第33話 海の町ヘレスティア

 新達は海の町ヘレスティアに着いた。


 街の入り口から海岸に下っていくように作られた、ホルンと同等くらいの王都からしたら半分くらいの町だった。


「うわ~~~綺麗」

「これは絶景だね」

 瑞希と俺は、街を眺めてそう言った。

 海鳥が鳴いて、ヘレスティアの北門を入った所から街を見下ろすような絶景、オーシャンビューだったのだ。


 夕刻だったためか、夕焼け空が綺麗で暫くみんな見惚れていた。


「とりあえず宿だな」

 クラウスがそう言った。


「うん、適当な所を探そう、その後は晩飯食べようお腹すいた‥」

 新は、お腹を押さえてそう言って歩き出した。


「マイティ、今日はもう遅いから明日実家に一緒に行こうよ」

 レベッカはマイティにそう言った。

「うん、ありがとうレベッカ、勿論そうするよ」


 宿はすぐに見つかり、男と女別々で2部屋とった。


 それから、皆で夜の海の街をぶらっと見て回った。

 潮の香が漂っていて、なんとも風情があった、高い建物などはないが、海岸へ向け下って街が作られているので、テラスのある店なども多かった。


 その一つの、食事屋に入ってテラスを陣取って、みんながレッドブルのステーキが良いと言うのでそれを注文をした。


「ここいいね~!海も見えるし、お酒もあるじゃないの!」

「え?瑞希お前って酒飲めたんだっけ?」

「勿論、ハタチになった瞬間飲んだわよ。強くはないけど、嫌な事忘れる事出来るなーって思ってね」

「そうなんだ、まあ、俺も親父に付き合わされて、18の頃くらいから飲まされていたしな‥」


 俺と、瑞希、クラウスは、エールも注文して、レベッカ、マイティ、リーナは果物ジュースを注文した。

 クインは、相変わらず甘い物が食べたいと言うので、適当なお菓子を与えた。


「味付けは塩だけだが、ステーキにエールは最っ高だな!」

 クラウスは、エールを飲みながらそう言った。


「ほんとね!この景色も最高~!」

 大きな声で瑞希もクラウスに合わせて叫んだ。


「海初めて見た~」

「綺麗よね」

 リーナがそう言ってジュースを飲んで、レベッカがリーナの頭を撫でていた。


 ステーキも平らげ、クラウスと瑞希はエール3杯目を飲みつくした。

「オヤジ!もう一杯くれ!」

「クラウス、あんたもなかなかやるわね、私も!新は飲まないの?」

「いや‥お前らそんなに飲んで大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫!」

「ああ、俺はまだまだいけるぜ!」


 おいおい‥瑞希のやつ結構目が据わってきているぞ‥


「で!新、そう言えばさ、あんた宝石を地球で何かするって持って行ったけど、あっちで何してんのさ」

「ああ、あっちに親父の知り合いのバイヤーがいてな、その人と親父はこっちの宝石のやり取りをしていたみたいで、日本で換金しているのさ」


 クラウスと瑞希の次のおかわりのエールが、机に運ばれてきた。


「で?あのダンジョンからの宝石向こうで売って幾らになったの?」

「ああ、4億4000万だ」


 ぶっふーーーー!!

 その言葉を聞いた瑞希は、対面に座ってた俺とクラウスに向けて飲みかけたエールを吹き出し、二人はエールまみれになった。


「おい‥瑞希‥」

「ぐわ‥何吹き出してんだよ!耳に入ったじゃねーか!」

「よん‥億?‥‥」

 レベッカとマイティは、すぐに拭くものを探しに行ってくれた。


「あんた、そんなお金どうするの?」

「いや、俺もまさかそんな金額になると思ってなかったからさ。とりあえず、こっちに来るあの魔法陣を守るために家を買った」


 ぶっ!

 また吹き出しかけた瑞希を見て、俺とクラウスはビビる。


「い‥家、買って来たの?」

「ああ、うん、地震とかにあの実家、耐えれそうにないじゃんか?」

「まあ‥たしかに‥考えてみたらあの魔法陣無くなったら帰れなくなっちゃうもんね‥」


 それから、雑談を織り交ぜ、潮の香りのするテラスでの晩餐は暫く続いた。

 クインがおかわりの、お菓子を求めたのでクインと、子供のリーナにだけ持って来ていたハーゲンダッツアイスを与えた。


「何これ~冷たくておいし~」

「ふむ、これは美味だな、ふっふー」

 アイスを食べ感激している二人。


「新ぁ~あんたさぁ、もう少し早くわたしをこの世界にさぁ~‥」

「ミズキ!もっと言ってやれ!いいぞ!」

「おいおい‥クラウス、この酒ヤクザ達どうにかしてくれよ‥子供もいるんだぞ‥」

「俺は知らん、オヤジもう一杯!」

「お前ら‥」


 暫くすると、瑞希は寝てしまった。

 俺もほろ酔いだったが、クラウスは更に飲み続け、アイスをリーナが食べ終わった後に俺は会計をして瑞希を背中に背負って宿へ向かうのだった。


 ◇


 次の日。

「あったま‥痛った‥動きたくない‥おえっ」

「だろうな‥」


 クラウスは平然としていたが、瑞希は案の定、二日酔いだった。

 ふらふらする瑞希をレベッカは肩を貸して支えていた。


「あ~あ‥言わんこっちゃない‥」

 俺は、瑞希を呆れて見ていた。


 今日は、マイティの実家へ行くつもりだったが、瑞希が動けないと言う事で、宿を半日の料金を払って、寝かせておくことにした。


 瑞希以外は、マイティの実家へ向かった。


 そこは、この街で言うスラム街みたいな所だった。

 あの景色が嘘のようなその場所は、木造の2階建ての地球で言うアパートみたいな作りの家が立ち並び、所々壊れている場所も多かった。


 治安は良くなさそうだが、冒険者に手を出す者はそうそういることはない。

 子供達の服は汚れていて、穴のあいてる服を着ている者もいる。


「なんか‥さっきの場所とはうって変わったな‥」

「うん、ここは貧乏人しかいませんから、宿のあったあの辺からすると外観も酷い場所ですよね‥」


 俺の呟きにマイティはそう言った。


 マイティの実家に着いたが、似たような建物ばかりで迷いそうだった。

 俺と、クラウス、リーナはここで待つことにして、レベッカとマイティだけが部屋に入って行った。


 カチャ、ギイ。


 扉を開けると。

「あ!お姉ちゃん!」

「マルク!元気してた?」


 そう言って出てきたのは、マイティの弟マルクだった。

 レベッカは、中を覗くと、ベッドに寝ている人に気付いた。


「マルクお母さんは?」

「うん、最近調子悪くて今日は寝てるよ?」

「お父さんは、今、買い出しに行ってるからもう戻ってくるはず」


 レベッカは、すぐにマイティのお母さんの具合を見る。


「レベッカ‥ごめん、お母さんどお?」

「うん、栄養が足りてないのと、少しの微熱と風邪を引いているみたい」


 すると、レベッカの母親は目を覚ました。

「あ、あら…マイティ!帰って来たの?手紙で冒険者で上手くやっていると連絡来てからもう1年も連絡来ないから心配したのよ‥けほ、けほ…」

「ごめん、お母さん…いろいろ忙しくて‥」

「そう、元気な顔を見れて安心したわ」


 マイティと母親は久々の再開で抱きしめあっていた。


「マイティ、ちょっとアラタさんとこ行ってくるね」

 レベッカはそう言うと、外へ出た。


「アラタさん」

「どうした?レベッカ」


 マイティのお母さんの状況などを新に説明した。

「そっか‥あ、そうだ」

 マジックボックスから普通の風邪薬を出した。


「これは?」

「これは地球の風邪薬、多分、これで咳や熱は大丈夫だけど、栄養は何か作ってあげないといけないかもね」


 俺は、リーナをクラウスに任せて、マイティの実家の部屋へ入った。


「失礼します」

「けほけほ‥あなたは?」

「私のクランのマスターでアラタさんって方です。アラタさんのお陰で今の私は冒険者を続けられたのよ」

「あら‥けほ‥そうだったのですね、こんな状態でごめんなさい」

「いえいえ、それより、台所借りても良いですか?」

「どうぞ?」


 俺は、マイティの家の台所で、マジックボックスから卵、ご飯、白だし等を出して卵雑炊を作った。


「マイティ、出来たからこれ持って行って」

「はい」

「それから、これ、地球の薬だから食後に飲ませてあげて」


 マイティは頷いて、母の元へ雑炊を持って行った。


 ガチャ。


「ただいま…ん?マイティか!」

「お父さん、久しぶり、今お母さんにご飯食べさせているからちょっと待ってね」

「ああ‥えっと貴方は?」

「あ、マイティのクランのマスターしてます。アラタって言います、宜しくお願いします」

「はあ‥」

「ちょっと、マルク代わって」


 マイティは弟のマルクに、母にご飯を食べさせるのを代わった。


「ちょっとお父さんこっちに来て」

「ん?なんだい?」


 もう俺は必要ないしと、マイティとその父と一緒に外に出た。


「お父さん、これ」

 マイティは麻袋を手渡す。

「なんだこれは‥な!?」


 父が開いて見たのは金貨100枚入った麻袋だった。


「こ‥こんな大金どうしたんだ‥」

「私が冒険者で稼いだのよ、いいからそれで、お母さんが病気になったら薬とか買ってやって。」


 マイティの父は、少し涙ぐんで頷いた。


「マイティ」

 俺がマイティに話しかけると、こちらを振り向いた。


「今日は、実家に泊まって良いよ」

「え?でも‥」

「ほら、あの酒ヤクザが今日一日は死んでると思うからさ、それに急ぐわけでもないからもう一泊この町を堪能するよ」


 マイティは素直に頷いた。


「よし、じゃあ俺達は宿に戻ってあいつの様子を伺ってくるから、薬をちゃんと飲ませるんだぞ!」


 そう言って俺と、クラウス、レベッカ、リーナは、そう言ってこの場を後にした。


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