第46話 フェリオール王都へ

 俺は、人魚族のクレンシアを瑞希達に任せて、ミーナさんと王都へ行くのだが、その前にクランの工房に二人で寄った。


 そこでは、ドワーフのイグルート達が、俺が置いていったバギーをバラしていた。


「アラタ殿、魔石じゃ全然駄目じゃな」

「やっぱり駄目かぁ…」

「うむ、大きな魔石をもってしても精々40キロくらいの速度しかでらんのぉ‥この燃える燃料は凄いパワーを生んでおるのじゃな」


 新とイグルートは、腕を組み考えていた。

 ミーナさんは、工房のいろいろな物をジロジロと見回っていた。


「思いついたんじゃが、魔力の研究をしていると言うエルフの話を聞いたことがあるんじゃが」

「魔力の研究しているエルフ?」


 イグが言うには、そのエルフはイシュタルト王国の郊外の森に住んでいて、なにやら怪しい研究をしていて、よく森で爆発を起こしているという。


「わかった、暇になった時にそのエルフを探してみようか」

「うむ、なんでも、魔力の変換を研究していたと聞いたことがあるから、ひょっとしたら何か分かるやも知れんしな…」


 そう言っていると来客が来たので、俺はイグにまた来ると言って去ることにした。

 ミーナさんも、シャンプーを入れるための容器をエグバートさんに何やら頼んでいた。


 この工房は、一応、他の一般客の要望も受け付けているので、こうやって来客は来るのだ。


 俺は、ゲート魔法で王都の近くへゲートを出してミーナさんと移動した。

 フェリオール王都は、相変わらず門の前に人が並んでいた。

 その列の最後尾に並んだ。


「でも、アラタさんのゲート魔法って言うのですか?これは、便利で良いですね、まさかもう王都の前にいるなんて信じられませんわ」

「うん、でも、こうやって少し離れた所にゲートを出さないと、驚かれるからね…」

「そうでしょうね、うふふ」


 ミーナさんと雑談をしながら、暫くしてやっと門を抜けることが出来た。

 そのまま、王城へ向かいパウロさんに会う予定だ。


 門から暫く歩いて王城の前に着き、門兵にパウロさんを呼び出して貰った。


「おお、アラタ様、早かったですな?私も今先ほど王都に着いたばかりだと言うのに…」

「あ、ああ…連絡が早くついたからすぐに追いかけてきたんですよ」

「そうでしたか!では、このままその王様が使っても良いと言っていた屋敷へ行きましょうか?」

「はい、お願いします」


 パウロさんを先頭に、俺とミーナさんは付いて歩いていく。

 すると、見慣れたダークエルフの女性を見かけた。


「あれ?マチルダさん?」

「お?アラタじゃないか、久しぶりだな」


 そこにいたのは、クラン【ルミナスローズ】のマスター、マチルダだった。

「久しぶりですね」

「元気そうだな!ここが私のクランハウスなんだ」


 そう言って、マチルダが指をさした場所を見ると、見事に広い敷地にある屋敷で、奥にも建物が見えた。


「うお!大きい屋敷ですね…」

「私の所は大所帯だからな、こことは別にもう一つ屋敷を持っているんだ」

「へ~、維持するのも大変そうですね」

「まあ、その分仕事も沢山こなしているからな!それで?アラタはまたパウロさんの依頼か何かか?」

「王都に俺のスイーツ店を出そうかと思って、その屋敷の視察ですよ」

「おー!とうとう王都進出か!一度食べに行ったが美味かったもんな!私も出来たら常連になってやるよ~、あはは」

「有難うございます!では、俺達は行くので」

「ああ!楽しみにしてるよ、じゃあな!」


 マチルダさんと別れてその屋敷へ向かう。

 暫く歩いたが、大きな店が多く立ち並ぶ場所にあった。


「ここです」

「え!これ?」


 新も、ミーナも驚いて暫く声が出なかった。

 その建物は5階建ての屋敷で、庭も馬車が何台も停まれる広さもあった。


「パウロさん…これって広すぎないですか?」

「いえいえ、これでも小さいくらいですよ、さっきのマチルダ様のクランハウスくらいが広いって言うんですよ?ほほほ」

「これは…ホルンの方が支店になりますね、アラタさん」


 ミーナさんもそう言ったが、確かにここをクランハウスにした方が良いんじゃないかと思わせるくらいの立派な建物だった。


「ささ、どうぞ中へ」

 パウロさんは、門の鍵を開けて、手で指し示す。


 広い庭を歩いて、建物へ向かった。

 パウロさんは扉を開けて中へ入って行く。


 パウロさんにこの屋敷を案内してもらったが、相当な広さだ。

 各階に部屋が10部屋ずつ、湯浴びする場所も2階と3階に完備してあり、トイレも各階にあった。


「お店にするのなら、1階は全て改装の必要がありますな、ほほほ」

「そうですけど…これ、勝手に改装しても良いんですか?」

「勿論ですよ、お店を作ってもらうためにここをお貸しするのですから」

「家賃とかどうなっておりますの?パウロ様」


 ミーナはパウロに聞いた。


「ああ、家賃は定期的に、アラタ様のパンケーキと、石鹸とシャンプーと言う髪を洗うやつですか?それを城に納品して下さるだけで結構ですとの事です、もう、今王都の裕福層は、アラタ様のクランの物しか使っておりませんよ、ホルンまで買いに行くのが大変なので、転売屋から購入したりしているくらいですから」


 この世界にも転売屋はいるのか…

 まあ、そりゃ魔物が出る道を通って買いに行くのがどれほど危険か、わかる気もするけど…


「転売屋ではおいくらで売ってますの?」

「そうですな…確か…カゼル様の店の倍はしたと思いますが…」

「まあ…倍ですか…」

「では、私は、アンジェリア様のお勉強を見ないといけませんので、これで」


 そう言って、パウロさんは俺に門と入り口の扉の鍵を預けて、帰っていった。


「アラタさん、思ったのですが王都に引っ越ししましょう」

「え?王都に?」

「はい、王都の人口を考えたら、こっちの方が儲かるのと、アラタさんは転移魔法が使えるので地球に行く際もそこまで労はないはず、ホルンはシルビア達に任せておけば問題なく務まると思いますし。ここをクランハウスにしたら、クランの箔も上がると思いますわ」


 確かに、この建物は立派だし、ミーナさんが言うように俺は行った場所なら転移も出来るしゲート魔法もある。

 この敷地と建物なら、クランに箔が付くのもわかる‥引っ越しするか。


「そうですね、その方がもっと依頼もあるだろうし、何かと便利かもしれませんね」

「はい」


 それから、俺はミーナさんと、1階の改装の件で話し合った。


 地下もあったが、そこは勿論、倉庫だ。

 1階は、大半をイセ・スイーツの店だが、カゼルさんの雑貨屋‥いや、もう、俺のクランの雑貨店になるのだと思うが、そこで石鹸とリンス入りシャンプーの販売をメインに売る場所を作るつもりだ。


 2階に、クランの事務所と、応接間を作って、残りは住まいだ。

 事務所は2つの部屋をぶち抜いて繋げ、応接間も3つの部屋を繋げる。


 2人でそう決めて、俺は早速イグに遠距離念話で連絡を取って、ゲート魔法でイグルート、エグバート、オグートをここへ呼んだ。


「ほう…これはまた、広いですな…」

「改装、どのくらいかかる?」

「壁をぶち抜いて、改装するだけなら3日もあれば全て問題ないじゃろう」

「そっか、それから、クランの工房も王都へ移転させるので」

「ふむ、わかりましたぞ」


 こうして、王都引っ越し計画が始動したのだった。


 ◇


 次の日も、ミーナさん、シルビアさんと俺は話し合っていた。


 ホルン店に残るのは、シルビア、ジョラン一家と、新人のイネス、ミリス。


 王都店へは、ミーナ、カゼル一家と、マリルレット、新人のレナータとダリアを連れて行くことになった。


 そして、俺は王都店の仕入れもしなきゃならない、オープンはかなりの来客を予測しないといけないので、地球へ買い出しに行くことにした。


 ◇


 地球に着いて、携帯を見るとフェルナンドさんから、何度か連絡が入っていた。

 俺は、フェルナンドさんに連絡してみた。


 プルルルル‥ピ。

「もしもし、フェルナンドさん?」

『oh!アラタ、やっと連絡貰えたか!実は‥ちょっと頼みがあってな』

「どうしたんですか?宝石も仕入れましたけど、何度か連絡貰っていたようで?」

『ああ、それは勿論、買い取るが今はちょっとタイミングが悪い、今日の夜、お前の家に行ってもいいか?』

「それは全然大丈夫ですけど…」

『わかった、じゃあ、夜に』


 そう言って、フェルナンドさんは、携帯を切った。

 どうしたんだろう、珍しく慌てていたようだったが。


 とりあえず、俺は山口総合物産へ行くことにしたのだった。


 そして、ホットケーキミックス、石鹸、リンス入りシャンプーも大量に購入した。

 それを、骨董屋の店舗に即届けてもらった。


 俺は、フェルナンドさんと会うため、夜になるまで待つことにした。


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