第53話 この大陸の全貌と王子。

 俺はいつものように工房に来た。


 そこには、イグルートとフェルナンド、カレンが何かの設計図を作っていた。


「フェルナンドさん、それなんですか?」

「お、アラタ、気になるかい、これはな、レールガンの設計図だ」

「レールガンってなんですか?」


 何かで聞いた事のある兵器の名前だが、よくわからなかったので聞いてみた。


「これは、超電磁砲と言われていて、地球では巨大な兵器なんだ、射程は300km~500km、発射速度は音速マッハ8だ」

「え!マッハ8‥」

「ああ、勿論、電力と空気や天候の状態に左右されるが大体そんなもんだ」


 詳しく聞いたのだが、火薬式ではなく、2本のレールに膨大な電流を流す事で発射するのが超電磁砲レールガンだった。

 地球でも研究されてはいるが、巨大な装置で、一発撃つだけで、膨大な電力もそうだが、レールですら摩擦やなんやらで持たないらしい。


「ふむ、原理はわかったのじゃが‥これに電流を流さないといけないんじゃろ?そうなると、魔力は確実に必要じゃ、フェルナンド殿とカレン殿には完成したとして扱えんぞい?」

「ああ、そうなるが‥そこを魔石とかでなんとかならないのか?」

「無理じゃな、あの大きな魔石をもってしてもバギーを40キロの速度しかだせんから、その速度の発射速度は無理じゃな、火薬式の方が全然速いと思うわい、しかもこれを小型化して使うんじゃろ?アラタ殿の魔力ならあるいは‥じゃが」


 フェルナンドはそれを聞いて、ダメか‥と呟いて項垂れた。


「アラタ殿、やはりその魔素の研究をしている変人エルフに聞くしかないのぅ…物の事はドワーフに、魔法の事はエルフにって事じゃよ」

「ああ、イグが前に言っていた、元魔法学校の研究員だったエルフね」

「うむ」


 前に、イグが話した、隣国イシュタルト王国の、人もあまりこない森の中で魔素の研究をして、よく爆発を起こしていると言っていたエルフの事だった。


「フェルナンドさん、カレンさんが魔力を持つ方法ならあります。」

 俺は、この二人には、この世界での生活の中で信用に値する人間だと判断したので、魔力の泉の話をしようと思った。


「oh!そんなことが出来るのか!」

「ミー達、魔法使えるようになるの?」

「はい、でも、瑞希も魔法を使えますがそれは、地球人の効果の物ではなく人並みより少し上くらいでしたから、通常の魔法が使えるくらいだと思いますが」

「全然良い!それでもいい!」

「ええ、魔法よ魔法!わくわくするぅ」


 二人は大喜びだ‥


「で、アラタ殿、そのエルフを探し会ってみるかの?」

「ああ、そうしよう」


 俺達の次の目標は、その変人エルフに決まった。

 イグ達には、このまま工房にいて貰って、見つけたらゲート魔法で呼べば良いし、俺達は冒険者メンバーで、フェリオール王国の北に位置するイシュタルト王国を目指すことになった。


 ◇


 俺達は早速イシュタルトへ向けて出発した。

 俺が行ったことがある所で一番イシュタルトに近いのは、スタンピードがあった場所の近くに位置する、クラウスの故郷、マアシュタ村だ。

 そこまでは、ゲート魔法で移動してから北のイシュタルト領内に入るつもりだ。


 俺はゲンム、瑞希とレベッカはベガに跨り、マイティはバイちゃんに跨った。

 バギーは、クラウス、フェルナンド、カレン。

 クインは、いつものように並走してついて来る。


 幾つかの小さな町や村などを経由して、イシュタルト王都に着くのに約1週間掛かった。これでも、馬車を使うよりも速いはずなので、それなりに遠かったのだ。


 イシュタルトに着くと、フェリオールと同じくらいの王都であった。

 門にはフェリオール王都と一緒で、門兵が1人ずつ検問しており行列が出来ていた。


 俺達は、そこに並び、クランの冒険者カードを渡すと、すぐに通してくれた。


 長旅で疲れたので、とりあえずは宿を探すことにした。


「へー…フェリオール王国にも負けないくらい賑わってるね」

「ああ、同じくらいの人口がここには住んでいるし、南のフェリオールと、西のヴェルダシュラム公国の行き来もあるからな」


 瑞希の問いにクラウスはそう答えた。


「heiクラウス、この大陸ってどのくらいの広さで、どのくらい国があるんだ?」

「そう言えば、アラタも何も聞いてこないから知っているのかと思っていたが‥知らないのか?」

「ああ‥そう言えば、聞いたことない‥かな?」

「じゃあ、俺が説明してやる、このオブリシア大陸にはな‥」


 クラウスは、宿を探しながら説明してくれた。


 この大陸の大きさは、クラウスの説明から推察すると日本の2~3倍くらいの大きさの大陸で、オーストラリアみたいな形をしているのらしく。


 この大陸には、国が8個あると言った。

 大陸を上から見て、真ん中の下に大きくヘイムベーラ大森林エルファシル、その東にフェリオール王国、その北にイシュタルト王国、西にヴェルダシュラム公国、その西にこの大陸最大国、エイナムル王国、その南に殆ど農家の多いアグニア共和国があり。


 そして、大陸の中央あたりに位置するのが、小さい国が二つ、ヘイムベーラ大森林の北東にアカツキ国、その北西はちょっとした砂漠になっており、そこにナハル小国があるとクラウスは言った。


「と、こんな所だな」

「へ~、結構狭いんだ、この大陸」

「そうだな、俺もフェリオール、イシュタルト、くらいしか詳細は分からないけどな」


 そんな話をしながら歩いていると、正面から砂煙が上がってそれが近づいてくる。


「ん?なんだあれ」


 ドドドドド‥


「だ!誰かとめてくれーー!」


 それは、5匹のラーマが暴走してこちらに走って来る。

 一匹のラーマの手綱にはおっさんが絡まり、引きずられていた。


 俺達の所に来る前に一人の男が、ヒラリと一匹に乗りそれを止めていたが、残りの4匹がその辺の人波を蹴散らし、こちらへ向かって来る。


 クラウスとカレンが、そのラーマにヒラリと手綱をとって乗り制止させることに成功し、俺とフェルナンドが両手を広げ、身体で受け止め制止させた。


「ふい~‥た‥助かった‥」

「おじさん、大丈夫ですか?」


 引きずられていたおっさんに俺はそう言った。


「よお!あんたら、すっげえな!」

 その声の方を見ると、ロンゲ金髪のイケメン‥ではなかったが、サラサラの髪が特徴な男がそう言って、制止させたラーマに乗って近づいて来た。


「そこのボインの姉ちゃんと獣人の身のこなしもそうだが、あんたら暴走したラーマを素手で止めるなんて何者だ?ははは」


 その男は、そう言って前髪を人差し指で払って、そう笑って言った。


「えっと、貴方は?」

「ん?俺か?俺は~通りすがりの者じゃあだめか?」


 俺の問いのそう答えて、前髪を右手で掻き上げた。


「ねね‥アラタ、何このナルシスト‥ほっとこ」

 瑞希がそう俺の隣で囁いた。


「ヘクトル様ーー!!」

「ちっ‥見つかっちまった‥お前達じゃあな!ヒュ~」


 その男は、口笛を吹き、ウインクしてその場から逃げるように去って行った。


「な‥なんだ?」

「あ‥あんた達ありがとな、何に驚いたのか、いきなり一匹がああなったら他の奴らまで暴走しちゃってよ‥済まなかった、被害もあまり出てないみたいだし、ラーマも無事だったし感謝する!ありがとな」


 そう頭を下げて、おっさんはラーマを5匹連れて去って行った。


「アラタ、ヘクトル様って後から追っかけて来た奴ら言っていたよな?」

「ああ、うん」

「ってことは、ありゃ、イシュタルトの第一王子のヘクトルだな」

「え?王子だったんだ?」

「ああ、お調子者だが、国民から尊敬されているって聞いた事がある。悪い奴じゃないと思うぜ」

「あのナルシストが王子なの~‥」


 瑞希は、クラウスの話を聞いてそう言った。


 とりあえず、俺達はその辺の宿を取った。

 夜になり、俺達は観光がてら酒場へ向かって食事を摂ることにした。


「さて‥どうやってその変人エルフを探すかだが‥」

 フェルナンドはそう言って、酒をぐびっと飲んだ。


「ですよね‥森って言ったって、人気のない森なんていくらでもあるしなあ‥」

「ミー、おかわりのエール取って来る」

「はいはい」


 カレンは、カウンターへおかわりを注文しに行った。


「でも、爆発起こしてるとか言っていたから、それなら目撃情報くらいあるんじゃないか?明日冒険者ギルドで聞いてみるか」


 クラウスは、食事を食べながらそう言った。


 ガチャン!

「ん?」


 音がした方を見ると、カレンが大男の右手首を握っていた。

「いででででで!!この女なんて力!」

「一回、死んでみる?」


 新と、フェルナンドはすぐに、カウンターに向かった。

「大体、想像は出来るが、何があった、カレン?」

「この木偶の坊が、ミーのお尻を触ったのよ!」

「うわぁ‥お気の毒に‥ハハハ」


 そう言ってフェルナンドは、ニヤケて席に戻って行った。


「ちょ‥フェルナンドさん止めないんですか?」

「ま、半殺しは覚悟した方が良いだろうな、ハッハッハ!それに大丈夫だ、地球だったとしても、カレンはあんな奴らには負けんよ」

「え‥大丈夫ですか?」


 カレンは、その大男の他にも3人の男に囲まれていた。


「止めろ‥腕が潰れる‥いでで!」

「この程度の力で潰れるの?柔いわね」


 カレンは自分の腕の何倍もある腕のそのまま捻り床に捻り倒した。

 その拍子で鈍い音が聞こえた。


「ぐあああああ!お‥折れ‥ぐあ!」

「てめー、ちょっと触っただけじゃねーか!かかれ!」


 残りの3人は武器を抜いて襲い掛かった。

 カレンはダンスを踊るような動きで、武器を取り一人の男の足を床に串刺し、残りの男もあっと言う間に、腕を折られ倒れていた。


「ぐあああ!」

「何しやがる‥う、腕がああ‥」

「ふん、生きてるだけ有難いと思いなさい!」


 フェルナンド以外の俺達は、ポカンと口を開け、カレンがテーブルに戻って来るのを見ていた。


「ただいま、酒が不味くなったわ」

「‥‥お、おかえり‥カレンさん強いんですね‥」


 俺は、引きつりながらそう言った。


 すると、フードの男が俺達のテーブルに近づいて来た。

「hei、殺される前にとっとと失せた方がいいぞ?今の見てただろ?」


 その男に、フェルナンドはそう言った。

「しーーー…また会ったな、お前達」

「ああん?」

「あ、貴方は昼間の?」


 俺達が、そのフードの顔をよく見ると、昼間のあのナルシスト男だった。


「あんた達、やっぱ只者じゃないな…ははは、俺も一緒に飲んでもいいかい?」


 俺達は、顔を見合わせ。

「うん、どうぞ」


 俺はそう言って、長椅子の隙間を開けた。


「確か、ヘクトル王子様でしたっけ?」

「何だ‥もうバレてるのか‥まあ、いいか…さっきあんた達の会話聞いていたんだが、あの魔素研究しているエルフ探してんだろ?」

「え?知ってるんですか?」

「ああ、知ってる」

「何だって!もう解決だな」


 ヘクトルの言葉に、クラウスはそう言った。


「教えても良いが‥条件がある」

「条件?」

「ああ、お前達、見た事ない顔だが、何処の国の出身だ?この国の強い奴なら大体わかるはずなんだが」

「フェリオール王国から来たんですけど‥」

「やはりな!じゃあ、あのスタンピードの時に魔法を放って一瞬で魔物を消し去った奴を知らないか?」


 え‥それって‥

 みんなの目が俺に集まる。


「へ‥?あんたが、あの魔法を放った人物なのか!?」

「ははは‥そうなりますね‥」

「何だよ、やはり只者じゃねーじゃないか、じゃあ、俺の条件は解決済みだな。明日、そのエルフの所へ連れてってやるよ、それから、俺の話も聞いてくれよな!」


 ヘクトル王子はそう言って、笑って酒を注文しようとした。

 よく見ると、俺達の隣のテーブルには人は座らず、立ち飲みしている人達までいた。

 勿論これは、俺達を警戒して隣に座りたくなかったのだろう。


「これは‥もう俺もバレてそうだな‥お気に入りの場所だったのにな…」

 ヘクトルはそう言って、フードを深々と被った。

 その後、自己紹介と明日の待ち合わせ場所などと雑談を少し交わし、ヘクトルは兵士にバレるとか言って、いそいそと帰って行ったのだった。

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