第64話 脱出。
俺は、男達に何かを嗅がされ、眠りに落ちた。
目が覚めると、そこは暗い古い石作りの部屋だった。
ここは‥どこだ。
扉のノブは取り外されていて、こちらからは開けられないようになっていて、勿論、施錠もされていた。
ゲート魔法で帰る手もあるが、ここに、攫われたエルティア姫とアンジェもいるのだろうから、場所が分からない以上それは出来ない。
扉に耳をつけて音を探ると、女の子のすすり泣きが聞こえる。
「アンジェ!そこにいるのか!」
俺は大きな声でそう言った。
《アラタ!?》
小さい声だったが、しっかりと聞こえた。
「お?アンジェ無事か!エルティア姫は?」
《う、うん!エル姉も一緒!》
俺は、力一杯、扉を蹴ると蝶番と閂が歪み、3度蹴ると完全に壊れ通路に扉は倒れた。
「アンジェ!エルティア姫、どこだ?」
《この扉!》
いくつか扉はあるが、声の聞こえる部屋の前に俺は立ち。
「ここか?」
《アラタ、助けて!》
間違いない事を確認すると、俺は閂を外し、力一杯ノブを引いた。
怪力で鍵の部分が壊れて扉が開いた。
王女二人が、俺を見て抱き着いて来た。
「よしよし、大丈夫だ。」
「アラタ!怖かった。」
すると、コツコツとこちらへ近づいてくる音が聞こえた。
「誰か来る。」
「ひっ!」
その部屋の扉側の隅に王女二人を置いて、俺は剣をマジックボックスから取り出し、王女達の前に立つ。
「大きな音がしたが、ん?閂が‥!?」
「何だと!」
バタンと2人の男が入って来たが、1人の男を蹴り飛ばし壁に激突させて、もう一人の腰にあった武器を切り落とし隅に蹴り飛ばし、剣を喉元に素早く突きつける。
力一杯蹴り飛ばした男は、壁に激突した衝撃で気絶していた。
「ひっ!ま、待て‥俺は、単なる見張り番だ、こ、殺した所で‥」
「ここはどこだ?」
「こ、ここは‥イシュタルトから西へ2日ほど行った遺跡だ‥」
2日?俺はそんなに寝てたのか?
「お前達は何者だ?」
「それは‥」
そう言って、落とした装備をチラリと見た男を、俺はチクリと首筋を刺した。
「ひっ!イシュタルトとヴェルダシュラムを縄張りにしている、
「知らないな。」
すると、床に倒れていた男が急に短刀を抜いて俺に襲い掛かって来たが、くるりと、それを躱し首を撥ね飛ばした。
もう俺もこの世界には慣れた、危険なら殺人も躊躇はしない、殺らねば殺やれるのだから。
「ひっ!!」
王女達はその光景を見て、二人とも目を瞑った。
俺はもう一度、立っている男に剣を向けた。
「やめてくれ‥俺達は下っ端で命令されているだけなんだよぉ‥た、助けてくれ。」
怯えている男に、出来る限り聞こうと話を切り出した。
「他にも誘拐した人達もいるのか?」
「あ‥ああ、金持ちの女、子供も‥‥お、俺と死んだそいつは王女の担当だったから他は知らない‥」
「で、黒い牙ってのは他にも大勢いるのか?」
「ああ‥この辺では一番大きな盗賊だから‥300人は居ると思う‥で、でも、今は頭領のオッグスもいないし、数人しかいないはずだから、逃げるのなら手を貸す!だから、助けてくれ!」
「この遺跡を根城にしているのか?」
「さ‥さあ?‥他にもあるんじゃないか‥、俺は下っ端だからよく知らないんだよ‥」
俺は、マジックボックスから、縄を出して、しっかりと両手両足を縛った。
「え?‥これじゃあ‥逃げるのを協力出来ないぜ‥?」
「大丈夫だ、脱出するのは簡単だから、あんたは気にしなくて良い。それに‥あんたが仲間の大勢いる所に案内するかもしれないからな。」
「そ、そんなことしませんって‥。」
「生かしてやるだけ有難いと思ってほしいね。」
とりあえず、俺は念話でフェルナンドさん達に連絡を取ることにした。
「フェルナンドさん、聞こえますか?」
『ん?アラタ!!どこだ!王女達も一緒か?』
「はい、盗賊に眠らされて、誘拐されてました。えっとゲートでそっちに王女達を送りたいのですが、今どこですか?」
『クインがお前の気配を辿って遺跡のような所に来ているが、盗賊のような奴らが結構いてな。』
「ああ、多分、雰囲気からすると俺達は、その遺跡の地下だと思います。」
『オーケー、こっちはフェリオール兵士20人と俺達も全員で来ているから、遺跡を掌握するのは造作もないと思うぜ。』
「じゃあ、俺も王女二人を護衛しながら、動いて見ます、他にも攫われている人もいるみたいなので、ついでに助けてきます。」
『わかった。俺達が来たことで遺跡の入り口が慌ただしくなっているから、そっちは手薄になるんじゃないか?隙を見て脱出してくれ。』
「わかりました。」
フェルナンドさんとの念話を終えた。
すぐに、イシュタルトに二人を送り返してもいいのだが、ゲート魔法も知らない二人をポンとイシュタルトに放り込んでも、理解するにも、その後の事も大変だろうから一緒に脱出する事にしたのだった。
「さ、エルティア姫、アンジェ、俺の後ろにぴったりと着いて来て下さい。」
「う‥うん。」
「はい。」
道なりに進むと、先の部屋から男達の声が聞こえた。
「なんか上が騒がしいみたいだな。」
「俺達、見張り番には関係ないだろ?それより、さっき見回りいった奴ら帰って来ないな?」
「奥の部屋の金持ちの女と何かやっているんだろ?この間も楽しんでたからな。」
「後から俺も世話してもらうかねぇ。はっはっは。」
「じゃあ、俺もぉ!はっはっは。」
最低な奴らだな‥
俺は、王女達を外で待たせて、その部屋に入り二人の首を撥ね飛ばした。
そのテーブルには、ここに囚われている人間のリストが置いてあった。
それを、見るとここには攫って来た金持ちの女性や子供が11人いることがわかり、部屋の位置もすべて書いてあった。
俺は王女達を連れて、そのリストに書いてある部屋を全て回り、人質を助け出して行った。
上への階段を探していると、一つの部屋を見つけたが何もなさそうに見えたが、壁に人の手形のスイッチらしき所があった。
「出口‥かな?」
新はその手形の所に手を置いて見た。
「アラタさん、あそこに扉が‥」
エルティアが指を差した場所の石の壁だと思われた所が、すっと変わり扉が現れていた。
「出口かもしれないから開けてみる。」
「は、はい‥」
俺が扉をあけるとそこは一つの部屋があり床に綺麗な魔法陣が書かれていた。
これは‥俺がこっちに来た魔法陣に似ているけど、でも、書いてあるルーン文字が違った。
バタバタと通路を走る音が聞こえた。
俺は、助け出した人達をその部屋に入れて剣に手を掛ける。
「アラターーーー!どこだ!」
フェルナンドさんの声だった。
ほっとして、俺は剣においた手を離した。
「こっちです!」
「お、あっちだ、急げ!」
全員にもう大丈夫と声を掛けると、皆、安堵した表情を浮かべていた。
クインとフェルナンド、それから数人の兵士が部屋に雪崩れ込んできた。
「お、いたいた。無事で良かったぜ、2日間お前に念話で呼びかけても応答なしだしな、心配してイシュタルトも大騒ぎだったぜ。」
「うん、なんかの液体が強力で眠らされていましたからね、2日間も‥」
「ま、無事ならなによりだ。この際だ、皆間だが‥ゲート魔法で構わないだろ?」
「あ、うん。でも、俺、この場所を記録しておきたいんだ。」
「ん?こんなとこもう用はないだろ?」
「いえ、この先に隠された部屋があって、そこに魔法陣があったので。」
「なるほど、じゃあとりあえず、兵士と誘拐されていた人だけでもイシュタルトへ送ろうぜ。」
「ですね。」
俺は、ゲート魔法を展開して、イシュタルトの王城の前に繋いだ。
ここにいた全員が空間に空いた穴にイシュタルトの王城が見えている事に驚いていたが、早く潜ってと促して、ディファレントアースのみ遺跡に残った。
「ふむ。この遺跡は古代人の何かの施設のようじゃな。ふー」
「クイン、見たことあるの?」
「ふむ。結構、オブリシア大陸にはあちこち点在しておるが、大抵は廃墟と化しているがな‥ふー」
俺は、その手形の装置にもう一度触れてみた。
すると、魔法の壁が覆い扉が隠された。
「隠し扉って事か。」
フェルナンドが手を装置に触れてみたが、反応しない。
「あれ?何も起こらないぞ?」
「ふむ。ここは古代遺跡じゃ、古代人‥の遺伝子って事じゃろうな。ふっふー。」
「あ、新はハイエルフの遺伝子を持っているからって事ね?」
「ミズキが正解じゃな。」
「クイン、隠し扉の先に、地球への魔法陣ぽいのが床に描かれているんだけど、あれは?」
「さあな。どちらにしても何処かへ繋がっている物なのじゃろうが、それもアラタしか起動出来ないじゃろうて。ふー」
「使ってみる?」
「おいおい、やばいとこに繋がっていたらどうするんだ‥いきなりドラゴンの巣とかよ‥」
フェルナンドが、ジェスチャーでガオーっと引っ掻くように爪を立てていた。
「でも、とりあえず戻った方が良いんじゃないか?、ヘクトルも俺の国の失態だーーなんて騒いでいたしな。」
クラウスが冷静にそう言った。
「そうだね、それにここはイシュタルト領だから、調査するにもちゃんと、ヘクトルに了承を貰っとかないと‥もし、ドラゴンでもこっちに出てきたらやばいもんね。」
「だな。ハッハッハ。」
俺達は一度、遺跡の外に出て、周りを見渡し、俺はデジカメで写真も保存した。
そして、ゲート魔法でイシュタルトへ戻ったのだった。
◇
イシュタルト城の前にゲートを繋ぎ潜ると、そこにはヘクトル王子と兵士が沢山いた。
「アラタ!良かった無事で。」
「ヘクトル、ごめん俺がついていながら誘拐されてしまって‥」
「いや‥俺が、護衛をしっかり全員つけておけばよかったんだ‥すまない。しかし‥誘拐されていた人達まで助けてくれたんだな、こちらからも礼を言わせてくれ。」
ヘクトルは、そう言って、新達に頭を下げた。
「あ、ヘクトル、盗賊が占拠していた遺跡だけど‥ルーン文字で作られた魔法陣があったんだけど、何か知ってることある?」
「はあ?一度、俺も行ったことあるがそんなのあったか?」
「あ、いや、手形の装置があってそこに触れたら隠し扉が現れてね、その先にあったんだ。」
「手形?‥ああ、そういやそんなのあったな?でも、何も起こらなかったから、単なる古代人趣味の壁だと思っていたぜ?あれって装置だったのか‥でも、よく起動出来たな?」
「まあ‥クインが言うには、俺がハイエルフの遺伝子を持っているからじゃないかと推測したけど。」
「なるほどな。で?あの遺跡の魔法陣を調査したいって事か?」
「うん。」
「勝手にどうぞ。俺が許可してやるぜ、俺もそれが何か知りたいしな!」
「ヘクトル、ありがとう。」
「ああ、しっかし、相変わらずお前の魔法は便利だよなぁ、俺も転移魔法とか使えるようになりてぇなぁ‥そしたら何処でも行って帰って来れるのになぁ、あはははは。」
ヘクトルに了承は取れたのでいつでも調査は出来るようになった。
しかし、まだ王族任務の途中なのでまず、王女達をフェリオール王国へ無事に送り届けるまでが任務だから、この件はまた後にすることにした。
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