所ではもっと大きな力を得る事も出来るが、そんな場所は魔物も強いから結局は一緒だとイグは言っていた。


 今は、ある鉱石だけで作ったが、オリハルコンなどがあればもっと良い物をつくってあげると言っていたので、そのうち鉱石も取りに行こうと思った、俺専用の機体のために‥ぐへへ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き。


暫く、更新を待ってくれていた皆さま、お待たせしました。

今、本当にリアルが忙しくてこれから先も、更新が遅くなると思いますが。

気付いた時に一気に読んでくれるとありがたいと思っております。

では、合間合間で考えて書いて行くので、これからも宜しくお願い致します。

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