第8話 闇商人。

 次の日、俺は、朝食を白鷲亭で食べていた。


「あ‥アラタさんおはようございます」

 そこに来たのは昨日助けた、神聖術師の冒険者レベッカだった。


「ああ、レベッカ‥おはようあの子は‥マイティだっけ、どう?」

「はい‥とりあえず、今は落ち着いて寝ています」

「そっか‥ミーナさん!もうひとつ朝食をこの子に!」

「あ、アラタさん‥」

「良いからいいから!」


 報酬を貰った後に、受付の猫耳姉さんから聞いた事だが。

 低ランクの冒険者は、宿に泊まるのも節約し、基本、野宿が普通らしい。

 それは、勿論、お金がないからだ。


 飯も、硬いこの世界のパンなどが主食で、魔物を倒してその肉を焼いて食べるのがこの世界の低ランク冒険者のルーティンらしい。


 どの世界も生きていくのは大変なようだ。

 飯は普通に食えて、半ニートだった俺が少し恥ずかしく思えてきた‥


 まあ、この世界では、地球人はスーパーマンらしいし‥

 クインも相当強いし、なんならゲンムもいるから稼ごうと思えばいつでも稼げそうだし、飯代と宿泊代くらいどうってことないだろう‥多分‥


「アラタさんは、この町が拠点の冒険者なんですか?」

 レベッカは、俺の対面に座ってそう言った。


「うん‥とりあえずはこの町が拠点になるかな?」

「そうですか」

 レベッカの朝食をミーナさんが運んできた。


「レベッカもマイティもこの町出身なの?」

「私は、そうですけど、マイティは南の海の町ヘレスティアの出身です」

「海の町か‥」

「あの、マイティが回復するまで、アラタさんのお手伝いとか‥させてもらえませんか?何でもやります!」


 おいおい‥何でもって‥あまり、男にいっちゃいけない言葉だよ‥それは。

 特に俺みたいなDTにはさ‥いかんいかん。


「‥な、何でもって‥じゃあ、何か依頼受けて少しでもお金を稼ごうか」

「はい!ヒール小と、魔法障壁、それから、光を照らすことなら‥できます!」


 なるほど‥完全に後衛ヒーラー役だねぇ。


 そう言えば、鑑定スキルって人間にも使えるのかな?

 自分を意識して鑑定して見てみた。


 ----------------------------------------------------------------------

 名前:アラタ・イセ

 種族:ハーフエルフ

 性別:男

 年齢:20

 体力:98

 魔力:890 

 筋力:99  

 敏捷:101 

 スキル:翻訳 鑑定 魔法空間∞ 地球人効果 

 ----------------------------------------------------------------------


 こんなふうに数値化で見えるのか。

 しかし、基本がわからんな‥てか、魔力凄いな‥俺、流石ハーフエルフ。

 レベッカを見てみよう。


 ----------------------------------------------------------------------

 名前:レベッカ

 種族:人間

 性別:女

 年齢:17

 体力:19

 魔力:23 

 筋力:15  

 敏捷:16 

 スキル:生命神の加護

 ----------------------------------------------------------------------


 低い‥何もかもが低い‥俺の10分の1だ‥そして、17歳なのか‥

 スキルの生命神の加護って何?


「アラタさん?どうしたんですか?」

「あ‥ああ、いや何でもない。レベッカ、今日は俺行くとこあるからさ、明日から一緒に依頼受けようか」

「はい、わかりました」

「それから‥これ、マイティに食べさせてやって」


 マジックボックスから、どら焼きを4個出した。


「マジックボックス‥」

 レベッカは俺が空間からどら焼きを出したことに少し驚いていた。


「これは‥?」

「うん、甘い和菓子だ。甘い物食べたら少しは元気が戻ると思うから食べさせてあげて」

 俺は、どら焼きをレベッカに渡して席を立った。


 レベッカは、まだ食事を摂っていたので俺は先に外にでた。


 さてと‥とりあえず一度、俺は地球に帰るつもりだ。

 バイトも辞めてこようと思っているし、いろいろと、やることあるしね。


 先ずは、南門へ行き祠へ向かわないとと、カゼルさんの店の前を通る。

「あ!アラタ兄ちゃんだ!」

 リーナが俺に気付いたようだ。


 リックとリーナは俺に寄って来たと思ったら。

「ちょーこ!ちょーこ!」

 チョココールが始まった。


「ああ、わかったわかった‥でもな、チョコはもう持ってないから、作ってやるよ」

「えーー!ちょこがいい‥」


 一応、何かに使えると思ってカセットコンロと一緒に買っていた。

 ホットケーキミックスと蜂蜜だ。


「カゼルさん、2階の台所借りても良いですか?」

「ああ、良いけど一体何するんですか?」

「お菓子を作ってあげようと思って」


 カゼルさんは、首を傾げていたが子供達と2階の台所へ向かった。


 この世界の台所はすっきりしていた。

 ガスコンロは似たような、火が出る魔道器具だった。


 水も魔道器具で流れ、電灯なども全ての生活用品には、魔石と言う魔素の塊でできた石を使って道具として使われていた、魔法がある世界ならではの文化なのだろう。


 ちゃんと火を調整する摘みまであるのに感心していた。


 新は、フライパンを取り出し、ホットケーキミックスと牛乳、卵も取り出し台所にあったボウルで混ぜ合わせて生地は完成だ。


「ねえ、アラタ兄ちゃん、こんな粉みたいなのでお菓子が出来るの?」

「まあ、見てなさいって」


 後は、焼くだけっと。


 ほい、蜂蜜を掛けたら‥パンケーキの完成。


「おーアラタ兄ちゃん、美味そうですなぁ」

「だろ?」


 本当はバターとかあったらよかったんだけど‥持って来てなかった、けど蜂蜜だけでも十分だろ。


 美味い美味いと食べてるリックとリーナ。


 匂いに釣られて、カゼルさんが2階へ上がって来た。

「良い匂いが充満しているのですが、何を焼いているのでしょうか?」

「ああ、カゼルさんも食べます?」


 カゼルさんにも焼いてあげた。


「うお、なんですかなこれは‥甘い‥」

「ついでに、ミーナさんの分も焼いておきますので、昼食に帰ってきたら食べさせてください」

「これは‥こんな物が世の中にあったのか‥」


 カゼルさんは、パンケーキに凄くご満悦のようだ。

 それから数枚焼いて、持ってたホットケーキミックスは無くなってしまった。


「じゃあ、俺は行ってきますので」


 満腹になった子供達は椅子に座りながらバイバイしていた。


 俺は祠に戻り、魔法陣に魔力を通して、地球へ戻った。


 すぐに支度してバイト先へ向かった、先ずはガソリンスタンド。

 法事を済ませちゃんと就職するって事にして、まずガススタを辞めた。

 先輩たちに挨拶して、次のバイト先へ、俺は掛け持ちで2つしていたのだ。


 もう一つのバイトは、車屋さんで主に清掃をしていた。

 そこはそこまで入ってなかったが、親父の知り合いだったのでたまに手伝いをしていた。


 いろいろと沢山のバイトをやって来たが、この二つはなんだか続いていた。


 半ニートだったけど、体を動かす方が好きだったのかもしれない。


 そして、その帰りにホットケーキミックスや卵、牛乳、ハチミツを沢山買い込んで今回はちゃんとバターも買った。


 家に戻ると、親父の携帯が鳴っていた。

 あ、まだ解約してなかったっけ‥


「はい、伊勢ですけど」

「hei!ツヨシ!そろそろ売り物はないかい?」

「ああ‥えっと、俺は息子の新って言うんですが‥」

「oh?アラタ?ツヨシはどうしたんだい?」

「えっと‥実は、この間不慮の事故で亡くなりまして‥」

「何!?oh no‥」

「あの、どちら様でしょうか?」

「ああ‥俺はフェルナンドって言う、君はツヨシから何か預かってないかい?」


 あの手紙に書いてあった、フェルナンドって人か?

 お金が無くなったら、この人に壺の中の宝石を売れって書いてた。


「えっと‥宝石?のことですかね?」

「オー!イエス!それそれ」

「少しならありますけど」

「アラタ、今から時間はあるか?」

「ええ‥まあ」


 フェルナンドと言う人と、デパートの立体駐車場で落ち合うことになった。


 ◇


 立体駐車場にフルスモークの普通車が止まっていた。

 如何にも怪しそうだが、これだろう。


「heiこっちだ」

 帽子を被った外人さんが俺を呼んだ。

 俺はその車の後部座席へ座った。


「ツヨシ‥残念だったな、俺とはビジネスパートナーとして長かったんだが、本当に残念だ‥」

「はい‥これで間違いないでしょうか?」


 適当な紙袋に入れてきた、壺の中の宝石20個。

 それを、フェルナンドは鑑定していた。


「オー、イエス!やはり‥ツヨシの宝石は世界一だな。傷がひとつもない、まさに完璧だ」

「そ、そうなんですか?‥」

「ああ、どこから持ってくるのか、どこの産物なのかも闇市の俺にも分からないが‥ツヨシは定期的に取引してくれていたんだ」


 大体、想像は出来た。

 あの壺の中の宝石は多分、異世界の物だ、俺とは違って自分自身で行き来することは出来ないから、こっちに帰ってくる前に貯めこんでた物か何かだろう‥


 それを小出しに、この人に売ってあの大金をあの壺の中に貯めこんでいたのだと俺は予想した。


「heiアラタ、お前は、この宝石の出所について心当たりはないのか?」

「あるような、ないようなです‥まだ分かりません」

「そうか‥じゃあ、もし、それが見つかったら俺と取引をしないか?」

「取引ですか‥」


 フェルナンドは、紙袋にゴソゴソと何かを詰め込んでいた。


「今回の取引だ」


 後部座席の俺にドサッと紙袋を軽く投げて渡した。

 紙袋を開くと現金が札束で入っていた。

 数えると1700万円。


「え‥凄‥」

「まだまだびっくりするのは早い、アラタ、お前が持ってくる物次第では、もっと払ってもいいくらいだ、今回のは小粒が多かったが、ピンクダイヤとかの希少が混ざっていたしな」


 大粒だったら、飛んでもない額がつくって事か‥


「わかりました、もしそれを見つけたら連絡します」

「イエス!いいねぇ。俺達、良いビジネスパートナーになれそうだぜ、後な、俺は闇商人だ、この名前も嘘だし、この車もその辺で拝借した物だ、電話番号もちょくちょく変わるので、こちらから定期的にメールを入れておく、それから欲しい物があったら何でも言ってくれ、絶対バレない盗撮カメラから戦闘機まで何でも持って来てやる」


 戦闘機って‥そんなの操縦できないし。


「わかりました‥」

「じゃあ、取引終了!」


 紙袋を手に車を降りると、さっと車は走り去って降りて行った。


 俺は誰もいない事を確認してマジックボックスへ紙袋を収納した。


 そして、家に戻ってその日は、地球でゆっくり過ごすことにした。




 ---------------------------------------------------------------------------------------

 後書き。


 フェルナンドの最初のhei、オー!などは、誰のセリフがわかるようにわざとそうしていますので、お気になさらず読んでください。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る