大会がはじまるんですが

「……これで完了ですわね」


 ショウ様、このようになりました、と彼女たちが鏡を持ってくる。

 服はかわいらしい薄ピンクのワンピースで、ミニスカートでもいうのだろうか、丈の短いスカートから生足が覗いている。

 派手過ぎず、でも地味過ぎない程度にレースがつけられていて、小さい女の子とかに喜ばれそうな外見だ。

 顔こそ肌をより透き通った感じにする化粧を施しているものの、髪はまったく手を付けられていない。

 かつらも何もつけられていないのだ。

 正直、ものすごく恥ずかしい。


「……その、これって……」

「それでは行きましょうか、ショウ様」

「…………ハイ」


 そうして僕は、まるで処刑台へと連れていかれる死刑囚のような気持ちで、会場へと向かうのだった……。



 会場の中は見学の人でごった返していた。

 男女比は少し女性比率が高いくらいで、基本的には半々といったところだ。

 貴族の人が多い感じではあるけれども、商人だったり、特に今回のイベントと関係のなさそうな一般人もたくさん居た。

 ――目を凝らして見てみると、アンさんが来ているのもわかった。

 ……え?


「ちょ、アンさん!?!?」


 こちらに気づいたらしいアンさんが、歓声を上げながら手を振っている。

 ……これは、気づかないようにしたほうが良いかもしれない。

 背筋に冷たいものが走るのを感じながら、僕はそう思った。


「……それでは皆さん!」


 会場の横から、男の人の声が聞こえる。

 今回の主催者で、僕に依頼をした人だ。


「大変長らくお待たせいたしました! 今から! 第一回ミス・アルロスグランプリを開催させていただきます!」


 オー! と参加する人たちが叫ぶ。

 ミシェはとても楽しそうに、ジョシュアは少し恥ずかしそうにしながらも、彼らに続いていた。

 きっとこの時、僕の目は死んでいたに違いない。


 ほかの参加者がパフォーマンスを行うのを見ながら、僕は周囲を確認する

 護衛も今回の任務のひとつなので、だれか怪しい人がいないかの注意をするためだ。

 見学の人たちは近くへと歩いてくる参加者に夢中なようで、なにか怪しいことをもくろんでいる様子はない。

 参加の人も、なにかしらをたくらんだ様子もなく、一心不乱に自分のパフォーマンスをまっとうしていた。

 やがて最初のパフォーマンスが終わり、次の人が舞台へと向かう。

 次の人、次の人、次の人、また次の人……。


「――それでは、次はショウ・ターロ様です!」


 とうとう僕の番が来たみたいだ。

 司会の人に呼ばれるまま、舞台のほうへと向かう。

 目の前には、たくさんの見学の人がいて、その何百もの目がいっせいにこちらを向いていた。

 ……正直、もう帰りたい。


「ショウ様、今回の意気込みはどうですか!?」

「えっと、その……」


 ――今回の意気込みについて聞かれたときは、このように答えてください。

 アンさんからあらかじめ聞かされた理由を答える。


「その、実はこういったかわいらしいものに興味があって……でも少し抵抗があるのも事実で、そんなときにこの大会について教えてもらったんです」

「そうなんですね!」

「はい。なので、あの……恥ずかしいですが、優勝を狙いたいと思います」


 ……これで大丈夫かな?

 正直、恥ずかしい以外はまったく合ってない理由だったけど……。

 そう思いながら見学の人々を見てみると――


 ――ワアアアアアァァァァァ!!!!!――


 ――ものすごく、盛り上がっていた。


「がんばれー!」

「かわいいぞー!」


 あちらこちらから応援の声が聞こえてくる。

 どれもこれも、僕の優勝を求めるものばかりだ。

 ……やっぱり、帰りたい。

 僕は切実にそう思った。

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