第22話 20階層守護者と半獣人

 ダンジョンで会った、手負いのクラウスを連れて先へ進むことにした。


「アラタ‥だったか?あんた達は、あまり傷ついていないようだが、結構ランクは高いんだろうな」

「いや、俺達はこの間Cに上がったばかりですよ」

「え‥まじかよ‥俺は、このダンジョンが終わったらBランク試験受けるつもりだったんだが、その前に、ひと稼ぎしようと思ったらこの様だ‥」


 クラウスは、そう言って足を少し引きずりながら、ゆっくりとついて来る。


「やっぱ、ダンジョンって稼げるの?」

 俺はクラウスにそう聞いた。


「勿論だ、生きて帰ればの話だがな、宝石に金塊、死んだ冒険者の装備なんかも売れば少しは足しになる。俺は斥候を得意としているから、もし何かあったら、持ち前の足で逃げることも出来るしな、だが、暫くそれも無理そうだがね‥」


 斥候って‥つまり、先に敵とか罠とかを探る職種なのかな?


 クラウスを鑑定してみた。


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 名前:クラウス・テオドロ

 種族:半獣人

 性別:男

 年齢:25

 体力:35

 魔力:21 

 筋力:30  

 敏捷:41 

 スキル:探知、索敵、格闘術初級

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 探知スキル?やっぱ、罠とかを探る能力か。


「ふむ、もうすぐ守護者部屋に着くぞ、ふー」

 クインがそう言って、先に進んで行く。


「でも、良いのか?俺がいたら足手まといだぞ?」

「ああ、良いですよ、レベッカを守ってやってほしい、戦いはクインと俺に任せればいいから」


 扉の前に着いた。


「ああ、わかった、一度失ったも同然の命だ、この嬢ちゃんを命懸けで守ってやる」


 クラウスは、二本の短刀を出して、両手に握りしめた。


「ふむ、ここの守護者はたしか、クイーン・アラクネだったはずだ、ふっふー」

「クイーン‥あの、蜘蛛の親玉ってことか‥」


 クインは説明した。

 クイーン・アラクネ。上半身は人型の女、下半身は蜘蛛の大きな魔物だそうだが、実は上半身の人型は人間を油断させるための擬態なのだそうだ、本当の頭は人型の部分の腰にあると言う。

 二つある口の一つは糸を、もう一つからは卵を産み、エルダー・アラクネを排出する。


 クインは、大したことはないと言っていたが‥不安でしかない。


「あ、レベッカ、これ渡して置く、練習どおりやれば大丈夫だと思う」


 マジックボックスの中から、1丁のショットガンと、1丁のアサルトライフルを出して、レベッカにショットガンを渡した。


「あ、うん」

「うお‥マジックボックス持ち‥ってそれは何だ?」


 クラウスは、マジックボックス持ちの俺に少し驚き、俺はアサルトライフルをクラウスに渡した。


「これは、銃と言って、この引き金を引くだけで敵を駆逐できる武器ですよ」

「引くだけ‥?‥武器?」

「うん、斥候職なら手先とか器用そうなんで扱えるかなと思いまして」


 カサカサと、俺達に一匹の雑魚アラクネが近づいて来た。

 新はマジックボックスから、もう一丁のアサルトライフルを取り出し、構えてアラクネを狙う。


「こうやって構えて、ここから覗いて狙う、‥そして撃つ!」

 ズタタタタタタン!


 ピギィ‥

 ハチの巣にされた、アラクネはその場で、緑色の血を流して死んで消滅した。


「な!?」

「絶対、俺達に向けないでくださいね!ちゃんと狙って撃って」

「ああ‥わかった‥狙って引き金を引く‥だな。」


 新は頷いて、扉を見る。

「準備はいい?」

「「「うん」」」

「ふむ」

「ああ」


 扉を開けて、中をみると大きな蜘蛛が鎮座していた。

 二つの口があり、クインの言った通りの姿をしている。


 俺達は、部屋に入って行く。

 クイーン・アラクネは、すぐにこちらに気付き、いくつも口から卵を排出する。


 すぐに孵化して、ひとつの卵の天辺から5匹ほど這い出てくる。


 クインは、すぐに瞬間移動し8本ある1本を切り落とす。


 ピギュアアア!


 俺は、大きめのファイヤーボールを作り出し、卵を焼いて行く。

 這い出て来た蜘蛛は、のた打ち回りひっくり返り動かなくなる。


 素早く動くクイーンアラクネだったが、クインの攻撃ですでに2本の足を失っていた、そして動きは鈍る。


 休まず卵を排出し、どんどん雑魚が生まれてくる。


 マイティも、瑞希も雑魚を切りながら応戦する。

 クイーンアラクネは、もう一つの口で、クインに糸を弾丸のように吐き出し攻撃している。


「ふん、ふー」


 少し、クインも脚を絡めとられそうになっていたが、すぐに風魔法で糸を切っていた。


 新は、孵化する前にと卵を焼いて行くが追いつかないほど、卵を産み付ける。

 雑魚が、レベッカとクラウスを襲って来るが、互いに背を向け銃で応戦し、倒していく。


 ズドン!

 ズタタタン!


 ピギィ、ピギギ、ピキャ。

 ピギッ、ピキ、ピ。


 マイティも瑞希も、雑魚を散り倒しながら大きなクイーンアラクネの脚に近寄って行く。


 クインが、あちらこちらに飛び跳ね、無属性魔法でアラクネを切り刻んでいくが固い甲殻でダメージが入りにくい。


 マイティが、クイーンアラクネの脚に剣で斬りつけた。

 ガキン!!


「固い!!」

「ふむ、足先にいくほど固くなるのだ、ふー」

 マイティのその声に、クインが口を開いた。


 すぐに、クイーンアラクネの、その脚がマイティを串刺しにしようと襲い掛かる。

「マイティ危ない!」


 ザン!

 瑞希の戦斧が、その襲い掛かろうとした脚を切断する。


「あ‥ミズキさんありがと!」

「いえいえ、マイティの剣じゃ切れそうにないから、雑魚お願い!」

「うん!」


 瑞希は、マイティの力ではその固い脚は無理だと判断してそう言った。


 クインと瑞希がクイーンアラクネを。

 俺とマイティが卵と雑魚処理をしていた。

 クラウスは、レベッカを守りつつ、様子をうかがっていた。


 クインと瑞希の攻撃により殆ど動けなくなった、クイーンアラクネを、皆で総攻撃に移る。


 糸がマイティの足に絡みつき、身動きが取れなくなるが、新が炎魔法で焼いて剥がす。


 クインが、首を集中して無属性斬撃魔法を繰り出す。

 瑞希が、戦斧を振るって、脚を失い落ちて来た体にダメージを与えていく。


 雑魚もいなくなった時、新、マイティも胴体目掛けて攻撃を仕掛ける。

 暫くすると、とうとう動かなくなった。最後にクインが固い甲殻で覆われた、人型の腰の部分を切断することで、クイーンアラクネは消滅した。


「やったのか‥」

 クラウスが、そう呟いた。


「ふむ、意外としぶとかったな、ふっふー」

「やったー!」

 瑞希が喜んだ。


 クイーン・アラクネが消滅する瞬間ドロップ品が散らばった。


 大きな魔石1個、魔石(中)数個、宝石(小)数十個、甲殻が大中小いくつか、纏まった糸が複数が無造作に転がった。


 そして奥に箱が出現したのだった。


「みんな、ご苦労様」

 俺がそう言って、宝箱へ近づく。


「待て、アラタ」

 そう言ったのはクラウスだった。


 クラウスは箱に近づいて確認する。

 箱を撫でて、何かを取り外した。


「危なかったな、アラタ、開けたら猛毒針が飛び出す仕組みになっていたぞ」

「え‥そんな仕掛けが‥」

「10階層の箱、あんた普通に開けてたね‥」

 引きつった俺に、瑞希がそう言って苦笑いしていた。


 クラウスは一歩下がり、どうぞと言った。


 俺は、箱を開けると、箱の内側に無数の針がこちらを狙っていた。

「うわ‥危な‥」


 中に入ってた物を取り出して行く。

 金塊20個、宝石(中)20個、魔石(中)20個、胸当ての防具、黒いローブ、黒い盾、ライフポーション(中)5個、20階層への転移石1個


 俺は鑑定の必要ない物は、全てマジックボックスへ仕舞っていった。

 瑞希、レベッカ、マイティがクイーンアラクネが死んだときに散らばったドロップ品は回収してきていた。


 この黒い防具類を鑑定してみた。


【アラクネアーマー】魔法防具マジックアーマー:クイーンアラクネ甲殻製:物理ダメージ受け流し6%、自己修復


【アラクネローブ】魔法防具マジックアーマー:クイーンアラクネ糸繊維製:物理ダメージ受け流し17%、敏捷+1%


【アラクネシールド】魔法盾マジックシールド:クイーンアラクネ甲殻製:魔力発動時変形、物理ダメージ受け流し9%


「おお、これは‥」

「鑑定ではどうでているんだ?」

 俺が見ていると、クラウスはそう聞いてきた。


「クラウスさん、鑑定持ってないんですか?」

 マイティがそう言った。

「本当は斥候職なら、持つのが当たり前なんだが‥鑑定スキルは高額だ‥まだ俺の手持ちではな」


 黒光りしていて、それなりにカッコイイ品物ばかりだった。


「この盾、魔力発動時変形って書いてるけどなんだろう‥」

 新はその盾を持って、魔力を注いでみた。


 ガシャ!


「うわ!」

 盾の表面がギザギザに捲り上がり、鋭いサメの下歯のようになった。


「攻撃にも使えそうですね」

 マイティがそれを見てそう言っていた。


「分配なんだけど‥」

「俺は勿論、パス、何もしていないし、ついて来ただけだからな」

 俺がそう言うと、クラウスは下がってそう言った。


「うん、わかった、とりあえずこの黒いカッコイイ、ローブはレベッカで決まりだ。そして、この軽鎧は瑞希かな?そして盾は剣士のマイティで決定」


「なんか、結局、アラタさん何も貰ってなくないですか?」

 レベッカが俺の渡したローブを手にそう言った。


「ああ、俺は別に良いの良いの、とりあえず俺なりにちゃんと考えているんだ、俺がローブ着た所でなんかしっくりこないし、魔法使うから盾は邪魔だし、前線にいる瑞希の方が鎧の意味もあるだろ?」


「なるほどねー、新もちゃんと考えているわけだ」

「考えてないように見えてたのか‥?」

 瑞希に俺はジト目でそう言った。


「とりあえず、今日の所は戻るか?ここへの転移石も取ったし」

「うん、そうしよう‥疲れたし」

 皆、疲れたらしいので、戻ることにした。


「あ、アラタ、これ返しとく」

 アサルトライフルをクラウスから受け取った。


「しかし、凄い武器だな、あの蜘蛛の量だったら魔法じゃ、倒すのが追いつかなかったかもな」

「ええ、物理最強の武器ですよ」

 銃をマジックボックスに仕舞い、奥のセーフエリアへ歩き出す。


「なあ、アラタ、お前達何者なんだ?従魔が強いのはわかるんだが‥俺と同じCランクなのに、マジックボックス、鑑定スキル、そしてその不思議な武器まで持っている‥それに、ミズキちゃんだっけ?君の動きも人間離れしていないか?」


 クラウスは歩きながらそう聞いてきた。


「あ、私達‥」

「あーー、ははは…鍛えたからねぇ、な!瑞希‥この銃は、あれだ‥俺が考えて作った武器だから俺達しか持ってない物だよ、ははは」

 瑞希の言葉を掻き消し、作り笑いしながらそう言った。


「そうなのか、俺ももっと強くならないとな」


 そして俺達は、奥のセーフエリアに設置してある、帰還魔法陣で地上へ戻ったのだった。





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