第34話 ヘイムベーラ大森林。

 ヘレスティアに着いて二日目。


 早朝に、マイティが宿の俺達の元へやって来た。


「あれ?マイティ、もう大丈夫なのか?」

「おはようございます、アラタさん。あの薬って凄いんですね!」

「え?凄いって何が?」

「あの後、アラタさんが作った雑炊を食べて、貰った薬を飲ませたら1時間くらいしたら元気になって、食欲も出て今日は普通に内職の材料を取りに行って仕事してますよ!地球って凄いですね。」


 え?おかしいな‥普通の総合風邪薬だったんだけど‥余程、薬との相性が良かったんだろうな。


「そっか、それは良かった‥けど、なんでマルクがそこに居るんだい?」

 マイティと並んで、弟のマルクがそこにはいた。


「実は‥どうしてもついていくんだって聞かなくて‥」

「うん、僕ももう15だから、姉ちゃんみたいに冒険者になって稼ぎたいんです!アラタさん、どうか僕も連れて行って下さい!」


 マルクは俺の前に出て深々頭を下げている。


「えっと‥まあ、俺は構わないけど、マイティと両親はどう思ってるの?」

「私は‥このくらいの歳の頃に家を飛び出したから‥何も言えなくて。母も元気になったし、父は漁師の仕事はさせたくないから、好きにしたら良いって言ってて‥」


 なるほど‥

 しかし‥この世界の人は15になったら死と隣り合わせの冒険者になるとか凄いよね。俺なんて交通事故も起きない部屋の中にずっといたよ‥


「僕、即席の弓だったけど、ずっと船に乗りながら鳥とかを的に訓練して来たから、弓だけは自信あります」

「そっか、わかった、じゃあ付いて来ると良いよ、ただ、冒険者ってのは死と隣り合わせだって事忘れないように。」

「わかりました!」


 偉そうなこと言ったけど、もし、死んだらどうするんだよ‥俺。

 クランマスターとして責任重大だぞ‥


「アラタさん有難うございます。マルクは責任をもってちゃんと教育しますので、宜しくお願いします」

 マイティはそう言って、俺に頭を下げた。


 ちょっと弓の得意な少年冒険者が加わったのだった。

 マルクの即席の弓ってのを見せてもらったが、それはもうお粗末なもので、しなる木の枝に少し丈夫な弦を結んだだけの弓のような物だった。


 その後に、マイティがちゃんとした弓を買ってやる事になったのだが、武具屋で試し撃ちを見ていたが、船に乗りながら飛ぶ鳥を的にしていただけあって、足腰の強さと動体視力の良さが際立ち、更にちゃんとした弓を使うと、動く的に10本中9本が当たっていた。


「さて、じゃあ、ヘイムベーラ大森林へ向かうとするか!」

 クラウスがそう言って立ち上がった。


 皆、頷き、ヘレスティアの西門へ向かった。


 ◇


 門を出て、ゲンム、ベガ、バイちゃんを各自召喚し、クラウスにバギーをマジックボックスから出した。


 マルクは、みんなの使い魔と、見たこともないバギーに驚いていた。

 マイティが、バイちゃんに跨り、マルクにおいでと言ったが、バイちゃんはまた不機嫌そうだったため、クラウスがバギーに乗せることになった。


 クインはいつものように並走して走る。



 そして、何事もなく一日目の夜、道中でキャンプをすることになった。

 新と瑞希が、カレーライスを準備して、皆へ配った。


「クラウスってさ、エルファシル行ったことあるの?」

 新はそう聞いた。

「いや、ヘイムベーラ大森林ってのはな、別名、精霊の森って呼ばれていて、普通の人は足を踏み入れない場所で、神聖な場所だとされているんだ。そしてその中にあると言うエルフの里なんてもっと行けるわけがない」


 各地に行ったことがあるクラウスでも、行ったことはないと言っているが、どんなとこなのだろう。


「ふむ、我はあるがな」

「え?クイン行ったことあるんだ?」

「ふむ。我も一応、妖精だからな、精霊とは遠からずもない者だからな、ふー」


 クインはそう言って鼻を鳴らしていた。


「アラタさん、やっとお母さんに会えますね」

 レベッカがそう言った。

「うん、でも何だろ‥なんで、親父と俺は地球に帰ったんだろうと思ってね、別にこの世界で一緒に暮らしてもよかったと思わないか?」

「う~ん。やっぱ地球で育てたかったとか?」

「それは、あれじゃないのか?地球って所には魔物がいないんだろ?」

「うん」

「そりゃ、危険もないしそっちの方が育てやすいだろ?こんな美味しい料理もあるわけだし」


 クラウスはそう言って、カレーを頬張り満足そうな顔をしていた。

 どちらにしても、母に聞きたいことは山ほどあるわけで。

 それももうすぐ、会って聞くことが出来ると思うと嬉しいような怖いようなそんな感じだった。


「でも、いいな。私なんて両親いないから」

「え?レベッカって両親いないの?」

「私、孤児なので神聖教会育ちなんです」

「神聖教会?」

「はい、どの町にもありますよ、気付きませんでした?」

「そ‥そうだったかな?はは‥」

「主に、教会は治癒者ヒーラーとしての務めを果たしているんです。私が持ってる生命神の加護ってスキルは、教会で学んだ人間にたまに目覚めるんですよ?」


 そうレベッカは語った。

 神聖教会、つまり神聖魔法師が育てられている場所なんだと言った。

 治療ヒール魔法は、生命神の加護ってスキルを習得しないといけないらしいが、誰もがその能力に目覚めるわけではないと言った。


 神聖教会では、孤児の子供などを預かり育て、生命神の加護を受けるための修行をする場なのだと言う。勿論、ヒーラーになりたくて門を叩く人もいるらしい。

 こんな魔物のいる世界だ、レベッカのような孤児は普通に多いらしい。


「私の両親は、王都からホルンへ馬車で移動中に野盗に襲われたらしくて、そこに通りかかった冒険者が野党を倒して、赤子だった私を教会へ預けたと聞いてます。名前もわからなかったので、教会がレベッカってつけてくれたんですよ」


 なるほど‥だから鑑定した時に、レベッカには苗字のようなものがなく、レベッカってだけ見えたのか。


「そうなんだ‥大変だったんだね」

「そんなことないですよ、私は10歳のころには生命神の加護に目覚めて、冒険者になるまで5年間ヒーラーとしての魔法を学んで16歳には冒険者になれましたから」


 レベッカは微笑んでそう言っていた。


「もし、スキルを習得出来なかった人はどうするの?」

「うーん、それでも冒険者になるか、教会の仕事をずっとやっていくか‥ですかね」


 俺は、ふ~んと頷いた。


「だから、アラタさんは私からしたら羨ましいんですよ。だって、母が生きてることも所在だってわかっているんですもの」

「ああ‥そうだね」

「そろそろ、片付けて寝るよ~」


 瑞希が片付けしながら、焚火で話している俺達にそう言った。


 新達は、その日はテントで就寝した。


 ◇


 俺達は、それから1日半かけてとうとう、ヘイムベーラ大森林へ着いた。

 大きな森が鬱蒼と広がっている。


「見渡す限りの森だね‥本当にこの中にエルフの里なんてあるの?」

 瑞希がそう言って周りを見渡していた。


 俺達は、その大森林へ足を踏み入れる。

 どこかで、ギイギイとか、ピイーとか何かの鳴き声も聞こえる。


「これ‥どう進んでいるのか、木ばかりで全然わかんないな」

 俺はきょろきょろしながら呟いた。


 すると、開けた場所に出たと思ったら、さっき入って来た所に戻って来てしまった。


「あれ?ここさっきのとこだな、バギーのタイヤの跡がある」

 クラウスはタイヤ痕を見ながらそう言った。

「ほんとだ」

「ふむ、妖精ピクシーに悪戯をうけているようだな、ふー」


 クインが結界魔法を展開し、その悪戯魔法を掻き消し歩き出す。

 すると、結界が解かれたのが気になったのか、小さな羽の生えた妖精が数人飛んで何やら話をしているようだった。


 クインを先頭に森の奥へ進んで行く。


 次は、白雪姫に出て来た小人が出てきた。


「むむむ‥この森によう入れたな、お主ら何者じゃい?」

「ふむ。土妖精ノームか、我達はエルファシルへ向かっておる、通してくれるか?ふー」

犬妖精クー・シーか、珍しいのぅ、進むのは勝手じゃが、もし悪さするようならただじゃおかんぞ?」

「ふむ、我の後ろにいるのはエウロラの息子だ、何も悪さなどせんわ、ふっふー」

「むむ?エウロラ様の息子?‥‥」


 その小人が数人、俺の周りを囲んでじっと俺を見る。


「うむ、たしかにハイエルフの魔力を感じるわい」

「だな、じゃあ、通って良しじゃ!」


 俺の魔力がハイエルフ?の物だと言って通してくれた。


 更にどんどん深い森を進んで行く。


 次は、小さな池の横を通りかかると、水の上に浮かんでいる精霊がいた。

「クイン、あの人達は水の精霊?」

「ふむ、ウンディーネ達だな、上にはシルフィード達がいるぞ、ふー」


 そう言われて上を見上げると、羽の生えた少し大きな精霊が飛んでいた。

「うわぁ‥幻想の世界ね‥」

「そうだね‥精霊が勢ぞろいしている森みたいだ」

 瑞希と俺は、口を開けたまま周りを見渡し進んでいた。

 他の皆も、初めて来る森に感動すらしていた。


 それから2時間ほどだろうか、疲れて来たくらいの頃に、ひと際森が鬱蒼としている場所が見えて来た。

 そこは、木々の高さが異常に高くて空すら見えなくなってきていた。


「ふむ、この先だ、ふー」

 クインがそう言って、その森の奥を見つめている。


「止まれ!」

 いきなり声がして、俺達は足を止めた。


 エルフ数人が弓を引きながら、森から出て来た。

「この森にここまで入って来れるとは、何者だ?」

「えっと、母に‥‥いや、エウロラさんに会いに来たんですが‥」

「エウロラ様に?」


 エルフ達は、顔を見合わせていた。


「貴様、人間のくせになぜエウロラ様に会おうとする?」

「え?あ‥俺、一応ハーフエルフなんですけど?」


 またエルフ達は顔を見合わせて、1人がこちらに近づいて来た。


 エルフは俺の肩に触れた。

「た、確かに‥エルフの魔力だが‥これは‥」

「触れて、それが分かるんですか?」

「ああ、魔力も種族それぞれ違う、お前の魔力色はエルフだが‥もっと‥いや、そんなはずはない、我が種族の血が入っているのは分かった、それでエウロラ様に会ってどうするつもりだ?」


 さっきから皆、この森の人達は、母の事を様付けだけど‥母は偉い人なのかな?


「いや、ちょっと聞きたいことがありまして」

「ふむ、こやつは、エウロラの息子だ、さっさと道をあけい、ふっふ」

 クインは苛立ちそう言った。


「な!?何?」


 エルフは驚いて、何やら話をしている。

「暫し、ここで待て」


 エルフの一人が、森の中へ入って行った。


 暫くすると、森の奥にいったエルフが帰って来て、数人に話を通した。

「よし、俺について来い!」


 エルフが森に手を翳すと、何やら結界のような物に穴が開いてそこを潜った。


 すると、そこは森に囲まれて、結界に隠された大きな里があった。

 木々と一体になった里、ここがエルファシル。


 新達は一瞬、その幻想的な景色に目を奪われたのだった。

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