出場したんですが
最初に行うことは、まず所定の位置まで歩くことだ。
この時の歩きかた、姿勢の美しさや雰囲気も含めて審査の対象とするらしい。
すぐ護衛だとバレないために、しっかりとやってくださいと言い含められていたので、半ばヤケクソになりながら歩く。
ただ移動しているだけなのに、周囲から歓声があがるのがとても恥ずかしい。
ほかの参加者の人はみんな満足げに戻っていたけど、はたして正気だったんだろうか。
「いいぞー!」
「もっと! もっとだ!」
みょうな歓声が辺りから聞こえる。
折れそうになる心を根性で必死に補強しながら、僕は所定の位置まで移動を終えた。
次に行うのはポーズだ。
これも主催のほうからいくつか指定がでていて、その姿勢をとったときの美しさが得点として加算されるらしい。
……とはいえ、今回の参加者は僕を除けば全員女性だ。
つまりどういうことかというと、僕も女性がとることを前提としたポーズをとらなければならないわけで……。
「ではショウさん。左手を目のあたり、そう、腕を頬のあたりに頂点がある三角を作るように曲げて、そうです! ピースしてください!」
ほかにも足の曲げ方とか、右手の位置、ウィンクだとかいろいろな注文があったが、こうなったらヤケだ。
恥ずかしがる理性を最大限放り投げ、全力でかわいらしいポーズをとる。
あきらかに僕だけポーズが特注なのも考えてはいけない。
頭をよぎってしまった瞬間、動けなくなることは確定なのだから。
「かわいい!!!」
「あれで男の子なの!?!?!?」
ポーズをとるたびに、色んなところから声が聞こえた。
……もしかして、そんなにかわいく見えるのかな……。
「……!」
いやいやいや。
いくらなんでも、そんなことはないはずだ。
それに、どれだけかわいがられたとしても、絶対にうれしくなんかない。
変なノリに飲み込まれそうなだけだ。
「……はい! ありがとうございました! みなさん! エントリーナンバー10番、ショウ・ターロさんでした!」
僕がすぐ帰ろうとすると同時に、あちらこちらから歓声があがる。
――その中に、意外な人の姿を見つけた。
「ショウ様ー!!!」
(――アーネットさん!?)
アーネットさんが、見学者用の席に座っていたのだ。
しかも、後ろではなく最前列である。
……なんでこのイベントを見ようと思ったんだろう。
誰かほかの貴族さんに誘われてやってきたんだろうか。
――それはありえるかも。
彼女は聖女であるだけじゃなくて、アルロス王家と遠戚だというツェーリ家の嫡子だ。
僕は冒険者としての彼女の姿しか見ていないけれど、きっと貴族としていろいろな関係を持ってもいるのだろう。
だからここにやってきたんだ。
きっとそうに違いない。
少なくとも、僕を見たくてここに来ただなんて、そんなことはまずありえないだろう。絶対に。
「皆様、盛大な拍手を!」
――っと、いけない。
多くの人の拍手を受けながら、次の人を待たせないように、僕は速度を速めて舞台裏へと向かうのだった。
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