第29話 寿命。

 スタンピードは収束した。


 戦死者は、その場で手厚く葬られ、火葬されていた。

 魔物の死体なども解体され、フェリオール、イシュタルト両軍が素材などを回収していた。


 マアシュタ村に戻ると避難していた洞窟から、村民は帰って来ていた。

 クラウスは家族の安否を確認していた。


 その村は、そこまで大きくないと思っていたが、木の上などにも家が作ってあり、相当な数の家がこの森の中にあることがわかった。


 クラウスの家族は、クラウスが長男で、下に弟が4人、妹が3人いるようだった。

 両親は、父親が人間で、母親は猫の獣人で、勿論、全員無事だった。


 獣人と言っても、純血の獣人じゃない者達は、姿が様々だった、クラウスのように半獣人でも人間の血が濃いと、耳や尻尾は獣人だが姿は殆ど人間、獣人の血が濃い人は獣人寄りな姿をしていた。


「母さん、みんな無事で良かった」

「リタが異変にすぐに気付いたからみんな助かったんだよ、リタは引退しても、本当に立派な冒険者だよ」

「ああ、分かってる」


 リタの気転のお陰で、避難が早かったのでマアシュタ村に被害は出ていないようだった。


 クラウスは、家族に暫しの別れを言い、俺達と合流した。


 そして、俺達はフェリオール城に来るよう言われていたので、砦町ディアムを経由して戻ることにした。


 レベッカは、使い魔となったペガサスに、ベガと言う名前をつけていた。

 ベガを呼び出し、跨った。

「ベガちゃん、宜しくね」

「いいなぁ‥私も使い魔欲しいな‥レベッカ私も乗っていい?」

「うん」


 レベッカ、マイティ、二人を乗せて大空へ羽ばたいて行ったが、すぐに降りて来た。

「無理無理‥‥」

「マイティ、高いとこだけだったっけ?」

「足場がないのは無理‥私はやっぱり馬車に乗る‥」


 マイティは、高所恐怖症だったようだ。


 冒険者ギルドの馬車でまた南へ戻る。

 2日かけて、ディアムの町へ入った。


 ◇


 このディアムは、フェリオールとイシュタルトの国境近くの町で山々の間に出来たような町で、砦の役目も担っていると前に聞いたが、よく見ると両側の山の岸壁には物見台が設置されていた。


 ここを通るのが一番、両国に移動するのが早いのだとクラウスは言った。


 そして、町に入りよく見ると、ドワーフが多い。

 それもそのはず、ここは良質な鉱石が採れるため、炭鉱の町でもある。

 町の中には沢山の加工場や鉱石店があった。


 馬車でディナムの南門へ向かっていると、鉱石店に馬車が止まっていて、そこで、さっき会話していた、ルミナスローズのマチルダを発見した。


「マチルダさん」

「ん?ああ、ディファレントアースのアラタ!今戻りか、遅かったね」

「ええ、少しマアシュタ村に寄っていたもので」

「私も、王の依頼で、ここで出土したばかりのオリハルコンを運んでから王都に行くつもりだ、もう終わるからなんなら一緒に帰ろうか」


 そうマチルダさんに言われたので、一緒にフェリオール王都へ帰ることにした。


 鉱石を積んだ、ルミナスローズの馬車は重くなっているので、こちらの馬車にマチルダさんと、そのメンバーのケスラと言う女性も一緒に乗った。


「アラタのクランは、勿論、Aランクなんだろう?」

 フェリオールへ向かう馬車の中でマチルダはそう聞いた。


「クランランクってあるんですか?」

「ああ、勿論あるよ個人ランクとは別さ」

 俺は、クラウスの顔を見てから、マチルダさんを見る。


「ああ、俺達、まだクラン設立したばかりで、ランクはCだ」

 そうクラウスがそう俺の代わりに言った。


「「え!?」」

 マチルダとその隣のケスラって女性も驚いていた。


「あの最上級魔法が使えるのに?‥C?」

「はははは‥‥」

 俺は苦笑いした。


「なんだてっきり、私は、ホルンで名のあるクランなのかと思ったが‥」

「だから言ったじゃないですかマスター、聞いたことないって‥」

 引きつっていたマチルダにそうケスラが言っていた。


「あれだ、うちのマスターは、頭の中がちょっと変わってて、たまに変な魔法を使うんですよ」

 クラウスが苦し紛れにそう言った。


「でも、しかし‥人間なのにあの強大な魔法を行使できるとは恐れ入るよ」

「あ、俺一応、ハーフエルフなんで‥」

「「‥‥‥‥‥」」


 暫く、マチルダとケスラは沈黙した。

 もう何度目この空気‥?


「ほぼ外見人間ですから、気付きませんよね?」

「い、いや‥そうか、そうじゃなきゃあの魔法はあり得ないよね、ははは」

「で、ですよね‥マスター‥」


 二人とも、苦笑いだよ‥


「ってことは、私と同族だな」

 そうマチルダは言った。


「マチルダさん、変な事聞いても良いですか?」

「ん?ああ」

「ダークエルフですよね?普通のエルフ族と何か違うのですか?」

「え?同族なのに知らないのか?‥まあいい、別に大差ないさ肌の色が違うだけでね、昔は数の少ない私らダークを差別とかあったみたいだが、今は数も多くなってきたしそんなことはないさ」


 外国の白人と黒人みたいな感じなのかな?


「でも、マスターがエルフのお陰で、うちのクランはもう設立150年の節目ですからね!」

「そっか、もうそんなに立つのか‥」

 そうマチルダとケスラは話していた。


「アラタのクランも、何百年と続けばいいな!ふふふ」

「ははは‥何百年ってそれは無理でしょ」

 俺はマチルダの言葉にそう言った。


「はっ!!」

 瑞希は何かに気付いた。


「新‥そう言えばあんたってさ‥半分エルフなんだよね?」

 瑞希がそう言った。


「まだ疑ってんのかよ」

「違うって。ってことはさ、寿命どうなってんの?」

「‥‥‥‥」

 沈黙の空気が暫し流れた。


「あーーーーー!」


 大きな声を出した俺に、瑞希以外のみんなが驚いていた。


「マチルダさん!普通のエルフって平均寿命って幾つなんですか?」

「え?はあ?‥800~1000くらいか?」

 マチルダは首を傾げてそう言った。


「‥‥‥1000‥の半分としても‥」

「4、500は生きるな」

 クラウスがボソッとそう言った。


「え‥まさか、知らなかったんですか?アラタさん」

 レベッカがそう言った。


 新は、ポカンと口が開いたままだった。


「うそん‥」

 新は、改めて知った自分の寿命に驚愕していた。


 そうこうしているうちに、夜が来てキャンプすることになった。


 ◇


 2日目の夕刻。

 道中に異変が起きる。


 馬車の馭者が叫ぶ。

「野盗だ!!凄い数だぞ!」

 前を塞がれやむを得ず、馬車はゆっくりと止まる。


 マチルダと一緒に外に飛び出す。

 野盗は7、80人はいるだろうか?囲まれていた。


 こちらは、マチルダ達ルミナスローズが7人。

 俺達が、クイン1匹と4人だ。


「くっくっく、情報通り、ルミナスローズのマチルダか。ってことは、積み荷は、高級品の何かがあるって事だな?」

「クソ!人数が多い‥」

「よーし!お前ら、マスターのマチルダは取引に使えるから殺すなよ、後、女も売れるから生け捕りだ、わかったか!」


 おう!!

 そう言って盗賊達はジリジリと距離を詰めて来た。


 スバーー!

 !?


 そこにいるもの達が音がした方を見ると、盗賊数人の首がなくなって血が噴き出していた。


 クインが、数人の首を撥ね飛ばしたようだった。

「ふむ、アラタよ、殺らねば殺られる、人間相手でも容赦するな、ふー」

「あ‥ああ」


「くそ!やっちまえ!!」

 盗賊は一気に飛び掛かって来た。


 最初は、新も瑞希も躊躇していたが、この世界はクインが言うように、殺らねば殺られる、そう言う死と隣り合わせの世界だ。


 二人とも、人生で初めて人間を殺す感触を知ることになるが、魔物よりは弱く柔いその感覚を覚えていた。


 クラウス、マイティは、この世界の人間なのでそれは分かっている。

 躊躇なく、盗賊を殺していた。


 終わって見れば、こちらには負傷者すらいなく。

 クインが半数を、残りは、皆で倒していた、さすがAランククランと言われるだけはあって、マチルダさん達は人を殺すのにも慣れていた。

 躊躇していた俺と瑞希は二人で殺したのは4人だった。


「アラタ、人間殺すの初めてか?躊躇していたように見えたが?」

 マチルダはそう言った。


「ああ‥うん、そうかな」

「魔物はあんなに大量に虐殺出来るのにな。ははは、これも経験ってことで、な!」

「はい‥」

「私らも、こうやって有名になるとなったで、狙われたりするんだよね」


 新は、死ぬ間際の盗賊の顔と、人間の体が自分の手で引き裂かれていく感覚のが手に残っていて、少し震えていた。瑞希も同じように少し斧を持つ手が震えているように見えた。


 クインは地球が安全な場所だと、親父から聞いていたのだろう、だから最初にああやって先手を打って、俺にそれを教えたのだと思った。


 クラウスが、ぽんと俺の背中を叩き馬車に戻るぞと言った。



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