服を着替えさせられたんですが
僕は、依頼人がいるという会場で、衣装室へと続く廊下を歩いていた。
その前では、着付けの人だという女性たちが淡々と歩いている。
ちなみにミシェとジョシュアくんも同行はしていたのだけれど、今回は不参加ということで客席へと招待されている。
場所はとある侯爵家の別荘らしくて、一見僕たちの村にありそうな見た目ながらも、ところどころの調度品で上品な雰囲気を保っている。
黄色に塗られた壁も、素朴ながらも品の良さを感じさせるこしらえ方だ。
「……お待たせいたしました。こちらです」
女の人がさっと右側へと手を差し出す。
そこには、深い色をした木で作られたドアがあった。
この中が衣裳部屋になっているみたいだ。
「えっと……それじゃあ、失礼します」
ゆっくりとドアを開けて、衣裳部屋へと入っていく。
ここは元々使用人の部屋として使われていたのか、いくつかの机と椅子が列になって並べられていた。
「それでは、こちらにお座りください」
案内役の人に促されるまま、背後に全身鏡が置いてある椅子へと座らされた。
その前にも鏡台があって、鏡以外にも色々な化粧道具が置かれていた。
「今から、ショウ様の服を召させていただきます」
案内役の女性が僕の服を脱がせる。
彼女たちに反抗することもできず、僕はあっという間に下着姿となってしまった。
「み、見ないでください……」
あまりの恥ずかしさに、頬がかっと熱くなる。
しかし彼女たちはどこ吹く風といった感じで、僕に用意してあった服を次々と出してきた。
服は最新型のファッションのようで、スカートがふとももあたりまでしかない。
足がしっかりと出てしまう格好だ。
「え、それは恥ずかし――」
恥ずかしい、と言う暇もなく、彼女たちは僕にそのドレスを着せてくる。
ひらひらとしたスカートと、妙に着心地の良い布が逆に居心地の悪さを倍増させていた。
「……ふむ、これで十分ですね」
女性たちのひとりが、僕の顔を見てうなずいた。
「とはいえ、化粧はした方が良いのでは?」
「それによって現状のかわいらしさが減衰してしまっては逆効果です。このままの方が良いかと」
「そうでしょうか? 化粧の必要が薄いくらい完成されているのは確かですが、やり方次第ではさらにかわいらしさを引き立てることができるのでは?」
彼女たちは、僕のことについてなにやら相談しあっている。
僕に化粧をさせるべきか、させないべきかで悩んでいるみたいだ。
……正直、どっちもいやだ。
化粧するのもなんだか恥ずかしいし、しなかったらしなかったで男としての尊厳が崩れるような気がする。
……いや、ちょっと待てよ。
化粧して似合うのも同じくらい男としての尊厳が崩れるんじゃなかろうか?
彼女たちの口ぶりからするに、残念ながら似合ってないわけじゃなくて、今以上にするため化粧を僕へとさせようともくろんでいる様子だ。
それだったら、せめて何もしないほうが――!
「――あの、だったらお化粧はナシで――」
「――そうですね。軽く化粧をしておきましょう」
……なんでこうなるの。
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