第59話 地球人効果と新居。

 数日が経ち、今日は、地球の新居の引き渡しの日が来たので地球に戻らないといけないがその前に。


 アカツキ国に行ったあの日から、俺達のクランでは地球産の食材で食事をなるべく摂る様にした。


 しかし、クランの人間達、全員と言うわけにはいかないので、冒険者メンバーA、Bチームと、何かと力が要りような開発部のジーウとドワーフトリオにだけ、そうしている。


 そして一ヵ月が経った時。

 全員、地球人効果と同じくらいの強さが身に付いたのだ。

 つまり、クラウス、マイティ、レベッカは勿論の事、Bチームも全員、身体能力が約5倍以上になったのだ。


 ひとつだけ変わらないのは、魔力だ。

 流石に、地球産食材は、魔素を浴びて育っているわけではないので、予想通り魔力だけはこの世界で鍛えた能力値のままだった。


「凄いです‥この一ヵ月でこの身体能力。アラタさんの世界の食べ物にこんな力があるなんて」

「うん、凄いね‥私もこの間、泥濘に嵌った馬車を押した時、簡単に押せて馭者さんが驚いて、逆に変な目で見られたもの‥」


 そうマイティとレベッカは言っていた。


「マイティの母親に薬を渡しただろ?あの時、ピンと来たんだ。多分、食材と一緒で地球の薬はこの世界では特効薬になるんだと思う」

「ああ‥あの時の‥あの薬は本当に助かりました」

「アラタさん、あの薬も、手術みたいに人間の身体の仕組みを理解して作られている物なのですか?」


 レベッカは、俺にそう聞いてきた。


「そう、この地球では人間の毛から皮膚、内臓、血液まで、あらゆる部位を何年も研究してその病気や怪我に応じて作り出された物なんだ、あの薬はこの世界ではその辺ですぐにでも手に入る普通の風邪薬だったんだけどね」


「マイティのお母さん、風邪って病気だったんですね。地球って本当に凄いですよね。この世界では高額でヒーラーに頼むしかないですもの‥」


「いや、俺に言わせると、この魔法のあるレベッカ達の世界の方が魔法ってチートな力があるんだから、凄いと思うよ、だって、エリクサーってなくなった腕とかが元に戻るんでしょ?」


「そうみたいですね。まだ、使用した所は見たことがありませんが、そう聞いてます」


 この異世界では薬と言えば、薬草などを飲んだ時に効いたと思われる物と、それを磨り潰して塗る物くらいだ。その病気に100%効くと言う物なんて存在しない。


 治癒者ヒーラーで殆どが解決するので、地球みたいに生物の隅々まで研究しようと言う概念がないためだ。


 科学と魔法、両方の世界には違う進化を遂げた何かがあり、それは、大きくその世界の人間達に影響を与えている。


 そして、俺達は両方の世界の力を使うことが出来る。


 ハイエルフの血を持って行き来できる俺が、これを間違った方向に使わないと誓い、皆にこの力に関する事も秘密にするように言った。


 もし、俺のクランから、間違った事をするような輩が出た場合は、全力で隔離し地球人効果が無くなり次第、追放、もしくは‥と、脅しのような通達もしたのだった。



「さて、じゃあ今から地球に向かうんだけど、試しに行ってみたいと言う挑戦者はいるかい?下手したら‥地球に行った後に体調崩す可能性もあるけど‥」


 そう、俺は、クラウスが志願してくれて、一度、地球への魔法陣で試してみた所、一瞬だけだったが、地球側へ行ってすぐに戻ってみたので、魔法陣を通過できる事は確認済みだったのだ。


 クラウス、マイティ、レベッカは勿論行くと言った。

「無理はしない方がいいぞ。地球って所は一瞬だけしか入ってないが、空気が重かった‥俺達にはキツイ世界なのかもしれないからな」


 そうクラウスは付け加えて言った。


 Bチームが怖がって、一歩下がったが人魚族のクレンシアだけ前に出た。

 開発部の面々は、地球に興味はあるが、やることが一杯あるから今度で良いと言って工房に戻っていった。


「クレンシア、行くの?」

「はい。陸の世界も思ったよりも広くて楽しい世界だと思いましたし、地球ってどんな素晴らしい世界か見てみたいと思っています。海の外の世界を沢山堪能してみたいのです!」


 クレンシアは珍しく興奮気味にそう言った。


「そっか、でも、あっちでは魔法がないからその足隠せないよ?」

「あ!そっか‥」

「そこは大丈夫、私のロングスカートで上手く隠してあげるから」


 クランシアは、そこに気づいて少し残念がったが、すぐに瑞希がそう言った。


「え?ミズキさん良いんですか?で‥でも、それじゃ歩くことも出来ないし‥」

「下半身が動かない人専用の車椅子も地球にはあるから大丈夫よ!うふふ」

「そんなのあるんですか?」

「新が、買って来るわよそんなもん」


 おいおい‥まあ、そんな高い物じゃないだろうし‥良いか。


 地球に向かうこの世界のメンバーは、クラウス、マイティ、レベッカ、クレンシアに決まった。


 そして、フェルナンドさんとカレンさんは、こっちに残ると言ったので、俺と瑞希を入れて6名が地球に行くことになった。


 ◇


 1日後、俺達は英雄の祠の中へ入った。

 クレンシアには、魔法が解けて服と足が元に戻っても良いように、瑞希の地球から持って来た服を着ている。

 勿論、昨日のうちに車椅子も購入して、地球側に置いてあるのだ。


 魔法陣に俺が手を翳すと、魔法陣は淡く光り出した。

「私から入るね」


 瑞希はそう言って魔法陣の中へ入って行った。

「ま、一度通ったからな‥大丈夫だ‥大丈夫」


 クラウスは少し、引きつりながら魔法陣へ入って行った。

 その後から、マイティ、レベッカと続いて入り、最後にクレンシアが恐る恐る入って行った。


 俺もクレンシアに続いて入った。

 そこには、人魚の姿に戻り魔法で変化させていた足が魚の下半身へ戻っていて、瑞希達が支えていた。


「ああ‥びっくりした‥本当に魔法が使えないんですね」

 瑞希達に抱えられたクレンシアはそう言った。


 すぐに俺は車椅子を用意して、クレンシアを座らせる。

「凄い。手で動かせるんですね」

「いや、実はそこのレバーで操作も出来るんだ、凄いでしょ」

「え?これ‥ですか?」


 俺は、普通の車椅子ではなく電動で動く車椅子を買って来ていたのだ。

 勿論、折りたたんで、車にも乗せやすいやつだ。


「みんな、どうだい、大丈夫?」

 俺は、瑞希以外にそう聞いた。


「うん、今の所は‥」

「確かに少しだけ息苦しいかな?」


 レベッカとマイティはそう言った。


「やっぱ、この間来た時と一緒で、少し空気重いな‥」

「1時間ほど様子を見ようか。瑞希、冷蔵庫から飲み物とって来てくれる?」

「うん、そこの和菓子も持ってくるね」


 瑞希はそう言って、台所へ行った。


「皆、暫くそこに座ってテレビでも見てて」

「てれび?」

「ん?」


 ああ‥まあいいか。

 説明するのも面倒なのでテレビをつけて、俺は一度、携帯電話を確認するのだった。


 予想通りだったが、テレビと、画面に映る芸能人に釘付けになり、クラウスはテレビの裏とかを確認していた。


 それから、1時間が経った。

 俺は、ハウスメーカーに連絡を入れて、すぐに新居の方に向かうという事だった。


「新、1時間経ったね。その新居の方にみんなで行く?」

「ああ、そうだね」


 1時間様子を見たが、異世界人4人に変化は見られなかった。

 そして、皆で駐車場へ移動した。


「これが車ってやつなのか‥でかいな」

「そりゃあ、10人乗りだからね」


 俺は、ハイエースも購入していたのだ。

 勿論、仕入れを沢山するためだったが、こうやって皆を乗せられるから買ってて良かったと本当に思った。


 皆が乗ったのを確認して、新居へ出発した。

 この旧実家から新居はそこまで離れていないため、すぐに着いた。


 業者の人が2人待っていたので俺だけ降りて、話をしてまず駐車場へ車を移動させた。


 業者の人と30分ほど話をして受け渡しを行った。

 そして、後は重要なあの魔法陣の壁だ。

 業者と話をしたのだが、引っ越しを済ませた後ならいつでも壁を取り外しここまで運んでくれると言っていた。


 引っ越しする物なんてもう殆どない。

 親父の位牌や仏壇もすでにマジックボックスの中にあるし、もう古い冷蔵庫や、テレビ、マジックボックスに入っている親父の営んでいた骨董品すら、リサイクル業者に売却、持って行って貰うつもりだ。


 なんてったって、俺は地球でもお金持ちなのだから。

 その電化製品や家具もすでに、1カ月前に来た時にこの日に届くように予定は入れてあるのだ。


 流石、日本。

 予定通り、時間ぴったりに家具などは到着した。

 すべて、業者が予定していた位置へ設置してくれた。

 勿論、ガスも電気も水道もすでに開通していた。


 家は2階建て5LDK、庭は殆ど駐車場と倉庫で、すべて家から繋がっている。

 魔法陣の壁は、特注で耐震耐火で、広く強固に作ってもらった駐車場の壁に取り付けるつもりだ。


 そして、その取り付け工事は俺達が異世界へ帰る日に設定した。


 皆は、業者が立ち入っている間、2階へ待機してもらっていた。

 瑞希以外は、窓から外を見てずっと地球についての話が止まらないようだった。


 それで、全てが終わったのだが‥


 一つ忘れていたのだ‥クラウスは半獣人。

 尻尾や猫耳があるのだ、業者がクラウスをジロジロと見ていたので、後から俺も瑞希も気づいた。


 すぐに、瑞希が耳を隠せるようの帽子を買いに行って。

 尻尾は、あの漫画のように腰に巻かせてベルトか何かで固定させたのだった。

 ま、日本の文化にはアニメなどのコスプレがある、なので、別に見られた所で騒がれはしないと思うが一応、隠すことにした。


「これでよしっと」

 瑞希はクラウスの頭に帽子を被せた。


「あら、クラウスって意外といい男ね、ははは、お洒落したらモテるんじゃない?」

「ミズキ何言ってんだ?‥はぁ‥こんなの被らないといけないのか?しかも尻尾が自由にならないと、こう‥なんだ、不安でしかないんだが‥」


 クラウスは腰を振って、体幹を確かめていた。


「よし、とりあえず、今日は引っ越し祝いだ!美味しい物いっぱいデリバリーして、この家で騒ごう!」

「あ!そうだ、新、猫耳で思い出したんだけど、ディズニーとかみんなで行ってみない?そこならクラウスそのままでも、誰も気にも留めないかもね~あはは」

「おー、そんな町があるのか?」

「クラウス、町じゃないが‥楽しい場所って事だけ言っておこう」


 その後は、皆で少し散歩してみたが、異世界人達は多少、息苦しそうだった事を除けば、大して大きな問題はなかった。


 夜になり、寿司、ピザ、ケーキなどを用意して引っ越し祝いで盛り上がったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る