第41話 クラン工房発足。
次の日の朝。
俺は昨日の事で、まだドキドキして殆ど寝れなかった。
瑞希はあの後すぐに寝てしまったし‥
「う~ん…新…おはよ」
「あ…ああ、俺先にシャワー浴びてくる」
「…うん」
俺は、逃げるように風呂へ向かった。
そして、俺が風呂から上がると、入れ代わりに瑞希が風呂に向かった。
なんか、いつもの調子が出ないままの二人がそこにはいた。
俺は朝食を作り、テーブルに2人分並べた。
「お腹すいたー!」
「え?」
「おー、美味しそ、新って料理上手いよね」
「まあ、ずっと親父と交代で作っていたからな…」
シャワーから戻ってきた瑞希は、いつもの瑞希だった。
2人で朝食を食べ始めた。
「‥‥‥」
「ちょっと!新、何よ朝から暗いよ」
「あ…いや」
「勘違いしないでね、私は…異世界で死ぬかも知れないからそれまでにはと思ってただけだから…」
「うん」
「それに、新はエルフの王子、寿命だって私の約10倍くらいはあるんだから」
「うん」
「私なんて、新からしたらすぐにお婆ちゃんになっちゃうね」
「うん」
「ほ、ほら!早くご飯食べちゃって、冒険に繰り出すわよ!」
「ああ」
瑞希は恥ずかしさを胡麻化して喋っているようにも見えたが。
俺も、恥ずかしさもあって上手く言葉に出来なかった…
みんな初めての時ってどうだったのよ…
沢山友達がいたら、こういう時に早く体験した奴がこうだああだって言っているんだろうな…たいしは…いや、アイツはまだDTだ、絶対そうだ。
俺と瑞希は、食事の後片付けと、洗濯などをしてから異世界へ向かった。
◇
俺と瑞希は、店に帰って来て扉を開けると、開店前で準備と食事を摂っていた。
「おかえり、アラタ、朝からスッキリした顔してんな?ははは」
「は?く、クラウス、おお、俺のどどど、どこが、スッキリしてんだよ!」
「何だ?何、どもってんだお前…」
「ぷっ、あはは」
俺とクラウスのやり取りを、瑞希は見て笑っていた。
「ちょっと、冒険者メンバー諸君、試したいことがあるからちょっと南門の草原の先の森までついて来てくれ」
俺は、気を取り直して、昨日瑞希とテレビを見ていた番組で思いついたことをやってみようと思っていた。
草原の森の入り口についた。
「瑞希、あの大きな木を、その戦斧で切り倒してみてくれ」
「はあ?無理に決まってんじゃない!いくら、地球人効果があると言ってもさ」
渋々、斧を思いっきり大木へ叩きつける瑞希。
ドガッ!!
大きな音を立て、斧は半分くらいまで一撃で減り込んだ。
「すご…」
「‥‥いやいや‥普通そこまで行くかよ」
マイティとクラウスが驚いてそう言っていた。
「じゃあ、ちょっとその斧抜いて持って来てくれ」
「何なのよ…また、私の事スーパーメスゴリラとか言いたいわけ?」
不機嫌に戦斧を持ってきた。
新は、魔導筆を取り出し、戦斧の上でルーン文字を描く。
そして、その魔力の籠ったルーン文字を戦斧に付与させ定着させた。
「瑞希、次はこの戦斧に魔力を通すようにイメージして大木のさっきの所ではない、別の所を狙ってみて」
「はいはい」
瑞希は、言われた通り魔力を斧に伝達させて、大きく振った。
「おりゃ!」
ズン!!
「あれ?」
その大木は、あっさりと戦斧で横一閃、真っ二つになり倒れた。
「へ?」
「何?何が起こってるの?」
皆、驚いていた。
俺は説明した。
これは、戦斧に超微振動を魔導筆で付与したのだと言った。
瑞希以外は、首を傾げていたので教えることにした。
「これはね、魔力を通すと目に見えないくらい、超微振動を起こす様に魔法を付与したんだ」
「なるほどね~、理解したわ」
そう、地球では超音波振動カッターや、メスと言われる物などを、この世界で応用した物だ、刃に振動を与えて切れ味を数倍にするものだ。これを昨日のテレビで見たのだった。
「おお!俺のも付与してくれ!」
「私の剣も!」
皆の武器に
何故かと言うと、勿論、パンケーキ屋でお金が溜まって来たのもあるのだが。
実は、他にも、バギーの燃料とかの問題があるのだ。
地球で、ガソリンを買って帰れるのは22リットル以下までという規制がある、そして貯蔵も届け出やなんやと大変なのだ、出来ることなら魔法のある異世界で魔石か何かで動かせるようにならないか考えたいのだ。
それと…
これは俺の夢なんだけど…
ガ〇ダムみたいな乗り物を作りたい、まあ、無理でもアイアンマンみたいなパワードスーツとか着てみたい!と思っているのだ。
そのためには、クランの開発部門が不可欠と俺は考えていた。
大体、ダンジョン産の武器防具は魅力的だが、欲しい物が出るかなんてほぼ運だ。
そこで、俺は考えたのが、ドワーフの勧誘だった。
物作りならドワーフ。これ常識でしょと言わんばかりに、どこの工房もドワーフがいるわけで。
そして、そのためには、この世界でも稼がないといけない。
開発にはお金がかかるのだ。
なので、ドワーフを雇った後には、ダンジョンにも行って金塊や素材を売って資金にしなければならない、勿論、地球のお金も稼ぐために宝石も必要だ。
それを、皆にも説明すると、快く受け入れてくれた。
「俺の命はお前の物だから、どうだっていいぜ!」
「私も、アラタさんに救われた命なので全然良いです」
「私も同意見です」
「僕もそれで良いです」
クラウス、マイティ、レベッカ、マルクは、そう言ってくれた。
「まあ、私も付き合うわよ」
遅れて瑞希もそう言った。
「皆、有難う。あ、それから、これも訓練しておこうと思ってさ。」
俺は、マジックボックスから、ミニガンをぬっと出した。
「新‥それって映画とかでよく出るやつじゃない…」
「そうそう、ミニガンって言う機関銃だ」
「ま~た、どえらいのを持ち込んだわね…」
瑞希は引きつりながらそう言っていた。
やはり、この重いミニガン、本体だけでも18kgあるのだが、この世界では易々と持つことが出来た。
俺は、フェルナンドさんに教わったように使って見た。
キュルルルルウウウ‥
銃身が高速で回る。
トリガーを引いた瞬間。
ズダーーーーダダーーーーーーーーーーー!!
ドサーーー、ドスン‥
数十秒で、狙った木がハチの巣になり、倒木したのだった。
「‥おいおいおい‥最初の銃器が可愛くみえるくらい恐ろしい武器だなこりゃ‥」
「アラタさんの世界って本当に魔物いないの?‥」
クラウスとレベッカがそれを見てそう言っていた。
これは凄いや‥でも、多分この世界の人には持てないな、地球人の力を持ってしても、撃つときの反動も凄いし素早く動きながらってのは訓練が必要になるかもな。
それから、暫く、据え置きにして試し撃ちを皆でやってみたのだった。
◇
早速、俺は前にコンセント用魔石を作ってくれた、エグバート工房へ行った。
「おー、アラタ殿」
すぐにエグバートが俺に気づいて近づいてきた。
「エグバートさん、実は、ウチのクランで働いてくれるようなドワーフの方いないかなと思って、誰か紹介してもらえませんかね?」
「ううむ。それなら、儂の親父を雇う気はあるか?」
「エグバートさんの親父さんですか?」
「うむ、イグルート、儂の親父の名じゃよ、そして今は鉱山の町ディアムにいる。この間、雇ってもらっておった、貴族の工房をやり方が気に食わんとか言って辞めたとか手紙が来たからの」
エグバートはそう言った。
「イグルートさんと連絡取れますか?」
「おう!任せとけ!その代わり…」
「酒ですね?」
「そうじゃ、そうじゃ!あの酒は美味いからのぉ」
やっぱり…
「でも、安心せい、親父は儂より数段、腕が良いからの!」
「そうなんですか?」
「あの酒をちらつかせば、すぐに協力してくれるじゃろうて、ほっほっほ」
「‥‥‥‥」
結局、酒かい…
まあ、でもこの町で腕が良いって言われている、エグバートさんよりも物作りの腕が良いって期待がもてるよね。
「何時頃、話できそうですか?」
「メルバードを飛ばせば今日中には、向こうに着くじゃろうて」
「メル…バード?」
メルバードとは、こちらの伝書鳩のような魔物だった。
大きさは鳩ほどなのだが、鼻と頭が良く人懐っこいため容易に使い魔に出来るのだと言う、これは、ギルド間の通信手段にも用いられているようで、大事な書簡や個人宛の急ぎの手紙などはメルバードが主流とのことだった。
「へ~、相手の匂いを覚えさせれば、ずっとやり取りが可能なんですね、凄い。」
「儂が、親父との間を取り持ってやるからの!じゃから…」
「酒ですね」
「そうじゃ、そうじゃ!」
「‥‥‥」
◇
数日後。
凄い速さで、イグルートさんはやって来た。
「お主がアラタ殿かえ?」
「えっと‥」
そこにいたのは、全く瓜二つというか、瓜三つのドワーフ3人が並んでいた。
「儂が、エグバートじゃ!なんじゃもう忘れたのか?」
「いや…」
自己紹介を受けたのだが、同じ顔、同じ身長、同じ髭の長さ‥わからんよ。
「儂がイグルートじゃ!お主に仕えれば、すっごい美味い酒をくれると聞いてな、手紙が届いて1分も経たずに、すぐに飛んで来たわい!ほっほっほ!あ、それで隣にいるコイツが、エグバートの弟のオグートじゃ。」
オグートと呼ばれたドワーフは、うんうんと頷いていた。
「わかりました」
「このオグートも雇ってほしいんじゃ、良いかの?」
「まあ、大丈夫です、えっと、早速聞きたいのですが、馬車のような物を魔石とかで動かす事って出来ませんかね?」
「ぬ?馬かラーマではダメなのか?」
とりあえず、見せた方が早いと思って、バギーを出して見せた。
「おお!見た事もない物じゃな…この車輪の材質はなんじゃ?これは鉄でもない…見た事もない柔らかい素材を使っておるがなんじゃ?」
イグルートは、まじまじとバギーを触りながら観察していた。
ここでは、走れないので門の外へ連れて行って、エンジンを掛けると驚いていた。
「凄い乗り物じゃ…これは物作りの血が騒ぐわい、儂はこういうのを待っておったのかもしれん」
「親父…凄いな」
イグルートとエグバートは、そう言って隣でオグートがうんうんと頷いていた。
「これは、燃料を消費して走る車なんですが、これをコンロ魔道具のように動くようにしたいのですが?」
「むう‥それには大きな魔石が必要になるかもしれんが…元々、魔石を言うのは残留魔素の塊じゃ、残留魔素では大きな物を動かすようなパワーは出ないかもしれん…一応試してはみるが…」
俺は、イグルートがホルンに来る間に、工房に使う倉庫のような建物を商人ギルド経由で借りていた。
エグバートはなにやら、急いで自分の工房に戻って行って、次はクラン工房へ、イグルート、オグート2人を連れて行った。
「ほう、そこそこ広い所があった物よのぅ」
「はい、一応、金プレート商人なんで、ギルドが優遇してくれましたからね」
「ほぅ、アラタ殿は、金プレート持ちじゃったか。マジックボックスも持っているので只者ではないとは思うとったがな」
イグルートさん、オグートさんは広さには満足していたようだった。
「一応、研磨魔道具や他の装置などは中古なんですけど…」
「ふん、そんなもん新品より良い物に作り替えてやるわい、儂を誰じゃと思うとる、ほっほっほ」
イグルートは試しに俺に使っている剣を見せろと言って来た。
俺が、剣を渡すと。
「むむ…これは…鈍らな剣のはずなのに…マジックのような物が付与されておるな…」
「さすがですね。俺が作った魔法が付与されているんですよ」
「むう…これをアラタ殿が?…魔力を通すと芯が微振動するようになっておるのだな…なるほど、これなら、少々固い物でも力を使わず切断できそうじゃのう…」
流石、物作りのプロだ。
見て触っただけでその性質を見抜いていた。
「ただ…これでは、この剣がもって数回しか耐えられんじゃろう、儂が強化してやるか、それとももっと良い鉱石を持って来て作るかした方がようじゃろうな」
「そうですか…」
「アラタ殿、儂はもう従業員じゃ、だから儂のことはイグって呼んでくれ、そして敬語は無しじゃ」
「はあ…」
バタン!
「はあ…はあ…」
「あれ?エグバートさん、どうしたんですか?」
「たった今、工房を辞めて来たぞい!だから儂も雇ってくれ!」
「へ?…辞めたって、自分の工房ですよね?」
「ああ、一番弟子に譲って来たわい」
「は?」
「あんな作り甲斐のある物を見せられて、血が騒がんわけなかろう!それに…アラタ殿の酒を貰い忘れていたのでな」
いろいろと思う所はあるけど‥ここにドワーフ親子が3人務めることになり、俺の…いや、クラン、ディファレント・アースの工房が発足したのであった。
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