第20話 迷宮1日目。

 俺達が、ボルボンに来て初めて泊ったオンボロの宿の名は、【うりぼう亭】と言う。今は、店主のお婆さんハンナさんと、12歳の女の子コリーと二人で切り盛りしている老舗の宿だった。


 外見はオンボロだが、ちゃんと部屋は綺麗に掃除されていて、快適だった。

 そして、ボルボンの町の宿は最低でも銀貨4枚はするがここは半額の2枚だった。

 それは、この町が出来た当初の値段だったらしい。


 夕飯もハンナさんは、作ってくれた。

 シンプルな質素な食事だったが、優しさを感じずにはいれないそんな味だった。


 そこで、ハンナさんは、この町の事を話してくれた。


 この町はダンジョンが見つかってから、人が集まり、家を建て育ってきた町だと言った、その歴史は約500年。ダンジョンを中央に建物が広がっている。


 その当初にここに建てた宿を代々守って来たのだと言う。

 コリーの両親は、冒険者の父親が死に、母親は病弱でコリーの小さい頃に亡くなったらしい。それ以来、ハンナお婆さんとコリーはここで二人暮らしなのだといった。


 ダンジョンは、生き物で魔物と入って来た人間の血肉を吸収し育つ。


 そして、このダンジョンは、噂によると50階層くらい育っているらしい。

 10階層ごとに守護者部屋があり、撃破すると宝箱が必ず出現すると言う。

 勿論、迷宮の途中にも箱などがある場合もあり、ランダムだと言った。


「お婆さん、それで一番下には何があるの?」

「さあ‥踏破したクランがいたけど、それからどのくらい経つかのう‥、それにそれから年月が経っているから育っていると思うしの‥わからんねぇ」


 お婆さんは、遠くを見るようにそう言った。


「しかし、ダンジョンって不思議ですね」

「そうじゃね、大昔に古代人が作った物だって諸説があるくらいじゃからね」

「古代人?」

「定かではないが、大昔にいた人々じゃよ。神のような技術をもっておってな、でも、その凄い技術が仇になって滅びたんじゃと‥もう恐ろしく遠い大昔のことさぁ」


 へぇ‥古代人ねぇ、その古代人がダンジョンを作った?


「ふむ。このダンジョンを30年ほど前に踏破したのは、他でもない、ツヨシのクラン【ディグニティ】だがな‥ふー」

「へ?‥」

「おや、そういや、そのクランに従魔がおったが、もしや、お前さんだったのかい?」

「ふむ、ふー」


 これは驚いた、最近の踏破クランは、親父のクランだったのか‥

 最近と言っても30年前か‥俺の生まれる10年も前だ、考えてみたら親父の歳って還暦前だったな‥いくつからこの世界に来ていたんだろう。


「ふむ。しかし、その時は40階層までしかなかったからのぅ、それから10階層分の養分をえたんじゃろうな‥ふっふ」


 クインはそう言っていた。


「とりあえず、明日、ダンジョン潜ってみようか?」

「うん、行こう行こう!」

 俺がそう言うと、マイティが嬉しそうに頷いていた。


 ◇


 次の日になり、俺達は朝食を摂った後に、宿を出る。


「お兄ちゃん達!頑張ってね!今日のお越しをお待ちしております」

「あはは、コリーちゃん、あんた、いい女将になりそうだね」

 コリーの笑顔に瑞希がそう答えていた。


 俺達は早速、ダンジョンのある中央広場へ向かった。


 24時間体制で、冒険者ギルドの職員が常駐している。


 入り口の職員に近づくと。


「ん?ダンジョンに入りたいのか?入場に一人銀貨5枚だ」

「はい」

「じゃあ、ここに冒険者カードを翳してくれ」


 何かの魔道具の前に、全員、冒険者カードを翳して、1人銀貨5枚を支払う。


「よし、全員Cランクだな、そして、そこにいるのがお前の従魔のクインだな、通って良し、奥のダンジョン入り口に一応説明する人間がいるから、初めてなら聞いていけ」


 どうやら、俺達の情報は魔道具で読み取った冒険者カードでわかるらしい、これで今日ここを通過した冒険者も記録しているのだろう。

 俺達は頷き奥に進む。


 そこには、ぽっかりと開いたダンジョンの入り口があった。


「説明はいるか?」

「はい、一応」

「ここボルボンダンジョンは‥」

 職員の説明が始まる。


 ・このダンジョンは迷宮系である。

 ・10階層ごとに守護者がいる部屋があり、深層へ行くにはそこを通らないといけない。

 ・道中や守護者の箱の中身、魔物のドロップ品などは、全て冒険者の物である。

 ・守護者を倒すと有難いことに転移石をドロップする、その部屋の先にセーフエリアがあり今度からその場所へ転移することが出来、次回ここから挑むことが出来る。(要らないのなら、ギルド買取もある。)



「そして、帰還に関してなんだが、階段で戻って来る方法以外に、あそこを見てくれ」


 職員が指さした所の床に魔法陣が描かれていた。


「ダンジョンは、形を変えるので地図なんて物はないが、我々の研究で分かったことだが、実は変わらない場所もあったのだ、そこに戻れる帰還用の転移魔法陣を設置してあるが、無くなっている可能性もあると言うのを忘れないでくれ」


 ギルド職員はそう説明し、俺達は頷いた。


「わかりました、でも、一番深層まで行ったらどうなるんですか?」

「そこなんだが‥昔、踏破したクランは、この入り口まで転移してきたと報告されているから何か手段があるのであろう‥」


「ふむ、それはある、ふー」

 クインは俺達にだけ聞こえるくらいの声で、そう言って鼻を吹いた。


「後、ダンジョン産でレアな物が出た時や、不思議な事があった時は報告してくれ。今後の、謎多きダンジョン解明研究の材料になるからな、その時の情報によっては報酬もある」


 新達は頷いた。


「じゃ、冒険者達にご武運を」


 そう言ってその職員は、どうぞと、手で指し示した。


 俺達は、ダンジョンの入り口から階段を降りて行く。

 1階層に降りるとダンジョンの中は、天井もそれなり高く、道幅も広い。

 所々で、冒険者の声が聞こえる。


「ふむ、ここは、冒険者の訓練場にもなっとるから、さっさと先に進むぞ、ふー」


 クインはそう言って、スタスタと進んで行く。


 1階層にいた魔物は、ホーンラットや、ワーウルフ、大型のジェリースライムなどだった。


 この辺はぶっちゃけ、楽に倒して進んだ。

 魔物も倒すと、死体は消えるものの、その魔物の皮や角などは残ったりすることがあった。


 道中のクインの話によると、ギルドの猫耳姉さんも言っていたが、魔物ってのは魔素溜まりから生まれると言っていた。

 ダンジョンには幾つかそう言う所が出現してすぐに魔物が生成されるらしい、まるでダンジョンが調整をしているようだと言う。


 クインの索敵で、するすると階段まで迷わず進んで行く。


 地下2階、3階、4階と、どんどん下って行く。

 時折、魔物が襲って来るが、俺と瑞希は身体能力も高いお陰でそこまで倒すのに苦労はしなかった。


 10階層まで来ると、冒険者の数も疎らになって来ていた。

 10階層の奥に大きな如何にもボス部屋!みたいな、守護者部屋があった。


「ここが守護者の部屋か‥」

 新はそう言って大きな重厚な扉を見た。


「ふむ、我がツヨシと来た時と変わらぬなら、ここの守護者は大きなヘルハウンドじゃったな、ふっふー」

 クインがそう言った。


 重厚な扉を俺は開けた。

 大きな広間にそれは居た。


 瞬時に鑑定スキルで見てみた。

【マーダー・ヘルハウンド】

 ーー ーー ーー ーー ーー ーー

 ん?名前しか見えない。


 その、姿は、深い赤黒い色のゾウくらいの大きさの犬のような獣だった。


 ガルルルルルル‥‥


 こちらを振り向いた。


 後ろの扉の前に摺りガラスのような結界が張られる。

「え?閉じ込められた?」

 レベッカがその結界を触ってそう言った。


 ヘルハウンドは大きな体で、飛び跳ね、壁を蹴って。

 先頭にいた俺を襲って来た。

 すぐに、その攻撃を躱して手に炎を作り、それを矢の形へ変化させて飛ばす。


 ヘルハウンドは大きく宙返りしてそれを躱し、またジャンプして壁を走り回る。


「ふむ、小童が、ふー」


 クインはそう言うと、瞬間移動し無属性魔法の斬撃を繰り出した。


 急に目の前に現れたクインに戸惑い、戸惑った瞬間、ヘルハウンドの4肢あるうち、3肢の足首から先が切断される。


 ガアア!!


 ヘルハウンドは、足先を失い、その場に転げ落ちる。


 藻掻いているヘルハウンドに、俺とマイティが、剣を突き立てる。

 大きな体で、更に藻掻く。


 ググガ!


 瑞希が戦斧を大きく振りかぶり首へ振り下ろす。

 ザン!!


 グガガ!!


 首が太く切断まではいかなかったが、クインが残りの繋がっている部分を無属性魔法で切断する。


 体から切断された首が飛ぶ。


 ドン‥ドサ。


 藻掻いていた、ヘルハウンドはすぐに動かなくなった。

 すると、マーダー・ヘルハウンドの死体は黒い霧に包まれ床に吸収されて消滅していく。


 そこに残されたのは、大きな魔石が1個、大きな牙2本、大きな1枚の皮、小さな丸い石1個が落ちていた。


「怖かったぁ‥」

 レベッカがそう言った。


「クインちゃんって強いのね」

「ふむ、あんな小童に負けることはないわ、ふっふー」

 瑞希がそう言い、クインはドヤ顔で鼻を吹いていた、そして、瑞希は落ちている魔石を拾った。


「アラタさん、奥に箱がありますよ」


 マイティが、その箱を指差しそう言った。


「ああ、倒した瞬間現れたの見たよ、よし、開けてみる!」

 俺は大きな箱に近づき、警戒してその箱を開けた。


 そこには、金塊5個、宝石(中)10個、魔石(中)10個、少し装飾の着いた反った剣、革製の兜、ちょっとかっこいい指輪、液体の入った小瓶3つ入っていた。


「おー、いろいろ入ってる」

「どれどれ?」

 俺が中を覗くとみんな見に来たのだった。


「新、あんた鑑定スキルっての持ってるんでしょ?見て教えてよ」

「あ、その小瓶は、ライフポーションですね」


 小瓶を指差し、レベッカがそう言った。

「あ、やっぱりそう言うのあるんだね」

「はい、でも、神聖術師の教会にしか売っていないんです」

「へぇ‥そうなんだ。高価なの?」

「はい、飲むだけでヒールと同じ癒しを得られますので、そこそこします」


 まあ、その辺は後から詳しく聞くことにしよう、そして俺は、その他を鑑定してみた。


【シャムシール】魔法武器マジックウェポン ミスリル製:追加ライトニングダメージ9%


【革の兜】魔法防具マジックアーマー ハードレザー製:筋力1%増加(装備時) 


【プロテクションリング】魔法指輪マジックリング ミスリル製:魔法障壁(極小)



「鑑定結果は、こう出たね。魔法付与マジックは1つしか付いてない物ばかりだけど‥ないよりはましなのかな?」

「で、これどうするの?」


 瑞希の問いに、とりあえず俺は、これを分配することにした。


「じゃあ、このミスリル製の剣はマイティ、兜は瑞希、指輪はレベッカでいいかな?」

「え!剣、貰っても良いんですか?やった‥ダンジョン産の剣」

 マイティは、大事そうにその剣を受け取った。


「有難うございます!アラタさん」

 レベッカはそう言って、プロテクションリングを受け取った。


「良いの?私が頭の防具貰っても?」

「ああ、筋力1%アップしかないけど、戦斧振り回すなら少しでも力があったほうが良いんじゃないか?」

「そうね」

「これでまた一歩、スーパーメスゴリラに‥」


 ゴスッ。

「ぐおっ!」


 瑞希が戦斧の柄でしゃがんでいた俺の背中を小突いた。


 守護者を倒した時のドロップした丸い石が、多分、ギルド職員が言ってたこの階層への転移石なのだろう。


 金塊や、牙なのどドロップ品などをマジックボックスへ仕舞って、奥の部屋に進むことにしたのだった。

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