第32話 不純。
地球から戻って来た新は、また、店の材料を地下倉庫へ補充した。
これで1ヵ月は大丈夫だろう。
店をオープンさせて、約ひと月ほどであろうか、奴隷従業員や、ミーナさんの給料と経費を引いても、金貨30枚前後くらいある。
最近では、王都でも噂があるように、遠方からでもお客が来るようになっていた。
石鹸、リンス入りシャンプーも好調で、カゼルさんの雑貨屋も毎日客が来るようになっており、相乗効果で今まで売れなかった物まで売れていて、笑顔が絶えなかったようだ、お陰で、リックもリーナも学校へ通えるようになっていたのだった。
新のこの世界での所持金は、すでに金貨2000枚を超えていた。
それからある日。
リーナがまた学校で魔力切れを起こし、授業半ばで帰って来た。
「ほら、リーナ大丈夫?」
「お母さん、暫く‥寝たら戻るから」
ミーナさんが、抱きかかえて店に戻って来た。幸い今日の店は定休日だ。
「大丈夫ですか?」
新達は、みんなでバギーの訓練をして、帰って来たばかりで店にに居たのだった。
「また、リーナは魔力切れか‥アラタ、噂の魔力の泉にそろそろ行ってみるか?」
クラウスはそう言って、ミーナさんからリーナを代わって抱きかかえていた。
「うん‥そうだね、今やることもないし行ってみようか」
「だな」
新は、クラウスの提案を受け入れそう言った。
やっと見たこともない、母に出会うことになるのか‥少し、恥ずかしいような怖いような気がする新だった。
「アラタさん‥ヘイムベーラ大森林に行くのなら、私の故郷ヘレスティアを経由したほうが、休憩も出来て良いと思います」
マイティがそう言った。
そう言えば、マイティの故郷は、ホルンの南に位置する、海の街ヘレスティアだって聞いた事があった。
そして、その西にヘイムベーラ大森林が広がっていて、別名、精霊の森と言われてる。その中にエルフの里【エルファシル】はあるとベンザさんは言っていた。
「あ、マイティ、確か故郷だったね」
「はい、もう冒険者になって2年も帰ってないので経由するのなら、少し実家に寄って見ても良いですか?」
「ああ、構わないよ、急ぐこともないから。マイティの両親って何してるの?」
「有難うございます、両親は‥病気がちな母と、父は漁師をしています」
「漁師かあ、いいね、新鮮な魚を毎日食べれそうだ」
俺は微笑みながらそう言ったが。
「いえ‥漁師って一番危険でお金もそんな貰えないんですよ」
「え?なんで?」
マイティから聞いたが、この世界は魔物がいる、それは海も一緒で船が襲われたりすることは日常茶飯事らしい。
時には、遠くの海にとんでもない大きさのクジラのような魔物も確認できると言う。
「ああ‥そうか。魔物がいるんだったね‥」
「だから、貧乏人の仕事なんですよ‥弟のマルクも、小さい頃から父と一緒に漁に出てましたが心配で」
「あ、弟さんもいるんだね」
マイティの、意見もあり俺達は海の街ヘレスティアを経由して、その西にあるヘイムベーラ大森林へ赴く予定にした。
◇
次の朝、開店する前の店内。
「アラタさん、リーナをお願いしますね」
「ああ、大丈夫、任せてください。」
「じゃあ、お母さん行ってくるね!」
ミーナさんは、心配そうにリーナを見ながらそう言っていた。
リーナさんと、従業員に見送られ俺達は、店を後にした。
ホルンの南門を出た所で、俺はゲンムを召喚する。
ゲンムには、馬より大きな体をしているので、特注で二人乗り用の鞍を特注で作って貰って装着してある。
そして、レベッカは、ペガサスのベガを召喚し、俺はバギーをマジックボックスから2台だした。
ゲンムには俺とリーナ、クラウスはバギー、マイティもバギーに乗って、ベガにどうしても乗りたいと頼んだ瑞希が、レベッカとベガへ跨る。
元々、ペガサス用の軍用馬装が二人乗りになっていたのでしっかりと安定して乗っている二人。
ドルルン‥ドドド。
クラウスとマイティは、キーを差し込みバギーのエンジンを掛けた。
「クラウスもマイティも、練習通りやれば大丈夫だからさ、あんまりスピード出すなよ」
「ああ、わかってる、これ最高なんだよね!使い魔とかに乗るよりよっぽど楽しいぜ!」
クラウスはうきうきしながら、バギーのアクセルを回し走り出した、マイティもそれについて行き。レベッカも瑞希を乗せて、大空へ羽ばたいていった。
「リーナ、ちゃんと捕まってろよ!」
「うん」
俺達は、南へ向けて走り出した。
クインも並走してついて来ている。
ヘレスティアへは、馬車で約4日の距離だが、勿論だが馬車よりは2倍以上は速いスピードで走っているので、予定では2日あればヘレスティアに着く予定だ。
夜になり、森の開けた場所でキャンプをすることになった。
テントを張り終え、食事の準備をする俺達にクインが何かに気付いた。
「ふむ、魔物が3匹こちらに寄ってきている、ふー」
「え!」
皆、直ぐに、剣を抜いて構える。
すると、そこに現れたのは、深い青色の皮膚で二本の角が印象的な馬だった。
「ふむ、バイコーンか。ふー」
武器を構えて対峙していると、頭がグワンと頭痛みたいな物がしたが、すぐに収まった。
それは、バイコーンの精神攻撃だったようだが、クインが打ち消したようだった。
クインは精神攻撃を封じた直後に、バイコーンの後ろに瞬間転移し、1匹の首を撥ね飛ばした。
「アラタさん、クインちゃん!私、この子欲しいから1匹は私にやらせて!」
マイティがそう叫んで、俺達はマイティを見た。
クラウスは構えている姿勢を解いて新を見て口を開く。
「アラタ、だ、そうだ」
「ああ、うん、わかった」
クインも、ふむ。と頷きもう一匹の首も刎ねる。
俺は、マイティに使い魔の呪術札を渡した。
最後の一匹とマイティは、一騎討で対峙した。
バイコーンの精神攻撃魔法は、クインが封じている。
俺が、ゲンムを使い魔にした時と同じような状況だ、あの時、俺は剣も素人だったけど、地球人の身体強化があったおかげで、ゲンムを平伏すことが出来たが。
マイティは、身体能力はこの世界の人だが、剣技は上達して来ている。
マイティは、バイコーンに斬りかかるが、それを避けて氷魔法を展開して攻撃してくる。
盾で
ナイトメアもバイコーンも、精神魔法が強力な魔獣なのでそれを封じられれば、魔法を多少使う大きく素早い馬にしかすぎない。
マイティは、蹄で攻撃してきたバイコーンをするっと躱すと、背中に飛び乗り剣を突き立てる。
グヒヒヒーーーン!!
痛みを感じ、すぐに振り落とそうとするバイコーン。
鬣を掴み、中々落ちないマイティ、少しずつダメージを当てて行くマイティに、バイコーンは観念し大人しくなった。
「はあ‥はあ‥よし、いい子ね、私とお友達になりましょ。」
マイティは息があがりながら、呪術札を首の部分へ張って、魔力を注いだ。
ブルルン‥
頷くような仕草をして、両方の身体が淡く光おさまった。
使い魔契約は成功のようだ。
「やったね、マイティ!」
レベッカが近寄って行って、バイコーンを触ろうとすると、近寄ったレベッカに体を当ててレベッカを突き飛ばした。
「え?」
突き飛ばされたレベッカは、驚いた。
「バイちゃん、なんてことするの?」
マイティは、バイコーンを宥める。
「ふむ、バイコーンは、不純を好むのだ‥つまり、そう言う事だ…ふっふー」
「「不純‥?」」
あ、そう言えば、なんかのモンスター図鑑みたいなのでみたことがあるぞ?
たしかユニコーンが純潔を司る一角魔獣で、バイコーンはその逆の不純を司る二角魔獣なんだっけか?
つまり‥ゴブリンの件で、マイティは処女ではなくなったからってことか?
「へぇ‥不純ってどうゆうこと?」
何も知らない瑞希がそう言って近寄ると、あからさまに不機嫌になるバイコーン。
触ろうとした時、瑞希に体当たりをしたが、瑞希はびくともしなかった。
「何よ!気性の悪い馬ね!」
バイコーンの頬をパンチした。
グヒ!!
不機嫌そうだが、瑞希の身体能力を見抜いて、渋々触らせていた。
はは‥これでなんとなくわかったよ‥瑞希、お前は俺と一緒でDTだ、女は処女と言うが‥
「よし、君はバイちゃんだ!宜しくねバイちゃん!」
マイティは、バイちゃんと名前をつけたようだ。
使い魔は異次元に戻し、クインが見張りをしてくれるので、俺達は明日のヘレスティアへ向けて就寝するのだった。
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