第58話 ある仮説。
俺達は、アカツキ国に2日間観光がてら残ることにした。
シンゾウさんは、俺達のクランカードを見せればすぐに、この国に通せと通達を出してくれた。これで俺達は警戒心の強いこの国にもすんなり入れるようになったのだ。
俺は、シンゾウさんが用意してくれた宿でいろいろ考えていた。
この国を作った英雄達の事、それから遺伝の事。
あの魔法陣は、昔のハイエルフが繋いだ時は鹿児島県に繋がっていたと言う事だろうか?しかし、今は俺の家に繋がっている、それは謎だ。
そして、英雄達はこの世界では、地球人効果を残すことは出来なかったと言った。
更に、地球に連れて行くことさえ出来なかったとシンゾウさんは言ってた。
「heiアラタ、何深刻な顔してんだ?」
「え?ああ‥ちょっと俺達の先祖の事とか考えてました」
「ほぅ、しっかし、この宿、昔の日本って感じで雰囲気あるよなぁ」
「あ、そうですね。まさかこの世界で畳に会うとは思わなかったですよ、ははは」
そう、その宿の部屋には畳が敷き詰められていた。
木造で作られた家が殆どで、大河ドラマの中にいるようなそんな感覚になるくらい、街並みも400年前の日本って感じだったのだ。
「フェルナンドさん、俺達がこの世界で子供を作ったとして、地球人効果なくなってその子供は地球にも行くことが出来ないってどう思います?」
「さあな。この世界の人達だって地球には行くことが出来ないんだから、それと一緒になるって事なんだろ?」
「そうですけど、俺達が行き来出来るその条件って何なんですかね?」
「魔力があるからとかか?あ、それじゃお前が行き来出来るのが説明つかなくなるか‥じゃあ、やっぱ地球で育った者だけって事で、この世界で育った弱い人間じゃ潜れないとかか?」
「そうなんですよね‥大体、瑞希もカレンさんも魔力に目覚めてからも日本に行ってますし、魔力の件は関係なさげですよね」
俺とフェルナンドは、男子部屋でう~んと唸っていた。
クラウス、ヘクトルはそれを見て、こいつら何を悩んでいるんだと言い、首を傾げていた。
すると、俺はある事を思い出した。
前に、海の町ヘレスティアに行った時の事だ。
≪アラタさんから貰った薬を飲ませたら1時間くらいしたら元気になって、食欲も出て今日は普通に内職の材料を取りに行って仕事してますよ!地球って凄いですね。≫
マイティはそう言っていた。
寝込んでいたくらいの人が、風邪薬飲んだだけで、たった1時間で材料を取りに動けるくらいに回復するのだろうか‥
「フェルナンドさん、少し分かったかもしれません」
「ん?なんだ?」
「多分ですが、地球産の食べ物だと思います」
「ん?なんでそうなるんだ?」
「前に、マイティの母親が病気で伏せっている時に、地球の風邪薬と雑炊を作って食べさせた事があって、1時間で治ったって言っていたんですよ、ひょっとしたら、地球産の薬がそこまで強力に効いた事も考えると、食べ物も影響は高いのかも知れません」
「なるほどなぁ」
「そして、ある仮説を思いついたんですが」
「仮説?」
クラウスとヘクトルも、俺がそう言った後近くに寄って来て聞いていた。
「もしかしたらですが、クラウスやヘクトル、この世界の人間に地球産の食事ばかり与えると、地球人効果を得られるかも知れないと言う事と‥」
「地球にも行き来する事が可能になるかも知れない‥か?」
「そうです」
「何!まじか!?」
クラウスは俺とフェルナンドの言葉に声を上げた。
「それじゃあ何か?俺がアラタ達の世界の食い物を食べ続けると、アラタのようにステータスが数倍になって地球って所にも行けるようになるって事か?」
「そうだ、クラウス、その可能性はあるって事。逆に俺達、地球人もこの世界の物ばかり食べ続けていると地球に戻れなくなる可能性もある」
「なるほどなぁ‥」
俺達は、ちょこちょこと俺がカレーや唐揚げなど地球の食材で作って食べたりはしているが、この世界の人間が完全に地球産の物を食べ続けてみるとどうなるのか、検証が必要だと俺は思った。
俺は、瑞希達に念話を送って、この部屋に集まるように言って、暫くすると皆集まった。そして、俺の仮説を言い聞かせた。
「なるほどねぇ‥その可能性は高そうね」
瑞希はそう言った。
「それで、思ったんだ、あの魔力の泉に入った時、勿論、あの泉の効果もあるんだろうけど、ひょっとしたらクラウス達は、地球の食べ物も少しは口にしている時だったから、1.5倍くらいの能力の上がり方をしたんじゃないかなと思ったんだ。」
「なるほど‥」
「まあ、でもクラウス達が地球に行けるようになったとして、連れて行って何するんだ?」
そうフェルナンドは俺に言った。
「別に何もしませんよ、観光くらいなら連れて行ってあげても良いですけどね」
俺はそう言って少し笑った。
「まあ、どちらにしても、地球に帰れなくなるかも知れないって事は重大だな。そうなってしまったら、もう地球産の食材を仕入れて食べる事すら出来なくなる上、下手したら、俺達の能力低下も有り得るって事だぞ」
フェルナンドは真剣な顔つきになってそう言った。
「そ‥そうですね。とりあえず、これからは俺達クランの人間だけでも、地球の食事を摂るようにしましょうか」
「ああ、それが検証にもなるからな」
俺は、これから先は地球産の食事を一日一度は必ず口にするようにする事を誓った。
「これって、クインにも効果あるの?」
「ふむ。さあな、我は人間じゃないからな、ふー、それにだ、
そうか、下手したらその可能性はあるかもな‥
妖精って何なんだろう?魔力か魔素の集合体?
俺はそう考えたがわからないので、考えるのを止めたのだった。
◇
次の日。
この日までアカツキ国にいるつもりなので、観光して回った。
刀などの武器屋から、茶屋などが街にはあった。
団子とお茶を堪能していた時。
「道をあけろーーー!」
バタバタと道を通って来たのは、傷ついた冒険者が数人と、1人担架に乗せて走って来る獣人達だった。
俺達の前で深手を負った獣人が膝を付き、倒れそうになった。
フェルナンドが咄嗟に支えた。
「hei、あんた大丈夫か?」
「か‥かたじけない‥」
すぐにレベッカがその切り裂かれている横腹あたりをヒールに入った。
「す‥すまない、そっちは任せても良いか?」
「はい!」
担架を持っていた獣人はそう言って、重症だった人を何処かへ連れて行った。
「結構‥深手‥」
レベッカは魔力を強めた。
「ミーも手伝う!」
カレンはそう言って、怪我の部分に手を当てる。
「カレンさん、生命神の加護がないとヒールは‥‥え?」
レベッカはそう途中まで言いかけたが、深手を負っているその部分がみるみる組織が生成されていった。
「え?カレンさんにも生命神の加護が?」
俺は、そう言って鑑定でカレンさんを見てみたが、加護はついてなかった。
「魔法は、イメージなんでしょ?だったら魔法で外科手術すればいいんでしょ?」
「しゅ‥しゅじゅつ?」
レベッカはそう言って首を傾げた。
「ああ‥なるほど、そう言う使い方もあるのか」
俺は理解した。
生命神の加護と言うスキルは、生命体の持つ免疫、細胞を活性化させて、回復力を急激に促進させる魔法だ。
つまり、レベッカのヒールで免疫、細胞などを活性化させて、カレンさんが魔法で外科手術を施している、最強の組み合わせだ。
みるみる怪我をして骨まで露出していた部分が、止血、縫合、筋肉組織が生成されていくのが見えた。
「凄い‥こんな速度でこの傷が癒えていくのは初めての経験です」
「レベッカ、ミー達の世界にはね、魔法なんてないから、人間の体の作りを理解してこうやって大事な血管とかを守って、切ったり縫合したりして傷を治すのよ」
「そうなんですね‥本当に凄い」
レベッカとカレンのお陰で、その獣人の男は命を取り留めた。
それを見ていた街の人達は、驚きながらレベッカとカレンに拍手していた。
「カレンさん凄いな‥」
「ああ、カレンはな、医者の免許も持っているんだぜ。ハッハッハ。」
「そうなんですね」
その獣人は、傷は癒えたもののまだ疲労が相当残っていたので、近くの獣人が後は任せろと言って連れて行った。
「カレンさん、私にその手術って魔法教えて貰えませんか?」
「ああ、良いよ!魔法がある世界って便利だわ、メスを扱うより確実に執刀できるって気付いたから」
「メス?‥って何だろ‥」
レベッカは、そう言って首を傾げていた。
「あ、そう言えば、簡単な医学の本なら、この間、買って来たからそれをレベッカにあげるよ」
「本当ですか!嬉しいです」
「あ、でも‥翻訳スキルないと読めないかも‥後から翻訳も俺が作ってあげるよ」
「はい!ありがとうございます!」
それから、俺達は暫く観光して宿に戻ったのだった。
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