第57話 暁の国。
俺達は、イシュタルトの王子、ヘクトルの依頼でアカツキ国へ行くことになった。
アカツキ国は、フェルオール王国と、イシュタルト王国の国境の西に位置する小さな国で400年前のスタンピードを抑えた英雄達の末裔の国。
つまり、地球人の末裔と言うことになる。
俺は、歴史の勉強はそこまで詳しくはないが、〇〇の野望ってゲームで戦国時代の歴史には興味があって多少は知っているつもりだ。なので、興味のあった歴史に触れるようでワクワクしていた。
俺達は、フェリオール王国から北西に向かって進んでいた。
ヘクトルも相当バギーが気に入ったようで、道中も速度をあげて楽しんでいた。
「ひゃっほー!!こりゃ、本当に最高だぜぇ!風を切って走る感がたまらねぇぜ!はははは」
「ヘクトル、あんまり速度出すと危ないぞ、ヘルメットも被ってないんだからさ」
「ああ?なんだって、へる‥何?おおお!おおわああ」
ドザアアア!ガシャ‥
ヘクトルは、少し盛り上がった地面に片輪が乗り上げそのまま転倒してしまった。
「だ、大丈夫か!!」
転倒したヘクトルへ、フェルナンドがバギーで先に駆け寄ってそう言った。
「いたたたた‥」
「ほら‥言わんこっちゃない‥」
倒れた所が芝生になっていたため、ヘクトルは命に関わるような怪我はしてないようだったが、すぐにペガサスに乗っていたレベッカが上空から降りて来て、ヒールで治療に当たった。
とりあえず、その場で休憩することになった。
「いやあ、参った参った。ははははは、有難うレベッカ」
「いえ、たいした怪我でなくて良かったです、これなら少しのヒールで治りますので少しそのままにしててください」
レベッカは、ヘクトルの擦りむいて血の出ている部分に手を当て治療していた。
「heiアラタ、流石イグが改良したバギーだな、この倒れたバギーどこも破損していないぜ」
フェルナンドは倒れたバギーを起こしてそう言った。
イグルートはマナードバギーを組み上げる際、外装も強化していたようだ。
「本当ですね、とりあえず、ヘクトルもバギーも無事で良かったですね、これがアスファルトだったら、こんな怪我では済まなかったですね‥」
「ま、倒れたのがここだったのが救いだったな」
フェルナンドと俺は、起こしたマナードバギーを確認しながらそう話していた。
俺は、ヘルメットもやはり地球から買って来ようと思ったのだった。
暫く、休息をしてから移動すると、岩と岩の間に関所のような門が見えて来た。
「え?あれは関所‥かな?」
「そのようだな」
その関所のような門に着くと、獣人達数人がこちらに寄って来た。
その関所は、10メートルくらいの高さがあり、獣人の見張りがこっちを上からも見ていた。
「お主達、アカツキに何かようか?」
一人の獣人がそう言って来た時、ヘクトルが前に出て何かの紙を見せていた。
「ふむ。確かにシンゾウ様の書状のようだな、よし、通っても良いぞ」
「ああ、ありがとさん」
ヘクトルはそう言って、書状を仕舞ってまたバギーに跨った。
門にいた獣人達は、珍しい物を見るようにバギーを目を丸くして見ていた。
門が開いて俺達はその中へ進んで行く。
そこは、大きな岩に囲まれていて天然の砦のようになっていた。
更に道なりに進むと坂になっていて、それを登って行くと、さっきの関所より大きな門が現れた。
そこでも、検問を受けてヘクトルの持っていた書状で通過する事が出来た。
そこを通過すると、少し遠くに戦国時代の城が目の前に現れ、その下に城下町のように町が作られていた。
「新‥あれってお城だ」
「ああ、うん」
「oh!俺も大阪城は行ったことあるぜ、日本の城ってなんか凄いよなぁ」
瑞希がそう言った後、俺も城を見て少し感動した。
「凄いな‥俺、日本の城見るのって初めてだ」
「実は俺も、アカツキに来たのは初めてだが‥あんな城を見たのは初めてだぜ?」
ヘクトルもそう言って佇んでいた。
町に入ってみたが、そこは日本の映画村を思わせるような、木材で作った家が立ち並んでいた。
「ん?獣人が多くないかこの国」
「そう言われたら‥そうですね」
フェルナンドの言葉に俺はそう言って頷いた。
「ああ、この国は殆ど獣人だぜ?何故かは俺も知らないがな?」
ヘクトル王子はそう言った。
町を行きかう人は、人間も居なくはないが、殆どが獣人か半獣人だった。
冒険者のような獣人達もいたが、腰には刀と脇差を2本装備していた。
「ヘクトル、このままあの城に行くの?」
「ああ、俺の国、イシュタルトが雇っていたシノビの事を聞かないといけないからな」
「一緒に行っても?」
「ああ、勿論だ。アラタ達は俺の護衛が任務だからな」
俺達はキョロキョロしながら、城へ進んだ。
すると、城に着くまでに4つの扉を進んだのだ、これは、俺もゲームをして分かっている、敵が攻めて来た時のために敵を挟撃したり、人数を制限したりして、本丸を守る為の場を設けているのだ。
最後の4つ目の門を潜った時、一人の女性獣人が俺達を待っていた。
「ヘクトル様、遠方からわざわざ、ご足労頂き有難う御座いまする」
「お、カスミか、お迎えありがとう」
カスミと言う黒装束を着ているので忍者だろう。
カスミは片膝を立て、深々とお辞儀した。
「こちらに御座いまする」
すぐに立ち上がり、俺達を案内する。
黒装束の間から見えるその目は鋭く、縦目の動向をしているので、確かに獣人なのはわかった。
大きな城へ入り、一階の応接間のような部屋に通された。
「暫しお待ちを」
そう言ってカスミと言うシノビは、襖を閉めて出て行った。
「ねえ、新、あれ見て」
俺がきょろきょろと内装や襖を見ていると、瑞希がそう言って指さした。
「あ‥あれは」
そこに飾ってあったのは3つの日本の戦国時代の甲冑だった。
真ん中の鎧は、十字に丸の文字、島津薩摩の家紋だった。
その隣には、桐紋と六文銭の文字が胴の部分に書いてあった。
「あれって、一つは真田の六文銭で、もう一つは‥豊臣家の家紋じゃないかな?‥」
「え?島津と真田と豊臣?あんたよく知ってるわね?」
「ああ、ゲームで戦国時代好きになって、俺、結構大河ドラマとか観たりしてたんだ」
「へぇ‥」
「でも、なんでここに3家の家紋の鎧が置いてあるんだろう」
そう瑞希と俺が話をしていると、奥の襖が開いて、この国の頭首と思われる獅子獣人の老人が出てきた。
「ヘクトル様、椅子も用意せずにすみませぬ。まさか急に来られるとは思っていなかったもので‥」
他の獣人が椅子を持って来て、人数分並べたので、俺達はそれに座った。
「シンゾウ様それは別に大丈夫、それで、例の件はどうなったんだ?」
「‥‥‥」
シンゾウは、無言で俺達を見渡した。
「ああ、こいつらは大丈夫だ、俺の信頼できる護衛だ」
シンゾウは、そのヘクトルの言葉を聞いて、頷き、口を開いた。
「ヴェルダシュラム公国に、偵察に行って戻ったキリカゼだが‥何かに操られているようじゃ。なので、戻って来てからは、隔離して様子を見ているんじゃよ」
「操られている?」
「儂らは、独自の合言葉を事をこなした後に交わすようにしておるのじゃよ、それが言えないという事は‥‥そう言う事じゃ」
「ほぅ‥それで、そのキリカゼは、何か言っているのかい?」
「儂にヴェルダシュラム公国まで案内するとの一点張りなんじゃが‥これは」
「罠かもしれないってことだろうな」
「そうじゃ、儂にも何やらの魔法をかけて操ろうとでもしておるのかも知れんな」
「ふむ‥」
ヘクトルは、腕を組んで少し考えていた。
「最近、ヴェルダシュラムの公首公爵が変わったよな?確か名前を、ブリジットと言ったかな?」
「そうじゃ、それも気がかりでキリカゼと数人潜り込ませていたんじゃがな‥」
暫く、シンゾウとヘクトルは話を交わしているのを俺達は聞いていた。
ヴェルダシュラム公国とは、7人の元老院公爵がいて、その中の一人が公首を務めて各国とのやり取りを決めている。
シンゾウが調べた所によると、元々は伯爵だったブリジットが最近になり公爵に昇格したのだが、そのまま公首公爵になったらしいが、それは、どうしてもおかしいとシンゾウは言った。
元々、ヴェルダシュラム公国は、貴族が小さな国を奪い取って出来た国であって何百年か前にやっと今の大きさの国として落ち着いたのだと言う。
好戦的な貴族達を、アカツキ国、イシュタルト王国は、今でも警戒していた。
最近になって不穏な動きが活発になって来ているのを、アカツキ国が察知した事から、イシュタルトと情報を共有して警戒に当たっているらしい。
イシュタルトからも、親善の使いで国の使徒を向かわせた所、人が少し変わって帰って来たとヘクトルは言った。
その使徒は今でも監視下に置いているらしいが、今の所変な動きは見せていないと言っていた。
「とりあえずじゃ‥ブリジットには何かあると儂は見ておる」
「うむ‥警戒はしておこう、何かあったらメルバードを飛ばすので、洗脳されてない事を確認するため、シンゾウ様と二人の合言葉を決めておきましょう」
「そうじゃな」
二人は、俺達から離れ、小さな声で密談した。
暫くして、戻って来て、二人は椅子に座った。
「今日の宿は儂が用意しよう、ゆるりと休んで行くが良かろう」
「シンゾウ様、お言葉に甘えます」
そうヘクトルは笑って答えた。
「あの‥」
俺は、話が終わった所で、シンゾウさんに声を掛けた。
「ん?なんじゃ?」
「あの、そこの鎧なんですが‥」
「ん?我が先祖の鎧がどうかしたのか?」
「俺の故郷にも、その家紋と鎧に似たような物がありまして、詳しく聞きたいなと思いまして。」
「何じゃと!これが、そなたの故郷の物と似ているのじゃと?」
「はい、その鎧の紋章は、島津、真田、豊臣の家紋ではないのでしょうか?」
「そなたら、まさかニホンから来た人間なのか?」
「そ‥そうなりますね」
「ニホン?」
ヘクトルは、新とシンゾウの話がよく分からず首を傾げていた。
「‥と言う事は、そなたら相当な力を発揮できるのであろう?」
「はい、この世界の人よりは、そうなりますね」
「なんと‥我が先祖の世界から来た者がまだこの世にいたとは‥」
「それで、多分その鎧、俺達の知る歴史の中に現れた、偉人達の鎧なんじゃないかと聞いてみようと思っていたのです」
「暫しお待ちを」
シンゾウはそう言って、一度部屋を出て行った。
「おい、アラタ、ニホンって何だよ?俺達の世界って何のことだ?」
「ああ、ここにいる、俺、瑞希、フェルナンドさん、カレンさんは地球って世界からこの世界に来たんだ」
「よくわかんねぇが‥つまり、異世界から来たって事か?アカツキの英雄達のような?」
「うん、そう言う事、それで、俺達、地球人はこの世界の人達よりも数倍ステータスが強いってわけ」
「なるほど‥それで、あの身の熟し‥あの大昔のスタンピードを抑えた英雄の力」
俺はヘクトルにそう説明した。
すると、シンゾウが年期の入った分厚い本を持って来た。
「待たせたな」
「いえ」
「この本に英雄達がここへ来てからの記録が書いてあるのじゃ。この本によるとじゃな‥」
シンゾウはその本に書いてある一部の事を俺達に教えてくれた。
≪ある時、薩摩に魔法陣なるものが出現、そこに入った者が目にした物は、魔物、財宝、魔法と言う奇怪な力を使う人々だった。≫
≪この地では、我々は大きな力が備わり、魔物を次々と屠る事が出来ていた。≫
そして、読み聞かせるのも面倒なのでと、シンゾウは俺にその本を見せてくれた。
そこには、最初にこの世界に来たのは、島津豊久率いる55人、後に200人を越える日本人が移住したと書いてあり、魔法陣を行使したハイエルフに従って魔物を倒していったらしいが、その後にもう一度、日本からこちらの世界に来たのが、真田幸村と豊臣秀頼だと書いてあった。
「ねえ、新、真田幸村って私も知っている武将だけど、たしか、その人って関ケ原で負けた後、徳川家康に抵抗して死んでなかったっけ?」
「ああ、そうなんだけど、大阪の陣が終結して、この二人は薩摩に落ち延びたって説があるんだ、実際、鹿児島に墓もあるって何かで読んだことあるから辻褄は合うね」
「え?じゃあ、死んだって人は?」
「影武者か何かだったんじゃないかな?薩摩がこの世界に送って隠したって事なのかも?」
暫くその本を瑞希と読んでいた。
「そなた、アラタと言ったか」
「はい」
「アラタ殿よ、そなたは先祖の力を使えるのであろう?」
「ああ、俺は地球人でもあって、実はこの世界のエルフのハーフでもあるんです」
「ほう‥それで、そなたはどちらで育ったのじゃ?」
「俺は地球で育って、こちらに最近来たんですよ、そこの3人もそうです。俺は、ハイエルフの血があるので、向こうと行き来が出来ますので」
「ふむ‥やはり、こちらで育つと力は受け継がれんわけか‥」
「え?どういうことですか?」
「実はな‥」
シンゾウさんは語ってくれた。
この世界に来て、ここに残った先祖の日本人達は、この世界で子を産み育てたが、生まれ育った者には魔力は備わったが、地球人効果は全く無くなっていたと言った。
なので、ここの人達は、忍びや侍の力を繋いでいくべく、身体能力の高い獣人達と子孫を残していくことを決めたのだと言った。
そして、ハイエルフが魔法陣を繋いだ時に行き来出来たのは、最初にこちらに来た地球人のみで、子孫は地球に行くことも出来なかったのも確認したと言っていた。
「と、いう訳なのじゃ」
「なるほど‥地球人効果は遺伝しないのか‥それでこの国には獣人が多いわけですね‥」
「うむ、英雄達の力があると思わせる事で、我々は外部の人間達からの侵攻されないよう黙って来ておったのじゃ、まあ、今では普通の冒険者より忍術、剣術を扱えるくらいと言うのは、もうバレている事なんじゃがな‥」
なるほどと俺は頷いた。
「アラタ殿よ、我が祖先と同じ故郷のよしみでお願いがあるんじゃ、もしもの時は助太刀をお願い出来るだろうか?そなたが味方にいれば心強い」
「勿論です」
「かたじけない、もう儂らには祖先の力は残ってはおらんのでな、アカツキは小さい国、ヴェルダシュラム公国のような大国が大軍で押し寄せて来たら、この城と言えど守るのは無理じゃ‥」
暫く、その当時の戦国時代の話をして、俺達はシンゾウさんが用意してくれた宿に泊まったのだった。
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