第9話 レベリング。

 フェルナンドさんと取引を交わした次の日の朝。

 俺は、早速、異世界に入りホルンの白鷲亭へ向かった。


 すると、1階の食堂でレベッカはマイティと肩を並べて座って食事を摂っていた。


「やあ、おはよう、レベッカ」

「あ、おはようございます、アラタさん」

「あ‥お、おはようございます」


 マイティは、まだ本調子ではなさそうだが、ちゃんとご飯を食べていた。


「マイティ‥大丈夫かい?」

「あ‥助けてくれてありがとうございました‥あと‥どらやき?って食べ物も‥凄く‥美味しかったです」


 マイティは、目の下にクマを作りながらそう言っていた。


「少しは元気が出たようだね」

「はい、このまま、塞ぎ込んでても‥と思いまして」

「そっか、今日レベッカと依頼を受けに行こうと思っているんだけど、マイティはまだ休んでおくかい?」

「いえ‥私も連れて行ってください、強い冒険者になるのが夢なんです」


 しっかりしているなぁ‥あんな事があったのに。

 俺なんて別に仕事なんてって思っていたからなぁ‥

 なんか信念持ってる人とか見ると、胸が痛い‥と苦笑いしながら思っていた。


 それから、俺、レベッカ、マイティ、クインは、冒険者ギルドへ向かった。


「俺はDランクだけど、レベッカ達はEランクだからEを見た方が良いのかな?」

「ふむ、我がおるのじゃから、別にDでもCでも、支障はないと思うがな、ふっふ」

「クイン‥それじゃ、俺達のためにならないだろう‥クインが強いのはわかっているから、危ない時だけ助けてくれよ」

「ふっふー」


「このウルフ10体、討伐にしようか?」

「はい、私はウルフは慣れていますので」

 俺が依頼書を見てそう言うと、マイティはそう答えた。


 じゃあ、そうしようと依頼書をボードから剥がして受付に持って行った。


「アラタ様?これ、Eランクですけど‥いいのかにゃ?」

「ああ、この子達に合わしているからね」

「了解しましたにゃ」


 そう言えば、マイティってどんな感じなんだろう、鑑定してみよう。


 ----------------------------------------------------------------------------------------------


 名前:マイティ・メイセント

 種族:人間

 性別:女

 年齢:19

 体力:23

 魔力:18 

 筋力:25  

 敏捷:24 

 スキル:剣技初級

 --------------------------------------------------------------------------------------------


 マイティは、スキルに剣技初級ってのを持っているのか。

 この世界の普通の人間って数値が20前後なのはわかったな。


 俺達は、ウルフが多く生息する南門の先、英雄の祠付近の森の中を捜索した。


 クインの索敵で、簡単にウルフの群れは見つかった。


 ウルフは10匹とは言わず、20匹は固まっていた。


 クインは危なかった時のみの介入ということで、俺とマイティが戦い、傷を作ったらレベッカが回復すると言った連携で戦っていく。


 俺も、ちゃんと剣なんて振ったことないから、動きはぎこちないが地球人としての身体強化のお陰で素早く仕留めて行くことが出来た。


 マイティはというと、流石、剣技を学んでるとあって形はしっかりしていた。

 俺より大分、身体能力がないと言うのに、ちゃんとウルフの動きを見極め対処していた。


 レベッカは、マイティの後ろに待機していて、魔法障壁でウルフの牙を防いで、たまに小傷を負ったマイティを回復していた。


 1時間もあれば全てを討伐できたのだった。


「ふむ、これじゃ幾ら経っても強くならなそうじゃな‥ふっふ」

 クインは俺達を見てそう言っていた。


「そうか?俺なんて今ので結構、剣の扱いとか様になって来たんだけどな‥」

「ふむ。強い魔物とやってこそ、だと思うんじゃがな‥ふっふー」


 安全でかつ上位の魔物とやるって大変よ‥

 そんな魔物‥あー!いるわぁ。ゲンムがいるな。


 みんな、いい考えがあるぞ!


 それは、こいつだ!

 新は、ナイトメアのゲンムを召喚した。


「!?」

 空間からゲンムがぬっと出て来る、それを見てマイティが驚く。


 グルルルン‥


「あ、アラタさんの使い魔ですね、確か‥ゲンムちゃん?」

「そうそう」

「ナイトメア‥って確か‥Bランクの魔獣じゃなかったですか?‥」


 マイティはそう言っていたが。

「え?‥ナイトメアってBランクなの?」

 逆に俺が驚く。


「そ、そうですよ‥精神魔法を得意としている結構厄介な魔獣ですよ‥よく使い魔にできましたね」


 ああ‥あの時はそれをクインが封じていたから、俺と互角で戦ったんだったな‥

 そう考えたら、マイティが驚くのも無理もないのか。


「で、俺は考えたんだけど‥」

 これは俺があるオンラインゲームでやった技だ。


 人のランクの高いペット魔物に、攻撃をしてレベルを上げる方法。

 これをレベリングと言う、他に、強い人について行って経験値山分けとかあったけど、それはゲームじゃないので出来ないが、この方法なら安全に経験を積めるはずであると俺は考えたのだ。


「作戦はこうだ!このBランク(今知ったばかり。)の魔獣ナイトメアのゲンムを相手に戦う、勿論、ゲンムは精神魔法はなしで、多少の抵抗はしてもらう。そして、レベッカは、傷つく両方にヒールを掛ける、そうすると安全にかつレベルアップすることが出来ると言う、これぞまさにレベリング!」


「はあ‥確かにその方法なら死ぬ事はないし‥」


 マイティは、納得してそう言った。


「ふむ、よく考えたものじゃな‥ふっふ」

 クインもそう言って鼻を吹いた。


 とりあえず、倒したウルフの右耳を討伐の証拠として削ぎ落していく。


 休憩したのち、日が暮れるまで休憩を織り交ぜながらレベリングを続けた。


 ゲンムも手加減をしながら攻撃して、最後あたりになるとファイヤーボールも少し使い始めて訓練をしていた。


 レベッカの魔力が尽きそうになると休憩、それを繰り返して俺達は少し強くなっていった。


「はあ‥はあ‥アラタさん、この練習法って凄く良いですね」

「うん、俺も、マイティの型を見て、剣の使い方が少し分かって来た」

「はい、私も魔法障壁の出すタイミングが凄く掴めました!うふふ」


 3人は、この模擬戦で、かなりいろんな物が掴めたのだった。


「まあ、でもさ俺、ハーフエルフだし、魔法を使った攻撃を覚えて行かないといけないんだけどね‥はは」


「「‥‥‥」」

 二人がじっと俺を見ていることに気付いた。


「え?何?」

「アラタさん‥どこがエルフなんですか?」

「嘘ですよね?どう見ても人間なんですけど‥」

 レベッカとマイティの反応。


 ああ、そうだよね。

 俺もそう思ったくらいだし、そりゃ、嘘だと思うわな‥

 でも、地球人で魔力があるのがその証拠だし‥地球人ってのは言えないけど‥


「はは‥俺も最初はそう思ったんだけど‥どうやら、本当らしい」

「本当ですか‥まあ、アラタさんが何者でも全然構いませんけどね、うふふふ」

「そうだよね、レベッカの言う通りです、アラタさんこれからも宜しくお願いします!」


 クインは丸くなって、鼻をならしていたのだった。


 夜になる前に、ホルンに戻り冒険者ギルドへ報告しに行った。

 ウルフは1体、銅貨5枚(日本円で500円)だった、それを20体だったので金貨1枚と、討伐報酬として銀貨2枚もらった。


 そして、受付の猫耳姉さんに魔物によっては、部位を持ってくればそれ相応で買い取るとの事だった。例えば、ウルフなら毛皮を剥いで、状態が良い物を持ってきたら、1体分、銀貨1枚だそうだ‥討伐より高いんだねと思った。


「今度から‥どんな部位が売れるのか聞いてから行くとしようか‥」

「そう‥ですね」

「うん」


 とりあえず、3人で報酬のお金を3等分した。

 銀貨4枚ずつ配った。


 普通に考えたら、ウルフ討伐は1時間も掛かっていないわけだから。

 時給@4000だったわけだ。

 これは、意外と美味いんじゃないの?


 白鷲亭の宿へ戻り、今日からは自分達で宿代払うと言っていたので、俺は頷いた。


 また明日会う事を約束して、その日は就寝したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る