第60話 女神。

 次の日の早朝。

 皆、昨日騒ぐだけ騒いで、雑魚寝していた。


「おい、瑞希、起きろ、ディズニー行くんだろ?早く起きて準備するぞ。」

「う~ん‥昨日のお酒がまだ‥」

「飲みすぎなんだよ‥」


 俺が瑞希を起こすと、皆も目を覚ました。


「お‥もう朝なのか」

「ああ、クラウス、ここ片付けるの手伝ってくれ」

「わかった」

「それと‥その服じゃちょっと目立つから、俺のいらない服をあげるよ、ズボンにも穴開けないといけないな」

「ちょっとお母さんに電話してくるね」

「ああ」


 瑞希は携帯電話を持って別の部屋に行った。

 俺達は昨日のお祭り騒ぎの片付けをやっている時、瑞希がバタバタと部屋に入って来た。


「新!大変、お母さん入院してた!」

「え?それで‥どこか悪いの?」

「うん‥今電話したら、病院の部屋だった‥詳しくは聞いてないけど‥癌だって‥」

「えーー!癌‥って、どの程度の癌なの?」

「わからない!私行ってくる!」

「待て待て、俺も行くから‥みんなで行こう」


 俺達は急いで残りの後片付けをして、車に乗り込んだ。

 瑞希の母親は、○○総合病院に入院しているらしく、その場所まで車を走らせた。


 30分後、その病院へ着いた。


「えっと、ぞろぞろ行くのも何だから、俺と瑞希で行ってくるから、クラウス達は車に待ってて!」

「待ってください!私も行っても良いですか?」


 レベッカは俺と瑞希が車から降りた時、そう言った。


「え?」

「私もヒーラーです。それに、地球の医療施設を見てみたいので」

「わかった、ついておいで」


 早歩きで、俺と瑞希、レベッカは病院の中へ向かった。


 看護師に聞いて病室へ辿り着いた。

「瑞希、俺とレベッカは、ここで待ってるから」

「うん‥ありがとう」


 瑞希は、病室の扉を開けて個室へ入って行った。



 瑞希は、部屋に入り外を見ている母親に声を掛けた。

「お母さん‥」

「あら、瑞希もう来たの?」

「うん‥」


 瑞希はベッドの隣にある椅子に腰かけた。


「瑞希ごめんね、貴方には迷惑かけてばかりで、好き勝手生きてきたから罰が当たったのねきっと」

「ううん」


 瑞希は、外を眺めてそう言った母を見て首を横に軽く振った。

 そして、母は瑞希を見た。


「あら?貴方なんか逞しくなったんじゃない?」

「え、そう‥かな?」

「それで、海外の生活はどうなの?」

「え?」

「海外研修か何かしているんでしょ?」

「あ、ああ‥うん、楽しくやってるよ。」


 そう瑞希は言って、暫く沈黙した。


「桐谷さ~ん、朝食を持ってきました」

「あ、私、少し外行ってるね、何か欲しい物ある?」

「ん~何か甘い物が欲しいわ」

「うん、わかった」


 瑞希は、そう言って病室を出た。

 瑞希が扉を出ると、丁度、男性の医者らしき人が歩いてきた。


「桐谷さんの娘さんですか?」

「はい」

「ここでは‥えっと、あちらで少し話をしましょうか?」



 俺とレベッカは、自販機の近くにある椅子に座っていた。

 瑞希はその先生とナースセンターに行ってしまった。


「アラタさん、癌ってどんな病気なんですか?」

「ん~、俺も医学はよくわからないけど‥人間の身体は何十兆もの細胞で出来ていて、その中の細胞が悪い方に変化して、癌となり、良い細胞を攻撃して浸食していくんじゃなかったかな?」

「細胞‥ですか」

「で、その増殖した癌が大きくなっていくと危ないわけで‥初期症状が見つけにくいから見つかった時には手遅れって事もあるみたいだからね」

「そうなんですね‥」


 レベッカはそう聞いて、何か考えていた。


「あの、アラタさん、私の能力スキル、生命神の加護でひょっとしたら治りませんかね?」

「いやいや、この世界で魔法は‥って待てよ」


 魔法じゃないな、スキルは超能力のような物だ。

 俺が、マジックボックスや、翻訳スキルを向こうで覚えて、この世界で外人と話せたように、スキルなら、レベッカの生命神の加護は発動できるのではないだろうか?

 それに、気功とかで人を治すことが出来る人もいるくらいだ、ひょっとすると。


「レベッカ!よく気づいたな。やってみる価値はあるかもな。」

「はい!」


 瑞希は先生に呼ばれてまだ、ナースセンターの中だ。

 俺とレベッカは、病室に入ってみることにした。


 病室に入ると、瑞希の母は朝食を終えてテレビを見ていた。


「あの‥」

「あら?貴方達は‥」

「えっと、初めまして、瑞希の幼馴染の伊勢と言います。そして、こっちはレベッカって言います」

「あ、そうなのね、外人さんの友達まで一緒に来てたのね。それで‥瑞希はまだ戻って来てないの?」

「ああ‥そうですね」


 首を傾げている瑞希の母にレベッカは近寄った。


「ミズキさんのお母様、少しお身体触っても宜しいですか?」

「え?ええ‥それはいいけど‥何ですか?」

「私、病気を治す能力があるんです!」

「え?‥あら、そうなの‥じゃあお願いするわ、ふふ」


 瑞希の母は、年端もいかないレベッカにそう言って笑った。

 レベッカは背中に手を置いて、目を閉じて下の方に手をずらしていく。

 背中の腰あたりで手を止めて、レベッカはそのままじっとしていた。


「あら?なんか凄く身体の中が温かくなってきたわ‥」

「もう少し‥」


 そのまま、レベッカは5分ほど、背中の腰に手を当てていた。

「本当に治ったら凄いわね‥私の癌はもう‥」

「はい、もう大丈夫です」

「え?‥何が‥大丈夫なの?」

「悪い細胞は、お母様の良い細胞が全て包み込んで消してしまいました、他にも少し悪い所があったけど、それも治ったと思います」


 きょとんとしている瑞希の母。


 ガラガラ‥


「あれ?新、レベッカ、何でここにいるの?」

「いや、レベッカの生命神の加護がね」

「え?‥まさか!地球で使えたの!?」

「はい、もう癌とやらは全て、良い細胞に食べられちゃいましたよ。」

「食べられちゃいましたって‥」


 そう、異世界の生命神の加護というスキルは、身体の免疫を急激に高めて癒すものだ。


 ヒールとは、その加護を魔法で促進させる物。

 魔法は地球では使えなくても、加護の効果はあるのだ。

 レベッカは手で悪い所を感知して、そこ一点に集中し、免疫を高め、癌細胞を免疫細胞に飲み込ませたのだった。


「お母さん、身体はどんな感じなの?」

「そうねぇ‥そう言えば凄く元気がでたような‥」

「良かったぁ!」


 ガバっと瑞希は母に抱き着いた。


「あ!ちょっと、すぐに検査してって先生に言ってくる!」


 そう言って瑞希は、病室を飛び出していった。


「騒々しい子ね‥誰に似たのか‥」

「はは、でも、検査の結果が良かったら良いですね」

「伊勢君って言ったかしら?貴方、あの骨董屋の子?」

「はい、そうです。その伊勢です」

「ああ、お父さん元気?昔、運動会の時、見かけた事あるわ、とても力持ちで良い人よね」

「あ、えっと、親父は今年交通事故で‥」

「え?‥ごめんなさい」

「いえいえ、良いんです。子供を助けようとして事故に遭ったみたいですが、その子供も無事だったみたいだし‥」


 コンコン。

 ガラガラ‥


「先生、本当なんですって!」

「そんなことあるわけないですよ‥って、桐谷さん顔色が良くなりましたね?」

「先生、この子が治してくれたみたいです、うふふ」


 主治医は、首を傾げて見ていたが、俺が、レベッカは人を癒す超能力者だと言った。

 信じられない顔をしていたが、とりあえず、すぐに検査をしてくれると言っていた。


「瑞希、今日はここにいるんだろ?俺達は適当に買い物でも行くから」

「うん、ごめんね。レベッカ‥ほんとにありがとう」

「ううん。役に立てて良かったです。多分‥いえ、絶対もう大丈夫ですから」


 俺は、レベッカに、行こうと言って病室を出て、クラウス達の待つ駐車場へ向かった。


「お、戻って来たな」

「お待たせ。とりあえず、レベッカのお陰で瑞希のお母さんは大丈夫だと思う」

「もう治ったのか、で、ミズキは?」

「今日はお母さんの傍にいるつもりだから、俺達は、どこか買い物でも行くか」


 それから、俺達は街を観光した。


 こっちのパンケーキ屋、ゲームセンター、ショッピングなどなど。

 帰るころには夜になっていた。


 クラウス達は、たまに空気の悪さで疲れを見せたが、徐々に慣れて来たのか、夜にはそこまで気にしなくなっていた。


 ◇


 翌日。

 瑞希からの電話で起こされた。


「はいはい‥」

『新!検査の結果が朝一で出たんだけど!』

「ああ、どうだった?」

『ステージ4の癌が消えていたの!』

「おお!マジか!」


 俺の大きな声で、皆も目を覚ました。


「レベッカ!癌が消えてたって!」

「はい。良かったですね、うふふ」


 レベッカは寝起き目を擦りながらそう言って笑った。


 そして俺達は、準備して瑞希のいる病院へ向かうことにした。


 ◇


 病院に着いて、クラウス達はまた駐車場に置いて、俺とレベッカはすぐに病室へ向かった。


 コンコン、ガラガラ‥


 そこには、主治医の先生と看護師、瑞希と見知らぬ男性も立っていた。

「あ、新!」

「うん、良かったね瑞希」

「うん」


 瑞希は、本当に嬉しそうだった。

 母親も、元気になったようで昨日よりも顔色も良かった。


「えっと、レベッカちゃんでしたかね?」

「はい?」

「ちょっと、あちらで話があるのですが‥」


 主治医の先生が、レベッカにそう声を掛けた。

 レベッカが俺を見て首を傾げたので、俺もついていくことにした。


 部屋から廊下にでると。


「君は一体‥あの癌が本当に消えるなんて何をしたんですか?」

「えっと‥」

「あ、俺が説明します。レベッカは俺が海外から連れてきた、超能力者なんです。」

「ほう‥」

「あの力は、癒しの力なのですが、レベッカの寿命を奪うものなので、そう簡単には使うことが出来ないのです‥今回、癌が無くなったのも、たまたまかも知れないので口外しないで貰えますでしょうか?」

「ああ‥そう‥だよね。奇跡に近い力だと思いますし‥」


 俺は噓をついた。

 それは、レベッカの力がもし世に知れ渡れば、レベッカを狙う輩が現れて、実験材料にされかねないからである。


 レベッカは、俺が言った事に頷いて、話を合わせてくれた。


「あの‥お願いがあるのですが」

「何でしょう?」

「もう一度だけ、その力を貸して貰えませんかね?実は‥10歳の女の子が入院しているのですが‥血液の関係でドナーが見つからず、このままでは‥」

「はい、わかりました」

「え?良いのですか?」


 先生の言葉を聞いて、レベッカは即答でその申し出に応じた。

 ここは、レベッカの思うようにさせてあげようと思った。


 減る力ではないから、本当だったらこの病院の全ての人の病気を治してやりたいと思うだろうが、そんなことをしたら大変な事になるのはレベッカもわかっている、せめて、年端もいかない子供くらい救ってあげても問題はないだろう。


 それから、先生についていった、俺とレベッカはその子供がいると言う病室へ行った。


 その子の母親を呼び出して、先生が俺達の事を説明した。

 凄く驚いて、藁にも縋るつもりでお願いしたいと懇願された。


 レベッカは、その子の脊髄あたりに触れて、目を閉じた。

 5分ほどすると目を開けて、もう大丈夫と言った。

 看護師と医者はすぐに検査を受ける手はずに動いていた。


 レベッカは、その後も重い病気の子供達がいるのならと、何人かの子供に生命神の加護を使った。


 後に、あの日、病院に女神が現れたと言う噂が流れ、テレビ局まで取材に来たらしいが、インタビューであの先生は、どこの誰かもわからないが無償でその力を使ってくれたと言い伝説になった。


 そして、瑞希の母は一応、その後の経過を見るために、三日ほどまだ入院するとのことだった。

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