第39話 海の者。
俺達は、朝食を皆で食べていた。
「アラタ、今日帰るんでしょ?」
「うん、もう瑞希にもミーナにも魔力が備わったみたいだし、店も放置したままだと食材が切れちゃうからね」
エウロラは、ぴくっと耳を動かした。
「え?アラタ、ホルンで何かお店をやっているの?」
「ああ、うん、イセ・スイーツってお菓子屋さんをね」
「アラタ‥それはひょっとして、ふわふわで甘~い白い何かが塗ってある、けーきってお菓子じゃないでしょうね」
なんか、エウロラが鋭い目をしている。
ケーキを知っていると言う事は、親父が持ち込んだ事があるんだろうな。
「あー、そっちじゃなくて、パンケーキって、少し甘いパン生地を焼いて、ハチミツを掛けたお菓子だね」
「その材料は今持っているの?」
「ああ、とりあえずいつも、持っているけど…」
ガタッと席を立って、新の隣に近寄るエウロラ。
「アラタ、朝食が終わったらすぐ作りなさい」
「え?…」
朝食を食べ終わり、俺はパンケーキを人数分焼くことになった。
そして、エウロラとヴィクトリアががっついて食べていた。
「こんな美味しいもの、なんで最初にここに来た時に作ってくれなかったのよ」
「アラタお兄様、美味しいです!」
「今度来る時は、あのケーキってのもお願いね!」
本当にこの世界の人は甘い物に目がないな‥
バタン。
クインが、ノソノソと入ってきた。
「あ、クイン…どこ行ってたんだよ?」
「ふむ、たまには妖精の知人にな、ふー」
「クイン、大変だったのよ…ドレイクが2匹も結界を破って来て」
エウロラがクインにそう言った。
「ふむ、そ奴らなら、我が討ちもらしたやつだな、5匹ほど森へ向かって来るのを感知して、3匹は我と妖精達で対処したが、2匹はそっちに行っていたのだな…ふっふー」
「5匹も…仲間を連れてきたのね‥有難うクイン」
「ふむ」
どうやら、クインは他のドレイクを相手していたようだった。
てか、妖精達って言ったけど、クインも友達いるんだね。
クインもパンケーキを、ねだってきたので作ってやった。
俺はこの里で、多くの事を学んだ。
もう、学ぶ事もないくらい上達した、古代の秘術、ルーン文字と付与魔法、そして‥俺の出生の事。
いろいろと衝撃的だったけど、母と会うことも出来たし、全く予想していなかった妹のヴィクトリアまで、まだこの世界に来たばかりだけど、だんだんとこの魔法のある世界に馴染んで行っている自分に気づいたのだった。
それから、後から母が言って驚いたのがもう一つあった。
ハイエルフは最大1500年は寿命があるらしい‥ってことは、俺は普通のエルフと同じくらい生きるという事だった‥
そして、俺達は、エルファシルを後にすることにした。
◇
俺達は、ヘイムベーラ大森林から、ヘレスティアの町まで戻って来ていた。
「ん~、着いたぁ!やっぱこの街は綺麗ね~」
瑞希は背伸びしながらそう言った。
「よし!まずは宿を探そうぜ」
クラウスはそう言って先頭を歩いている。
「ねえねえ、折角さ、海の町に来たんだからさ、夜、海に行こうよ!」
「うん、まあ別に構わないけど」
瑞希はそう楽し気に言っていた。
マイティとマルクは、今日は実家で過ごすと言っていたので、俺、瑞希、クラウス、レベッカ、クインは宿を取って、ディナーに向かうことにした。
「しかしアラタ、お前とあってからと言うもの退屈する暇もないな、はははは!」
「そう?」
「ああ、命を救われ、この国の国王とは会うことになるし、ヘイムベーラ大森林にまで足を踏み入れることになるし、まさか、エルファシルにまで行って、そこのエルフ王妃の息子がアラタ~なんてなぁ‥俺にとっても人生で、普通なら絶対に出会う事のない事続きだぜ」
クラウスは食事を摂りながら、そう言っていた。
「まあ、私もそうよ?新にあそこで、この世界に入って行くとこ見てなかったらさ、つまらない人生歩んでいたのかなと、思っちゃってるもん」
「私も、アラタさんに助けてもらわなかったら今頃…」
瑞希もレベッカも、料理を見ながらそう言った。
俺って、別にそう言うつもりで、やってきたわけじゃないけど‥
皆に、結構影響与えているんだなと思った。
「さ!早く食事食べてさ、今を楽しも!気分が暗くなっちゃうからさ」
「だな」
そして、俺達は夜の海にやって来た。
浜辺の波打ち際で、瑞希は裸足になって遊んでいた。
「みんなも靴脱いでみなよ!気持ちいからさ!」
「俺は遠慮しとく、濡れるのは好きじゃない」
クラウスがそう言って首を横に振っていた。
「あー、猫って濡れるの嫌いなイメージあるもんね、あはは」
「誰が猫だ!俺は獣人だ!」
瑞希はクラウスをからかっていた。
瑞希は、人気のない方へ浜辺づたいに走っていった。
暫くすると。
「ねーー、新!ちょっとこっちに来て!」
俺達は、なんだなんだと、走って瑞希の場所まで向かった。
そこには、溺れたのか人が倒れていた。
「え‥人?」
「じゃ‥ないみたい‥」
俺がそう聞くと、瑞希は少し驚きながらそう言った。
そこに横たわっていたのは、女性だったのだが、下半身が魚のような形をしている‥そう人魚だった。
「こ、これは‥人魚族か?」
「クラウス、知ってるの?」
「ああ、いや‥俺も見るのも初めてなんだが、人魚族ってのがいるって噂だけは聞いた事があっただけだ、まさか実在するのか?」
クラウスは戸惑いながらそう言っていた。
「お嬢さん!大丈夫ですか?」
瑞希が、その人魚を起こそうとするが、全く反応がない。
「どれどれ?」
「ちょっと、新とクラウス、待って!」
瑞希は俺達が近寄ろうとすると、それを止めて、上着を脱いでその子の胸にかけてあげた。
「う‥ん‥」
「あ!気が付いた!」
「ここは‥はっ!人間!」
その人魚は、瑞希の手を振り払って匍匐前進するように腕だけで逃げようとした。
「あ、ちょっと待って…何もしないから」
暫く、匍匐前進したが、動きが止まりぐったりしていた。
瑞希はまた近づいていく。
「何もしないから安心して…ね」
人魚は、恐る恐る頷いた。
「えっと、君は…どうみても人魚だよね…」
そう新は聞いた。
「はい…お願いですから見逃して貰えませんか?…」
「見逃すも何も、何もしないから安心して、いったいどうしてここに?」
人魚は、きょろきょろして、俺を見た。
「ケルピーに追われて‥それで‥」
「ケルピー?」
「ふむ…海にいる魔物だな、ふー」
クインがケルピーと言う名を聞いてそう言った。
クインによると、ケルピーとは海に生息する魔物で、馬のような頭を持つ上半身、下半身は魚の魔物だと言った。
群れで行動することが多く、雑食で獰猛らしい。
そして、この人魚はそのケルピーから逃れてここへ来たのだと言った。
「それで…魔力が枯渇してしまって‥気絶していたようです」
「そっか…いいよ、魔力が回復するまで、俺達が海を警戒しておいてあげるから。俺は新、君を見つけたのが、瑞希でこっちがクラウスとクイン、宜しくね」
俺は、微笑んでそう言った。
「はい…有難うございます、あ、ミズキさん…これ、もう大丈夫です」
胸を隠していた上着を、人魚は瑞希に返す。
「あ!駄目よ、見えちゃう!」
「大丈夫です、ほら」
その人魚の胸には布ではない、何かが覆っていた。
「私は、クレンシアと言います、助けてくれて有難うございます…これは、魔法で服のような物を具現化しているのですよ」
「え、魔法でそんなこと出来るの?」
「はい、本当は足も人間のように作る事が出来るのですが、まだ魔力が足りなくて…」
クレンシアと言う人魚はそう言って、魚の下半身を擦っていた。
「ふむ、まだケルピーはおるな、ふっふー」
「クイン、何とかならないの?」
「我でも、流石に海の中じゃ手も出ないな」
クインでも海の中では、どうしようもないみたいだ。
「大丈夫です…なんとか、私達の隠れ家まで戻りますから」
新は、少し考えて、マジックボックスからある物を取り出した。
「これ、使って戻ると良いよ」
「これは?」
「新…いくら、魔物から隠れるためとはいえ…布とか被って行くとか無理でしょ?」
「ただの布じゃありませんよ~」
呆れてそう言った瑞希に俺はドヤ顔でそう言った。
俺は、布を被って魔力を布に通して、透明になっていく。
「うお!アラタが消えた!」
「わぁ!」
クラウスとレベッカが突然消えた俺に驚いた。
「えー…新、これ何?」
「凄い…陸にはこんな物があるのですね…」
残りの二人もこの反応だった。
「これは、光学迷彩布さ」
消えてはいるが、砂浜に残る俺の足跡でいる場所はバレバレで、俺の足跡をみんな目で追っていた。
「これって、エルフの秘術?」
「そうそう、ほら、甲〇機動隊とか見た事ない?」
「う…知らない…」
「あ…そう…まあ、とりあえず、光を屈折させて透明に見せる布に仕上げたのさ」
「でもさ、そっちからこっちって見えてるの?」
「そう言う魔法を付与したからね、完璧さ」
「魔法って何でもありね…」
瑞希はそう言って引きつった顔をしていた。
「こんな高価そうな物、借りちゃっても宜しいのですか?」
「ああ、魔法を付与したとはいえ、単なる布だったからね、あげるよ」
「いえいえ、家族の無事を確認したら、ちゃんと返しに行きます!どこに行けば返せますか?」
俺はいらないって言ったのだが、どうしても返しに来るって言うので、ホルンの町でお菓子屋を探せば分かると言った。
「アラタさん…あの、何故、私を人魚だと知って捕まえようとしないのですか?」
「え?なんで捕まえるの?」
「それは…知らないのなら良いです」
新を含め、皆が首を傾げていた。
暫くすると、もう大丈夫と、人間の足を魔法で作って立ち。
俺達にお礼を言って、光学迷彩布を被って海に帰って行った。
「行っちゃったね」
「ああ」
人魚なんて、また、メルヘンな者と出会ったなぁ。
これだから、この世界は楽しいんだよね。
そう思いながら、新は、宿へ皆と帰ったのだった。
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