第25話 クラン設立。

 今日は、店は7日に一度の定休日だった。


 この世界の朝は早い、みんなもう起きて、1階の休日の店舗で朝食を作って各々食べていた。


「アラタ、今日は何するんだ?」

 朝食を終え、椅子に座ってたクラウスが階段を降りて来た俺にそう言った。


「ふああ~~あ、はふ‥地球に仕入れに行かないと、在庫が尽き掛けててさ‥」

「は??」


 やべ!しまった。寝ぼけて言っちゃったよ‥


 もうすでに、クラウスだけではなく、マイティもレベッカも俺をじっと見ていた。

 勿論、早朝から在庫の確認に来ていた、ミーナさん、シルビアさん達も朝食を摂ってて、聞いてないような聞いているような‥


 瑞希は溜息をついて、左手で顔を掌で覆って呆れてた。


「ああ‥えっと‥‥もういいか」

「そうね‥」

 俺が、諦めた時、瑞希もそう言った。


「みんな、集まって」

 みんな席に着いた。


「実は、俺と瑞希はこの世界の人間じゃない。違う世界からある魔法陣を通って来たんだ」


 皆、暫く固まる。


「えっと‥なんとなく分かっていました」

「うん、そりゃね」

「「え?」」

その言葉に俺と瑞希はきょとんとした。


「ん?なんの話をしているんだ?」


 クラウスだけ、首を傾げていたが、レベッカもマイティも、この店の従業員も、やはりそうでしたか?って言う反応だった。


「だって、アラタさんとミズキさん、身体能力が人間じゃないんだもの」

「そうそう、それに、持っている物がこの世界にはないような物ばかりですもの」

 レベッカも、マイティもそう言い。


「ですね。こんな甘い物や材料、ほいほい持ってくるような場所がこの近くにあるなんて、信じられませんから」


 ミーナさんまでそう言って、他の従業員もうんうんと頷いていた。


「は?え?何?どゆこと?」

 クラウスは、この間あったばかりだし、この反応は普通だ。


 俺も瑞希も、何気に隠していたつもりだったわけだが、気付かれていたわけで‥

 一応、ここで話すことは全てを秘密にしてくれと言って、みんなそれを承諾してくれた。


 地球には、魔素がなくて魔物もいなく、魔法がない事。

 魔法の代わりに科学ってのが進歩しているって事。

 何故か、そこには行き来出来るのは、俺と瑞希つまり地球人しか通れない事。

 地球人はこの世界では身体能力が、約5倍以上になる事。


 などを、ざっくり説明した。


「でも‥マスター、なんで魔法使えるんですか?地球人なのに」

 ジョランさんがそう言った。


「ああ、それは‥」

「あ、びっくりしますけど、この人この世界のエルフとのハーフらしいでーす」

 瑞希がそう言った。


「「「え‥‥」」」


 はい、来た、その反応。

 クラウスと瑞希は、声を殺して笑っていやがった。


「こ、コホン!とりあえず、俺と瑞希の事と、この店の材料や俺の持ち込んだ物は、内密でお願いします、以上!」


 奴隷従業員達は、これが命令になるので絶対言わないだろうし、ミーナさんは信頼あるから大丈夫だろう。皆、笑って頷いてくれていた。


「まあ、お前達が何者だろうと、俺はアラタを信頼してついて来たんだ、命の恩もあるしな、だから何でもいいさ、それよりアラタ、商売して従業員抱えたり冒険者稼業もしているのなら、クラン作った方が良いんじゃないか?」


 クラウスは、さっきの話は別にどうでもいいようだ。


「クラン?」

「ああ、クランだ」

「えっと、同じ仲間のコミュニティのことを言うんだっけ?」

「そうだ。俺は、同じ仲間ってのがいなかったから、ソロで動いていたが、こうやって一緒の仲間とあちこち行くのなら、クラン設立した方が良いと思ってな」


 新は、首を傾げていた。


「クランってさ、作るメリットってあるの?」

「そりゃああるさ、まず、有名になったら王家からの依頼が入ってくる、これが一番でかいだろうな、そして、その名が轟けば、クランの名前を出すだけでいろいろと有利になるだろうよ、ま、悪い事もできなくなるがな、ははは」


「なるほど‥もっと、稼げるって事か」

「まあな、一応、例としてあげると、フェリオール王国で一番でかいクランは【ルミナスローズ】ってとこだな」


 ルミナスローズ?


「そこは、メンバーが100人は超えていて、商売人も冒険者も多い、王家から一番信頼されているクランだと俺は思う」


「へぇ‥クラウスって物知りだね?」

「まあ、あちこち行ったからな、それなりには情報は得ているつもりだ、どうだ?俺達もクラン作ってビッグになってみるつもりはないか?」

 クラウスはニヤッとしてそう言った。


「やりましょう!アラタさん!」

 いきなりそう言って来たのは、マイティだった。


「え?マイティ‥」

「この大陸に、このクランありと言われる、クランメンバーになりたいです!アラタさんなら出来ます!」


 マイティって、上級冒険者になるのが夢だったよね‥そこになると圧が凄いねぇ。


「そうだね。それが必要になるのなら‥やってみようか!」

「そう来なくっちゃ!」

「マジですか!私がクランの一員に!」

「やりましょう、うふふ」

「地球人の力見せてやろうじゃないの!」

「あらあら、みんな盛り上がっちゃって」


 ここにいる冒険者、スイーツ店メンバーも、クラン設立に喜んでくれた。


「待て待て、アラタ!クラン名はどうするんだ?決めてからギルドに行った方がよくないか?」

 クラウスが、皆が盛り上がっている中、そう言った。


「クランの名前かぁ‥良い名前あるかな?」


 皆、うーんと考えている。


 いろいろ案を聞いたがどれもパッとするネーミングはなかった。

 誰かが、スイーツボンバーとか、ラビットパンチとか、サトウマスターとか‥弱そうだし‥ドラゴンスレイヤーとかも言っていたが、ドラゴン討伐したことないしさ。


 うーん‥

 異世界‥異なる‥ディファレント‥地球‥大地‥アース‥


「ディファレント・アースなんてどうかな?意味は、異なる地球って意味で、俺にはぴったりかなと‥」

 俺は、恥ずかし気にそう言った。


「お、良い感じ?」

「良いんじゃないですか?」

「うん、いいと思う」

「うんうん」


 皆、俺の言ったネーミングで納得してくれた。


「有難う、みんな、じゃあ、これで登録してきます」


 冒険者メンバーで、ホルン冒険者ギルドへ向かった。


 ◇


 冒険者ギルドに入ると、またベンザさんが王都から来ていた。


「お、アラタ、元気しとるかの?」

「はい、元気ですよベンザさん、それで、クランの登録しようと思ってきました」

「おお!それは良い、アラタは店を営んでいるからのぉ、クランの方が個人で商売するより税金も安くて良いぞ!」


 税金とかあったのね‥知らなかった‥


「そしてクランの方が、特別な依頼が優先的に来るからのぅ」

「特別な依頼ですか?」

「ああ、クランは一般の冒険者より信頼があるからな、その分、依頼主からの信用もされやすいってわけじゃよ」

「なるほど‥」


 そして、ベンザさんが、俺達をクラン【ディファレント・アース】として登録してくれた。


「ほい、これは、クランカードじゃ、クランメンバーの情報も入っておって、勿論、クランの資金を預けることも可能じゃ、勿論、出し入れする人間に制限も掛けることも出来る」


 クランカードは、商人ギルドでも同様の物を発行していると言う。機能は、身分を証明することと、クラン資金へのアクセスが出来る、しかも、誰が幾ら入金して下ろしたかも記録されると言っていた。


 俺は、冒険者メンバーに加え、スイーツ店の従業員の分のクランカードも作って貰った。


 クランを設立した、名は【ディファレント・アース】だ。



「ああ、アラタ。お前達、ちょっとこっちへ、大事な話があるんじゃ。」

 ベンザさんはそう言って俺を個室に連れて行った。


「どうしたんですか?」

「実はの‥酒を‥」


 俺は、帰ろうと振り向き、扉のノブに手を掛けた。


「待て待て‥良い事を教えてやるから」

「良い事?」

「うむ‥お主の友達のミズキと言ったか?あの子は地球人じゃろ?」

「はい、そうですが‥」

「と言う事は、お前は別として、ツヨシと一緒で魔力がないってことじゃな?」

「うん」


 ベンザ・グリオルはニヤッとして。


「そこでじゃ、実は何でも、お前の母がいる【エルファシル】で、数年前に魔力の泉が出来たと聞いた」

「母さん‥の?」

「そこでじゃ、なんでもその泉に浸かると魔力が身体に湧き出て強くなるのだと言う。もしかしたらじゃが‥」

「瑞希に魔力が備わる可能性があるってことですか?」

「そうじゃ!」


 それはいい情報だ。そう言えばミーナさんの娘のリーナも、魔力がなくて貧血がどうのとか言ってたな‥行ってみる価値はあるな。

 それに‥母さんにも会ってみたい。

 そして、いろいろ聞きたい事は一杯ある。


「ありがとう、ベンザさん、いつかは行ってみようと思っていたけど、これでちゃんと行く理由も出来ました」

「じゃろう!そうじゃろう!‥それで‥」


 俺は、呆れながら、マジックボックスから、4リットルウイスキーを出して机に置いた。


「おおおお‥これじゃこれじゃ‥我が至福よ!」

 ベンザは、ウイスキーに頬を擦り付け抱きしめていた。


 俺は引きつりながら、その部屋を出て行った。


「新、ベンザさん何だったの?」

「酒が目的だったけど‥良い話も聞けた」

「え‥酒?」

「うん、瑞希、魔法使えるようになるかもしれないよ?」

「え!!ほんとに!?」

「ああ、それには、俺の母に会わないといけないけどね」

「お母さん?アラタの?」

「うん」


 俺達は、冒険者ギルドを後にして外に出た。


「ああ、アラタ、魔術師ギルドに少し寄っても良いか?」

「うん、何か買うのか?」

「ああ、やっとこの間の金塊売って、鑑定スキルを買うお金が貯まったからな、ま、買っちまったら、貯金も寂しくなるんだが、お前のお陰で今は部屋代はかからないしな、ははは」


 魔術師ギルドにやって来た。


「あ~らぁ、僕ぅ、また来てくれたのねぇ」

「めっちゃ、ボイン‥新、あんた知り合いなの?」

「はは‥知り合いってほどではないけど、前に少しここで体験学習したことがあってね。それにお前の翻訳スキルもここで買ったんだよ!」

「ふ~ん、へんな学習とかじゃないでしょうね?」

「あほか!どう見たって魔法だろうが」


 クラウスは、馬鹿やってる俺達を横目に、鑑定スキル巻物スクロールを買っていた。


「あ、使い魔の呪術札‥買っておこうかな」

「へ~これが、使い魔の札なんだ?これでゲンムちゃんを?」

「そうそう」


 俺は、呪術札1枚は金貨1枚だったので、それを5枚買った。


 そしてひとまず、定休日の店に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る