第16話 幼馴染

 え‥‥なんで、瑞希そこに?


 瑞希に呼び止められた時、俺の身体半分は魔法陣の壁の中だった。


「な‥なにそれ‥」

「ちょ‥瑞希、なんでそこにいるんだ?」


 俺は、一度壁から部屋に戻った。


あらた、あんたがさ、ろくなもん食べてないんだろうなと思って‥って、今の何!?」

「い‥今の?何かあったのかな?‥ん?」

「あほ!今の見てて、何もなかったよね、うん、なんて言うか馬鹿!」

「ですよね‥」


 俺は観念した‥


「実は‥親父が死んで遺書つーか、手紙を見つけてさ。そしたら、この魔法陣を見つけたってわけさ」

「で?その魔法陣に身体突っ込むとどうなるのよ」

「異世界‥」

「は?」

「ああーもう、じゃあついて来いよ!説明するのが面倒くさいわ!」


 俺が、魔法陣に手を添えると、魔法陣の文字が青白く光る。


「わあ‥」

「さ、入って、お前が入ったら俺も入るから」

「新が先に入ってよ」

「いや、魔法陣に俺が触れてないといけないんだよ!」


 瑞希は恐る恐る、壁に手を入れる。

 瑞希が中に入ったのを確認して俺も魔法陣を潜った。


「何ここ‥」

「ここは祠。クインいるか?」

「ふむ。誰だそいつは?ふっふー」

「きゃあああああああ!オオカミーーー!!新!逃げないと!!」

「おおお落ち着けって!!」


 逃げようとする、瑞希の腕を俺は掴んだ。


「こいつは俺の従魔のクインだ!」

「あわわわわ‥へ?従魔?」

「クインこっちは俺の幼馴染の桐谷瑞希だ」

「ふむ、騒がしい人間だな。ふっふー」

「ね、ねぇ‥新、このオオカミ、なんか、アウアウフッフーとか言ってるけど、あんた言葉わかるの?」


 ああ、そうか、俺は翻訳スキルを覚えてるから理解出来るのか‥


「わかるの!ってことで、ここが異世界なのが分かっただろ?」

「な‥なんとなく‥」

「ってことで、地球に帰りましょう」

「は?新はどうするの?」

「俺は、今から従業員達に晩飯をだな」

「じゃあ、私も行く」

「は?何言ってんのお前、だめでしょ」

「だって面白そうじゃん」

「そもそも、お前どうやって家に入ったんだよ?」

「鍵?開いてたよ、何度も呼んだけど出てこないから勝手に上がったら、アレでしたが何か?」


 ああ‥親戚のおばちゃんの電話で鍵し忘れてたのか‥


「さ、事情はわかった、帰ろうか」

「やだ!」


 こいつ多分帰らないなこれ‥飯食わせて帰せばいいか‥ああ、めんど。


「じゃあ、飯食ったら帰ってくれるか?」

「うん!」

「はあ‥ちょっと戸締りしてくる」


 俺は一度地球の部屋に戻り、戸締りしてから、祠に出て来た。


 祠の外に出て、ゲンムを呼び出す。


 空間から、ぬっと出て来た、ナイトメアのゲンムに驚く瑞希。


「きゃ‥何、何?」

「これは使い魔のゲンム。説明面倒だから、ほら、早く乗って」

「う、うん‥」


 ゲンムとクインは走り出し、ホルンの門の前まで来たら降りた。


「凄いね!空気も美味しいし、馬で草原走るなんて初めての体験!」

「馬じゃねーし、魔獣だ魔獣」

 瑞希はそう言って、目がキラキラしていた。


 ホルンの街をこの世界の家まで歩く。

「うわぁ‥中世の街を歩いているみたい‥さいっこう!異世界」

「あんまはしゃぐなよ‥恥ずかしいだろ」

「ああ、めんごめんご」


 新は溜息をついて、キョロキョロ物見している瑞希を見ながら歩いていた。


 我が家へ着いた。


 カチャ。


「ああ、マスターお帰りです」

「アラタさんおかえりなさい」


 瑞希もキョロキョロしながら入って来た。


「うわ、女の子ばっか」

「アラタ兄ちゃん!誰、その人!」


 ジルとメイラが近寄って来た。


「ああ、俺の幼馴染だ」

「‥‥‥新‥あんたも何言ってるの、それ何語?」


 瑞希には、この世界の言葉は全く分からないようだ。


「まあいいや、子供達には私が、新に作ってやろうと持って来たハンバーグを作ってあげましょう!」


 こいつ、この状況でも物怖じしない性格は凄いな‥


 俺は、じゃあ、豚肉のロース肉を買って来たから、ポークソテーを大人の人数分作るか。


 全員でまた晩飯の支度をする。

 ガシャン!


 また、一枚、マリルが皿を割ったが、まあ、想定内だ。


 皆、席に着いて、俺の頂きますの合図で、食べだした。


「ねえ、新、ここって今からなんの店をするの?」

「うん、この世界には、甘味があまりないんだ、そこでパンケーキ屋をここにいる人達とやろうと思っているんだ」

「なるほど‥異世界だから、そこは一人勝ちってことか」


 流石、瑞希、察しが良いな。


「でも、あんたここで何したいの?」

「ん~、なんか、日本に魅力がないと言うか、地球の世界よりこっちの世界の方が俺は好きなんだよね」


「ふ~ん、あんたゲームとか漫画好きだもんねぇ。だから変な物見えたりしたんじゃないの?」


「それがな‥実は俺ってこの世界のエルフとのハーフらしいんだ、たぶんそれが原因だったんだと思う」


「ぶっ!!変な冗談やめてよ、私だってね漫画やアニメくらいみるんですぅ、新のどこにエルフの要素があるって?エルフって身長とか高くて、すらっとしてて、容姿端麗の耳の長い亜人の事でしょ?」


「俺だって最初そう思ったさ、じゃあ見せてやろう俺がエルフだってことを」


 俺は掌に炎を出す。

 ボッ!


「うわ!それって魔法?」

「うん、生粋の地球人の、俺の親父は、魔力がなかったからこっちでは魔法が使えなかったらしい、そして、俺はエルフの母と親父の子で、魔力があるから魔法が使えるってことらしいわ、だから瑞希、お前もこの世界では魔法は使えません」


 俺はドヤ顔でそう言った。


「ふーん、それならさ、エルフがあの魔法陣で地球の方に来たりしないの?」

「さあ?聞いた事ないけど、俺にはハイエルフの血が~とかクインが言ってたから、普通のエルフの血じゃだめなんじゃないか?」


 クインが鼻を鳴らして口を開いた。


「ふむ、一度、お前の母も地球に行こうとしたことがあったのじゃが、通れたのはツヨシ一人だった、こちらの人間は地球には行けないと言う事だと思うぞ、ふっふ」


「こちらの人間は魔法陣が起動していても通れないんだってさ」

「へぇ‥地球人だけが行き来できるのね‥」

「しかも、地球人はこの世界に来ると、身体能力が5倍から10倍くらいになるみたいだ、個人差があるようだけどね」

「あ、さっきから身体が軽いなと思ったのはそのせいだったのね」

「そうだ、俺より運動神経が良い、お前はこの世界では、スーパーメスゴリラなわけだ」

「な!誰がメスゴリラよ!」


 そんな会話をしていると、みんな、食事を食べ終わったので片付け始める。


「おい、喋ってないでさっさと食って、祠に行くぞ!」

「ねえ、新、今日ここに泊まってもいい?」

「は?いやいや、食ったら帰る、そう言う約束だったよな?‥」

「お願い!」

「親が心配するだろ‥」

「あれ?新、知らなかったっけ?私中学の頃から一人暮らしよ?」

「え?中学の時から?」

「うん、いろいろあってね…ってことで、親はいないので大丈夫で~す、それに、もう私も20歳よ、1人暮らしをしててもおかしくないでしょ!」


 結局、押し切られてしまい、瑞希は一泊することになった。

 部屋は3階に一部屋が空いているから、別に構わないけど‥

 調子狂うわあ‥

 そしてその日は就寝したのだった。


 ◇


 次の朝、1階に降りると、皆起きて、壁の色塗りとかしてた。


「マリルちゃん、こっちこっち」


 ん?マリルちゃん?


「瑞希‥お前、言葉わかるの?」

「名前くらいは、ジェスチャーで聞けるわよ~」

「お前って凄い、順応力あるよな‥」

「ほら、エルフってこのマリルちゃんみたいな事いうんだよね?‥ぷっ!」


 こいつ今、マリル見た後、俺見て笑いやがったな‥

 確かにマリルレットは、そのエルフ容姿にエプロンを想像して雇ったんだけどさ‥

 完全にエルフだし。


「ねえ、新‥」

「ああん?」


 いきなり真顔になっている瑞希。


「あのさ、散歩しようよ」

「いや、早く店、完成させないと営業出来ないんだけど‥」

「じゃあ、この町一周したら、そのまま、あの祠に送ってよ」


 頷いて、俺は瑞希と町を見て回ることにした。


 1時間ほどぐるりと回って見たけど、中央の冒険者ギルドがある付近まで歩いて来た。


「はあ、楽しかった!」

「確かに、俺も知らない場所もいっぱいあったし、意外とこの町広いんだな」

「ねえ、新‥私もこの世界に来てもいいかな?」

「え?冗談でしょ‥」


 瑞希は少しどこか一点を見て俯いている。

 俺は、なんか、寂しそうで少し言葉を失った。


「でも、大学とかバイトとかどうするんだよ?」

「大学は春休みだし、バイトは何とでもなるでしょ」


 俺を見た後、また俯く。


「なんかさ、あらた見てると、活き活きしてるなって思って、多分、相当この世界好きでしょ」


 真面目に聞いてる瑞希の顔が、茶化す気分にもなれなかった。


「ああ、勿論、ゲームのように冒険してみたい、魔法がある世界なんて楽しくてしょうがない」

「だと思った、あはは」

「ま、とりあえず、この世界には魔物もいることだし、下手したら死ぬ事だってあるからね‥覚悟はいると思う、実際、魔物に殺された冒険者を見たからね」


 俺も真顔でそう言った。


「ねえ、私さ、片親なのは知ってるよね?」

「うん」

「その母親がさ、私が中学の時に好きな男と居たいために、私を置いて出て行ったんだ。勿論、最初は帰ってくるのが遅いだけだったけど、そのうち‥ね」


 まじか‥そんなことが‥


「大学入ったのも、お母さんのために頑張って入ったんだけど、一言、頑張ったわね‥だけ。もう、なんか疲れちゃってさ‥昨日、みんなと絡んでる、あらたを見てて、良いなぁって思ってさ、私も自分の好きな人生歩いちゃだめかなぁ‥ぐす‥」


 瑞希は少し涙目になっていた。


「で?お母さんは?」

「まだ、その好きな人と一緒‥ぐす‥同棲してる」


 瑞希の瞳から涙がこぼれた。


「そっか‥いいよ、瑞希がこの世界に来たいなら」

「ぐす‥ありがとう」


 俺は、涙を拭く瑞希を、頭を掻きながら見ていた。


「おう、アラタじゃねえか?」

「あ、ベンザさん」


 そこに現れたのは、親父の元クランメンバーで現フェリオール王国冒険者ギルド会長のベンザ・グリオルだった。


「白昼堂々と、女性を泣かしているとは、さすがツヨシの子だな!」

「あ、地球産のウイスキー、他に配ってもいいって事ですか?」

「ま、まままて、待て待てぃ‥冗談じゃよ‥そう冗談」

「ベンザさん、この子、地球人なんだけど冒険者登録してもらえませんか?」

「へ?地球人なのか?‥」


 丁度、居合わせたベンザさんに、瑞希の冒険者登録をしてもらった。

 地球人ってのもあって、俺と同じDランクからスタートにして貰った。


 ベンザさんは、嬉しそうに、俺から4リットル入ったボトルの、ウイスキーを大事そうに抱えて去って行った。


 それから、一度、地球に帰り、瑞希はバイト休止の連絡を入れて、母にも旅行に行くと言って、俺とまたこの異世界に来たのである。

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