第45話 複数の案件。
30階層の守護者のゴキブリを駆除し、奥のセーフエリアへ入って装備を整える新達。
『アラタさん、聞こえますか?』
『うん?聞こえますよ、ミーナさんどうしました?』
いきなりの念話は、ミーナさんだった。
俺は、皆にちょっと待ってとジェスチャーして下の階へ進むのを静止した。
『あの、3つ伝えたい事があります。アラタさんに会いたいと、青い髪の女性の方が来られているのと、それから冒険者ギルド長のベンザさんって方が用事があると言って来られました、王都のパウロ様も昨日いらっしゃいまして手紙を置いていきましたが‥まだ、戻られませんよね?』
俺は、クラウス達にミーナさんから遠距離念話だと言った。
青い髪の女性?ベンザさんに、パウロさんなんの用だろう。
『わかりました。すぐに帰宅します、って言っても今、ボルボンの町なので帰るのに2~3日かかると思いますが…』
『わかりました、また来られたらそう伝えておきますね』
そう言って念話を終了した。
「ん?急用か?」
クラウスが首を傾げてそう言った。
俺は、ミーナさんが言った用件を皆に伝えた。
「ダンジョンはここまでにしとくか…結構、魔物も強くて、きつくなって来ているからもっと強くなってからまた来よう」
俺はそう言って、皆頷き、切りも良いので地上に戻ることにした。
「無事戻ったみたいだな?ご苦労様、何層まで行けたんだ?」
魔法陣で戻って来た俺達に、ギルド職員はそう聞いてきた。
「30階層の守護者を倒した所までですね」
「おお、ほんとにお前らCランクなのか?あれは、手強かっただろう…お?嬢ちゃんの持っているその杖はもしや!」
そう言って、レベッカの持っていた杖を、ギルド職員は鑑定して驚いていた。
記録させてくれと言って、何やらメモを取っていた。
そして、ダンジョン入り口を外に出ると、すでに夕刻前だったので、今日は宿に泊まり早朝に動くことにしたのだった。
その夜、新は考えていた。
俺だけなら、空間転移魔法で帰れるのだが、皆を置いて行くことになってしまう。
そこで、皆で空間転移出来ないかと考えていたのだ。
そこで、空間転移の魔法を応用してみることにした。
つまり、地球では架空の技術で実現不可能だが、ワープ航行をイメージしたのだった。
A点とB点の空間を捻じ曲げ、点を合わせて穴をあけるのがそれだ。
俺は、その魔法をイメージして試してみた。
男子部屋で、俺が何やら魔法を展開するのをクラウスとマルクは見ている。
両手を前に出して、この場所とクランの店の庭をイメージする。
すると‥空間に歪が出来て穴が出現する。
「お、なんか、穴が開いたぞ…」
「これ…なんですか?」
クラウスもマルクも驚いていた。
穴の中には、イセ・スイーツの庭が見えたり消えたりしている。
もう少し維持しなければと、イメージをもっと強く意識してそこにトンネルを固定するかのようにイメージを切り替えると、一気に安定した。
「お!上手くいった!」
「これは…ホルンか?」
「え…なんで、穴の先にホルンの店が見えるんですか?」
魔力がぐんぐんと消費していくのがわかった。
「後から説明するから、クラウス入ってみて!」
「え?俺?だ…大丈夫なのか?」
クラウスは恐る恐る中に入ると、ホルンの空を見上げ俺の方を見た。
「クインもマルクも早く入って」
「は…はい」
「ふむ」
マルクも向こう側へ潜り、閉店で看板を下げに来たシルビアさんが驚いてこっちに向かって来ているのが見えた。
「ちょっと、いったん閉じるね」
「お‥おう‥」
そう言って、一度その魔法を閉じた。
思った通り、この世界の魔法を使えば地球では不可能な事も実現することが出来た。
これで、移動がずいぶん楽になるはずだが‥母エウロラの怒る顔が浮かんできたので新は、とりあえずこの魔法は自分達だけの物として、心に誓うのだった。
その後、瑞希達の部屋へ行って事情を説明して、宿を出ることにした。
「もう帰られるんですか?今から夜になりますのに…」
「はい、ちょっと急ぎの用が出来まして」
「お兄ちゃんまた来てね!」
「ああ、必ずまた来るから営業頑張ってな!」
「うん!」
ハンナさんと、コリーに、別れを言って宿の外に出た。
そして、人気のない所に移動して、魔法を展開する。
「新、ほんとに一瞬で帰れるの?」
「ああ、名付けてゲート魔法さ」
俺は、さっきと同じように空間を歪めて、今いる場所とホルンの店を繋いで空間に穴を開けた。
「わ~凄い…イセスイーツが見える~」
「新、これってSFとかに出て来るやつ?」
「空間に穴が…」
瑞希達は3人とも驚いていたが、この魔法の維持は俺でも、魔力を使うので早く入ってくれと言った。
瑞希、マイティ、レベッカの順で入って行って、最後に俺が飛び込んで、ゲート魔法を閉じた。
「おかえりなさい、マスター」
そこには、クラウス達の他に、シルビアさんとミーナさんもいた。
「おかえりなさい、アラタさん、凄い魔法ですね‥まさか、全員を移動させる事の出来る魔法ですか?初めて見ました」
「ああ、これ、俺のオリジナルの魔法だから、ミーナさんもシルビアさんも他言無用でお願いね」
「「わかりました」」
俺達は、店の閉店の手伝いをして店内に入った。
「アラタさん、まず、青い髪の女性は、近くの宿で寝泊まりしているとの事で、二日後にまたここに来るとおっしゃってました、そして、ベンザ様ですが、いないのなら急がないからその内顔出すと言って帰って行きました、最後に、王族執事のパウロ様ですが、預かっていたお手紙がこれです」
ミーナさんはそう言って俺にパウロさんからの手紙を手渡した。
俺はその手紙を開くと。
《アラタ様、ミーナ様に聞きました所、王都に支店を出す予定とか、丁度良い所に私は来たようです、実は、アンジェリア王女様が、王都にアラタ様の店を早く出店してほしいと、アルメデオ王に懇願した所、使っていない屋敷を使っても良いと言うお達しを頂きました、詳しい話はまた王都で致しますので、何卒、足をお運びくださいませ。パウロ・グレンシスタ。》
俺はそれを読み上げた。
「あら、良い話ではございませんか?これで、準備は整いましたね」
それを聞いていたミーナさんはそう言った。
「でも、従業員とか雇わないといけないよね?」
「あら?アラタさんが、ボルボンに行った後すぐに、奴隷商会から借金奴隷で良い人を4人雇ってますわ」
「え?そうなの?」
流石、ミーナさん‥仕事が早い。
そう言えば、この件については、ミーナさんに一任しているんだったな。
「まだ、厨房にいると思いますから、アラタさん会って下さいね」
ミーナさんに呼ばれて、厨房から出て来た女性が4人いた。
イネス、レナータ、ダリア、ミリスと紹介を受けた。
皆、20代の女性達だ。
4人は、3階のリビングの広い部屋を共同で寝泊まりさせているとも言っていた。
「皆、筋が良くて3日で仕事を覚えましたわ」
「それは良かった」
「その、王様の用意してくれる屋敷を見に行くのなら私も同行しても宜しいですか?」
「ああ、うん、その方が良いと思う、後、その青い髪の女性には明日会いに行ってみるよ、どこに泊まっているかわかる?」
「はい、聞いております」
俺は、とりあえず一つずつ案件をこなすことにした。
◇
次の日。
俺は、その青い髪の女性が泊っていると言う宿を訪ねた。
「いらっしゃいませ。お泊りを希望ですか?」
「あ、いえ、ここに青い髪の女性が宿泊しているはずなんだけど?」
「そんな方いましたかね…」
え?青い髪なんて珍しいんだけど‥ここじゃないのかな?
「あ!アラタ…さん?」
ん?その声を方を見ると、女性が立っていた。
しかし、髪は俺と一緒の黒色だったが‥どこかで見た事のある顔‥
「あ、えっと」
「クレンシアです!」
そうだ、人魚族のクレンシアだ。
思わず、人魚族のって言いそうになったが、俺はすぐに口を閉じた。
「クレンシアだったね。でも、無事に帰れなかったのかい?」
「あ、ここでは何ですので、アラタさんのクランハウスへ行きましょう」
「あ…うん」
俺はクレンシアと、クランハウスへ戻った。
家に戻り、3階の新しい従業員が使用しているリビングへ移動した。
俺がクレンシアを連れて戻って3階へ上がる際に、瑞希達も一緒について来ていた。
「クレンシアちゃん、髪の色って黒に染めたの?綺麗だったのに」
「いえいえ、これは服と足と一緒で、魔法で変えてます」
瑞希の問いにクレンシアはそう答えると、スッと髪の色が綺麗な青色に変わった。
「最初来た時に、青色の髪って居ないなと思って、目立たないように変えてました」
「そうなんだ…で、クレンシアはなんでここに?」
「実は、あの後この透明になれる布で、隠れて仲間の人魚族を探したのですが…どこにもいなくて…」
「何処かに逃げ隠れたんじゃ?」
「そうだと、本当に嬉しいのですが…近隣で隠れて住めそうな場所は探したんです…ケルピーも大量にいたので、もしかしたら…」
そう言って、クレンシアは悲し気に俯いた。
「そっか…」
「私、陸に上がった事あまりないので、知り合いもアラタさん達くらいしか知らないし、何とかここまで来ました」
「よく、ここまで来れたね、魔力は大丈夫だったのかい?」
「はい、人魚族の魔力は結構あるのです。休息を取りながらなら、陸でも住むことは可能なのですよ」
人魚族とは、元々魔力は高い種族らしい。
なので、マジックボックスも生まれ持っている者も多いらしく。
ここまでのお金とかどうしたのか聞くと、海にはいろんな物が流れて来るらしく、金貨なども勿論流れて来るので、それを人魚族は万が一のために貯めこんでいると言った。
「事情はわかった、俺のクランで良ければ好きなだけいると良いよ」
「うんうん、ちゃん付けもあれだし、クレンシアって呼ぶね、私の部屋で寝泊まりはすればいいし!」
新と瑞希はクレンシアにそう言った。
「良いんですか?…すみません、何から何まで…」
クレンシアは、少し涙を浮かべながらそう言った。
「あー、それからな。俺は人魚族について調べたんだが」
そう口を開いたのはクラウスだった。
「クラウスそんなの調べていたんだ?」
「ああ、でもな、この大陸には少なくとも人魚族を捕まえるような事は聞かないけどな?噂にもなっていないからな」
「そ…そうなんですか?私達は昔から陸の者達には注意しろと聞かされて生きて来たので…」
クレンシアは、そう首を傾げて言った。
「大昔の話なんじゃないか?そもそも、なんで人魚族を捕獲するんだ?」
クラウスはそう聞き返した。
「それは…」
「大丈夫、言いたくないならそれで良いよ、人魚族だって事を隠して置けば問題はないだろう」
俯いたクレンシアに俺はそう言った。
「ごめんなさい…」
クレンシアはそう言ってまた俯いた。
「さて、じゃあ、寝泊まりは瑞希の部屋を使って貰って、俺は、ちょっと王都に行かないといけないから、それまでは瑞希やクラウス達と自由に街を見てみるといいよ」
「はい!ありがとうございます、お世話になります」
クレンシアはそう言って頭を下げた。
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