第38話 不可能を可能に。

 エルファシル滞在3日目。

 今日が最終日だ。

 クインは、精霊と用事があると言って、何処かへ行ってしまった。


 魔力の泉での効果は、昨日、母が言ったのが本当ならば、一度入浴するだけで上がっているはず。


「瑞希、もう、魔法使えると思うよ」

「え、ほんとに?」

「手の平に、小さな炎をイメージしてみて?」


 瑞希は目を閉じて、火をイメージした。

 すると手の平に小さな燻りが出来たと思ったら、小さな炎が出来上がった。


「やったーーー!!魔法だー!」

「ほらね。今日は、レベッカやマイティに初歩的な魔法を習うといいよ、地球の科学を思い出せば意外と簡単にイメージできるさ」

「うん、やってみる!これで私も魔法少女だ!」


 少女ではないがな‥

 新は心の中でそう思った。


 そして今日も俺は古代秘術の勉強だ。

 昨日も魔力が枯れるまで、ルーン文字に魔力を込めて書く練習までやった。


 でも、俺はゲームの攻略とかに関しては、一般の人よりはクリアするのが早い方だと思う。なんてったって記憶力は抜群に良いと思うからだ。


 そのお陰で、ゲームものだが、自動車学校だって一発で卒業出来たのだ。

 それと一緒で今回のこの勉強だって、好きなことをやる為だったら何だって集中出来る。


 俺は、もうすでにルーン文字は習得しつつあったのだった。


 そして、数時間訓練して、とうとう、エウロラが持っていた、ステータスを鑑定されなくなる、虚偽の指輪を完成することが出来たのだ。


「おーやった!出来た」

「流石、我が息子ね、飲み込みが早いじゃない」

「有難う、母さん、それで‥試してみたい事があるんだけど、ベッドに敷くシーツくらいの大きな布ある?」

「大きな布?」


 エウロラは、カーテンに使おうと思っていた薄い布を持ってきた。


 俺は、その布にあるルーン魔法を付与した。


「アラタ、大きな布なんかに魔法を付与して何するの?」

「まあ、見てて、地球では不可能な物もここなら‥」


 新はその魔法をイメージし、ルーン文字でそれを描いた。

 空中に描いたルーン文字がその布へ吸収されていった。


「これで良しと」

「何を付与したの?」


 俺はその大きな布を被り、魔力を通す。

 すると‥布が魔力に反応し薄くなり、すぐに透明になった。


「!?」

「アラタお兄ちゃんが消えた!」


 エウロラもヴィクトリアも、透明になった新に驚いていた。

 新は、透明になったまま移動し、ヴィクトリアの後でその布を取る。


「こっち」

「わ!?」


 後ろから現れた俺にヴィクトリアは驚いて尻もちをついた。


「透明になれる布なの?それは驚きね‥」

「うん、これはね、地球ではまだ不可能だけど、原理はわかっている物なんだ。」


 そう、これは地球で言う、光学迷彩だ。


「人の目って言うのは光の反射で物事を見て把握しているんだ、それを、この布で光を屈折させて迂回させることによって、俺が見えないようにしているってわけ」

「全然、わかりません!でも、これは大発明ね。そして、この世界にばら撒いたら駄目よ」

「あ‥うん、それはわかってる、地球の科学と魔法の混合はなるべく身内で使うようにするよ」

「絶対よ!アラタは魔法の使えなかったツヨシと違って規格外なんだから‥」


 この魔法のある世界なら、地球では不可能だったことが魔法と言うチートで実現できることは薄々わかっていた。

 そして、俺はハイエルフの遺伝子と、この魔法筆で一つの物を実現させることが可能となったのだ。


 バタバタバタ!

「ん?」


 ドンドン!

「何事?入りなさい!」

 バタン。

「エウロラ様!ドレイクです!去年のドレイクがまた結界を破ろうとしています!」

「何ですって!‥あのドレイク、エルフの味を占めたか!」

「それと‥2匹います」

「え‥」


 ドレイクって魔物が現れたと言うので、里は大騒ぎだった。

 それは、去年、この里の結界を破って入って来たドレイクだと言う、それも2匹。

 そして、その時は、腹いっぱいになったのか、撃退したのかわからなかったが、飛んで逃げて行ったと言ってた同じ奴に似ていると兵士は言っていた。


「ヴィクトリア、あなたは何処かに隠れていなさい!ヴィクトリアまで失ったらこの里は終わります。地下の泉が良いわ、あそこなら一口の門も固く閉ざせます」

「お母様‥私も魔法で戦います!」

「駄目!お願い」

「う‥うん、わかった‥」

「有難う、アラタ!貴方は戦えるわね」

「うん、大丈夫」


 ヴィクトリアと、エルフの女性と、老人を泉へ避難させて入り口を固く閉ざした。

 俺と、母エウロラは、すぐにドレイクが現れた場所まで急いだ。


 そこに、ライシスが、クラウス達と戻って来た。


「お、アラタ、事情は兵士が伝えに来たぜ!」

 クラウスは走りながらそう言った。


「ああ、俺達も迎え撃つぞ、少し離れた所からそのスナイパーライフルで狙撃してくれ、その50口径の弾なら多分、大ダメージを当てられるはず!」

「了解!」

「じゃ!クラウスと私で、狙撃するね!」

 瑞希は、そう言ってクラウスから銃を受け取っていた。


「レベッカは負傷者が出た場合、治療をお願い。」

「はい!」


 その場所へ急いで行くと、そこまでは大きくないドラゴンのような魔物が、見えない壁を攻撃していて、それをエルフ達が弓を放っていたが、刺さっても致命傷には程遠いくらいの傷しか与えてなかった。


 俺達が到着すると同時に、透明な結界が一瞬だけ壁のような物が見えて砕け散った。


「くっ!結界を破られたか」

 エウロラがそう言った。


 2匹のドレイクは咆哮をあげて、剣で斬りかかって来たエルフの兵士を尻尾で薙ぎ倒し、踏みつける。


 エルフ達は、魔法、弓、剣などで応戦するが、硬い皮膚でダメージが思うように入っていない。


 バサバサと軽く飛んでは、エルフ目掛けて爪、尻尾などで襲っていて、時には火を吐いていた。


 俺は、重力魔法で、動きを止めようと試みる。


 ズン!!

 ドレイクの頭上から重力が圧し掛かる。


 ギャオ!ググル‥

 ズズドン!!

 動きの止まったドレイクに2発の弾丸が飛んでくる。


 ボスッ!ドスッ!


 ギャ!!


 その2発の弾は、胸と頭に命中し1匹目のドレイクは崩れ落ちた。

 俺が後方を確認すると、クラウスと瑞希が、地面に伏せてスナイパーライフルで狙っていた。


 エルフ達は、驚いたがすぐに、もう一匹に目を向けた。


 マイティ、マルクは、さっき持たせていた、アサルトライフルで距離を詰めて撃つ。

 タタタタタタタン!

 タタタ、タタタタン!


 グオオ!


 撃たれたドレイクは、致命傷には至らないが弾痕からは血が噴き出していた。


「おお!いけるぞ!」

 エルフ達はダメージを負ったドレイクを見て士気が上がっていた。


 エウロラが、氷魔法を撃ちだす。

「アイシクルランス!」


 氷が空中に出来て、圧縮していき槍のような形になって飛んでいく。

 その槍は胴体じゃなく翼の部分に突き刺さった。


 乱戦のようになったので、瑞希とクラウスは兵士達がいて狙えなくなっていた。


「お前ら、下がれ!」

 エウロラがそう叫び、エルフ達はドレイクから距離を取った。


 再び、俺とエウロラが重力魔法を放ち、強力な重力がドレイクを地面に圧し付ける。ドレイクは、藻掻いているが、足が地面にめり込んで行く。


 ズドドン!!


 エルフも距離を取り、動きの止まったドレイクを、2発のタングステンの弾丸が貫く。


 パン!


 その2発の弾丸は同時に頭部に命中し、首から上が吹っ飛んだ。

 即死し、体だけ残ったドレイクは重力魔法でそのまま、圧し付けられ地面にめり込んだ。


「おーーーーーー!王の仇をとったぞ!」

 オオオーーーーーー!!

 エルフ達は歓喜をあげた。


 クラウスと瑞希もこちらへ走って来た。

「こいつはすげえや!当たった瞬間吹っ飛んだぜ!」

「クラウスと合わせて同時撃ちしたのよ!上手かったでしょ」

 そうドヤ顔で、クラウスと瑞希は言った。


 俺と、母エウロラが動きを止めたからな‥

 しかも300メートルも離れてなかっただろ‥と言いたかったが、今はうんうんと頷いた。


 ドレイクの死体に近づいてみると、皮膚も分厚かった。

 マイティとマルクのアサルトライフルでは、薄皮一枚を傷つけただけだったことが分かった。


「アラタ、あなた達よくやったわ。重力魔法ね~‥あの武器を使うために足止め狙ったってわけね」

「うん、へへへ」

「所で、クインはどこへ?あの子がいたらもっと楽に立ち回れたかも知れないのに‥」

「さあ?」


 俺は首を傾げてそう言ったが、まあ、クインも妖精の仲間だしこの森でやることもあるのだろうと思った。


 その後、ドラゴン系の肉は、相当に美味いらしいので、今日のディナーはドレイクのステーキだった。


 食卓を皆で囲んでいる。


「アラタ?あの、って武器なんだけど、あれって私達の里にも少し貰えない?ライシスに聞いたけど、相当遠くの物まで破壊出来るらしいじゃないの?」

「え‥ああ、そうだけど‥あれは‥」

「地球の物なんでしょ?」

「あ、うん」

「ツヨシが似たような小さなって言うのを持ってたわ。貴方達みたいな大それた物じゃなかったけど」


 え?親父って銃持ってたの?

 まあ、多分出所は、フェルナンドさんなんだろうな‥


「で?」

「え?‥ああ、うん、明日、帰ったらちょっと買って来るよ」

「そう~ありがと、空間転移の魔法、渡しといて良かったわ」


 俺達は、ドレイクの肉を嗜んだが、こんなにも美味しい物だとは思わなかった。

 これは、そう、黒毛和牛に似ている。

 霜降りで、あの容姿からは想像も出来ないそんな味だった。


 それから、また夜には魔力の泉に入ることになった。


 かぽーーーーーーん‥


「今日で最後か‥この壁を見るのも」

「ああ」

「そうですね」

 俺、クラウス、マルクはそう言って壁を向いていた。


「しかし、アラタの持って来たあの武器の感触が忘れられない」

「そんな快感だったのか?クラウス。」

「ああ、風とかを計算して撃ってあの頭に命中した時なんてな!あはは」

「え?そんな事も考えていたんだ?瑞希も?」

「さあ、ミズキは感で撃ったか、まぐれだったとかか?」

「へ~‥だよな」

「まぐれがなんだって?聞こえてるわよ!」

「‥‥‥」


 何にせよ、明日はホルンへ向けて帰ることになる。

 また、ヘレスティアを経由することになると思うが、有意義な時間だったと思ったのだった。


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