第36話 魔力の泉。

 母エウロラに、必要な事を言われて一度、皆が待つ部屋へ戻った。

「新、おかえり」

「うん、ただいま」


 そこには、夕食が運ばれていた。

 料理は、魚とキノコを主体とした料理だった。


「新、これ美味しいよ。この果物のソースなのかな?これが意外と魚に合うのよ。」


 瑞希はそう言って、俺にその料理を勧めてた。

「あ、美味しい」

「でしょ」

「エルフが栽培している果物は別格って言うからな。何でも精霊と話が出来るから旨味成分を最大限に引き出せるんだとか、聞いたことがある」


 クラウスが瑞希にそう言った。


「へ~エルフの果物って有名なのね」


 俺達はエルフの料理を嗜んだ。


「それで、新、エウロラさん何だったの?」

「ああ、エルフの秘術を勉強しましょうだってさ」

「ふ~ん」


 暫く、夕食を食べながら、みんなで雑談していると、兵士がノックして入って来た。

「アラタ様、泉の準備が整いました、この服で泉に入りますので下着も脱いで、こちらに着替えて奥の部屋まで来てください」


 兵士は、そこに人数分の着替えを置いて去って行った。

「なんだこれ?珍しい服を置いて行ったぞ?」

 食事を早く食べ終わった、クラウスがそう言っていた。


「あれ?これって温泉とかにある浴衣じゃん」

 瑞希がそれを見てそう言った。


「え?浴衣?なんでそんなものがここに?」

 俺もそれを見て驚いた。


 一応、皆、浴衣に着替えた。


「これって‥まさか、混浴の温泉とか?」

「そんなまさか?」

 瑞希がそう言ったが俺はそれはないと思った‥が。



 かぽーーーーん‥

 まんま、その魔力の泉は温泉だった。


「新‥やっぱり温泉じゃない‥」

「俺に言うな‥」

 瑞希と俺は引きつった顔をした。


 その温泉‥いや、泉は宮殿の奥の部屋から地下への階段があってその先にあった。

 普通に温泉。湯も温かい、驚いたのは見た事のある、黄色い桶が置いてあった。


「こ‥これは‥」

「これ、私も見た事ある‥」


 そこに置いてあったのは、昔の銭湯で定番に置いてあった黄色いプラスチック洗面器で、内側に、「頭痛、生理痛、歯痛‥ケ〇リン」と書いてあった」

「完全に地球の物だな‥これは」

「間違いないね」


 俺は、親父が持ち込んだ物だと悟った。


「さあ、皆さん入りますよ」

 エウロラがそう言って、みんなでぞろぞろと浴衣のまま泉へ浸かった。


 入った瞬間、女性陣の浴衣が湯で肌に張り付き、身体の線が露わになったので、俺とクラウス、マルクはすぐに壁の方を向いて浸かった。


「ちょ!ちょっとこの浴衣、やばくない?」

「きゃ!ほんとだ‥薄っすら透けてますね」

「あらあら、あなた達そんなこと気にするの?これはね、アラタのお父さんのツヨシから地球の温泉って言うのを聞いてたから、それを参考に作ったのよ。ねぇこんな感じで良いのアラタ?」


 俺に話しかけないでくれ‥

 親父め‥どう言ったら混浴になるんだ。


「ねえ、アラタ」

 そう言ってエウロラが俺に近づいて来た。

 完全に浴衣が身体に張り付いて、胸のてっぺんが透けて見えていた。


「どわ!」


 俺は驚き仰け反り、クラウスとマルクは一瞬エウロラの胸の目が行き、顔を赤くしてそっぽを向いていた。そして、一瞬、瑞希達の方を見たら、瑞希達も俺達に見えないよう、反対側を向いていた。


「なんで、そんなに驚くのよ、失礼しちゃうわね」

「いや‥ほら、何か間違った事、親父から聞いたんじゃないこれ?‥」

「え?よく聞かされていたわよ?日本の温泉ってやつじゃないの?」


 あの‥エロ親父、へんな教え方してんなよ。

 まあ、これはこれで‥違う、そうじゃない‥

 しかし、母エウロラは何歳なんだ、あの美貌とこのスタイル、あーいかん、母だぞ母。


「アラタァ‥あんたやらしいこと想像してるでしょ?」

「か、母さん!そんなわけないでしょ!それより何?」

「皆にも言うけど、この泉の話は他言無用よ、わかった?」


 皆、頷いていた。


「この浴衣も桶も、ツヨシが持って来たものなのよ」

「でしょうね‥」

「去年までは、お蔵入りしていたんだけど、旦那がいなくなって、いつツヨシが来ても良いように、こうやって準備していたんだけどね」

「そうなんだ‥でも、大体の温泉って俺の知ってる限り、男女別々でこんなの稀な所しかないよ」

「あら、そうなの?気に入ったのに」


 暫く、母と俺は、目のやり場に困ったが、泉に浸かりながら雑談していた。


 泉からは女性陣から出ると言う事だったので、着替えている間、俺、クラウス、マルクは男同士会話していた。


「マルク、エルフは魔法と弓術は定評あるから、この里にいる間勉強したらどうだ?」

 クラウスがそう言った。


「そうなんですね。僕も、もっと弓上手くなりたい」

「じゃあ俺が、あとから母に言っといてやるよ、素晴らしいコーチをつけてくれってね。」

「ありがとうございます!」


 暫くすると、出ても良いとマイティが叫んで教えてくれたので、男性陣も泉を出ることにした。


 それから、俺達は早めにその日は就寝したのだった。


 ◇


 2日目の朝。

 妹のヴィクトリアが、俺達を起こしに来た。

「おはようございます、アラタお兄様。食堂に朝食を準備していますので、皆さんでお越しください」

「んん‥わかった」


 ヴィクトリアは、部屋のカーテンを次々に開けていき、少し窓をあけていた。

 森の新鮮な空気が、部屋に入って来て、太陽の木漏れ日が部屋にまで差し込み眩しかった。


「皆さん、今日は、アラタお兄様以外は、夜までは自由にしてください」

「あ、えっと、マルクに弓の上手いエルフの方を、紹介して練習させてほしいのと、出来れば、少し開けた場所があると他の訓練も出来るんだけど、そんな所ないかな?」

「あ、私達の魔法訓練場なら、木々の間の開けた場所がありますが?」

「それならそこで、訓練したいことがあるんだけど」


 ヴィクトリアにそう言うと、快く頷いてくれた。


 朝食後、その訓練場にヴィクトリアに案内されて向かった。

「この彼が、エルファシル随一の弓の名手、ライシスと言う者です」

 ライシスと言うエルフは、俺達に軽く一礼した。


 そして、その魔法訓練場とは、ヘイムベーラ大森林の中にぽっかり空いた何もない草原の場所だった。その広さも中学校の校庭が4つは入るのではないかと言うほどの広さだった。


「宜しくお願いします。このマルクに弓術を教えてやって欲しいのです」

「わかりました、アラタ様、私がみっちりと鍛えてあげましょう」

「宜しくです、ライシスさん」

 マルクは、ライシスにそう挨拶した。


 そして俺は、双眼鏡と銃器を取り出し、瑞希達に渡す。

「マルク、お前も弓の訓練の後でいいから、この銃を練習してて欲しい」

?」


 マルク、ライシス、ヴィクトリアは、クラウス達が所持している銃を、首を傾げて見ていた。


「瑞希、今回は、スナイパーライフルを訓練していてくれ」

「この長い銃ね?」

「うん、ベスト射程距離は約500m~1000m。最大は3~4キロだと思うけど、素人では多分無理だから、ベストの距離くらいを訓練していて貰えるかな?」

「うん、わかった」

「何かの的を立てて、1人が双眼鏡で覗いて、当たったか確認するといいよ」


 皆頷いて練習に入った。

 そして、クラウスが最初に700mくらい遠くにある岩を狙い一発撃った。


 ズドン!


 その岩は弾けて粉々になった。

「え?クラウスお前上手いな‥」

「俺は器用なのが取り柄でね、へへ」


 マルク、ライシスは目を丸くして驚いていた。


「アラタさん‥じゅうって武器あったら、弓いらないんじゃないですか‥」

「なんだ‥その武器は‥あんな所に弧も描かず届くのか‥」


 俺は、弾を沢山おいて、基本的に使いやすいショットガン、アサルトライフルもクラウスに渡して、マルクにも少し練習させるように言った。


 そして、俺はヴィクトリアとエウロラの仕事部屋に行くことにした。


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