第47話 エキスパート

 俺はフェルナンドさんを夜になるまで待っていた。


 コンコン…


「はい」

「俺だ」


 玄関を開けると、沢山の荷物を持ったフェルナンドさんとカレンさんが立っていたが、誰かわからないくらい変装していた。


「その恰好…どうしたんですか?」

「いや、いろいろとあって…ちょっと危ない橋を渡ってな、それでお前にお願いがあって来た」


 フェルナンドさんはそう言って、変装を解いた。


 とりあえず、二人を家に入れて、お茶を出した。


「アラタ済まないな急に…後、その宝石は、俺が買い取る。ここに5億入っている」

 そう言って、スーツケースを俺に渡した。


「え?まだ、宝石渡してませんけど…」

「前と同じくらいなんだろ?」

「まあ‥そうですけど」

「それはまだ預かっておいてくれ。それと‥お願いと言うのは、俺達を匿ってくれないか?」


 フェルナンドは真顔でそう言った。


「匿うって…」

「ちょっとヤバい連中に今追われていてな。暫く身を隠せる場所を探しているんだ…」

「それで…ミーとダーは、前からアラタを監視してたの…この家から出て行ってないのに、貴方は、宝石を持って来る、そして、家にも人の気配はしない、そこでミー達はこの家から何処かへ繋がっていると結論づけたのよ、違う?」


 え…監視していたって…

 俺は少し困惑した顔をした。


「勿論、他のバイヤーに接触しないかを監視していたわけで、別にお前を取って食おうとかそんなわけじゃない」


 匿うって、異世界に?…それは可能だけど…言っても信じないだろうしなぁ…


「アラタ…もし、そう言う場所があるのならで良いんだが…」


 俺は暫く考えた。

 異世界に連れて行くことは別に可能だけど…

 まあ、この人のお陰で俺は、日本では億万長者で家も買えたわけだし、異世界で上手く行っているのもある意味、この世界の物を気兼ねなく仕入れできるからね。

 ある程度の信頼はこの人達に置いてはいるからな。


「うーん…わかりました、この家から異世界へ行くことが出来るんです」

「What?…異世界?」

「はい、魔法のある世界です」


 二人は暫く無言だった。


「えっと…信じれませんよね?」

「いや、信じよう…それなら、あの傷のない宝石も納得がいく…地球の物でないのなら」

「その異世界には、ミー達も入れるの?」

「俺がいれば、行き来は出来ます」

「なるほど…そこに俺達を匿うことは出来るか?」

「それは構いませんが…魔物がいる世界なので、危険もあります、そして、俺がもし、死んでしまったりしたら、地球に戻ることも出来ませんが…それでも行きますか?」


 フェルナンドと、カレンはお互いを見て、頷いた。


「ああ、お願いする、日本は狭い…いつか見つかってしまうからな…」

「そんなに、身の危険と言うか…危ない事になっているんですか?…」

「yes…ミーからもお願いします」


 二人は、深刻そうな趣で俺にそう言って頭を下げた。


「…わかりました、では、異世界へご招待します」

「あ、待ってくれ、アラタは銃器を欲しがっていたって事はその魔物と戦うためだったんだろ?」

「まあ、そんな所です」


 最初は…ただ、銃を撃って見たかっただけだったけど…

 まあ、魔物に対して強力なのも分かっているしね。


 そう言うと、フェルナンドとカレンは立ち上がって、玄関に行き外に置いてあった幾つかのケースを家の中に運び込んだ。


「それは?…」

「俺が持っていた銃器と弾だ、アラタがまた追加で頼むかもしれないと、仕入れていた物だ」


 俺はその荷物を覗いたが、銃器の他に、いくつかの種類の手榴弾、双眼鏡、暗視ゴーグル、ドローンまでいろいろ入っていた。


「なんか、凄いですね…」

「俺達は、銃器のエキスパートだ、魔物なんて蹴散らしてくれるから頼りになるぜ!ハッハッハ!」


 俺は、その後、二人に異世界の事を簡単に語った。


 クランと仲間の事。

 従魔クインの事。

 異世界の魔法や魔物の事。

 イセ・スイーツの事。

 そして、俺がハーフエルフだと言う事。


「面白そうじゃないか!異世界!ハッハッハ」

「エルフ?ハーフ?…」

「じゃあ、とりあえずその荷物、俺が預かりますね」


 俺はマジックボックスをあけて、お金の入ったスーツケース、銃器や弾の入った袋やケースなどを入れていく。


「ワオ!魔法だ」

「ああ、これは魔法じゃないんです、能力スキルですね、こちらで言う超能力みたいな物です」


 二人は、空間に開いた穴を不思議そうに見ていた。


「あ、これから、銃器とかどうやって仕入れたら良いんですか?」

「ああ、それなら心配ない、信頼できる人間がいるから、そいつに連絡すればなんとかなる」


 フェルナンドさんは、弾が無くなりそうになった時は、カレンさんとこっちに来て、ある人間と連絡を取れば問題ないと言った。


 そして、フェルナンド、カレンを連れて、魔法陣の壁のある部屋へ移動した。


「ワオ…こりゃ、素晴らしい」

 フェルナンドは、魔法陣を見てそう言った。


 俺が手を触れると、魔法陣の文字が青白く光る。

 そして、手が水の壁に吸い込まれるように入って行く様を見て、二人は驚いている。


「どうぞ、入ってください」

「お…おう…」


 フェルナンドが恐る恐る手を壁に入れ、入って行こうとするが、カレンが背中を押した。

「おい、カレンやめろって!」

「ダー、遅い、ミーも早くその先が見たい」


 二人は壁の向こうへ入ったので、俺も入った。


「ようこそ、魔法のある異世界へ」

 俺が、微笑んでそう言うと、二人はきょとんと、薄暗い祠の中を見渡していた。


「こ…ここが異世界?」

「暗い…」

「もう夜で暗いので、とりあえず一度、俺のクランハウスへ向かいましょうか」


 俺は、ゲート魔法を展開し、ホルンのクランハウスまで、ゲートを繋いだ。


「おお!それが魔法か!」

「はい。この穴に入って貰っても良いですか?」

「お…おう…」


 2人は、俺の言われるがまま、ゲートの中へ入って行った。

 俺達3人は、クランハウスの前に移動し、クランハウスへ入って行く。


「お、アラタ戻った…か?」

 クラウスが、店舗で食事を摂っていて、俺の後からついて来た二人を見て暫く固まって見ていた。


「ああ、この二人、地球人なんだ、いろいろあって暫くここに連れてきたんだ」

「ほう、そっか」


 そう言って、残りの食事を口にしていた。


「おい…アラタ…あのコスプレの男はなんて言っているんだ?」

 そう、フェルナンドさんが俺に耳元で囁いた。


 ああ…そっか、翻訳スキルを持っていないから、この世界の言葉はわからないのか…って、コスプレって…

 俺は少し苦笑いした。


「彼はクラウス・テオドロ、俺の仲間で半分獣人ですよ、後…コスプレではないです…」

「え…あれ、本物の耳なのか?…面白いな異世界」


 そして、一応、店内の椅子に座らせて、話をすることにした。

 二人はキョロキョロしながら、椅子に座った。


「まず、こっちの言葉がわかるように、俺がこれから翻訳スキルを渡しますね、それから、このクランハウスには今、余分な部屋がないので、お二人には宿をとってそっちに今日は寝泊まりしてもらいます」

「スキル?と言うと、さっきの超能力のような物か?」

「そうです」

「へーその能力を、アラタがミー達に渡してくれるって、教えてくれるって事?」

「ああ、カレンさん教えると言うか…ま、まあ、これからやって見ればわかります。」


 俺はマジックボックスから、魔法紙と魔導筆を取り出して、二人の翻訳スキル巻物スクロールを制作した。


 その様子を、二人はじっと見ていた。

「本当に魔法の世界なんだな…」

「うん…」


 俺は、二つのスクロールを作った。


「これで完成しました、後はこれを開けばこの能力スキルを習得できます」

「…おお、開けば?…」

「それから、言い忘れていた事があるんですが、この世界では、地球人はちょっとしたスーパーマンなんです」

「え?ミー達がスーパーマン?」

「はい、地球人がこちらの世界に来ると、身体能力が約5倍以上になるんです」


 二人は、顔を見合わせていた。


「なので、この世界の人と喧嘩とかすることがあったとしたら注意して下さいね」

「あ…ああ、わかった」

「どうりでさっきから身体が軽いと思った」


 俺は、作成したばかりの翻訳スクロールを渡した。

 二人はそれを開きスキルを習得する。

 ルーン文字が身体に吸収され、その魔法紙は熱くない炎に包まれ消滅する。


「あ!この文字が読めるようになった、パンケーキって書いてある」

 カレンは、そう言ってテーブルに置いてある、メニューを指差した。


「新ぁ、おかえり~」

 瑞希が上から降りて来た。


「あれ?外人さん?誰?」

「ああ、こちらが俺が日本で宝石の取引をしていた、バイヤーのフェルナンドさんとパートナーのカレンさん」

「嬢ちゃんどうも」

「彼女は、俺の同級生で地球から連れて来た瑞希って言います」

「ミズキちゃん、宜しくね」

「こちらこそ、宜しくです、フェルナンドさんとカレンさん」


 瑞希もそう挨拶した。

 俺はなんとなく、フェルナンドさん達を鑑定してみた。


 -------------------------------------------------------------------------------

 名前:ブライアン・スミス

 種族:人間

 性別:男

 年齢:32

 体力:198

 筋力:202

 魔力:0   

 敏捷:171

 スキル:翻訳 マーシャルアーツプログラム 地球人効果 


 --------------------------------------------------------------------------------

 名前:シャロン・ミラー

 種族:人間

 性別:女

 年齢:28

 体力:177

 筋力:173

 魔力:0   

 敏捷:208

 スキル:翻訳 マーシャルアーツプログラム 地球人効果 


 --------------------------------------------------------------------------------


「ぶっっ!!」

 俺は鑑定してその能力の凄さに吹き出してしまった。


「ん?どうしたアラタ」

「いえ…お二人の能力が、思った以上に凄かったもので…」

「おー、そんなのも分かるのか?魔法って凄いな」


 魔法じゃないけど、説明も面倒だから、もう魔法って事でいいや。


「本名、ブライアンさんと、シャロンさんって言うんですね」

 それを聞いて、二人は驚いていた。


「凄いな、この世界では隠しようがないって事なのか…」

「でも、生物を見た所で参考までしか分からないのですが…勿論、地球人のお二人には魔力がないので魔法は使えません」

「えー、ミー達も魔法使えるんじゃないの?」

「あはは、カレンさん、私と同じ反応してますね」


 カレンの言った言葉に、瑞希は笑ってそう言った。


「と…とりあえず、この世界にいる間は、その辺を注意していて下さい!それから、これからもフェルナンドさんと、カレンさんって呼んでも良いですかね?もう慣れちゃって…」

「ああ、元々、いくつもの名前使っていたから、名前なんてどうでもいい、好きに呼ぶと良い、ハッハッハ」


 俺は、そう言って、魔法の話から逸らした。

 この人達は、いずれ、地球に戻るわけだから、魔法を使えるようにならなくても良いし、全てを信用したわけではないので、この能力で異世界を無双されても困ると思った。


 そもそも、俺と瑞希の場合は、約5倍くらいの地球人効果だったが、この人達は元軍人だけあって能力がずば抜けている。

 マーシャルアーツってスキルも聞いた事がある。

 たしか軍用に開発された、銃、刃物扱いなどにも精通した近接格闘術だったはず‥つまり、この二人は、銃、刃物、格闘術においてエキスパートなのだ。


 そんなスキルを有している人を、野放しにする事は出来ないので、こっちにいる間は俺の傍に置いていた方が良いと思った。俺には魔法があるから、いざとなった時は、魔法とクインで対処すれば大丈夫だと思う‥多分。


 接している感じからは良い人そうだし、悪人ではないと思うけど、警戒はしていた方が良いだろう。


「とりあえず、フェルナンドさん、カレンさん、近日中に大きな町に引っ越し予定しているので、それまでは二人を近くの宿に案内しますよ、お金はこれを使ってください」

 この世界の金貨を数枚渡した。


「おう、ありがとな」

「後、この町を出たり入ったりするのに身分証を持っていた方が良いと思うので明日、冒険者登録をしに行きましょうか?」

「oh!冒険者!いいねぇ、俺もゲームとか大好きだから、その言葉には憧れるぜハッハッハ」


 それから、俺は近くの宿へ二人を連れて行ったのだった。





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 後書き。


 フェルナンド、カレンに関しては、キャラ分けのつもりで、たまに英語が混ざったりしますが、お気になさらずに‥


 この辺から登場キャラも多くなってきますので、50話くらいに纏めをキャラの整理の話を設けようと思っています。


 まだカクヨムで書き始め、ひと月と少しですが600人を超えるフォロー、沢山の☆評価、♡応援など本当にありがとうございます。

 みるみる、伸びている数字にやる気が出ています!


 いつも、応援有難うございます!

 これからも応援よろしくお願いします。


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