第62話 ランクAに。

 異世界へ戻る前に、旧実家から、異世界への壁を新居へ移動工事を終わらせていた。

 魔法陣が出来ていた壁だが、しっかりした壁に補強されていたせいか、綺麗なままで持ってくることが出来た。


 多分、親父が魔法陣を守るために補強した壁に作り変えていたのだろう。

 広くとった駐車場の奥の壁にそれはしっかりと設置した。


 そして、地球旅行を堪能した俺達は、オブリシア大陸へ戻って来た。


 スゥーーーー!ハアーーーーーッ。


 英雄の祠を出た、皆は大きく深呼吸した。

「空気が美味しいってこういう事言うんだなぁ。」


 深呼吸を終えたクラウスはそう言った。


「ほんと、こっちの空気ってこんなに澄んでたのね。」

 瑞希は数回、深呼吸をして、そう呟いた。


 それから、クランハウスへ俺はゲートを繋いだ。

 ゲートを潜ると、相変わらずイセ・スイーツは繁盛していた。


 丁度、フェルナンドとカレンが、どこからか戻って来た。

「お?お前ら今戻りか。」

「はい、引っ越しも完了して、ディズニーも堪能してきましたよ。」

「ディズニーか‥行ったこともないな。」

「ダーには、似合わないわよ。うふふ。」

「そうか?」


 カレンさんは、フェルナンドさんをそう弄っていた。


「あ、そうだアラタ、ベンザさんがな、さっさとAランクに上がれと煩かったぞ。」

「え?」

「なんか、王の依頼をしたいんだが、国の依頼はAランクじゃないとダメだとか何とか?」

「そうなんですね‥」

「さっさとランクくらいあげても良いんじゃないか?Bランクの討伐依頼なんて俺とカレンには、ぬるくてよぉ。」

「2人でぬるいんですか‥そうですね、昇格試験受けておきますか。」

「そう来ないとな!ハッハッハ。」


 俺達の次の目標が決まった。

 国の依頼が何かわからないけど、まず、Aランクになることだ。


 そう決めて、俺達は早速、王都の冒険者ギルドへ向かった。


 相変わらず、この冒険者ギルドはいろんな冒険者で溢れかえっていた。

 ディズニーのチケット売り場を思い出したが、パーティリーダーは依頼選びに真剣な眼差しをしていた。


 その依頼で、どのくらいの冒険者が命を落としているのだろうか、俺達には知る由もなかった。


 冒険者ギルドの中へ進むと、ベンザさんが出てきて、こっちに向かって歩いてきた。


「やっと、戻って来たか。中々、現れんから、そこにいる二人に言付けを頼んでおったんじゃよ。」

「ああ、すみません、ちょっと遠くまで行ってたもので‥」

「実はな、この国の第一王女エルティア様はお主も知っておろう?」

「はい、2度ほどお会いしてますね。」

「うむ。もう16じゃ、そろそろ婚姻の事を考えて、イシュタルト王国の王子2人とエイナムルの王子2人と王女1人との会談が5日後に、イシュタルトであるんじゃよ。その護衛をお主らに頼みたいのじゃが‥フェルナンドに言付けを頼んだ通り、王や国の依頼はAランクからが絶対じゃ。」


 ベンザは、髭を撫でながらそう言った。


「え?でも、いつも、ルミナスローズが国の仕事しているんじゃなかったのですか?」

「うむ、じゃが全部ってわけではない、Aランクのクランにはそれ相応の仕事を依頼しておるよ。ただ、今回、他に出払っておっての‥そこでAランク以上の実力のあるのはお前らしかおらんのよ。それに、パウロ様からの推薦もあるのでな。」

「ん?なんでパウロさん?」

「さあな、どうでもいいから、さっさとAランクにならんかい!魔法も使える地球人が4人もおるんじゃ、下手したらSランクじゃろうが。」

「は‥はは‥まぁ、わかりました。で、依頼は?」

「うむ。これじゃ。」


 ベンザさんが見せたのは、ジャイアントバットの群れの討伐依頼だった。


「コウモリ‥ですか?」

「hei、バットなんてAランクの仕事なのか?」

「うむ。人間くらい大きなバットじゃ、単体なら問題はないのだが、繁殖し住み着いた坑道が暗い上に、30匹は確認されとる。狭い所で、素早くて魔法や矢まで上手く躱すと言う、とんでもないやつじゃよ。」

「ああ?それなら俺達には簡単な作業になるな。ハッハッハ!」

「ん?フェルナンドよ‥何が簡単なんじゃ、かなり危険じゃぞ?もう、すでに2つのパーティが殺られとるからな。」

「俺達には科学があるからな、ま、そんなもんすぐに殺さずに捕獲でも何でもして来てやるぜ?」

「‥‥いや、死んでても構わんが、傷の少ない皮膜や毛皮はいろいろと使い道もあるのでな。その坑道は薬草に使える群生植物もあるので出来ればあまり暴れて欲しくもないが、まずはその討伐をお願いする。」


 新に、その依頼書を渡したベンザは、じゃあなと手を振ってギルド室長室へ帰って行った。


「フェルナンドさん、楽勝って何か策があるんですか?」

「ああ?そんなもん、簡単だろう?超音波には超音波で終わりだ。ハッハッハ。」

「あ!なるほど‥」


 俺が、納得した時、クラウス、マイティは、さっぱり意味が分からないと首を傾げていたが、フェルナンドさんが、今回は、新と自分2人で全滅することが出来ると言って、更に首を傾げていた。


 ◇


 そして、俺達はその問題の坑道へ向かった。


 そこは、フェリオール王国から東に行った、海に近い所にある場所。

 大昔の何かの坑道で、長い年月で薬草に使える植物が群生するようになって、低ランク冒険者が採集でよく訪れる坑道だった。


 坑道自体は大きなもので、入り口も大きく開いていた。


 中へ入ると、すでにギイギイと声が奥の方で聞こえる。

「ふむ。30~40匹はおるな。ふー」

 クインは索敵してそう言った。


「そんじゃ、始めますか。どっちかが防音障壁を魔法で作って、もう一人が大きな超音波を中へ放出するでいいな?」

「じゃあ、俺が防音します。」

「オーケー。」


 新が、防音でフェルナンドが超音波を放出させることになった。

 超音波を出すことは、大した作業ではないので、フェルナンドの普通の魔力でも十分だ、要はイメージを具現化できるか、だけなのである。


 新は、魔法を展開し防音の魔法障壁を作り出した。


「張りましたよ。」

「OK!」


 フェルナンドは、その障壁から前に手を出し。

 手をスピーカーにしたイメージで超音波を大きく放つ。


 キン!!


「どうだ?」


 防音の障壁を消すと、さっきまでのギイギイと言う声が聞こえなくなっていた。

「ふむ。魔物は地面に落ちて気絶している?‥ようじゃな。ふー」


 俺達は、行動の奥へそのまま進んだ。


「うわ!ほんとに、地面に落ちてる‥これ生きてるの?」

 マイティがそう言って、ピクピクと痙攣しているジャイアントバットへ近づいた。


「悪いな。このまま苦しまずに逝ってくれ。」

 フェルナンドは、短刀で気絶しているジャイアントバットの頭に突き刺し、止めを刺して行った。


 それを見て、皆、ジャイアントバットの息の根を止めて行って、新がマジックボックスへ回収していくのだった。


「小さくても気持ち悪いのに、この大きさ‥ぐえぇ‥。」

「瑞希、Gとどっちが嫌い?」

「え?それは‥まだこっちがマシかな‥」

 瑞希はそう言って止めを刺していた。


「確かに、この暗さで、この数、普通の冒険者なら、殺されるわな。」

「ですね‥」


 最後の死体をフェルナンドはそう言って、新のマジックボックスへ投げ込んだ。


 時間にして1時間も掛からなかった。

 数は子供のバットまで入れると約40匹。大きな奴は2mくらいで、子供の奴でも体長1mくらいはあった。


 ◇


 俺達は、王都に戻り、門の近くの冒険者ギルドの倉庫へそれを全て納品した。


「うお‥よくこれ倒せましたね‥さすが、Aランクに挑む冒険者ですね。あれ?これ‥どこに傷があるんですか?」

「えっと、頭にあります。」

「え!傷はここだけですか?‥どうやって?寝込み襲ったとかですか‥そんな馬鹿な‥」

「まあ、そんなとこです。」


 ギルドの職員は首を傾げていたが、説明も面倒だったのでスルーして、納入サインを貰って俺達は、冒険者ギルド本部へ向かった。


 ◇


「なんじゃ、早う、行って来い。」

「もう終わりましたけど。」

「は?‥まだ、2時間も経っておらんではないか?」

「このとおり。」


 俺は、ベンザさんに納入サインの入った紙を渡した。


「いったい‥どうやって。」

「hei、ベンザさんよ、俺達には楽勝だっていったろ?ハッハッハ。」

「し、しかし‥あの場所まで行って戻って来るだけでも‥」


 そう、俺達はいつも帰りはゲート魔法で帰って来るから、実質片道の時間しか掛からないのだ。


 それから、冒険者カードをAランクにして貰っている間に、倉庫職員が本部に来て、ジャイアントバットの死体の状態を報告しに来て、更にベンザに問いただされたが、寝かせてから倒しましたと適当に言った。

 まあ、間違ってないからね。


 Bランクの試験の時には、キマイラを肉塊にしてしまったから、今度はちゃんと綺麗に持ってきたつもりだ。

 はは‥あれは、オーバーキルだったからなぁ‥


 何はともあれこれで、俺達のクランはAに昇格した。


 フェルナンドさん、カレンさん二人は、これで強い奴に挑めるとか言ってて、マイティは自分がAランク冒険者になった事に、感動して泣いてた。

 クラウスとレベッカは、そのマイティを宥めていて。

 瑞希は、クインのモフモフの毛並みを撫でていた。


 さあ、これで、国の仕事も受ける事が出来るようになりましたとさ。

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