第28話 スタンピード。

 元親父のクランメンバー、リタ・ライオベルに付いて行って、スタンピードの魔物と軍隊がぶつかっている場所へ急いだ。


 大きな草原で、沢山の魔物と人間達が戦っていた。

 空には、ペガサスに乗った騎士達が空飛ぶ魔物と、陸では魔法も飛び交い、前列の槍や剣を持った騎士達が戦っている。


 よく見ると、遠くからも同じように魔物を押し返して戦っているのも見えた。

 あれは多分、北の国イシュタルト王国の軍隊なのだろう。


 西の方から、東の方へ魔物は流れて来ているので、北東にイシュタルトの軍、南東からフェリオール軍が西へ押し返すよう展開していた。


 後ろにある、フェリオールの本陣へ向かう。


 すると、1人の男が、即席に作られた展望台から降りて来た。

「そろそろ、前列を中列と交代して、負傷者を下げろ!魔法隊も折を見て交代だ」


 そう言って、降りて来たのはフェリオール王国の総大将なのだろう。

「おい、レオンス!」

「ん?‥お、リタか!」

「あたい達も協力したい。何処に行けばいい?」

「ああ、助かる!今な、北と南からイシュタルト軍と協力して囲う様に押し返そうとしているのだが‥Aランクの魔物もいてな、なかなか上手く行っていないのが現状だ」


 この人はレオンス・ヴァーチ、フェリオール王国の第一軍団長、顔に傷のある、筋骨隆々の人間の男で立派な剣と防具を身につけている。

 どうやら、リタはこの話し方だと知り合いみたいだ。


「上の、ペガサス部隊を率いてる第二軍団長ユノウスが、空から攻めてくれれば多少有利になるかもしれんが、上位種ワイバーンがいるため中々有利に運べていないのだ」

「そうなのか‥厳しいな」

「ああ、お前達は、冒険者達と合流してフェリオール軍の左翼か右翼に付いてくれ」

「じゃあ、右翼へ行くとしよう西に押し返すよう動けばいいんだな?」 

「ああそうしてくれ!」


 現状は、逆扇型、つまり戦国時代で言うと鶴翼の陣で応戦しているようだった。


「膠着状態みたいみたいですね」

「ああ、アラタと言ったか。クインの今の主はお前らしいな」

 そう言った、新にリタは話しかけて来た。


「はい」

「ツヨシと同じ地球人効果があるのなら、他のクランよりは強いだろう?」

「ど、どうなのでしょうか?まだ来たばかりでよくわかっていません‥」

「クインがいるんだ、大丈夫だろう、じゃあ、お前達右翼に向かうぞ!」


 リタはそう言って、俺達にこっちだと言って右翼へ向かった。


 そこは、冒険者達が配置されていて、7~8人の幾つものクランが連携して、魔物と対峙していた。


 俺達も、開いているスペースに展開し、襲って来る魔物を倒していく。


 リタもさすが、元Sランククランの冒険者だ、素早い動きで魔物の急所を突き最小限の動きで倒していく。


 クインも遠慮なく暴れている。


 俺も、魔法や地球人ならではの身体能力を活かして応戦していて、瑞希は戦斧を振り回し斧でなぎ倒していく姿は、他の冒険者が驚くほどだった。


 クラウス、マイティは二人で上手く連携し戦い、レベッカは深手を負った冒険者の治療を近くで行っていた。



 暫く、一進一退の戦いが続く、数がどうしても多い上に、特にやばいのは蟲系の魔物だった、疲れを知らないうえ、痛覚神経がないため、脚を落とされても向かって来るのだ。


「これは‥埒があかない‥」


 軍隊は、交代で応戦するからいいが、冒険者は交代するような連携はしていない。


 このままでは、何処かに穴があいてしまいそうだ。


 新は、空を見上げた。

 空でも大きな魔物と槍を持った、ペガサスに乗った騎士が戦っている。

 太陽がギラギラと照らしていた。


 何か、大きな打撃を与える方法はないか?

 太陽を見た瞬間、新は、ある魔法を思いつく。


 新は、目を閉じ、深呼吸してある物をイメージする。

 両手を広げ、両手に太陽エネルギーを集束させる。


「アラタ!何してんだ?」

「クラウス、皆、少し時間頂戴、合図したら俺の射線上から逃げてくれ」

「はあ?」


 クラウス達は、俺の言葉を聞いて戦いながら首を傾げた。


 俺は集中する、両手に太陽のエネルギーを圧縮、集束させていく。

 まだだ‥もっと、圧縮集束させないと‥


 じっと、新は太陽のエネルギーを両掌に集めていく。

 5分ほど経ったとき、新は、みんなより前に出て、誰もいない東側へ向けてそれを放つ。


 シュン‥‥


 一瞬、新の両手から光が大きく光ったと思ったら、一瞬で新の射線上、幅3メートルで、焼け焦げた道が一直線に出来ており、魔物の大群が真っ二つになり中央にいた魔物は消滅していた。


「な!?」

 ざわざわ‥


「アラタ、何をしたんだ‥」

「え?新‥今の何?」

 クラウスと瑞希もそう言葉が漏れた。


「なんだ‥今のは‥一瞬で大量の魔物が消し炭になったぞ‥」

 リタがそれを見て、目を見開いて驚いていた。


 新は、この魔法を思いついたのは、太陽を見た時だった。

 これは、名前で言うなら「ソーラーレイ」だ。

 ある漫画を思い出して作った魔法、ガン〇ムのコロニーレーザーを模倣したのだ。


 太陽エネルギーを集束圧縮して、照射するレーザーだ。

 これは、太陽エネルギー放出なので、太陽がないとダメなのと、集束に時間がかかるのが欠点だが、魔力はそこまで必要としない上に、光の速さの超高温エネルギーが放出されるため、気付いたときには熔解され灰も残っていないのだ。

 残っているとすれば、少し触れた物が炭になっているくらいだ。


 兵がどよめいていたが、兵達の大きな雄叫びが士気に変わった。


「よ、よし!勝てるぞ、アラタ!その魔法、時間が掛かるんだろ!お前達!アラタを全力で守って、ここから突破口を作るぞ!」

 オオオオオーーーーーー!!


 リタが、そう叫んで、その場にいた冒険者や兵士が雄たけびを上げた。


 新は、その言葉を聞いて頷き、もう一度太陽エネルギーを集束させる。

 そこにいる者は、新の守りながら戦っている。


 5分後、俺が合図の声を掛けると、おれの射線上を開ける。

 すると、空の魔物が降って来た。

 それは、どうやら、後方の魔法部隊が重力魔法で無理やり魔物を下に落としているようだった。


 それを見た、新は2射目を放つ。


 シュン‥‥


 また数千の魔物が一瞬で熔解し消滅した。

 魔物の群れは、2回の新の魔法で疎らになり、両王国軍は攻勢に出た。

 これ以上は、入り乱れた人間を巻き込む可能性があるため、俺は今の魔法を止めて通常に戦いを続けることにした。


 しかしそれなりの上位魔物は存在しているため、負傷者も結構出ていた。

 レベッカは、落ちて来たペガサス兵とその使い魔のペガサスを治療していた。


 数時間すると、数が圧倒的になった人間側の勝利に終わった。


 勝利の雄叫びが両軍から上がる。


 俺は、治療しているレベッカに近づいた。


「レベッカ、その人はもう‥」

「ぐす‥もっと早く治療していれば‥」


ペガサスは、レベッカの治療で命は取り留めて、よろめきながら立ち上がり、主人だった男に近づき頬を死体につける。


「お前も悲しいね‥」

 レベッカはそう言って、ペガサスの頬を触っていた。


 すると、空からペガサスに跨った騎士が降りて来た。

 エルフの男はペガサスから降りて、レベッカの近くの死体へ近づいた。


「治療を?」

「はい‥でも‥」

「そうか‥」

 そう言って、エルフの男は、膝を地面に付き、死んだ男の両手を重ねるように胸に置いた。


「私は、ペガサス部隊長のユノウスと言う。我が親友を看取ってくれてありがとう。この男は、最後の最後まで勇敢だった、友よ‥ご苦労だったな‥」


 ユノウスと言う男はそう言って少し俯き黙祷していた。

 新達もその様子を見ていた。


「お嬢さん、こいつのペガサスは、君の事を気に入っているようだ」

「え?」

 ブルルルン‥

 ペガサスは、レベッカにべったりして、頬を摺り寄せている。


「ふふふ、そいつを使い魔契約してやってくれないか?友も喜ぶはずだ」

 その言葉を聞いて、俺は、マジックボックスから使い魔札を取り出し、レベッカに渡した。


「アラタさん‥」

「その英雄の意志を継いであげると良いと思うよ」


 レベッカはペガサスの額に呪術札を張り、魔力を通すと、ペガサスは頷くように首を縦に振って契約は完了した。


 それを見た後、ユノウス部隊長はペガサスに跨り、大空へ羽ばたいて行った。


 俺達も、それから本陣のあった場所へ行った。


「おお、リタ!お前達がいた辺りから出たの魔法は一体?」

 すぐに、軍団長のレオンスが近寄って来てそう言った。


「あの魔法は、こいつだ、クラン【ディファレントアース】のアラタがやったことだ。」

「こんな若い子が‥いや、失礼、この度の戦い、お主の功績が大きい。後からフェリオールの城へ来城願えますかな?」


「え?城へ‥ああ、はい、わかりました」


 レオンス軍団長はそう言い残すと、事態を収拾すべく指示に戻った。


 兵士や、冒険者の俺に対する目が、英雄を見ているかのような目をしていた。

 俺は、凄く目立ってしまった。


「君が、あの魔法の発動者かい?」

「え?ああ‥そうですけど」

「私は、クラン【ルミナスローズ】のクランマスターのマチルダと言う。宜しく。」

「はあ‥宜しくです」


 噂に聞いてた、ルミナスローズのクランマスターはダークエルフの女性だった。


「私も、フェリオール城に呼ばれているんだ、後から一緒になると思って挨拶しとこうと思ってね」


 暫くの間、マチルダに、さっきの魔法のことをいろいろと聞かれたのだった。

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