第61話 夢の国。

 瑞希も、もう安心して母親の彼氏に後の事は頼んで、俺達と家に戻った。

 瑞希は、昨日一日、母親と水入らずでずっと話し合ったのだと言った。


「レベッカ、お母さんの事ありがとね。でも、こんな事でもなかったら、私ずっとお母さんとは疎遠になっていたかもな。」

「そうなんですか?でも‥お母様がいるって羨ましいです。」

「あ‥レベッカ孤児だったね‥ごめん。」

「いえいえ、でも、どんなことあってもお母様がいなかったら、今のミズキさんはいないわけだし、仲良くなって良かったと思います。」

「そうだな‥今回のがきっかけになって仲良くなって良かったかもね。」


 瑞希とレベッカの話に、俺もそう言って頷いた。


 その後、瑞希は昨日、母親と話した事を教えてくれた。

 大学もやめて海外に行くと言ったらしい。

 それは、瑞希も異世界に移住して過ごしたいとの決意の表れだった。


 それに対して、母親は全てを受け入れると言ってくれたそうだ。

 救われた命を、今後、瑞希へ恩返ししたいとも言っていたそうだが、瑞希は今のまま自由なお母さんでいてほしいと言ったそうだ。


 俺は、異世界に母親がいるから、あっちに移住で良いけど。

 もし、男手一つで育ててくれた親父が生きていたら、どうしていただろう‥


 まあ、どちらにしても、瑞希の人生だし俺は温かく見守ることにしようと思った。


 ◇


 俺達は、安心してディズニーランドに行くことにする。

 レベッカは医学の本を読むためにすでに、翻訳スキルは習得済みだったがクラウスとマイティ、クレンシアにも、こちらに来る前に翻訳スキルを俺が覚えさせていた。


 そして、ディズニーランドまでは車で行くことにした。

 その車内の中。


「瑞希、そう言えば、クレンシアが乗れるようなアトラクションってあるのかな?」

「ちょっと待って、調べてみる。」


 瑞希はスマホを取り出し、調べだす。


「ミズキが持っている、魔道具のような物って念話みたいな事が出来る以外に、何かを調べることも出来るのか?」


 クラウスとマイティは、瑞希のスマホを覗き込んでいた。


「あった!凄い、なんか車椅子優先のとかあるよ?一部のは乗れないみたいだけど‥、トイレとかもバリアフリーで、車椅子の高さに設定されている所もあるって書いてる。」

「へぇ、流石、ディズニー。」

「スマホって魔道具は凄いですね‥」

「だな。」


 瑞希は、スマホで調べてくれた。

 クレンシアでも乗れるアトラクションはあるようだし、後は楽しむだけだなと俺は笑みを浮かべて車を走らせた。


 新達は、夢の国ディズニーランドについた。

 瑞希は2度ほど来たことがあるらしいが、俺は初めてだ。


「平日なのに凄い人‥」

「ほんとだね、全国から遊びに来るからね。」


 俺は、チケット売り場に沢山の人がいるのを見てそう言った。

「じゃあ、私が人数分のチケット買って来るね。」


 瑞希に俺は数十万円くらい先に渡してあるので、そう言って入園チケット売り場に並びに行った。


「アラタ、ここにいる若い子達は、丸い耳を頭につけているんだが、あれは獣人のマネをしているのか?」

「ああ、この施設のメインマスコットキャラクターがネズミなんだ、そのグッズの一つだな。」

「きゃら?ぐっず?‥」

「まあ、後から分かるさ。」


 クラウス、マイティ、レベッカ、クレンシアは、楽しそうに写メを取ったり、コスプレしている女の子達を不思議そうな目で眺めていた。


 暫くすると、瑞希がチケットを買って戻って来た。

 クラウスは、クレンシアの車椅子を俺が押してやると言って、瑞希と俺の後ろに着いて、入園入り口へ皆で向かった。


 俺達は、それからいくつかクレンシアも乗れるアトラクションや、有名なアトラクションにも乗った。


 異世界人4人は、怖がったり、大きく笑ったりしていて楽しそうだった。

 俺も、初めて来たけど並ぶのも楽しいってのが少し分かった気がした。

 アトラクションまで、ここから60分とか書かれていたが、進むのも早いしその道中にもいろんな風景が楽しめて、更に、キャストの人達がみんな笑顔だったからだ。


 瑞希が何かのアプリで、待ち時間を示唆していた。

「瑞希、それ何見てるんだ?」

「ふっふーん。ディズニーアプリなのだ。」

「ほう‥」

「これで、現在位置も、待ち時間もわかるのだよ新くん。」


 何故かドヤ顔でそう言った瑞希だが、偉いのはそれを作ったディズニーである。


「位置情報とかどうやって、そのスマホってやつでわかるんだ?」

「凄いね、地球の物って。」


 クラウスとマイティはそう言って瑞希のドヤ顔に答えていた。


 俺達は、疲れてきた所で休憩で施設内のカフェに立ち寄った。

 クラウスは、耳を隠す帽子に腰の尻尾を隠すために上着を腰に巻いていて、瑞希がみんなで記念写真撮ろうと言って、クラウスの帽子を取って自分が被った。

「おい‥大丈夫なのか‥?」

「ここなら大丈夫って言ったでしょ!」


 スマホで写メを何枚か撮って、みんなでその撮り映えを見ていると。


「あの、一緒に写メ撮っても良いですか?」

 一人のミッキー耳を着けている若い女子がクラウスにそう言って来た。


「え?俺?‥」

「どうぞどうぞ!クラウス写っておいで!」


 瑞希がそう言うと女の子は、やったと言って笑みを浮かべ、友達とクラウスを挟んで写メを撮っていた。


 その女子達は、クラウスの良く出来て見えるコスプレに釘付けだった。

 ぎこちなくしているクラウスが面白かったのは言うまでもない。


「ま‥参ったぜ‥」

「ははは、お疲れさん。」


 コスプレ女子達から解放されたクラウスは、頭を掻きながら戻って来て、瑞希が被っている帽子を取り上げ、被って耳を隠した。


「ったく‥大変な目に遭ったぜ。耳触られて、くすぐったいのなんのって‥」

「「「あははは。」」」


 皆に笑われたクラウスは舌打ちをして、そっぽを向いた。


「この隣の施設には、人魚族の何かあるんですか?」


 クレンシアはディズニーシーのパンフレットを見て瑞希にそう聞いた。


「ああ、それはリトル・マーメイドね。」

「ミュージカルって?」

「えっと、人間が人魚の格好をして、踊ったり歌ったりして、その物語のお芝居をするの。これアニメもあるから、後からDVD買って見ようね。」

「はい、楽しみです。」


 それから俺達は、夢の国を堪能したがアトラクションなどは半分も回れなかった。

 閉園になり、疲れ果て車に戻った。

 異世界人達は、地球の重い空気の中、はしゃいでいたため車に乗った瞬間に寝てしまった。


 新は、寝ている4人をバックミラーで見て、笑みを浮かべ、車を走らせた。


「新、楽しかったね。」

「ああ。」


 瑞希は助手席に座りながら、一息ついてそう言った。


「まさか、向こうの人がこっちに来れるなんてね、こっちの友達ですら、こんなに仲良く遊んだことなかったのにね。あはは。」

「そうだね、生死を少しでも共にしたから、より一層親近感が湧くよね。それに、向こうの世界の人って生きるのが精いっぱいで、ずっと笑って疲れた一日って初めてかも知れないよなぁ。」

「今度は、クラン全員で地球に遊びに来たいね。」

「いやぁ‥6人で行動するのも大変だったのに、クラン全員って何人で来るんだよ‥車にも乗れないし‥」

「そ‥そうだね、じゃあ、新が貸切ればいい!」

「いやいやいや、それって幾らかかるんだよ‥」

「あははは。そりゃそうね。」


 そんな話をしながら、俺達は帰路についた。


 後に貸し切りについて調べたら‥4000人分の料金からの貸し切りと書いてあった、4000人もいないがその料金を出せば貸切れるということだ、料金にすると3000万円くらいだった‥支払えなくはないが、やめておこうと新は思った。


 ◇


 翌日、瑞希の母がもう退院するって言うので、俺達はまた病院に向かったのだった。


 瑞希は一人で病院に入って行って、1時間ほどすると母とその彼氏と出てきた。


「じゃあ、瑞希ありがとね、レベッカちゃんと、伊勢君にも本当に感謝してますって言っておいてね。」

「瑞希ちゃん、本当に有難うございました。今年中には俺達の‥結婚式をしたいと思っているから。」

「はい、その時は是非参加させて頂きます!」


 瑞希の母とその彼氏は、瑞希にそう言って、少し離れた所にいた新達に気づいて一礼し、俺達もそれに合わせて会釈し返した。


「お母さん、私また海外に行ってると思うから携帯通じないかもしれないけど、またメールでも残していてくれたら、すぐに折り返し電話するね。」

「はい、瑞希も病気をしたら‥って、レベッカちゃんが近くにいるのなら安心ね。」

「うん!じゃあ、またね。」

「はい。」


 そう言って、瑞希は母に手を振って、俺達の方に歩いてきた。

 そして、車に乗り込み、再度、お互い一礼して車を走らせた。


「瑞希、良かったな。」

「うん、あの二人結婚するんだって。」

「それは、めでたいね。」

「うん!それと、レベッカ、ほんとにありがとね。さっき病院で、レベッカが治癒した少年少女達と会って、あの女神のお姉ちゃんは?って質問責めにあったんだから‥」

「あらら、でも、あの子達も治ったんですね、良かったぁ。」


 瑞希もお母さんとの絆が深まったと思うし、クラウス達も地球を楽しんでくれたし。

 今回の地球旅行は成功だな、うん。


「あ、アラタさん、本屋さん行きたいです。」

 レベッカは、後部座席から、そうアラタに言った。


「まだ、本いるの?」

「はい、地球の医療って凄いです。アラタさんの持って来た本も熟読しましたが、他の病気の事も知りたいんです。」


 レベッカはそう目を輝かせて言った。


「勉強熱心ね、レベッカは。新、良いじゃない、レベッカの回復の力が強くなれば、異世界でも沢山の人が助かるし、私達も助かるし。」

「ああ、そうだね、じゃあ、専門書が売ってそうな大きな本屋へ行くか。」

「うん。」


 俺達は、本屋に寄って皆が買いたい本などを、大人買いしたのだった。

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