第19話 ダンジョンの町ボルボン。

【イセ・スイーツ】をオープンして数日が過ぎた。


 初日から上々な売上を叩き出し、好調なパンケーキ屋。

 平均して一日の売上は金貨にして35枚くらいだった。

 今日の営業は終了し、片付けをしている。


「アラタさん、もうそろそろ皆慣れて来たし、客も落ち着いて来たので、本業の冒険者に戻っても良いですよ」


 ミーナさんは、洗い物をしている俺にそう言った。


「そうですね、そろそろ俺も冒険したいなと思ってました。ダンジョン行って見たくて」

「ダンジョンですかぁ‥結構危険ですよ、確かに一攫千金らしいですが、死んだら死体も残らないので葬儀すらできませんよ?」


「まあ、聞いた話、深い階層ほど危険になるって聞いたので、危ないと思ったら逃げますよ」

「気を付けてくださいね‥アラタさんいなくなるとこの店も終わっちゃいますから‥」

「はい、わかりました、クインもいるから大丈夫だと思いますが気をつけます。」


 ミーナさんは笑って頷いてくれた。


 バタン。


「アラタさん、ミーナ、大変だ」

「どうしました?」

「シャンプーが、売れ切れてしまって、早く次を仕入れろと言われているんだよ」

「え?結構容器に詰めましたよね?」

「やっぱりね‥この店で、お姉さん髪綺麗ですねって何度か言われたから、カゼルの店で売ってるシャンプーってやつを使ってるって言ってたのよ、うふふ」


 でたよ‥そう言えば、女性に注文取る時、頭を近づけて聞いてたな‥そうやって密かに宣伝していたわけか‥

 この人根っからの商売人だわ‥


「もうあの容器も無くなってしまってどうしようかと‥」

「大丈夫、それを予知して同じ容器をドワーフの工房に作って貰ってるわ」


 え‥マジか‥すでに手を回してんのか。どれだけ先読んでんだよ‥ミーナさん。


「石鹸もあの料金でもう無くなりかけてるし‥お陰で他の石鹸が売れ残ってるよ‥」


 カゼルさんは、困り顔でそう言っていた。


「良いのよ高い方が売れるんだから、なんなら、1個銅貨1枚の所を2個にしてやれば?そしたら売れるんじゃない」


 ミーナさんって、まじやり手だな‥


 バタン。

 また誰か入って来た。


「もう閉店‥って、エグバートさん」

「アラタ殿。出来たぞ!」


 エグバートは俺の前に来て、ドライヤーをつけたり消したりして見せた。

「おー!やった!」

「最初は、魔石の魔力を電流にかえてから調整の所が難問じゃったが、やっと安定出来る方法を思いついたわい」


「その魔道具ってどのくらい持ちます?」

「そうじゃな‥魔力の消費量にもよるが‥ひとつ1ヵ月ほどは持つんじゃなかろうか?」


 意外ともつんだな‥


「有難うございます!じゃあそれまた作れるようにしておいてください!」

「任せとけ!一度作ったもんなら、20分もあれば作れるわい!さ!あの酒をくれ!」


 俺は、4リットルのウイスキーを渡した。


「で、これの料金は幾らですか?」

「ん?今回の試作はいらんぞい、儂は完璧主義なんじゃい、次はもっと長く安定するのを作るから、その時はお金も貰う、それから‥この酒もその時にでも‥」

「わかりました、じゃあお願いします」


 そう言うと、大事そうにウイスキーを抱きかかえてエグバートは帰って行った。


 とりあえず、マジックボックスに持っている、石鹸、シャンプーは全て出した。

 地下の倉庫部屋に詰めて置いた。


 そして、マジックボックスにコンセント用魔道具が出来た時の為に、洗濯機を買っていたのだ。


 さっき持って来て貰った、コンセント用電気魔道具を取り付けて排水を流しの穴に上手く取り付けた。


 ちゃんとスイッチを押したら動いた。


 ミーナさんと、シルビアさんに使い方を教えた。

 そして、マリルレットには、これに触れないように言い聞かせていた。


「へぇ‥ボタンひとつで、汚れた服を洗ってくれるんですね‥」

「凄い、魔道具ですね‥じゃあ、もう手で洗わなくていいのですか?」


 魔法あるのに、そう言う所は原始的だよね‥この世界。


 店仕舞いした後に、一度皆で集まって貰った。


「えっと、そろそろ、俺は冒険者稼業をします。これからは、全て店の事はミーナさんにお任せしますね、給料もミーナさんから貰ってください」

「「「はい」」」


 皆、良い返事だった。


「後、ミーナさん、明日1日休みましょう!そして、明後日からまた6日仕事をしたらまた休みにして、1日をお休みして、そういうローテで行きます」

「え?休み‥ですか?売上もありますのに?」


 そもそもこの世界には休日という概念がない、みんな必死で働いているのだ。

 なので、俺は自分が嫌なことは従業員にさせたくないのだ。

 休みがあれば、やりたい事も出来るし、体調を整えることだって出来るからだ。


「‥と言う理由で、休みを取ることにします」

「はい、アラタさんがそう言うのなら、お休みを明日からそういうローテーションでお休みを取りますね」

「うん。宜しくです」


 店の従業員達に、パンケーキ屋は任せることにした。


 そして、俺達は、久々の冒険者に戻ることになり、行ってみたかったダンジョンを目指そうと、その日は就寝したのだった。


 ◇


 次の日、俺、瑞希、クイン、レベッカ、マイティは、西にあると言う、ダンジョンがある町、ボルボンを目指すことにした。


 ボルボン行の馬車を捕まえて走り出した、ボルボンまでの道のりは、馬車で約3日、夜2回、キャンプを張ることになる。


 冒険者が行き交う道を通るため、魔物も逐一駆逐されているので、ある程度は安全と言う事だった。


 たしかに、街道の所々に冒険者がキャンプしているのが見えた。


 一日目は、夜に何事もなくキャンプして、早朝出立した。


 二日目の夜、魔物騒動があったが、近くにいた冒険者達がなんなく倒していた。


 三日目、早朝。

「新‥腰が痛い‥」

「瑞希、別に大して何もしてないだろう」

「だってずっと馬車のガタゴトとテントの雑魚寝なんですもの」


 レベッカとマイティは、慣れているのか平然としていた。


 今日は、予定通り行けばボルボンに着くはずである。

 馬車の馭者も、もう少しだぞと言っていた。


 5時間ほど走ったところで、遠くにボルボンの町の塀が見えて来た。


「やっと見えた!」

「お、ほんとだ!」

 塀が見えた瞬間、瑞希が嬉しそうだった。


 門に着き、この世界の常識、町へ入るための検問で行列が出来ていた。


 ボルボンは、ホルンと同じくらいの規模の町だった。

 フェリオール王都を見た事がないからどのくらいの大きさなのか比較は出来ないが、結構な町だ塀もそこそこ高く、門の上には物見の兵も見える。


 門で兵士に冒険者カードを見せて、何かの魔道具で確認して、通してくれた。

 ボルボンの町の中へ入ると、いろんな人種と物々しい装備をした人達で溢れていた。


 ボルボンまでの馬車の運賃、1人、銀貨2枚で、8枚を支払った。

 クインは走ってついて来たいたので運賃に入っていない。


 町の中に歩き出す。


「うわあ、凄い人多いね」

 瑞希が周りを見てそう言った。


 俺も周りを見て思った。

 この町はダンジョンで栄えたと聞いた。

 ホルンに比べて、物々しい装備をした人が多いのは、ダンジョン目的の人が多いからだろう。


 出店や武器防具屋もあちらこちらに見受けられ、宿もたくさんあって活気があった。


「先ずは、今日泊る宿を探そうか?」

「うん、賛成」


 結構、安い宿などは早く埋まっていることが多いらしく、俺達は3軒入って見たが、満室だった。


 結局、この町の中央あたりまで歩いて来た。

 すると、ダンジョン広場と書いてある広場に出た。


 そこには、大きな建物があり、ボルボンダンジョンと書いてあった。

 入り口には、ギルドの職員らしき人が数名いて、入って行く冒険者を記録している風景も見えた。


「あれがダンジョンの入り口なのかな?」


 俺がそう呟いたら、マイティが口を開いた。


「うん、私は来たことないけど、行った人から聞いたことあるよ、冒険者ギルドが、ああやって全部管理しているんだって、そして30日出てこなかったら、死亡記録をして各地にある冒険者ギルドに通達されるんだって」


「へぇ‥そういうシステムなんだ‥」

「あら?あそこの女の子、宿ありますって看板持っているよ?」

「お、空いてるならさっさと行こう」


 立て札を持ってる女の子に近づいた。


「宿ありますよ~いかがですか~」

「お嬢ちゃん、宿探しているんだけど、空いてるの?」

 瑞希が、その女の子に話しかけた。


「あ!いらっしゃませ!空いてますよ!」

「案内してくれるかな?」

「はい!お姉ちゃんこっち!着いて来て!」


 女の子は走って行く。

 俺達は、その子の後を着いて行く。


 あの中央広場から、10分くらい歩いた。


「意外と遠いな‥」

「うん‥」


 女の子は足を止めて、ここと指を差す。

 そこは、木造で凄くボロボロの外見の宿だった。


「こ‥ここか‥」

「これは、見た目だけじゃ入りたくないわね‥」

 俺達は、ポカンと口をあけてその宿を見ていた。


 こっちこっちと手招きする女の子。

「仕方ない‥いくか」


 中へ入ると、レトロな感じの宿ではあったが、意外に綺麗にしてた。

「お婆ちゃん!お客さん連れて来たよ!」

「え?あ、ああいらっしゃいませ」


 奥から、細身のお婆さんが出て来た。

「ああ‥どうも」

「びっくりしたでしょう?こんなオンボロな宿で」

「い、いえ‥」


 俺達は建物をきょろきょろと見ていた。

「コリーがすみませんねぇ‥」

 瑞希が俺の顔を見てすぐに。


「いえ、お婆さん、丁度宿を探していたので助かりました」

「いえいえ、そう気を使わなくていいのよ、他に行きたいときは遠慮なく行ってくださいな」


 優しそうで元気なお婆ちゃんだ、こう言われると流石に断れないよね‥


「いえ、宿を4人分頼みます」

「お兄ちゃんさっすがあ」

 瑞希が俺の顔を見て微笑んだ。


「コリーちゃんだっけ?あなたいつも、立て札持って立ってるの?」

「うん!」

「健気だねぇ‥部屋に案内して貰えるかな?」

 瑞希はそう言って、頭に手を置いて、よしよししていた。


 部屋に案内されたが、いろいろと古いが中は全然綺麗だった。


 後から、お婆さんから聞いたが、ボルボンの町は、宿代が最低でも銀貨4枚かららしくそこそこ高いのが分かった。

 多分、日本でテーマパークの宿を取るようなものなのだろう。

 でも、この宿は銀貨2枚だった、まあ、外見があれでは仕方がないのだろう。


 夕飯は、お婆ちゃんが作ってくれるっていうので、俺達は甘えて、頂くことにした。



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