第27話 緊急事態。

次の日の朝。

俺は、とりあえずアンジェリアが来た時に対処できるように、朝から店を手伝っていた。


早朝からアンジェは、パウロさんに並ばせて第一号で入って来た。


「アラタぁ、おはようなのだ!第一号なのだ」

「おはようございます、アンジェ様」

「ぶー、その言い方友達でもなんでもないのだ。普通にアンジェでいいし、敬語もいらないのだ」


え‥王女にそんな言い方していいのか?

パウロさんが俺を見て静かに頷いていた。


「じゃあ、アンジェ、今日も3皿でいいです‥いいかな?」

「今日はパウロも食べさせてあげるんだから、あと2皿追加なのだ!」

「はい、わかり‥った」


それから徐々に店は混んできて、レベッカ達も手伝いに来てくれた。

アンジェは、王都に遊び来た時は城に来るのだ!とか言って帰って行った。


店は一時、客が途絶えた時に、ミーナさんと話をした。


「ミーナさん実は、ひょっとしたらですが、リーナの魔力の件どうにかなるかもしれませんよ?」

「え?魔力を鍛えることができるんですか?」

「ええ、まあ、俺の母のエルフの国に秘密の泉の事について聞きました。俺もその内、母に会いに行ってみたいと思っていたので、その時リーナを連れて行こうと思うのですがどうでしょうか?」

「是非!連れて行ってやってください!」

「わかりました、その時が来たら‥」


そう話をしていると。


バタン。


「アラタさんいるかにゃん?」

そこに慌てて現れたのは、冒険者ギルドの猫耳姉さんだった。後から知ったのだが名前をシルタさんと言った。


「シルタさん?どうしました?」

「ああ、いたにゃ、緊急事態にゃ!えっとここではアレにゃんで、外に来てくれるかにゃ」


シルタさんの話を聞くと、フェリオール王国と、イシュタルト王国の国境あたりで、魔物大氾濫スタンピード、が確認されたと言う。


それにイシュタルト、フェリオール両国とも軍隊を編成し討伐に向かったが、念のため冒険者クランも、参加してほしいと言った。


俺のクランはCランクだが、ベンザさんがディファレント・アースも参加させろと直々のお達しらしいので、こうやって連絡したんだと言った。


それを、クラウス達に教えると。

「なんだと!!マアシュタ村の近辺じゃないか!こうしちゃいられん」

「待て待て、俺達も一緒にいくから、今からマアシュタ村へ出立するぞ」

「急いでくれ!」


クラウスは、自分の村が危機と聞いて気が気じゃない。


ミーナさんにも事情を説明して、暫くは帰れなさそうだと言い、後を任せることにした。


それは、どんなに頑張っても、北のフェリオール王国まで3日、その先の国境まで5日はかかるのだ。下手したら20日は帰れない計算になる。


しかし、在庫はこの間の仕入れで、潤沢にあるので1ヵ月いなかったとしても、店は問題はないはずだ。


俺達は、すぐにまずフェリオール王都を目指して、行動を起こした。


冒険者ギルドが手配した馬車が、すでに北門へ来ていた。

その馬車に乗り込み、王都を目指す。


普段だったら、キャンプを張ったりして、馬も休憩させながらいくのだが、休憩は少なくして、2日で王都の門が見えて来た。


門の兵士は、通達が来ているらしく、クランカードで待たずに王都へ入れた。

全く滞在できないが、王都は凄く大きく、門からでは中央の城も見えないくらいの大きさだった、高い建物が建っていて、街並みも綺麗だった。

中央の城も見えたが一直線に北門へ向かっているので、ちゃんとは見ていない。


そこで、馬を代え、馬車で休まず北へ走り出す。

次の目標は、北へ3日の距離の炭鉱砦の町、ディアム。

そこは、国境から2日の距離であり、その名の通り、炭鉱の町でもあり、フェリオールを守る砦としての機能のある町だそうだ。


三日経たないうちに、ディアムへ到着するが、馬車移動で疲れていた俺達は、半日はディアムで宿を取ることにした。


「休んでいられない‥」

「クラウス、気持ちはわかるが、両国から軍隊も出ているって聞いているし、休息はしておかないと、戦えないよ」

「ああ、アラタ、分かっている、俺達だけが急いだ所で、どうにもならない事くらい‥」


クラウスは、頭では分かっていても、家族が心配でたまらないようだった。


「クラウス、俺はちょっとわからないんだけど、教えてくれる?スタンピードとはどんな物なの?」

「まあ言えば、魔物の大量発生だ。昔、450年ほど前にも一度、非常に大きなスタンピードが起こって、その時に、あの英雄の祠から召喚した者達によってその大量の魔物を撃退しフェリオール王国は、難を逃れたんだと言う」


英雄の祠‥俺んちに繋がってるあの魔法陣か‥


「その祠‥から来たんだよね俺」

「え?そうなのか?英雄の祠から‥って事はその英雄の末裔か何かなのか?」

「さあ‥よくわからないけど、そうだとしたら、俺と瑞希のような地球人がその時のスタンピードを抑えたってことだよね?」

「ああ‥かも知れないな」


俺は考えていた、450年ほども前に、この世界に来た地球人がこの国を救ったと言う事を。なぜ、今は俺の家に繋がっているのか?俺の先祖がひょっとして?それを聞きたくても親父は死んだから聞けないし‥ううむ、謎は深まるばかりだ‥


俺は、瑞希にもその話をした。

瑞希も、俺の先祖がどうのっていっていたが、今回だって冒険者も借り出し、軍隊が両方の国から出るくらいの相当な討伐戦のはずだ。そんな魔物の大群をどうやって抑えるのか理解が出来ない。


何はともあれ明朝になり、俺達は国境付近にある、クラウスの故郷マアシュタ村へ向かうのであった。



それから馬車で2日でマアシュタ村へ着いた。


クラウスと共に、馬車から飛び降りて走る。

村の中へ入ったが、誰もいない。

「誰かいるかーー!」

「クラウス、皆、非難したんじゃないのか?」

「だと良いが」


ガキン キン!

「あっちから音が聞こえるよ!」

瑞希がそう言った。


そちらへ皆走る。


すると、そこで2人の獣人が2匹のカブトムシにカマキリのカマがついているような魔物と闘っていた。


「バルチャ!うげ、ソードビートルか!?」

「ん?クラウスか!良い所に来た手伝え!」

「友が帰って来たか!これでなんとかなりそうか?」

クラウスが、叫ぶと友と言った獣人二人が笑みを浮かべてそう言った。


クインが、胴体の節目を狙い無属性魔法で斬撃を繰り出すと、そこから真っ二つに魔物は裂けて転がる。


「すっご!」

クラウスの友人バルチャが、驚いてそう言った。

すると、奥からまた2匹、その魔物がやってくる。


それを追いかけて来た、獣人が一人高く飛び掛かり、甲殻の境目に剣を突き立て1匹を、もう一匹に飛び乗りさらに剣を突き立て2匹とも倒した。


「リタ姉!」

「バルチャ!ムルタ!すまない、討ち漏らしだ」


リタと言う獣人がそう言った時、最後の一匹を獣人達は倒していた。


「ん?クラウスか?久しいな」

「ああ、リタ姉、御無沙汰してます」

リタがそう言うと、クラウスもそう答えた。


「ふむ、リタか、久しいな、ふっふー」

クインも知っているようだった。


「ん?クインか!何故ここに?」

「ふむ、スタンピードが起こったと言うのでな、今の主はツヨシの息子アラタだ」

「ほう?ツヨシの息子が主ってことは、ツヨシに何かあったってことかい?」


リタと言う、獣人はチーターの顔をしていた。

目頭から口元までの黒い模様、ティアーズマークが印象的だった。


そこでざっくり紹介されたが、親父の元クランメンバーの斥候職だった。

リタ・ライオベルその人だった。


「なるほどな‥ツヨシは死んだか‥ま、人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかだからな」

「ふむ」

「リタ姉。村のみんなは?」

クラウスが、リタにそう聞いた。


「ああ、それなら、とっくに奥の森の洞窟に避難済みだ。」

「良かった‥」

クラウスは、それを聞いてほっと安堵した。


「よし、バルチャ、ムルタは、他にこっちに来た討ち漏らしがいないか、その辺の奴らと合流して対処しろ!クラウス、クイン、あたい達は軍隊に協力して数を少しでも減らすよ、ついて来い!」

「「「はい!」」」


そう言って、リタを先頭にクラウスが走り出し、俺達もついて行った。






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