探索中なんですが

 森の中は暗く、あちらこちらにツタのようなものがはっている。

 少ししなびているような見た目をしているので、触手の死骸かなにかだろうか。


「……気を付けて。ここは奴らの巣、どこから襲ってくるかわからないよ」


 そう言い含めると、ミシェはカクカクと首を振った。

 ……さて。

 地面を少し見てみると、これまたツタのような形をしている。

 ほとんどがこのツタでおおわれているのか、歩いても歩いても、一面緑の光景が変わることはなかった。


「……これって、どういう植物なの……?」

「植物じゃない。テンタクルの『根』だね」

「ね、根ぇ!?」

「そう。成熟してさらに一定以上長生きしたテンタクルは、その場に固着する傾向があるんだ。その為に発達した触手のことを、僕たちは便宜上『根』と呼んでいる」


 動いたりは基本しないから安心していいよ、と付け加えた。


「基本しない、なんだ……」

「まあ、極端に衰弱したときとかは動いて逃げようとするからね」

「うげぇ……そ、それで。根を張ったテンタクルはどうなるの?」

「本体は特別強くなったりはしないね。まあ、固着するくらい長生きしていると大きさも相当なものになっているから、全然油断できる相手じゃないんだけど」

「それじゃあ、どうして……?」

「巣を作るためさ」

「巣……?」

「そう。巣を作ることで外敵から幼体を守り、安全だと勘違いした生き物を中へと誘い込むトラップの用途もはたす。そうやってより安全に繁殖しようとするんだ」

「え、……ってことは、も、もしかして……」

「そう。この中にはテンタクルがうじゃうじゃいるだろうね」


 来るんじゃなかった……とミシェがこぼした。


「……それにしても、かなり大きいな。だいぶ時間がかかりそうだ」

「そうだね。昔調査を行ったときの文献からすると、まだここまで大きくなるような個体じゃなかったはずなんだけど……」

「……と、いうと?」

「つい最近肥料の改良がおこなわれてね、ここらへんは農業地帯だから、それの影響を受けて急成長しちゃったみたいなんだ」

「なるほど」


 テンタクル自体は生き物で、土壌の栄養とかを吸収することはない。

 だけど彼らは草食と腐肉食を併せ持った雑食系のモンスターだ。

 それだけではなく、触手の一部にわざと植物を固着させ、畑とする習性を持っている。

 豊富な食料と、それによる畑の富栄養化。

 これがテンタクルの急成長した要因だろう。


「……それにしても、本当に暗いね」

「うん。ちょっと先も見えないくらいだ。みんな、ランプの油は絶やさないでね」


 根のせいで複雑な形になってしまっている以上、妙なところでつまずきかねない。

 そしてそれが触手の蠢く場所だったりした日には、それだけで絶体絶命だ。

 なんとかなるかどうかはわからないにしても、せめて最大限の対策だけは取らないと……。

 ……それにしても。


「本当に、広いね……」


 テンタクルの巣を歩いたことはあるけど、ここまでの規模ははじめてだ。

 最悪一度撤退することも視野にいれて――


「――あ、れ?」


 体がぐらついて、後ろに倒れる。

 視線を下へとおろすと、そこには巨大な穴がぽっかりと開いていた。

 ――これは、まさか……!


「落とし穴……!?」


 そのまま悲鳴を上げることすらできず、僕たちは真っ暗な穴の中へと落ちていくのであった……。

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