撃退することにしたんですが

「――はあっ!」


 テンタクルへと向けて、回し蹴りをした。

 あまりにも速い速度で放たれた衝撃波が、テンタクルの身体をバラバラに切り裂いていく。

 被害を受けなかったテンタクルも、その風圧に巻き込まれて遠くへと吹っ飛んでいった。

 女装してないと使えないのは複雑だけど、これだけの力を使えるのは魅力的だ。


「今だ!」

「おう!」


 すぐにジョシュアくんが風の精霊の力を借り、敵をみじん切りにしていく。

 さっきまで隙間も見えないくらいの数だったテンタクルたちが、どんどんと減っていく。


「かなり減ってきたね……!」

「ああ。だがまだ多い……」


 壁のようにじりじりと距離をつめていくテンタクルたちを見て、ジョシュアくんが忌々しげにつぶやく。

 どうやらみっちりと固まって動くことで、風圧の影響を少しでも受けないようにしているみたいだ。


「テンタクルの学習能力なんて聞いたこともなかったけど、まさかここまで頭が良いなんてね……」


 ただ、言われてみれば確かに知能の高い兆候はあったのだ。

 巣であったりとか、宿主を殺さない方法であるとか。

 ただ、僕はそれをすべて本能によるものだからと捉えていた。

 それがこんな形で足をすくわれることになるだなんて……。


「……まったく、まだまだだね」


 とはいえ自分の不出来を嘆くのはまだだ。

 今は目の前のテンタクルをどうにかしないと。


「……まあでも、絡み合ってるなら絡み合ってるなりに対処法はあるんだよ、ねっ!」


 懐から大きな白い玉を取り出す。

 そしてテンタクル目掛けて、それを思い切り投げつけた。

 白い玉はテンタクルの眼前でほどけると、緑色のうねうねとした群れを白い糸で一気にくるんでしまった。


「それは……?」

「グレート・モスの繭で作った捕獲網だね。魔力を感知すると、それを包もうとする性質を持ってるんだ」

「なるほど……エルフの里ではこういった使い方はご法度だったからな。興味深い」


 ジョシュアくんが感心したように白い糸を見ている。

 繭はすっかり球体になっていて、中から出ようとしているテンタクルがモゴモゴとうごめいている状態だ。


「これで撒くことはできるようになったけど……」

「間違いなく、繭を破いて追いかけてくるだろうな」


 テンタクルの幼体が持つ執念は半端なものじゃない。

 一度獲物を見つけたら、死ぬか捕まえるまで絶対に諦めないのだ。

 真偽は不明なものの、大陸を越えた先まで宿主を追いかけた幼体もいるといううわさがあるくらいだ。

 だからどうにか一網打尽にしなければならないのだけれど、一体どうしたものか……。


「……ねえ、ショウくん」

「ん? なに、ミシェ」

「あの天井にある触手とかって使えないかな?」


 ミシェに言われて、天井へと視線を移す。

 そこには巨大な触手がぶら下がっていた。

 根本辺りから切断してしまえば、ちょうど全部を撃退できるくらいの大きさだ。

 ――なるほど、良い判断だ。


「もしダメっていうなら――」

「――いや、やるよ。ありがとうミシェ」

「そ、そこまでは……」


 ミシェは顔を赤くしてうつむいてしまった。

 なんとかフォローしてあげたくはあるけど、今はテンタクルの撃退の方が先だ。

 僕は壁の触手を踏み台にして、壁を一気に駆け上がる。

 そのまま天井の触手へと飛びかかると――


「――はぁっ!」


 ――全力の手刀で根本から一気に切り落とした。

 触手は繭でもがいている幼体めがけて墜落し――


 ――ズドォォォォン――


 ――そのまま彼らを一斉に潰してしまうのだった。

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