罠にはまっちゃったんですが
落とし穴から落とされてしまった僕たちは、そのまま地面へと突っ込んだ。
地面がクッションのようにやわらかかったおかげで、ケガはまったくない。
「……ミシェ? ジョシュアくん?」
砂埃で前が見えないので、ふたりの名前を呼ぶ。
大変な目にあってないといいんだけど……。
「……大丈夫!」
「……まさかこんなトラップが仕掛けられているとはな」
ミシェが元気よく、ジョシュアくんが苛立たしげに答えた。
よかった、ふたりとも無事みたいだ。
「それで、ここは……?」
「たぶんだけど、幼体たちを育てている保育室みたいなものだろうね」
「え、ってことは……」
――ズルリと、なにかが這う音がする。
音のした方向へと目を向けると、そこでは緑色の触手がずるずるとうごいて、こちらを狙っていた。
それだけじゃない。壁一面がうねうねと、今か今かと獲物を待ち構えている。
幼体は基本、人の半分くらいの大きさなので、単体というわけではなく、群れなのだろう。
「……何体だ?」
ジョシュアくんが頬をひくつかせている。
僕もまったく同じ気持ちだった。
「何体かはわからないけど……」
うねうねとうごく不気味な壁。
この一面すべてが、テンタクルの幼体たちであることは間違いなかった。
「――うわぁっ!」
テンタクルたちが一斉に襲い掛かってくる。
僕たちは、それを避けながら、必死に通路を走っていた。
――近くに通路があって助かった。
テンタクルは寄生生物である関係上、宿主が通れるような通路を作る傾向がある。
とくに多い宿主に関しては、かなりわかりやすい大きさとなっているのが特徴的だ。
けど、それはつまり、人間がそれだけ宿主とされてしまっているということで。
「……ここ、どれだけの被害があったの……?」
「これは、村のほうも一度見てもらったほうが良さそうだね」
今のところ、テンタクルが人里にあらわれたという話は聞いたことがない。
だけど、宿主の人数次第では人里で巣を作らないとも言い切れないのだ。
そうなってしまえば、残された道は村の放棄しかない。
それか、焼き払ってしまうか。
「ちょ、ちょっと!? 近づいてきてるよ!?」
幼体たちは、もう目と鼻の先くらいまで近づいてしまっている。
「……ああもう!」
ジョシュアくんが、堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに叫んだ。
『火の精霊よ! 我が命に応じよ! 光れ!』
聞きなれない言葉でなにかを叫ぶと、次の瞬間、彼の手の先に中くらいの炎が灯された。
幼体たちは火に怯え、じりじりと後退する。
「……すごい」
「オレは才能ないし、そんなに維持できないからな! 一気に逃げるぞ!」
「うん!」
ジョシュアくんの言葉を合図に、僕たちは全力でダッシュした。
根がでこぼこと段差を作っているので、それに転ばないよう注意しながら、駆け抜けていく。
――遠い場所に、ぼんやりと光が見えた。
「出口だ!」
ミシェが喜びのあまり叫ぶ。
――そして僕は、その場でブレーキをかけて止まった。
「――な!」
「なんで止まってんだ!」
「……倒さなくちゃ」
「は!?」
暗闇からやってくる、おぞましい数の幼体を見る。
「幼体から逃げ回ったとして、きっと彼らは巣の外に出てしまう。そうなれば、被害を受けるのはこの地域一帯だ」
巣の近辺には、色々な動植物が存在している。
彼らに幼体が取りついてしまえば、結局甚大な被害が起きてしまうだろう。
「だから、ここで食い止めなきゃいけないんだ」
ふたりはどうする? と彼らを見つめる。
「もちろん、ふたりは逃げたって――」
「――逃げないよ!」
「ああ、お前がそういうならオレだってやってやるさ!」
ミシェは震えながら、ジョシュアくんは覚悟を決めた表情でテンタクルを睨む。
――僕と一緒に戦ってくれるのか。
「……ありがとう」
「まずはあいつらを倒してからだ!」
「行くよ!」
勇敢な彼らの表情に、思わず笑顔がこぼれてしまう。
「……うん。そうだね!」
行こう!
僕はそう叫んで、テンタクルへと拳を突き出した。
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