第54話 変人。
次の日。
ヘクトル王子が、東門の所で待ち合わせをしようと言っていたので、俺達はその場所へ向かうことにした。
イシュタルトの東門へ着くと、ヘクトルは門兵の所で待っていた。
「お、来たな」
そう言って、ヘクトルはロンゲ髪を掻き上げた。
「お待たせしました」
「えっと、人数分ラーマを用意したが?」
「あ、乗り物ならありますので」
「そうか」
俺達は、魔素の研究をしている変人エルフの場所へ、ヘクトル王子の案内で向かう事にした。
東門を出ると、俺達は使い魔を呼び出し、フェルナンド、カレンの分のバギーをマジックボックスから出した。
「うお!なんだなんだそれは!?」
ヘクトルはバギーを見て驚き、ジロジロと見ている。
「お‥俺にもそれ乗れるのか?」
「まあ、操作は簡単だが‥乗ってみるか?」
ヘクトルはバギーに釘付けになり、結局、出発を前にして、フェルナンドが後部座席に乗せて一度走ることになった。
フェルナンドはヘクトルを乗せてその辺をぐるっと一周回ってきた。
「最っ高だぜ!バギーってのか、この乗り物。俺もこれに乗りたい!どこで売ってるんだ?フェリオールか?」
「いや‥これは俺達だけの乗り物で売ってないんですけど‥」
興奮冷めないヘクトルに新はそう言った。
「魔力で動いているわけでもなさそうだが‥魔石であんな速度でるのか?」
「実は、化石燃料で‥と言うか、この乗り物を魔力で同じくらいの速度で走れるように、その魔素の研究をしているエルフにいろいろと聞きたいんです」
「なるほどな‥化石燃料?なんかわからんが、その燃料じゃダメなのか?」
「そうですね。希少と言うか、作り方が複雑と言うか‥とりあえず、魔力で走れるようにしたいんですよ」
ふむ。とヘクトルは腕組して、暫くすると頷いた。
そう、ガソリンは多分この世界でも原油を精製することで出来るとは思う。
だが、その原油がどこにあるかも分からない上、あったとしてもそんな物、苦労して作るより、せっかく魔法ってチートな物が存在する世界なのだ、科学でなくても動かせるはずなのだから。
「わかった、アラタと言ったか、もしお前のクランがこれの開発を成功した時には俺にも売ってくれよな!」
髪をかきあげ、親指を立ててヘクトルはそう言い、俺も頷いた。
魔力で動くようになれば、別に、この世界でバギーを量産した所で問題はないだろう。この世界の新たな移動手段の誕生になり、更に俺のクランは独占して稼ぐことも出来る。
まあ‥パンケーキ屋の売り上げもそこそこあるけど、今の所この世界でお金の使い道があるわけでもないんだけどね。
そして俺達は、半日も経たないくらい、ヘクトル王子の案内でその森へ向かった。
「えっと、この森の先に、アイツの住んでる所があるはずだが」
「え?アイツ?ヘクトル王子の知り合いなんですか?」
「その‥なんだ‥王子っての止めてくれないか?俺の事はヘクトルでいいぜ」
森へは、さすがにバギーも入れないので俺達は、徒歩で行くことにした。
道中にヘクトル王子はいろいろと教えてくれた。
まず、ヘクトル王子の事については、殆ど城を抜け出して街や狩りなどをしているらしい。どうやら、あまり自分が王子として特別視されるのが嫌いなようだった。
好奇心が旺盛で、本当は冒険者になりたかったらしい、イシュタルトの次の王は、まだ10歳の弟の第二王子に譲りたいくらいだと言っていた。
あのカレンさんが暴れた酒場も夜な夜な遊びに行く行き付け所だったらしいが‥
そして、この先にいる変人エルフについて聞いてみたのだが、実は、イシュタルトの宮廷魔法師で魔法学校の先生もしていたらしい。
その名をジーウ・レアースと言った。
「そのジーウは、城で爆発騒ぎもそうだったんだが、学校の先生としても、わけのわからない話に脱線したりで、教師を降ろされたんだわ」
「でも、優秀な人なんですよね?そうじゃないと宮廷魔法師とか、なりませんよね?」
「ああ、そうだ、だがな‥ある時、自分は研究をやりたいから全てを辞退すると言って出て行ってしまった、でも、俺とは好奇心旺盛な所とか似てるとこがあるから、気は合ってな、俺が小さな頃から仲は良かったんだよ」
「そうなんですね」
話をしながら、ヘクトルを先頭に俺達は森の中を進んで行く。
すると、木に何かの魔道具が張り付けてある場所を見つけた。
「近いな」
「これ何ですか?」
「これは、ジーウが開発した、魔物を寄せ付けないようにする結界魔道具だな」
「へぇ‥そんな物あるんですね」
更に奥へ進んで行くとログハウスのような建物が見えて来た。
コンコン‥
「ジーウ、いるか?俺だ、ヘクトルだ」
‥‥‥
ノックしたが、応答はない。
「いないようですね」
「ああ」
帰って来るのを待つことにして、ログハウスの前で休憩した。
「そう言えば、ヘクトル王子、俺を探してるって何だったんですか?」
新はヘクトルにそう聞いた。
「あ、まあ、不確定な話なんだが、西の隣国ヴェルダシュラム公国が、なにやら企んでいると言う情報が入ってな」
「企んでるとは‥戦争とかですか?」
「いや、まあ、もしもの話なんだがね、おい、アラタ、俺達もう友達だろ?その敬語とか王子っての止めてくれよ、俺の事はヘクトルで良いって」
「ああ‥ははは」
「で、それを調べるために、イシュタルトの信頼出来る人間を送り込んで、向こうの元老院と接触させたんだが、そいつの様子がおかしくなって帰って来たんだ」
「おかしい‥と言うと?」
「ヴェルダシュラム公国の話をすると、その人間じゃないような顔つきになって何事もなかったと一点張りになるんだ。そして、それだけじゃない‥シノビと言われる斥候が得意なアカツキ国にも依頼して探らせたが、その斥候も戻って来てないと言っていた。これには何かある‥俺はそう睨んでいるんだ」
ヘクトルは、顎に手を添えてそう言った。
「そこで、戦争が起きたら、俺にも参加しろと?」
「まあ、もしもの場合だ、仲間は多い方がいいだろ?俺は、意外と用心深いタイプなのさ、ははは」
そうヘクトルは、髪を掻き上げて笑った。
「ふむ、アラタ、誰か近づいて来るぞ、ふー」
クインがそう鼻を吹いて言った。
ガサガサ‥ズズズ‥
フェルナンドとカレンが、銃に手を掛ける。
「おいおい、結界が張ってあるんだ、魔物じゃないと思うぜ、大体それ武器なのか?初めて見る物だな」
ヘクトルはそう言って、立ち上がり音のする方向を見た。
すると、森の中から、大きなミミズのような魔物を引きずって歩いてくる女が出て来た。
「おりょ?」
「ジーウ、久しぶりだな、5年ぶりか?」
「ありゃぁ‥ヘクトル様ではございませんかぁ。この人達はぁ?‥」
ジーウと言う女性は眼鏡を掛けていて、エルフにしては身長が低く、容姿は良いが、かなり薄汚れていて、髪もボサボサだった。
そして、ジーウは魔法でログハウスの扉を解除して、どうぞと家の中へ入れてくれた。
中へ入ると、そこはまさに研究室のようだった。
いろんな、魔物の頭部や部位が薄汚れたガラスの瓶に入っていたり、何かを調合した後などがそこら中にあった。
「ジーウ、こいつはアラタ、お前に用があるって言うんで、俺が連れて来たってわけだ、元気そうだな」
「ええ、あれからぁ、楽しく研究をしてますよぉ」
「くっさ!お前、いつ湯浴びしたんだよ‥」
「ん~、1ヵ月?2ヵ月?」
そう言われて俺達は、少し部屋の匂いを嗅いだ。
臭いと言われると、嗅ぎたくないが嗅いでしまう物だ。
元々が、妙な匂いがしている部屋なので、ジーウの近くに寄ったヘクトルしか匂いは分からなかった。
「でぇ‥私に用事って何ですかぁ?」
「あ‥初めましてアラタと言います。実は、今ある物を作ろうとしていて、それを魔力の力で動かせるようになりたいんですが、動かすだけなら何とかなるけど、出来ればパワーの出る機械を作りたくて」
「機械?それは魔道具の事ですかぁ?」
「いえ‥あ、じゃあちょっと見てみてください」
そう言って俺はジーウを外へ連れ出し、マジックボックスからバギーを出した。
「おおぉ?マジックボックス持ちだ、それもそんな物が入るくらいの‥」
そうジーウは言葉を漏らした後バギーをじろじろと見る。
俺はバギーのエンジンを掛ける。
キュルル‥ブルン!
!?
「なにそれ!なにそれ!なにそれ!」
今までスローな口調だったのが急に早口になったジーウだった。
「これは、俺の国の乗り物でバギーって言います。化石燃料を使った乗り物なんです、ここでは、ちょっと狭いですが乗って見ますか?」
「うんうんうんうん!」
俺はジーウを後ろに乗せて少し走り出した。
「おおおおおおぉ!これは、いったいどんな仕組みなんだぁ!気になるぅ!」
俺は、ログハウスの周りを一周して戻って来てエンジンを切った。
「これを、出来れば魔力で走れるようにしたいんです」
「なるほどぉ!ふむふむ、これバラしていい?」
「ま‥待ってください、バラした物なら俺のクランにありますので、そちらで見て貰えますか?」
「うんうんうんうん!」
そう言って、俺達はもう一度、建物の中に戻った。
「くんくん‥新‥あんたちょっと臭いわよ‥あの女の匂いが移ったんじゃないの?」
「え?まじ‥」
瑞希が俺に近づいて匂いを嗅いでそう言った。
それから、ジーウは語った。
ジーウはここで、魔力を供給しながら、魔法を増幅させる魔道具を研究していたらしい。そして、その研究で爆発し失敗した数3673回と言っていた。
さっき引きずっていた魔物は、マナイーターと言う、魔素を食って成長する魔物らしく、その魔素を吸う器官を研究に使っていると言っていた。
魔素を吸うので、魔力を供給する事までは成功しているらしいが、その後にそれを増幅させる所で爆発しているとの事。
ジーウは腕に巻いている魔道具を見せてくれた。
それは、魔素を吸って身体に魔力供給することが出来る魔道具だと言った。
それにより、魔法を使っても供給されていくため、魔力切れを起こしにくくなると言う優れ物だった。
「要するにぃ、アラタしゃんの言う事はぁ、魔力を供給出来て、あのバギーと言う物のようにパワーのある機械と言うものを作りたいって事ですよねぇ」
「しゃん‥‥あ‥ああ、そうなりますね」
「よくぞぉ、私を頼ってくれましたぁ!私も、目指す所は同じ事なんですよぉ」
「じゃあ、まず俺達のクラン工房に来て貰えますか?」
「今からですかぁ?‥さっきのマナイーターの器官が劣化する前に3674回目の研究をしたいんだけどなぁ‥フェリオール王国って遠いしぃ‥」
「いえ、俺の魔法なら一瞬で行けますので」
「へ?」
俺のその言葉で、ジーウもそうだったが、ヘクトルまで不思議そうな顔を見せた。
俺は、ゲート魔法を展開し、工房へ繋いだ。
「おおおおぉ‥」
「おわ!何だ‥」
ジーウとヘクトル王子は驚いていた。
そして、皆でゲートを潜り、フェリオール王都の俺のクラン工房まで移動したのだった。
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