第40話 大人に。

 海の町ヘレスティアを経由して、俺達はホルンへ戻った。


「ただいま~お母さん!」

「おかえりリーナ、魔力はどうだったの?」

「ほら、見て!」


 リーナは、ミーナの前で両手に水の玉を浮かせて水の形を自在に変えていた。

「え?‥凄い‥」

「でしょ!エルフの人達にもね~、コツを教えてもらったんだ!いひひ」

「アラタさん‥これは一体‥」

「ん?ちゃんと魔力は備わったようだね~、良かった良かった」

「いえ‥リーナの歳で、両手に水の玉を維持して形を変えるとか、魔力が足りない子供には出来ない、先の技術ですよ」

「そ‥そうなの?」


 これは‥俺は、またやってしまったのか?‥

 まあ、魔法に特化した種族のエルフに学んだのなら、それもそうかと思わせておけば良いか‥



 すぐに、俺は地球に店の仕入れに行かねばならなくなった。

 パンケーキ屋は順調に顧客が増えてきているのだが、驚いたのはカゼルさんとこの雑貨屋においていた、地球産の石鹸と、リンスインシャンプーがあれだけあったのに品切れになっていた。


 どうやら、噂が噂を呼び、王都の裕福層が買い漁ったようだ。

 ミーナ商売人の勝利であった。ま、当たり前だけど‥


「あ、そうだ、渡し忘れていたんだけど、これ」

 俺は、ミーナさんにあるものを、マジックボックスから渡した。

「これは何ですか?」

「それはね、ヘアマスクトリートメントと言って、地球の女性達が髪の保湿と内部補修に使っているちょっと贅沢なシャンプーみたいな物?と言った方がいいかな?」


 ミーナさん達は、翻訳スキルを持っているわけではないので、俺が使用方法も読んでやった、早速今日から使ってみるとかで、ちょっと嬉しそうだった。


 俺は早速、地球へ仕入れに行くと言うと、瑞希も一旦戻って家の掃除や、母への連絡もしたいと言っていたので、次の日、一緒に地球に行くことにした。


 ◇


 俺と瑞希は、地球へ戻ってきた。


「じゃあ、新、後から連絡するね!」

「ああ」


 瑞希は、俺が遅かった時のために、俺の家の合鍵を受け取って自分の家へ帰っていった。

 そして、俺は早速、フェルナンドさんに連絡を入れた。


『oh!アラタか!そろそろかと思っていたぜ!ハッハッハ』

「あ、いえ、それが宝石の方はまだなんですが‥銃器の方をお願いしたいと思いまして‥」

『え?アラタ、お前本当に戦争でも起こす気なのか?』

「いえ、ちょっとコレクションにと思って‥」

『ふむ、まあ良い、で、何が欲しいんだ?』

「前買ったやつを、多めにお願いしたいのですが」

『なるほど‥深くは聞かない。それが俺ら闇商だからな!じゃあ、3時間くれ、場所はいつもの駐車場で』

「はい、わかりました」


 俺は携帯を切って、まずは、いつもの仕入れ先、山口総合物産に行くことにした。


 いつものように、沢山仕入れをして、ついでにチョコやお菓子まで買った。

 俺が遅い時の事を考えて、業者には合鍵を預けた、これで俺がいなくてもちゃんと骨董品屋の方に納入されていることだろう。


 そして3時間後。いつもの駐車場についた。


 今回もバンがいつもの場所で停まっていた。

 俺はその隣に停めて降りると、スライドドアが開いて、フェルナンドさんが微笑んで入れとジェスチャーしたので、車に俺は乗り込んでスライドドアを閉めた。

 パートナーのカレンさんは、運転席でサングラスしてガムを噛んでいるのが見えた。


「アラタ、希望の品だ」

「はい」


 そこにファスナーのついた大きな袋を開けると、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフルが5丁ずつ入っていた。


「それから。これなんてどうだ」

 フェルナンドさんが、そこのケースから取り出した物は。

 大きくて、銃身が6本ついている銃器だった。


「す‥凄いですね‥これって戦闘ヘリとかに付いているやつじゃないのですか?」

「oh、よく知ってるな!そう、それを人間が持つように、小型改良したガトリングガン。M134通称ミニガンだ、ハッハッハ!」


 通称ミニガン。

 6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンであり、銃身が回転し、毎分2,000 - 4,000発という単銃身機関銃をはるかに超える発射速度を持つのだ。


「これって持って撃つことも出来るんですか?」

「出来ない事はない‥だが、ぶっ放す反動もそうだが、持つには重いから据え置きで使うのが現実的だろ?でも、銃器最強と言っても過言ではないぞ!ハッハッハ」


 フェルナンドさんはそう言っていたが、地球人はあの異世界では、約5倍以上の身体能力だ、ぶっちゃけ持って撃つくらい出来ると俺は思った。

 撃ってみたい!


「買います!」

「いいねぇ!じゃあ丁度ここに2つあるから、売ってやる」

「はい!」

「所で、あれは、取得するのは結構難しいのか?」

「え、ああ‥結構、危険な所にあるので、早々簡単には行かない物なんです」

「ま、だろうな。簡単に手に入る所にあるわけもないか‥」


 俺は、新しい銃器ミニガンを追加で買った。

 いつものように、フェルナンドさん達が去った後、トランクからマジックボックスへ銃器を仕舞った。


 取引を終え、家に戻る途中に、同級生の川村惣菜店の前を通ると、暇そうにしている、たいしを見つけた。


 車の窓をあけて声を掛けると、降りて来いと言うので隣の駐車場に止めて降りた。

 まだ時間はあるので、ついでにご飯でも食べて行こうと思った。


「新、最近見ないけど、お前何してんの?」

「ああ、ちょっとな、親父の骨董とかを引き継いで海外行ってる事が多いからね」

「海外とか行ってんの!ふぇ‥英語とか喋れるのか?」

「まあね」


 俺は、たいしと惣菜弁当を食べながら雑談をした。


「なあ、聞いてくれよ」

 それから、たいしがビールを持って来て語りだして、2時間もコイツの話を聞いて、俺もほろ酔いになってしまった。


 瑞希には、たいしと飲んで語ってるから遅くなると、メールしていたのでちょっと長居してしまった。


「じゃあ、俺帰るから代行呼ぶわ」

「は~い、愚痴聞いてくれてありがと~ん。ばいば~いあらた~」

 それから代行はすぐに来てくれた。

「酔っ払い、じゃあな」


 俺が代行で家に戻ると、家には灯りが点いていた。

 鍵を開けて中に入ると、瑞希が出て来た。


「新ぁ、あんたおっそ」

「え?お前も飲んでるのか?」

「ちょっとね~、だって遅いから何かテレビでも見て何か飲もうと思ったら、お酒があったからさ…飲んじゃった!ひひひ」


 骨董屋の方を見ると店には、今日の仕入れがたんまり納入されていた。

 俺の目線で瑞希が口を開いた。


「ああ、丁度私が来た時、トラックから積み下ろしをしててさ~」

「あ、そうなんだ?」

 俺は、その仕入れ品をマジックボックスへ仕舞っていく。


「てか、お前酔ってるの?」

「良い感じ~?」

「マジか‥」

「新、今日はもう遅いからさ、たまには地球に泊まろっか」

「って、おい、それは俺の家に泊まるって事かよ?」

「何よ~、異世界だって同じ屋根の下じゃない、いまさら~」


 瑞希は少し酔っているようだった‥

 仕方がない。確かにもう時間も遅いし、明日異世界へ戻ればいいか‥


「新ぁ、この家、食べ物が何にもないんだけど~、ピザとってピザ!一番高い奴!あんた億万長者なんでしょ?」

「はいはい、わかりましたよ…お嬢様」


 俺は、一番高いピザを頼んで、久々にテレビでお笑い番組を見ながら瑞希と笑って過ごした。


 流石に眠くなってきて瑞希に俺のベッドを譲って、俺は来客用の布団を敷いてそこに寝ることにした。


「瑞希、ベッド使って良いからな、俺はこっちで寝るから」

「あい!了解しました!」


 そう言って、電気を消して俺達は就寝した。

 ‥‥‥‥

 ‥‥‥


 1時間ほど寝ただろうか、何やら暑くて目を覚ますと。

 瑞希が俺の布団に入って一緒に寝ていた。


「うお!なんで‥!」

「う~ん?‥ああ‥起こした?ひひひ~」

「お前‥なんでここに!」

「だって、人と寝るのって久々なんだもん」


 明らかにまだ酔ってるなコイツ。


「あっちに寝ろよ‥」

「良いじゃない今日くらい」

「はあ?」

「‥‥‥」

「ねえ‥新。小学生の低学年の頃さ、横断歩道で私の腕を引っ張って事故から助けてくれたことあったの覚えてる?」

「え?そんなことあったか?‥」

「うん、あの時の新って、ほら、変な物が見えるとか、危険を察知する能力があるんだって自分で言ってたんだよ?あの助けてもらった時、本当にそんな能力あるんだろうなって私信じたもん…」


 そう言われると、そんなことあったかもな‥

 それで、友達から気持ち悪がられていた俺と普通に接してくれていたのか。


「あったような、気がして来た‥」


 俺がそう言った瞬間、瑞希は俺に覆いかぶさって来て、唇を重ねた。


 え‥‥?

 俺は驚いて固まってしまった。


「酒臭いでしょ?」

 瑞希の問いに、俺は首を横に振る。


「私は、異世界にずっと居れる決心はつかないけど‥新は向こうにお母さんもいるし異世界に住むんだよね?」

「ああ、一応そのつもりかな?でも、こっちにも帰って来るつもりで壁の魔法陣も守ろうと家も買うわけだし」

「うん、それにハーフエルフなんだもんね、しかも、エルフの国の王子様ってびっくりよね、うふふ」

「はいはい‥どーせ、俺は、ほぼ人間よりのエルフですよ。」


 夜目が慣れて来て、瑞希が微笑んでいるのが薄っすら見えていた。


「新王子様、今日だけで‥良いからさ‥」

「ん?」


 また、瑞希の唇が、俺の唇に触れていた。


 それから‥俺達は身体を重ねあって‥


 お互い、お酒の力を少し借りて、大人への階段を登り切ったのだった。

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