レストランに行ってみたいんですが
触手を倒した僕たちは、無事ギルドへの連絡を終えて、そのまま家路についていた。
「あー……今日のはキツかった……」
ミシェがげんなりした表情で虚空を見つめている。
ずいぶんとメンタルを削られたみたいだ。
まあ、テンタクルは生態も見た目も苦手意識を持たれてもおかしくないしね。
「なんでショウくんは平気なの……?」
「まあ、なんというか、見慣れちゃったからというか……」
アハハ、と僕は笑った。
冒険者という職業は、どうしても汚かったり気持ち悪い場所へと向かうことがある。
それこそこれよりもえげつない内容だってそれなりにある存在だ。
だから、冒険者をやってきた人というのはどうしても色々な物事に耐性がついてくる。
正直、ゴキブリとか出てきても全員素手で倒すし、なんなら無視だって平気でありえるレベルだ。
貴族出身の冒険者だって、慣れてくるとそうなってくるのだ。
まあ、それはそれとして。
「お腹すいたし、たまにはお店でご飯食べたりする?」
僕たちが歩いている場所はレストランが立ち並ぶ、最近にぎやかになりはじめた大通りだ。
大衆向けの酒場や、少し豪華な内装が目立つレストランなどが、色々と並んでいる。
通りを通る人々も、家族連れや明らかに酔っ払った男の人まで、なんとも色々なタイプに分かれていた。
それぞれのお店から料理やお酒の匂いが漂ってきて、僕たちのお腹を刺激する。
実は、ほんの少しまでここはさびれた区画にすぎなかった。
かつて街の整備を行って、そのまま失敗してしまった区画、それがここだったらしい。
実際、僕が冒険者になったばかりの頃は、見るからにボロボロの廃墟の中に、1件か2件ほどさびれた酒場が営業しているよな、そんな場所だった。
転機になったのは、最近の農業革命だ。
大量に作物が並ぶようになり、食べ物は娯楽としての側面を持ち始めた。
そうなってくると、段々と「特別な場所で食べてみたい」と思う人々も増えていく。
その需要に答えて見事成長したのが、この通りという訳だった。
新しいお店があちらこちらに立ち並んでいて、まるで僕たちが貴族になったかのような錯覚を覚える。
「今までも気になってはいたんだけど、忙しくて時間がなかったから……」
「言われてみれば、ボクも入ったことはないなあ」
教会で生活していると、どうしても色々と節約しないといけないからとミシェは言った。
今では法王台下の養子なんてすごい地位にいるミシェだけど、だからこその苦労もあるみたいだ。
ジョシュアくんは興味深そうに立ち並ぶお店を見ている。
「オレも、こういったものは見たことがなかった。里での食事は自給自足が基本だったからな」
なるほど、つまりここにいる3人は、全員レストランの経験がないわけだ。
「それなら決まりだね。みんなでレストランを初体験してみようよ」
ミシェとジョシュアくんがこくりとうなずいた。
よし、それじゃあ決まりだ。
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